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全て聖女様の言う通りです
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「リディア・オルシュ。16歳。先日この珍しいピンクブロンドの髪でオルシュ男爵の落とし種だと発覚した元平民だ。母はパン屋を営んでいる。オルシュ男爵は現在やもめだが母が再婚を拒んだので今も変わらずやもめだ。男爵は勤勉でまだ肌にハリのある男なので、よかったら誰か後妻に立候補してやってくれ。……すまない、話がそれたな。私は聖属性の魔力を持っている。現在神殿で聖女として活動している。そして先日、この国に結界を張ることに成功したわけだが、その褒章が王太子との結婚とはどういう事なのか具体的に説明して欲しい。説明を望むその理由は、我が国の王太子は既にこの国の公爵令嬢と婚約している上に、この婚約は複雑な事情が絡んだ政略でもある。何故ならば現在我が国は隣国と切迫した関係下にある。この数十年、国境付近ではいくつかの小さな火種が落ちた。辺境伯の素早い対応により鎮火には成功したが、いずれ戦争が勃発する可能性もあり、それを回避する為に隣国の王女だったダイアナ姫の血を継ぐ公爵令嬢を王妃にする必要がある。理由は隣国の国王は公爵令嬢の祖父でもあるからだ。いくつかの火種……それは隣国の国王が我が国を手中に納め、属国として支配したいという野望から火種が落ちているように感じられる。だからこそ、あの国王を祖父にもつ公爵令嬢を王妃の座に添えれば、国王の野望は一時的に鎮まると考えられる。隣国の国王は既に即位八十年、なのに次期国王となる王太子すら決めていない。王座にしがみつく根性とそれを支える独裁欲……たいしたものだ。だからこそ、待つのだ。崩御すれば継承権の取り合い、跡目争いとなり、全ては更地へと戻る。その後は、我が国に攻めいる余力も残っていないだろう。……今はまだじっと息を潜め、敵の出方を待つ時なのだ。その辺にいる亀でさえ叩かれれば手足を引っ込めるというのに……そんな時に、王太子と聖女を結婚させる? 隣国の高貴な王女の血を継ぐ公爵令嬢ではなく、この国に結界を張った聖女を王妃の座に就かせるとは、隣国はこれをどう捉えるだろうなあ? 宣戦布告と捉えても可笑しくはない。むしろ向こうに攻めいる機会を与えているようなものだ。何か反論は? ……聖女が次期国王の妃になるのは世の常だった? 警備上の問題? 聖女があまりに低い爵位では格好がつかない? ……聖女は聖女であり、地位を必要としない。警備も自分で自分に結界が張れるからなんの問題も無い。そうだな、あとこれだけは伝えておきたい。金や地位を与えなくとも、私はこの国に結界を張り続けるぞ? 自身の安全の為でもあるし、母のパン屋も心配だ。むしろ金と地位をくれるというなら、母に渡してくれ。母が健やかに長生きすればするだけ、私もこの国に愛着が出るというもの。結界を張り続ける心の源ともなる。逆に私を王太子の妃にした方が危険が高くないか? 私が王太子と喧嘩してムカついたり、それで王太子を困らせたいと一時的な感情で国に結界を張るのをやめたらどうする? 想像しただけで怖くないか? ……何か反論は?」
「……全て聖女様の言う通りです」
【終】
「……全て聖女様の言う通りです」
【終】
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