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第二十三話 選択の責任
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第二十三話 選択の責任
隣国官庁の朝は、いつも通り淡々と始まった。
鐘の音も、号令もない。
あるのは、各自が自分の机に向かい、必要な作業を始める静かな流れだけだ。
エミー・マイセンは、執務室で前日の案件整理を確認していた。
地方都市の緊急対応。
物流再開までの暫定措置。
修正が必要な点の洗い出し。
すべて、予定通りだ。
(……判断した責任は、残っている)
それを、彼女ははっきりと意識していた。
午前。
一通の報告が届く。
「昨日決めた暫定案ですが、一部の業者から反発が出ています」
若い官吏が、少し緊張した面持ちで告げる。
「予想の範囲内ですか?」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「“なぜ、彼らを切ったのか”という説明を求められています」
エミーは、ペンを置いた。
「説明できますか」
「できます。理由は明確です」
「なら、問題ありません」
彼女は、穏やかに言う。
「判断とは、結果だけでなく、理由を引き受けることです」 「説明できない判断は、してはいけません」
若い官吏は、深く頷いた。
「……分かりました」
昼前。
簡易会合が開かれ、反発している業者への対応方針が確認された。
誰かに責任を押し付ける案は、出ない。
決めた理由。
代替案。
次の修正タイミング。
それらを、淡々と説明するだけだ。
「……それでも、納得しない者が出るかもしれません」
誰かが言う。
「出ます」
エミーは、即答した。
「ですが、それは“判断が間違っている証拠”ではありません」
静かな沈黙。
「全員が納得する判断は、存在しません」 「だからこそ、責任の所在を曖昧にしないことが重要です」
会合は、短時間で終わった。
結論は、揺らがない。
一方、王都。
改革後の初めての“失敗事例”が、表に出ていた。
ある部署が独自判断で進めた施策が、想定外の摩擦を生んだのだ。
「……誰が、決めた?」
「担当官です」
「基準は?」
「……明確には」
会議室に、重苦しい空気が漂う。
「責任は、誰が取る?」
その問いに、誰も答えられない。
アントナン・ドームは、その様子を黙って見ていた。
(……選択と、責任が、切り離されている)
それが、今の王都の弱さだった。
夕刻。
隣国官庁では、反発していた業者の一部が、条件付きで合意に応じたとの報告が入る。
「……想定より早いですね」
「理由は?」
「説明が明確だったから、だそうです」
エミーは、小さく息を吐いた。
「なら、次に進めます」
ガイストが、執務室でその報告を聞いていた。
「責任を、逃がさなかったな」
「はい」
エミーは、静かに答える。
「判断の失敗より、責任の放棄の方が、組織を壊します」
ガイストは、短く笑った。
「王都が、最も苦手な部分だ」
夜。
エミーは、宿舎で今日の出来事を振り返っていた。
全てが、うまくいったわけではない。
不満は、残っている。
だが――
(逃げていない)
それだけは、確かだ。
同じ夜。
王宮の書斎で、アントナンは独り言のように呟いた。
「……選択とは、決めることじゃない」
机に置かれた報告書を見つめながら。
「その結果を、引き受けることなんだな」
だが、その気づきは、遅すぎたわけではない。
ただ――
彼女と共に学ぶ機会を、失っただけだ。
隣国では、
選択と責任が、同じ場所に置かれている。
王都では、
まだそれを繋げようとしている。
エミー・マイセンは、もう振り返らない。
彼女が進む先にあるのは、
誰かの失敗を救う役ではなく、
選択の重さを共有できる組織だ。
そしてその組織は、
今日もまた、
静かに、しかし確実に、
前へ進んでいた。
隣国官庁の朝は、いつも通り淡々と始まった。
鐘の音も、号令もない。
あるのは、各自が自分の机に向かい、必要な作業を始める静かな流れだけだ。
エミー・マイセンは、執務室で前日の案件整理を確認していた。
地方都市の緊急対応。
物流再開までの暫定措置。
修正が必要な点の洗い出し。
すべて、予定通りだ。
(……判断した責任は、残っている)
それを、彼女ははっきりと意識していた。
午前。
一通の報告が届く。
「昨日決めた暫定案ですが、一部の業者から反発が出ています」
若い官吏が、少し緊張した面持ちで告げる。
「予想の範囲内ですか?」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「“なぜ、彼らを切ったのか”という説明を求められています」
エミーは、ペンを置いた。
「説明できますか」
「できます。理由は明確です」
「なら、問題ありません」
彼女は、穏やかに言う。
「判断とは、結果だけでなく、理由を引き受けることです」 「説明できない判断は、してはいけません」
若い官吏は、深く頷いた。
「……分かりました」
昼前。
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誰かに責任を押し付ける案は、出ない。
決めた理由。
代替案。
次の修正タイミング。
それらを、淡々と説明するだけだ。
「……それでも、納得しない者が出るかもしれません」
誰かが言う。
「出ます」
エミーは、即答した。
「ですが、それは“判断が間違っている証拠”ではありません」
静かな沈黙。
「全員が納得する判断は、存在しません」 「だからこそ、責任の所在を曖昧にしないことが重要です」
会合は、短時間で終わった。
結論は、揺らがない。
一方、王都。
改革後の初めての“失敗事例”が、表に出ていた。
ある部署が独自判断で進めた施策が、想定外の摩擦を生んだのだ。
「……誰が、決めた?」
「担当官です」
「基準は?」
「……明確には」
会議室に、重苦しい空気が漂う。
「責任は、誰が取る?」
その問いに、誰も答えられない。
アントナン・ドームは、その様子を黙って見ていた。
(……選択と、責任が、切り離されている)
それが、今の王都の弱さだった。
夕刻。
隣国官庁では、反発していた業者の一部が、条件付きで合意に応じたとの報告が入る。
「……想定より早いですね」
「理由は?」
「説明が明確だったから、だそうです」
エミーは、小さく息を吐いた。
「なら、次に進めます」
ガイストが、執務室でその報告を聞いていた。
「責任を、逃がさなかったな」
「はい」
エミーは、静かに答える。
「判断の失敗より、責任の放棄の方が、組織を壊します」
ガイストは、短く笑った。
「王都が、最も苦手な部分だ」
夜。
エミーは、宿舎で今日の出来事を振り返っていた。
全てが、うまくいったわけではない。
不満は、残っている。
だが――
(逃げていない)
それだけは、確かだ。
同じ夜。
王宮の書斎で、アントナンは独り言のように呟いた。
「……選択とは、決めることじゃない」
机に置かれた報告書を見つめながら。
「その結果を、引き受けることなんだな」
だが、その気づきは、遅すぎたわけではない。
ただ――
彼女と共に学ぶ機会を、失っただけだ。
隣国では、
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王都では、
まだそれを繋げようとしている。
エミー・マイセンは、もう振り返らない。
彼女が進む先にあるのは、
誰かの失敗を救う役ではなく、
選択の重さを共有できる組織だ。
そしてその組織は、
今日もまた、
静かに、しかし確実に、
前へ進んでいた。
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