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第二十五話 価値が移る音
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第二十五話 価値が移る音
変化は、音を立てない。
だが、価値が移る瞬間には、確かな気配がある。
王都の商業区。
古くから続く商会の主たちが、非公式の集まりを開いていた。
「……最近、取引先が隣国に流れている」
「港の件だろう」 「判断が早い。話が通る」
声は低く、慎重だ。
王宮の耳は、どこにあるか分からない。
「こちらは、書類を出しても“検討中”だ」 「隣国は、“まず仮で動く”」
誰かが、ぽつりと呟く。
「……信用は、速度だな」
誰も否定しなかった。
一方、隣国官庁。
エミー・マイセンのもとに、複数の打診が届いていた。
共同投資。
物流拠点の新設。
長期契約の更新。
「……増えていますね」
補佐官が、控えめに言う。
「はい」
エミーは、淡々と資料を整理する。
「ですが、受ける基準は変えません」
彼女は、一枚の紙を差し出す。
「判断基準に合致するものだけです」 「条件が良くても、属人的な要求があるものは断ります」
「短期的な利益を、逃すことになりますが……」
「構いません」
即答だった。
「今は、“信用の型”を崩さない方が重要です」
午後。
官庁内の共有スペースで、若手官吏たちが話していた。
「最近、外からの問い合わせ、増えましたよね」 「うん。でも、上は慌ててない」
それが、不思議だった。
だが――
「基準があるからだろ」 「何でも受けないって、最初に決めてる」
自然と、答えが出る。
同じ頃、王都。
改革会議に、焦りが混じり始めていた。
「……商会の動きが、おかしい」 「投資が、外に出ている」
アントナン・ドームは、黙って報告を聞いていた。
数字は、誤魔化せない。
「呼び戻す手立ては?」
「条件を……良くするしか」
だが、それは後追いだ。
しかも――
「一度離れた相手は、慎重になります」
その言葉が、重く落ちる。
夜。
隣国の官庁では、通常通り灯りが落ちていく。
残業は、ほとんどない。
それでも、仕事は滞っていない。
エミーは、静かな廊下を歩きながら、ふと足を止めた。
(……価値が、移っている)
人も、金も、信頼も。
それは、誰かが奪ったわけではない。
動ける場所に、自然と流れただけだ。
ガイストが、彼女に並ぶ。
「王都が、慌て始めた」
「でしょうね」
エミーは、穏やかに答える。
「でも、ここからが本当の差です」
「どういう意味だ」
「信用は、呼び戻せません」 「積み上げるか、失うかです」
ガイストは、短く息を吐いた。
「……冷静だな」
「冷静でいないと、同じことを繰り返します」
王都の夜。
商業区では、静かな引っ越しが始まっていた。
表向きは、拠点の再配置。
実態は、判断の早い国への移動だ。
エミー・マイセンは、窓辺で夜景を見下ろしながら思う。
かつての自分は、
価値を抱え込まされる側だった。
今は――
価値が集まる構造を、整える側にいる。
音は、しない。
だが確かに、
価値が移る音は、
この夜、国境を越えていた。
変化は、音を立てない。
だが、価値が移る瞬間には、確かな気配がある。
王都の商業区。
古くから続く商会の主たちが、非公式の集まりを開いていた。
「……最近、取引先が隣国に流れている」
「港の件だろう」 「判断が早い。話が通る」
声は低く、慎重だ。
王宮の耳は、どこにあるか分からない。
「こちらは、書類を出しても“検討中”だ」 「隣国は、“まず仮で動く”」
誰かが、ぽつりと呟く。
「……信用は、速度だな」
誰も否定しなかった。
一方、隣国官庁。
エミー・マイセンのもとに、複数の打診が届いていた。
共同投資。
物流拠点の新設。
長期契約の更新。
「……増えていますね」
補佐官が、控えめに言う。
「はい」
エミーは、淡々と資料を整理する。
「ですが、受ける基準は変えません」
彼女は、一枚の紙を差し出す。
「判断基準に合致するものだけです」 「条件が良くても、属人的な要求があるものは断ります」
「短期的な利益を、逃すことになりますが……」
「構いません」
即答だった。
「今は、“信用の型”を崩さない方が重要です」
午後。
官庁内の共有スペースで、若手官吏たちが話していた。
「最近、外からの問い合わせ、増えましたよね」 「うん。でも、上は慌ててない」
それが、不思議だった。
だが――
「基準があるからだろ」 「何でも受けないって、最初に決めてる」
自然と、答えが出る。
同じ頃、王都。
改革会議に、焦りが混じり始めていた。
「……商会の動きが、おかしい」 「投資が、外に出ている」
アントナン・ドームは、黙って報告を聞いていた。
数字は、誤魔化せない。
「呼び戻す手立ては?」
「条件を……良くするしか」
だが、それは後追いだ。
しかも――
「一度離れた相手は、慎重になります」
その言葉が、重く落ちる。
夜。
隣国の官庁では、通常通り灯りが落ちていく。
残業は、ほとんどない。
それでも、仕事は滞っていない。
エミーは、静かな廊下を歩きながら、ふと足を止めた。
(……価値が、移っている)
人も、金も、信頼も。
それは、誰かが奪ったわけではない。
動ける場所に、自然と流れただけだ。
ガイストが、彼女に並ぶ。
「王都が、慌て始めた」
「でしょうね」
エミーは、穏やかに答える。
「でも、ここからが本当の差です」
「どういう意味だ」
「信用は、呼び戻せません」 「積み上げるか、失うかです」
ガイストは、短く息を吐いた。
「……冷静だな」
「冷静でいないと、同じことを繰り返します」
王都の夜。
商業区では、静かな引っ越しが始まっていた。
表向きは、拠点の再配置。
実態は、判断の早い国への移動だ。
エミー・マイセンは、窓辺で夜景を見下ろしながら思う。
かつての自分は、
価値を抱え込まされる側だった。
今は――
価値が集まる構造を、整える側にいる。
音は、しない。
だが確かに、
価値が移る音は、
この夜、国境を越えていた。
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