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第二十九話 こわいかおの、とけいしさん こわいかおの、とけいしさん こわいかおの、とけいしさん
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第二十九話 こわいかおの、とけいしさん
その工房は、王都の端にあった。
表通りから外れ、石畳の幅も少し狭くなる。
人通りは多くないが、金属を打つ、一定のリズムの音だけが、遠くまで響いていた。
「……ここです」
アンダーソンが足を止めた。
看板は古く、文字もすり減っている。
それでも、扉の前には、きちんと掃き清められた跡があった。
「時計職人の工房です。
腕は確かですが……」
そこで、少し言葉を選ぶ。
「見た目が、少々……」
扉を開けた瞬間、その理由はすぐに分かった。
「……おう」
低く、しゃがれた声。
工房の奥から現れたのは、白髪の老人だった。
背は高く、体つきはがっしりしている。
眉は太く、目つきは鋭い。
正直に言えば――怖い。
タナーは、思わずアンダーソンの背後に半歩下がった。
けれど、すぐに前へ出る。
「こんにちは」
小さな声だったが、はっきりしていた。
老人は、タナーを見下ろし、しばらく黙ったままだった。
その沈黙が、さらに緊張を生む。
「……子ども?」
「はい」
タナーは、うなずく。
「おみせ を
ひらこうと しています」
老人は、片眉を上げた。
「……おもちゃ屋か」
「ちがいます」
即答だった。
「ながく つかえる
とけい が
ほしい です」
その言葉に、老人の目が、ほんのわずかに細くなった。
「……ほう」
工房の中を見回す。
壁一面に、大小さまざまな時計。
歯車、振り子、針。
どれも、派手さはない。
だが、どれも、きちんと時を刻むために作られている。
「……どんな時計だ」
老人は、ぶっきらぼうに尋ねた。
タナーは、少し考えてから答えた。
「かわいい
とけい です」
「……は?」
老人の眉が、ぴくりと動いた。
「かわいい?」
「はい」
タナーは、うなずいた。
「でも」
一拍置いて、続ける。
「うるさく ない」
「こわれにくい」
「びっくり させない」
老人は、しばらく黙り込んだ。
やがて、鼻で笑う。
「……難しい注文だな」
「はい」
タナーは、素直に認めた。
「だから
つくる ひと に
あいに きました」
その言葉に、老人は一瞬、目を見開いた。
――作った人、ではない。
作る人。
それが、この子どもの言葉だった。
「……」
老人は、ふいに背を向け、工房の奥へ歩いていった。
「……ついてこい」
アンダーソンが、思わず目を丸くする。
奥には、作りかけの鳩時計があった。
木の箱に、未完成の扉。
「……昔はな」
老人は、低い声で言った。
「鳩時計は、時間を知らせるためのもんだった。
今は、ただの飾りだ」
タナーは、鳩の扉を見つめた。
「……でて くる の
すき です」
「……なんだと?」
「でも」
タナーは、首をかしげる。
「でて きすぎる と
びっくり します」
老人は、思わず吹き出した。
「……ははっ」
初めて、笑った。
「おまえ……
変な子だな」
「はい」
タナーは、誇らしげに答えた。
「そう いわれます」
老人は、鳩時計に手を置いた。
「……考えてやる」
短い言葉だったが、それは拒否ではなかった。
「かわいい、か……」
老人は、独り言のように呟く。
「久しぶりだな。
そんな注文は」
工房を出るとき、アンダーソンは小さく息を吐いた。
「……驚きました」
「なに が ですか」
「断られなかったことです」
タナーは、少し考えてから言った。
「こわい かお の ひと は」
にこりともしないが、声は穏やかだった。
「やさしい こと が
おおい です」
その言葉に、アンダーソンは苦笑した。
こうして、
“こわいかおの、とけいしさん”との縁は、
静かに、しかし確かに、結ばれた。
まだ、この時計が、
小鳥を飛ばすことになるとも、
職人が腰を抜かしかけるとも――
誰も、知らなかった。
その工房は、王都の端にあった。
表通りから外れ、石畳の幅も少し狭くなる。
人通りは多くないが、金属を打つ、一定のリズムの音だけが、遠くまで響いていた。
「……ここです」
アンダーソンが足を止めた。
看板は古く、文字もすり減っている。
それでも、扉の前には、きちんと掃き清められた跡があった。
「時計職人の工房です。
腕は確かですが……」
そこで、少し言葉を選ぶ。
「見た目が、少々……」
扉を開けた瞬間、その理由はすぐに分かった。
「……おう」
低く、しゃがれた声。
工房の奥から現れたのは、白髪の老人だった。
背は高く、体つきはがっしりしている。
眉は太く、目つきは鋭い。
正直に言えば――怖い。
タナーは、思わずアンダーソンの背後に半歩下がった。
けれど、すぐに前へ出る。
「こんにちは」
小さな声だったが、はっきりしていた。
老人は、タナーを見下ろし、しばらく黙ったままだった。
その沈黙が、さらに緊張を生む。
「……子ども?」
「はい」
タナーは、うなずく。
「おみせ を
ひらこうと しています」
老人は、片眉を上げた。
「……おもちゃ屋か」
「ちがいます」
即答だった。
「ながく つかえる
とけい が
ほしい です」
その言葉に、老人の目が、ほんのわずかに細くなった。
「……ほう」
工房の中を見回す。
壁一面に、大小さまざまな時計。
歯車、振り子、針。
どれも、派手さはない。
だが、どれも、きちんと時を刻むために作られている。
「……どんな時計だ」
老人は、ぶっきらぼうに尋ねた。
タナーは、少し考えてから答えた。
「かわいい
とけい です」
「……は?」
老人の眉が、ぴくりと動いた。
「かわいい?」
「はい」
タナーは、うなずいた。
「でも」
一拍置いて、続ける。
「うるさく ない」
「こわれにくい」
「びっくり させない」
老人は、しばらく黙り込んだ。
やがて、鼻で笑う。
「……難しい注文だな」
「はい」
タナーは、素直に認めた。
「だから
つくる ひと に
あいに きました」
その言葉に、老人は一瞬、目を見開いた。
――作った人、ではない。
作る人。
それが、この子どもの言葉だった。
「……」
老人は、ふいに背を向け、工房の奥へ歩いていった。
「……ついてこい」
アンダーソンが、思わず目を丸くする。
奥には、作りかけの鳩時計があった。
木の箱に、未完成の扉。
「……昔はな」
老人は、低い声で言った。
「鳩時計は、時間を知らせるためのもんだった。
今は、ただの飾りだ」
タナーは、鳩の扉を見つめた。
「……でて くる の
すき です」
「……なんだと?」
「でも」
タナーは、首をかしげる。
「でて きすぎる と
びっくり します」
老人は、思わず吹き出した。
「……ははっ」
初めて、笑った。
「おまえ……
変な子だな」
「はい」
タナーは、誇らしげに答えた。
「そう いわれます」
老人は、鳩時計に手を置いた。
「……考えてやる」
短い言葉だったが、それは拒否ではなかった。
「かわいい、か……」
老人は、独り言のように呟く。
「久しぶりだな。
そんな注文は」
工房を出るとき、アンダーソンは小さく息を吐いた。
「……驚きました」
「なに が ですか」
「断られなかったことです」
タナーは、少し考えてから言った。
「こわい かお の ひと は」
にこりともしないが、声は穏やかだった。
「やさしい こと が
おおい です」
その言葉に、アンダーソンは苦笑した。
こうして、
“こわいかおの、とけいしさん”との縁は、
静かに、しかし確かに、結ばれた。
まだ、この時計が、
小鳥を飛ばすことになるとも、
職人が腰を抜かしかけるとも――
誰も、知らなかった。
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