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第二十四話 取り返しのつかない差
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第二十四話 取り返しのつかない差
王都に、小さな事件が起きた。
派手な失策でも、致命的な破綻でもない。
だが、それは確実に――取り返しのつかない種類の差を露わにした。
発端は、地方港湾の再整備計画だった。
老朽化した埠頭の改修。
物流効率の改善。
観光利用の可能性。
目的は明確で、必要性も高い。
「問題は、予算配分です」
会議室で、担当官が言う。
「三案ありますが、それぞれ支持する派閥が違います」
資料は整っている。
数字も出ている。
だが――
「……どれを選ぶ?」
問いが投げられた瞬間、空気が止まった。
A案は、短期的な効果が高いが、反発が出る。
B案は、無難だが、成果が見えにくい。
C案は、将来性があるが、失敗すれば責任が重い。
どれも、“選べる”。
だが、
誰も、選ばない。
「……一度、持ち帰りましょう」
その言葉で、会議は終わった。
期限は、二週間後。
その二週間の間に――
隣国では、同規模の港湾再整備が、着工された。
隣国官庁。
エミー・マイセンは、短い報告を受けていた。
「地方港湾の暫定改修、開始しました」
「判断基準は?」
「物流停止の回避と、修正可能性です」
エミーは、即座に頷く。
「良いですね。将来案は?」
「並行して検討中です。現場が止まらない形で」
完璧ではない。
だが、動いている。
数週間後。
王都の港湾では、老朽化した埠頭が、ついに一部使用停止になった。
「……安全基準を満たしていない」
「改修計画は?」
「まだ、決まっていません」
商人たちの不満が、表に出始める。
「判断が遅すぎる」 「結局、誰が責任を取るんだ」
王宮の評議室。
「……隣国は、もう動いています」
老臣が、重い声で言う。
「こちらは、検討中のままです」
誰も反論しない。
理由は、分かっている。
失敗が怖いのではない。
責任を引き受ける仕組みが、ないのだ。
アントナン・ドームは、黙ってその場に座っていた。
(……違う)
心の中で、否定する。
(失敗は、怖い。
だが、それ以上に――)
「自分が決めた」と言えないことが、
この国の致命傷だった。
夜。
隣国の港湾では、工事の灯りが海面に揺れていた。
作業は、仮設から始まっている。
将来案は、後から修正する前提だ。
エミーは、現地視察の報告を読みながら、静かに思う。
(……もう、差は戻らない)
それは、優劣ではない。
能力の差でもない。
「決めて、動いて、直す」国と、
「考えて、迷って、止まる」国。
その違いは、
一つ一つは小さくても、
積み重なれば、もう追いつけない。
王都の港では、静かな不満が、静かな諦めに変わりつつあった。
「……どうせ、また決まらない」 「隣国に流した方が、早いな」
人も、金も、
少しずつ、流れを変える。
エミー・マイセンは、窓辺に立ち、遠い海を思い浮かべた。
あの国に、戻れない理由は、
もう十分すぎるほど、揃っている。
取り返しのつかない差とは、
結果の差ではない。
動けた時間の差だ。
そしてその時間は、
もう二度と、
同じ形では戻ってこない。
王都に、小さな事件が起きた。
派手な失策でも、致命的な破綻でもない。
だが、それは確実に――取り返しのつかない種類の差を露わにした。
発端は、地方港湾の再整備計画だった。
老朽化した埠頭の改修。
物流効率の改善。
観光利用の可能性。
目的は明確で、必要性も高い。
「問題は、予算配分です」
会議室で、担当官が言う。
「三案ありますが、それぞれ支持する派閥が違います」
資料は整っている。
数字も出ている。
だが――
「……どれを選ぶ?」
問いが投げられた瞬間、空気が止まった。
A案は、短期的な効果が高いが、反発が出る。
B案は、無難だが、成果が見えにくい。
C案は、将来性があるが、失敗すれば責任が重い。
どれも、“選べる”。
だが、
誰も、選ばない。
「……一度、持ち帰りましょう」
その言葉で、会議は終わった。
期限は、二週間後。
その二週間の間に――
隣国では、同規模の港湾再整備が、着工された。
隣国官庁。
エミー・マイセンは、短い報告を受けていた。
「地方港湾の暫定改修、開始しました」
「判断基準は?」
「物流停止の回避と、修正可能性です」
エミーは、即座に頷く。
「良いですね。将来案は?」
「並行して検討中です。現場が止まらない形で」
完璧ではない。
だが、動いている。
数週間後。
王都の港湾では、老朽化した埠頭が、ついに一部使用停止になった。
「……安全基準を満たしていない」
「改修計画は?」
「まだ、決まっていません」
商人たちの不満が、表に出始める。
「判断が遅すぎる」 「結局、誰が責任を取るんだ」
王宮の評議室。
「……隣国は、もう動いています」
老臣が、重い声で言う。
「こちらは、検討中のままです」
誰も反論しない。
理由は、分かっている。
失敗が怖いのではない。
責任を引き受ける仕組みが、ないのだ。
アントナン・ドームは、黙ってその場に座っていた。
(……違う)
心の中で、否定する。
(失敗は、怖い。
だが、それ以上に――)
「自分が決めた」と言えないことが、
この国の致命傷だった。
夜。
隣国の港湾では、工事の灯りが海面に揺れていた。
作業は、仮設から始まっている。
将来案は、後から修正する前提だ。
エミーは、現地視察の報告を読みながら、静かに思う。
(……もう、差は戻らない)
それは、優劣ではない。
能力の差でもない。
「決めて、動いて、直す」国と、
「考えて、迷って、止まる」国。
その違いは、
一つ一つは小さくても、
積み重なれば、もう追いつけない。
王都の港では、静かな不満が、静かな諦めに変わりつつあった。
「……どうせ、また決まらない」 「隣国に流した方が、早いな」
人も、金も、
少しずつ、流れを変える。
エミー・マイセンは、窓辺に立ち、遠い海を思い浮かべた。
あの国に、戻れない理由は、
もう十分すぎるほど、揃っている。
取り返しのつかない差とは、
結果の差ではない。
動けた時間の差だ。
そしてその時間は、
もう二度と、
同じ形では戻ってこない。
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