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とある化け物と魔法使いのお話 つづき 2
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魔法使いは、荒れた。
一ヶ月、二ヶ月…と母を待ち、半年経ってとうとう母の死を知った。
理由は『悪い魔女』だったからと。
(村の人のいうことだ。本当かどうか……)
村から帰ってきた魔法使いは平静さを保とうとした。
しかし、乱雑に置かれたカゴと散らばった中身が魔法使いの平静であることを否定していた。
(訃報を知らせる手紙だって届いていない)
最近、届いた手紙の束を漁り、一つ一つ確認する。
もしかして、魔女の子供だからと関わりたくなくて手紙を届けなかったかもしれない。
魔法使いは事実を確かめたく、再び村へと戻る。
人目を避け、村長の家を訪ねた。
珍しくやってきた魔法使いに嫌な顔する村長であったが、他の村人に目撃されたくなかったのか家の中に入れた。
「お前の母親は、街で貴族相手にやらかしたみたいでさ。捕まって牢屋ン中で死んじまったのさ」
「い……いつ…ですか?」
「三ヶ月ぐらい前だったかなぁ……ッたく、アイツはまともに仕事できねぇーのか。知らせの手紙を送ったのによ」
「手紙……?」
村長がいうには、化け物に手紙を届けるよう頼んだらしい。
「あとはアイツに聞くんだな。魔法使いさんよ」
村長は「用は済んだだろう」と言い、家から魔法使いを追い出した。
魔法使いは、とぼとぼと森の方へと歩く。
なぜか道が歪んで見える。真っ直ぐ歩けているのか分からなかった。
何度か躓き、転び、泥で汚れながら家に辿り着く。
(嘘だ……嘘だと思いたい…………)
床の上にペタリと膝をつき、魔法使いは暗い表情をしたまましばらく動けなくなった。
まさかもう二度と帰ってこないとは誰が想像できたのだろうか。
一緒に街へ行けばよかった。そうすれば、ひとりにならなかった。
ただ母を見送ってしまったことを魔法使いは、激しく後悔した。
――コンコン。
背後で控えにドアがノックされる。
だけど、魔法使いの耳には届かない。たとえ気付いたとして振り返りはしなかった。
再びノック音が鳴り、ボソボソとドアの向こうで声がする。
会いたくなかったから返事しなかった。それでも、声を掛けてくる。
「帰ってください。貴方とは会いたくない」
魔法使いは応えれば、ピタリと音が止む。
「もうここに来ないでください」
「ドウシテ……」
「ずっと隠していたからです。母のことを――」
ドアの向こう側でハッと息を吞む気配がした。
「…………シッタンダネ」
『知った』という言葉で故意に手紙を隠したのだと分かり、振り返った。
もしや、母の帰りを待つ自分を嗤っていたのか?
怒りが湧き、鋭くなった眼で睨む。
「ゴメン、ゴメンネ」
どこか悲しそうな響きで化け物は謝ってくる。
「キズツケルツモリジャナカッタ……」
「なぜ……? なぜ手紙を……母の死を隠したのです?」
「ソレハ……」
「私を嘲笑いたかったのですか」
「チガッ……!カナシマセタク、ナカッタンダ。ヒトリ二ナル。トテモカナシイコトカラ…………」
化け物は、母の死をずっと隠せるとは思っていなかった。
だが、魔法使いに伝えなかったのは、家族の死という辛さを彼自身が身を以て知っているからだ。
家族を失った日から悲しみはまだ残っている。一生消えやしないだろう。
「ダケド……モットカナシマセテシマッタ。ボクハ、バカダ……ゴメン……」
「分かりました。ですが、しばらく一人にさせてほしい。今は誰とも会いたくないです」
哀れな魔法使いを嘲笑うためでないと分かり、少し怒りを鎮める。
だが、母の死を隠した化け物をすぐ許せそうになかった。心の整理が必要だった。
「…………ワカッタ」
一言だけそう言い残すと化け物は、魔法使いの家から去った。
ドアの前から人の気配が消え、魔法使いは静かに立ち上がり、窓から外を覗く。
静寂な木々が夜の星々を覆い隠す風景が見えるだけであった。
一ヶ月、二ヶ月…と母を待ち、半年経ってとうとう母の死を知った。
理由は『悪い魔女』だったからと。
(村の人のいうことだ。本当かどうか……)
村から帰ってきた魔法使いは平静さを保とうとした。
しかし、乱雑に置かれたカゴと散らばった中身が魔法使いの平静であることを否定していた。
(訃報を知らせる手紙だって届いていない)
最近、届いた手紙の束を漁り、一つ一つ確認する。
もしかして、魔女の子供だからと関わりたくなくて手紙を届けなかったかもしれない。
魔法使いは事実を確かめたく、再び村へと戻る。
人目を避け、村長の家を訪ねた。
珍しくやってきた魔法使いに嫌な顔する村長であったが、他の村人に目撃されたくなかったのか家の中に入れた。
「お前の母親は、街で貴族相手にやらかしたみたいでさ。捕まって牢屋ン中で死んじまったのさ」
「い……いつ…ですか?」
「三ヶ月ぐらい前だったかなぁ……ッたく、アイツはまともに仕事できねぇーのか。知らせの手紙を送ったのによ」
「手紙……?」
村長がいうには、化け物に手紙を届けるよう頼んだらしい。
「あとはアイツに聞くんだな。魔法使いさんよ」
村長は「用は済んだだろう」と言い、家から魔法使いを追い出した。
魔法使いは、とぼとぼと森の方へと歩く。
なぜか道が歪んで見える。真っ直ぐ歩けているのか分からなかった。
何度か躓き、転び、泥で汚れながら家に辿り着く。
(嘘だ……嘘だと思いたい…………)
床の上にペタリと膝をつき、魔法使いは暗い表情をしたまましばらく動けなくなった。
まさかもう二度と帰ってこないとは誰が想像できたのだろうか。
一緒に街へ行けばよかった。そうすれば、ひとりにならなかった。
ただ母を見送ってしまったことを魔法使いは、激しく後悔した。
――コンコン。
背後で控えにドアがノックされる。
だけど、魔法使いの耳には届かない。たとえ気付いたとして振り返りはしなかった。
再びノック音が鳴り、ボソボソとドアの向こうで声がする。
会いたくなかったから返事しなかった。それでも、声を掛けてくる。
「帰ってください。貴方とは会いたくない」
魔法使いは応えれば、ピタリと音が止む。
「もうここに来ないでください」
「ドウシテ……」
「ずっと隠していたからです。母のことを――」
ドアの向こう側でハッと息を吞む気配がした。
「…………シッタンダネ」
『知った』という言葉で故意に手紙を隠したのだと分かり、振り返った。
もしや、母の帰りを待つ自分を嗤っていたのか?
怒りが湧き、鋭くなった眼で睨む。
「ゴメン、ゴメンネ」
どこか悲しそうな響きで化け物は謝ってくる。
「キズツケルツモリジャナカッタ……」
「なぜ……? なぜ手紙を……母の死を隠したのです?」
「ソレハ……」
「私を嘲笑いたかったのですか」
「チガッ……!カナシマセタク、ナカッタンダ。ヒトリ二ナル。トテモカナシイコトカラ…………」
化け物は、母の死をずっと隠せるとは思っていなかった。
だが、魔法使いに伝えなかったのは、家族の死という辛さを彼自身が身を以て知っているからだ。
家族を失った日から悲しみはまだ残っている。一生消えやしないだろう。
「ダケド……モットカナシマセテシマッタ。ボクハ、バカダ……ゴメン……」
「分かりました。ですが、しばらく一人にさせてほしい。今は誰とも会いたくないです」
哀れな魔法使いを嘲笑うためでないと分かり、少し怒りを鎮める。
だが、母の死を隠した化け物をすぐ許せそうになかった。心の整理が必要だった。
「…………ワカッタ」
一言だけそう言い残すと化け物は、魔法使いの家から去った。
ドアの前から人の気配が消え、魔法使いは静かに立ち上がり、窓から外を覗く。
静寂な木々が夜の星々を覆い隠す風景が見えるだけであった。
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