どうせループするなら楽しみますわよ!

お好み焼き

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1このループを止めて

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フェアリー・クロイタム公爵令嬢は人生のループを繰り返していた。

一度目は婚約者の王太子を突如現れた聖女に奪われ、悲しみに明け暮れ毒を飲んだ途端、時間が巻き戻った。

二度目も同じ人生を辿ったが、自害はせずに領地で息を潜めていたら側室として王宮にあがれと王命が来た。歓喜した両親が有無を言わさずフェアリーを屋敷から叩き出そうとしてくる。フェアリーが重い腰をあげた途端、時間が巻き戻った。

三度目の人生は王太子と聖女が仲睦まじくなっていく過程をただただ傍観した。卒業時にフェアリーが正室に、聖女は側室となることが決まった。しかしそこでまた時が戻った。

どんな結末であれ、必ず学園入学時に時が巻き戻る。そして四度目は……何故か専属執事のニコライにも前回の記憶があることが発覚した。

「お……お嬢様は四度目、と?」
「そうよ。もう嫌。こんな糞みたいな人生」

フェアリーはニコライと手を組み、ループの謎を解き明かすか、ループを止める為に動き始めたのだが、やはり上手くいかない。書物を漁ってもそのような事例はひとつも見つけられなかった。

「はぁ。もう三度目ですね」
「六度目のわたくしに言ってるの?」
「あ、すみませ……」

フェアリーは七度目、八度目と巻き戻る度に以前とは違う道を選んだ。何か分岐点がある筈だと希望を抱いていたのだが、やはり卒業前後には入学時に時が巻き戻ってしまう。もうアホらしくてやってられなかった。

「アリー、ほらアーンして」
「ん。これおいち!  ねぇニコたん、夜ご飯はハンバーグ作ってよう。中からチーズが出てくるやつ」
「仕方ないですねぇ。お嬢様の御心のままに」

なんだかんだで十度目。
ニコライとは恋人同士になっていた。
もう色んな意味でどうでもいいやと学園でもイチャイチャしまくりだった。周りの目がキチガイに向けるように冷たくなっていったのだが、王太子だって学園で堂々と聖女とイチャイチャしている。だからわたくしも婚約者以外の男とイチャイチャしていいの!と開き直った。

その結果。

「あー、その……王家から婚約白紙の手続きが執行され、殿下とフェアリーの婚約は無かったことになった」

疲れた顔の父親がフェアリーにそう告げる。

「まあ!  なにそれ凄い新鮮!  初めてのルートじゃない?」
「バカもん!  王家の信頼を裏切ってまで何言ってんだ!  お前など私の娘ではない!  即刻この家を出ていけ!」
「わあっ!  すごーいっ、どんどん新しい道が拓けていくわあ!」
「……っ、フェアリー。本当に、一体どうしてしまったんだ?  王太子と聖女の関係がそこまで不愉快だったのか?  なにがお前をそこまで……」
「あらお父様、ずっと一度目の癖になに上から目線?」
「…………もういい。早く出ていけ。おいニコライ、お前も付いていきたければ好きにしろ!  野垂れ死んでも知らんからな!」
「ではお嬢様と共にお暇を頂きます」

フェアリーがループ十度目に至るまでの人生で、冒険者稼業は勿論、闇ギルドに所属してループに繋がる情報はないかと探してきたのだ。今更家から追い出されて除籍されたところで何のこれしき。身ひとつで徒歩で屋敷を出ていくフェアリーとニコライに父親が青ざめたが、本当に何のこれしき状態だった。

「お嬢様。入学時に魔の丘に埋めた金貨を掘り出してまいります」
「ならその間はその辺にいる魔獣を切り刻んで暇潰ししておくわ。あと今夜はニコたんのハンバーグが食べたい」
「仕方ないですねぇ。ほんとアリーは食いしん坊なんだから」

宿で寝泊まりしながらたまに冒険者稼業で荒稼ぎしまくる生活を予定していた。しかしニコライが闇ギルドで暗殺依頼をサクッと一件済ませたので、しばらくは困らないお金が入ってきた。

「宿変える?  ずっとゴールドタワーに泊まってたらすぐ資金が尽きちゃうでしょ?  郊外のピンクビルに移動しようよ。あそこは騒音があるけどご飯は美味しいし」
「お嬢様には王都で一番格式のあるこの宿でも足りませんよ。それにほら、……ね?」
「……うん」

フェアリーとニコライはそろそろいいだろうとお互い密かに思っていた。恋人なんだし、そろそろ、ね?

「優しくしてね。わたくし唇すら誰にも許してこなかったんだから」
「ああっ……アリー……夢のようです」

見つめ合って口付けをする。
心臓はばくばくだ。
フェアリーがニコライに抱き付いて、ベットに押し倒した。額をぐりぐりとニコライの胸に擦り付ける。

「緊張してきましたわ、っ」
「時間はありますから、ゆっくり……急かしません」
「そうね……一緒にお風呂も入りたいし」
「隅々まで優しく洗って差し上げます」
「んもうっ」

上目遣いでニコライを見つめる。そしてどちらともなく唇を重ねようとした、その時、バッターン!と部屋のドアが開いた。

「フェアリー・クロイタム公爵令嬢!  貴女には王命で今すぐ登城して頂きます!」

現れたのは陛下直属の近衛兵だった。着衣はあれど、ベットで重なるフェアリーとニコライに顔をしかめ、すぐさま離れるよう眼で威圧してくるも、過去に闇ギルドに所属していた二人はなんのその。

「あの……ク、クロイタム嬢?」
「今更わたくしに何のご用?」
「……殿下は聖女様を神殿に送られました。正気に戻ったのです。どうかこれまでの憤りは鎮めて関係を再構築して頂けますと幸いです」
「へえ」
「っ、陛下もクロイタム嬢の過失は無かったことにすると仰せです」
「へえ」
「で、ですから、直ぐにでも王城に」
「へえ」
「ク、クロイタム嬢?」
「へえ」

今回は本当に斬新なルートね、とフェアリーがニコライの胸で頬杖をついた。

「…………お嬢様」
「……訳が解らないけどとりあえず情報を得るため行ってみるわ。夜には必ず戻るから、ハンバーグは作っといてね。絶対よ。あ、でもわたくしが戻るまでは焼かないでね?」
「はい……お帰りをお持ちしております」


フェアリーは近衛兵に連れられ馬車に乗り込んだ。

「フェアリー!」

乗り込んだ瞬間、青ざめた王太子が同乗していることに気付き、名を呼ばれたフェアリーがぎょっと目を見開くと手を握ってきた。

「すまない!  どうかしていた!  学園で君と執事がただならぬ関係であると知り、そこで自分の過ちに気付いてっ……直ぐにでも聖女の手を離して君の元へ行きたかったが何故か出来なかった!  何かの強制力に体を操られているような感覚があり、ずっと自分の意思とは違う行動をさせられてきた!  しかしようやく解放されたので迎えにきた!  私のフェアリー、もう二度と君を離さない!」
「は?」

フェアリーはしばし王太子の勢いにぽかんとしていたが、はっと我に返って何かばっちいものでも棄てるように王太子の手を指でつまんで引き離した。

「……フェ、フェアリー」
「キモチワルイ、ですわ」
「っ、……す、すまない!  今までの事は、償うから、どうか──」

そこでフェアリーの意識は視界と共に白んで、時間が巻き戻っていた。

まだ巻き戻る時期ではなかった。今回も巻き戻ったとしてもあと二年は時間があった。こんなに早く戻ったのは初めてだった。

何か嫌な予感がする。
フェアリーは公爵邸の自室で、寝間着のまま真新しい制服がかけられたトルソーに目を向けた。

今日は入学式だ。
そこはいつもと同じだった。
しかし何かの変化を感じていた。それが何かは解らない。言い様のない不安を抱えたまま時は過ぎ、カーテンの隙間から見える空が白んできた。フェアリーは呆けたまま、ぼそっとニコライの名前を呼んだ。

「……お嬢様」
「え」

ニコライがドアを開けて入ってきた。彼はフェアリーの専属執事だ。呼ばれたのだから応答するのは当然のこと。しかしフェアリーは怯えた。以前は少しの変化にも希望を抱いた、その変化が今は怖い。もし今回のニコライに記憶が無いとしたら……それは想像したくもない恐怖だった。

「いえ、アリー。あの後どうなったのですか?」
「あっ……」


結果として、ニコライにはきちんと今までの記憶があった。フェアリーは泣きながら安堵し、あの後の短い出来事をニコライに話した。
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