17 / 31
17 こんな筈じゃなかったと奮えた結果①
しおりを挟む
なんでこんな目に……。
ジューン家をあとにしたネイサンはコリンから受けた体の節々に走る痛み、それが馬車の揺れで増幅され、その苛立ちに目の前にいる父親に声を荒げた。
「父さん、新しい剣を買って! あの女絶対にぶっ殺してやる!」
「騎士に昇格したんだ。その内クワイス騎士団から剣が支給されるだろう」
「それまでどうやって過ごせっていうんだよ! あ、そうだドロテアに弁償させたらいいか」
「馬鹿者! なにが弁償だ! 後で不利な噂が立てられないようお前の持参金を和解金としてジューン家に送る。もう黙ってろ」
「はあッ!? どういう事だよ! 何で俺の金が!」
アトス伯爵はだんまりで、屋敷に着くまで口を開くことはなかった。
屋敷に戻ると、父親から事情を聞いた兄のイーサンがネイサンに詰め寄った。
「……愚か者が。また候補が現れればいいが、自ら婿入り先を無くすとは」
「はあ? 俺は騎士に昇格したんだぜ? なんでわざわざ婿入りなんてしなきゃならないんだよ」
「……お前は阿呆なのか? 騎士とて継ぐ爵位もなく出世の見込みはない。せめてジューン家を後ろ盾に門出を迎えていれば、まだ可能性はあったのに……」
「はあ!? 俺は実力が認められて騎士になったんだ! 爵位とか、関係あるかよっ」
ため息をついたイーサンはそれ以上は何も言ってこなかった。
後日。
クワイス騎士団の一員になったネイサンは訓練に明け暮れていた。しかし周りにいる騎士達はまだ16歳のネイサンより遥かに体格がよく、体力もあった。走り込みは途中からついていけない。その後は筋肉トレーニングがあり、既に騎士として出来上がっている周りの強靭な肉体を見て、ネイサンは気後れしていた。学園の騎士科では、自分が一番体力もあり、強かったのにと。
「今日はこれまでとする。宿舎に戻って寝ろ。ネイサン・アトス。お前は残って訓練に励め」
「は、はい」
教官が解散を告げる。
ぞろぞろと踵を返す騎士達の横では、毎日のように居残りを命じられたネイサンが木刀を手に鍛練を重ねていた。
よろよろと宿舎に戻ると、他の騎士達は既に食事を済ませていて、ネイサンには余り物しか残っていなかった。それでも量だけはある。だがネイサンは食事の内容が気にいらなかった。肉もパンも固く、野菜屑だらけのスープは冷めている。
平民の騎士からすると肉と野菜が無料で毎日食べれるこの対偶は破格のものという認識なのだが、貴族のネイサンには残飯に見えていたのだ。
ある日の昼。
小休憩に入りネイサンが井戸水で顔を洗っていると果実水を飲んでいる若い騎士が通りすぎた。その香りに思わずネイサンの喉が鳴る。食堂では甘い物が出ない。貴族としていつでも砂糖を使ったお菓子を食べていたネイサンはそろそろ糖分が足りなくなっていた。
訓練場に戻ると二人の女性が果実水を数人に配っていた。騎士への差し入れか、そう思ったネイサンはしばらく様子を見たのち、その女性に近付き、自分にもよこせと言った。
女性は狼狽えて、隣の女性に目配せをした。そして一杯の果実水を渡してきた。そのあと二人してそそくさと踵を返した。
ネイサンは一気に飲んで、これは果実水ではなくジュースの濃さだと気をよくした。そしてまだ足りないとその二人の女性に詰め寄り、身なりのいい方の女性の肩を掴んだ、その瞬間、背後からぐいっと首根っこを掴まれた。
「おい新人。私の妻に何をしている?」
「え?」
「シュタイナー様、よいのです」
「よくない」
「施しか何かと勘違いされたようでしたので。きちんと説明しなかったわたくしのせいですわ」
「なら私が説明してやろう……来い」
ネイサンは首根っこを掴まれたまま訓練場からは見えない隅に連れていかれ、そのまま壁に投げつけられた。
「……ぐ、っ」
「いいか。妻は夫である私と、自分の弟達に祝いで果実水を配っていたんだ。施しだとしても他の騎士はお前のように詰め寄ったりはしない。恥を知れ」
たかが一杯の果実水でなんでこんな目に。ネイサンは反論しようにも背中に受けた衝撃でしばらく呼吸するだけで精一杯だった。その間に騎士は去っていった。
この事を教官に報告するも、逆にネイサンは叱責されただけだった。何故ならば果実水を配っていた女性の弟達は王都からクワイス領地にある侯爵邸内の護衛として移動が決まった出世組だったからだ。
その姉に詰め寄るなど馬鹿なのかと怒鳴られた。そしてネイサンを投げ飛ばした騎士は上位騎士──継ぐ爵位がある貴族だった。新人騎士で訓練に遅れが出ているため周りと交流していなかったネイサンはクワイス騎士団の情勢がまだ把握できていなかったのだ。
「あ、あの……騎士様」
それから数日、ネイサンがいつもの残飯に顔をしかめていると食堂の女の子が紅茶をネイサンに差し出した。
砂糖も入っていて気をよくしたネイサンが会話をすると、少女は食堂長の孫で、ここで働いているのも将来の為にお金を貯めたいからだと話してくれた。
「あの、いつも不味そうに食べてますよね? 注文してくれれば温かいご飯やお菓子もお出しすることが可能なんですが……」
「え!? それを早く言えよ!」
この時、ネイサンは女の子の言葉を間違って捉えた。注文してくれれば──文字通り注文だ、料金も発生する。騎士団には貴族がいる。それを考慮して出すことになった特別メニューなのだが、ネイサンは食いたい物があれば言えばいいだけなんだと判断した。
翌日からネイサンは温かい食事を摂った。朝はマフィンで、昼は卵を使ったサンドイッチを頼み、夜は焼きたてのパンや根菜類が入ったシチューを作らせた。食堂の女の子はいつもニコニコと甲斐甲斐しくネイサンの世話を焼き、またそれに気をよくしたネイサンは訓練中に甘い物を差し入れするよう催促もした。
それがしばらく続いた頃、ネイサンの体に異変が現れた。
「ネイサン・アトス。お前は居残りだ」
「……はい」
「後は解散。宿舎に戻って寝ろ」
皆が去った誰もいない訓練場で、ネイサンは木刀を片手に首を鳴らした。
日中の訓練で遅れをとることは無くなってきたが、日が沈んでくると体が疲れるようになった。倦怠感のような体の怠さ。あと眠気も。腹が空いて木刀を持つ手が震える時もある。
打ち込み用の人型の魔導具に向き合う。
ネイサンにとっては不快な音が鳴るだけの耳障りな魔導具だ。何度打っても慣れない。
居残りは木刀が折れるまで。だがその日ネイサンはわざと木刀を壁にぶつけて折り、早めに宿舎に戻った。甘い物が食べたい。ただそれだけを考えながら。
居残りを命じられる夕方には腹も空いて体に力が入らなかったのでわざと木刀を折って宿舎に戻る、そんなことを何度も繰り返していたら見覚えのある騎士がネイサンに声をかけてきた。
「おう新人。早かったな」
あの日ネイサンをぶん投げた上位騎士のシュタイナーだ。体格がよく上背がある。
ネイサンは食事の手を止め、腰をあげて敬礼をした。
「少し体が大きくなってきたな……ってお前。なんだその晩飯?」
シュタイナーはネイサンの夕食に目を向けた。マフィンや根菜類が入ったシチュー。あと果実水も。周りにいる騎士達はいつものがっつりメニューだ。
「その量で足りんのか? 肉は?」
「俺はいつもこれですが?」
「……ふぅん」
シュタイナーは特別メニューの自慢だと思ったようだ。
会話はそれで終わり、ネイサンはまた席に座ってマフィンをかじった。
ジューン家をあとにしたネイサンはコリンから受けた体の節々に走る痛み、それが馬車の揺れで増幅され、その苛立ちに目の前にいる父親に声を荒げた。
「父さん、新しい剣を買って! あの女絶対にぶっ殺してやる!」
「騎士に昇格したんだ。その内クワイス騎士団から剣が支給されるだろう」
「それまでどうやって過ごせっていうんだよ! あ、そうだドロテアに弁償させたらいいか」
「馬鹿者! なにが弁償だ! 後で不利な噂が立てられないようお前の持参金を和解金としてジューン家に送る。もう黙ってろ」
「はあッ!? どういう事だよ! 何で俺の金が!」
アトス伯爵はだんまりで、屋敷に着くまで口を開くことはなかった。
屋敷に戻ると、父親から事情を聞いた兄のイーサンがネイサンに詰め寄った。
「……愚か者が。また候補が現れればいいが、自ら婿入り先を無くすとは」
「はあ? 俺は騎士に昇格したんだぜ? なんでわざわざ婿入りなんてしなきゃならないんだよ」
「……お前は阿呆なのか? 騎士とて継ぐ爵位もなく出世の見込みはない。せめてジューン家を後ろ盾に門出を迎えていれば、まだ可能性はあったのに……」
「はあ!? 俺は実力が認められて騎士になったんだ! 爵位とか、関係あるかよっ」
ため息をついたイーサンはそれ以上は何も言ってこなかった。
後日。
クワイス騎士団の一員になったネイサンは訓練に明け暮れていた。しかし周りにいる騎士達はまだ16歳のネイサンより遥かに体格がよく、体力もあった。走り込みは途中からついていけない。その後は筋肉トレーニングがあり、既に騎士として出来上がっている周りの強靭な肉体を見て、ネイサンは気後れしていた。学園の騎士科では、自分が一番体力もあり、強かったのにと。
「今日はこれまでとする。宿舎に戻って寝ろ。ネイサン・アトス。お前は残って訓練に励め」
「は、はい」
教官が解散を告げる。
ぞろぞろと踵を返す騎士達の横では、毎日のように居残りを命じられたネイサンが木刀を手に鍛練を重ねていた。
よろよろと宿舎に戻ると、他の騎士達は既に食事を済ませていて、ネイサンには余り物しか残っていなかった。それでも量だけはある。だがネイサンは食事の内容が気にいらなかった。肉もパンも固く、野菜屑だらけのスープは冷めている。
平民の騎士からすると肉と野菜が無料で毎日食べれるこの対偶は破格のものという認識なのだが、貴族のネイサンには残飯に見えていたのだ。
ある日の昼。
小休憩に入りネイサンが井戸水で顔を洗っていると果実水を飲んでいる若い騎士が通りすぎた。その香りに思わずネイサンの喉が鳴る。食堂では甘い物が出ない。貴族としていつでも砂糖を使ったお菓子を食べていたネイサンはそろそろ糖分が足りなくなっていた。
訓練場に戻ると二人の女性が果実水を数人に配っていた。騎士への差し入れか、そう思ったネイサンはしばらく様子を見たのち、その女性に近付き、自分にもよこせと言った。
女性は狼狽えて、隣の女性に目配せをした。そして一杯の果実水を渡してきた。そのあと二人してそそくさと踵を返した。
ネイサンは一気に飲んで、これは果実水ではなくジュースの濃さだと気をよくした。そしてまだ足りないとその二人の女性に詰め寄り、身なりのいい方の女性の肩を掴んだ、その瞬間、背後からぐいっと首根っこを掴まれた。
「おい新人。私の妻に何をしている?」
「え?」
「シュタイナー様、よいのです」
「よくない」
「施しか何かと勘違いされたようでしたので。きちんと説明しなかったわたくしのせいですわ」
「なら私が説明してやろう……来い」
ネイサンは首根っこを掴まれたまま訓練場からは見えない隅に連れていかれ、そのまま壁に投げつけられた。
「……ぐ、っ」
「いいか。妻は夫である私と、自分の弟達に祝いで果実水を配っていたんだ。施しだとしても他の騎士はお前のように詰め寄ったりはしない。恥を知れ」
たかが一杯の果実水でなんでこんな目に。ネイサンは反論しようにも背中に受けた衝撃でしばらく呼吸するだけで精一杯だった。その間に騎士は去っていった。
この事を教官に報告するも、逆にネイサンは叱責されただけだった。何故ならば果実水を配っていた女性の弟達は王都からクワイス領地にある侯爵邸内の護衛として移動が決まった出世組だったからだ。
その姉に詰め寄るなど馬鹿なのかと怒鳴られた。そしてネイサンを投げ飛ばした騎士は上位騎士──継ぐ爵位がある貴族だった。新人騎士で訓練に遅れが出ているため周りと交流していなかったネイサンはクワイス騎士団の情勢がまだ把握できていなかったのだ。
「あ、あの……騎士様」
それから数日、ネイサンがいつもの残飯に顔をしかめていると食堂の女の子が紅茶をネイサンに差し出した。
砂糖も入っていて気をよくしたネイサンが会話をすると、少女は食堂長の孫で、ここで働いているのも将来の為にお金を貯めたいからだと話してくれた。
「あの、いつも不味そうに食べてますよね? 注文してくれれば温かいご飯やお菓子もお出しすることが可能なんですが……」
「え!? それを早く言えよ!」
この時、ネイサンは女の子の言葉を間違って捉えた。注文してくれれば──文字通り注文だ、料金も発生する。騎士団には貴族がいる。それを考慮して出すことになった特別メニューなのだが、ネイサンは食いたい物があれば言えばいいだけなんだと判断した。
翌日からネイサンは温かい食事を摂った。朝はマフィンで、昼は卵を使ったサンドイッチを頼み、夜は焼きたてのパンや根菜類が入ったシチューを作らせた。食堂の女の子はいつもニコニコと甲斐甲斐しくネイサンの世話を焼き、またそれに気をよくしたネイサンは訓練中に甘い物を差し入れするよう催促もした。
それがしばらく続いた頃、ネイサンの体に異変が現れた。
「ネイサン・アトス。お前は居残りだ」
「……はい」
「後は解散。宿舎に戻って寝ろ」
皆が去った誰もいない訓練場で、ネイサンは木刀を片手に首を鳴らした。
日中の訓練で遅れをとることは無くなってきたが、日が沈んでくると体が疲れるようになった。倦怠感のような体の怠さ。あと眠気も。腹が空いて木刀を持つ手が震える時もある。
打ち込み用の人型の魔導具に向き合う。
ネイサンにとっては不快な音が鳴るだけの耳障りな魔導具だ。何度打っても慣れない。
居残りは木刀が折れるまで。だがその日ネイサンはわざと木刀を壁にぶつけて折り、早めに宿舎に戻った。甘い物が食べたい。ただそれだけを考えながら。
居残りを命じられる夕方には腹も空いて体に力が入らなかったのでわざと木刀を折って宿舎に戻る、そんなことを何度も繰り返していたら見覚えのある騎士がネイサンに声をかけてきた。
「おう新人。早かったな」
あの日ネイサンをぶん投げた上位騎士のシュタイナーだ。体格がよく上背がある。
ネイサンは食事の手を止め、腰をあげて敬礼をした。
「少し体が大きくなってきたな……ってお前。なんだその晩飯?」
シュタイナーはネイサンの夕食に目を向けた。マフィンや根菜類が入ったシチュー。あと果実水も。周りにいる騎士達はいつものがっつりメニューだ。
「その量で足りんのか? 肉は?」
「俺はいつもこれですが?」
「……ふぅん」
シュタイナーは特別メニューの自慢だと思ったようだ。
会話はそれで終わり、ネイサンはまた席に座ってマフィンをかじった。
1,005
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる