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美味しい食卓編
7胃痛
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倉沢とはあれ以来一緒に寝ていない。だからといって仲が悪いわけでもない。悪いのは節操がなかった僕の下半身だ。
オンオフの切替えが徹底してる倉沢は会社ではいつもどうりだ。それが余計につらい。でも倉沢に会えなくなる方がツライ……胃が痛い。
「安住さん。一階の受付にお客様がいらっしゃってるそうです」
「なんだろ?今日は来客予定はないはずなんだがな」
「では商談になるようでしたらこちらの応接室をお使いくださいね」
佐々木さんがにっこりと笑った。
「いやあ、安住さん。またお会いしましたね」
待っていたのは北島だった。やはり来たか。それも会社に堂々と。あぁ胃がキリキリする。
「僕がゲイであることはすでにカミングアウト済ですが」
「そのことについてはお調べしました」
調べただと?僕の周りを調査したっていうのか?
「今日は貴社がグリーンウォッシュ企業という証拠資料を持参した次第です」
証拠資料だと?どうする?倉沢は今早瀬と出かけているはず。
「今日は上司さん達は外回りらしいですね。私は穏便に事を済ませたいのですが……話だけでも聞いていただけますかね?」
くそ、倉沢たちがいないことを確認した上でやってきたという訳か。
「では応接室へどうぞ」
フロア階の応接室へ入ると北島が腕を掴んできた。
「結婚されたようですね?それも男性と」
「それがどうしたんですか?」
「どうせ身体目当てで若い男を選んだのでしょう?」
「はあ?何を言ってるんですか!」
「知ってますか? 世間って純愛には優しいのですが乱交や不倫には冷たいのですよ」
トントンとドアを叩く音と共に佐々木さんがお茶をもって入ってくるのが見えた。
「ふふ。こんな風にね……」
僕に小声で聞こえるように言うと北島が僕を抱き込んだのだが……。
ばっしゃ~んっ。いきなりの水音に驚く。
「何をするんだ!このスーツがいくらすると思ってんだ!」
どうやらお茶を北島の上着にかけてしまったようだ。僕にはトレイごと投げつけたように見えたが黙っておこう。
「まあまあどうもすみません」
ぞろぞろと女性社員が入ってくる。手にはタオルとおしぼりとドライヤー。あまりにもタイミングがよすぎるのでは?
「ささ。シミになってはいけません。ご安心くださいませ。私、クリーニング店の娘でしてシミ抜きは得意ですのよ」
女子社員の一人がすぐさま北島の上着を脱がせるとシミ抜きをやりだした。
「お、おい。なんなんだいったい」
「お客様、このスーツは某ブランドの春夏の新作スーツですね。とてもよくお似合いになってました」
「まあな。弁護士として恥ずかしくないような身だしなみを心がけているのだ」
「まあっ。弁護士さんでしたか」
僕はポカンとしたまま突っ立っていた。なんだこの状況?
「私は大事な話があってやってきたのだが、安住さんがどうしても二人きりになりたいと応接室まで連れて来られたのだよ」
「まあ、安住さんがどうしてもと応接室へ連れ込んだと言われるのですか?」
佐々木さんが怪訝な表情で問い詰める。
「違います!誤解です」
僕はすぐに訂正した。何を言い出すんだこの野郎!胃が更に痛み出す。
「わかっております。わが社の安住は誰にも優しく接しますので言われた相手が勘違いされたりするのです。こちらにお通しするようにお願いしたのは会社側なんですよ。おほほ。」
佐々木さんが怖い。目が笑っていない。彼女は二重で美人の部類に入るのだがこういうところは倉沢に似てる気がする。それに北島への扱いが客としての扱いではない。これってどういう事なんだろうか?
「うむむ。女性の君らには難しい話はわからないだろうからすぐに出て行ってくれないか」
「さようでございますか?しかし今のお言葉は聞き捨てなりませんわね。弁護士ともあろうお方が女性蔑視とはいかがなものでしょう」
「べ、別にそういうわけではない。言葉のあやだ」
「言葉のあや?つまりは本音におもっているところをつい言ってしまったのでは?……とまだまだ言いたいことはございますが、そろそろ時間になりましたので私たちは退散いたします」
「時間?」
女性社員がドアを開けるとそこには倉沢が立っていた。
「倉沢……」
「え? 何故だ。外回りのはずじゃ」
「ほぉ? 北島さん。何故それをご存じなのでしょうか?」
「受付で聞いたのだ。急いでいたのでこちらもアポイントが取れなかったのでね」
「そうでしたか。ではもうお会いできたのですから私も直接話を聞かせていただきましょう」
「そ、そうだな」
「北島さんはわが社のグリーンウォッシュの疑いの証拠を持参されたそうです」
「ははは。面白い事を言われる。是非みせてもらいたいですね」
倉沢の目が鋭く光る。口元は笑っているのに目が笑ってない。これはかなり怒っているぞ。
「笑っていられるのも今のうちですよ」
北島はカバンから数十枚の資料と商品を取り出す。
「ここに載っているようにこの商品は天然素材、またリサイクルで作られますが、つくる過程段階でかな~りのCO2を排出します。環境に大きな負担がかかる商品なのです。こんなのがエコなはずがないでしょう?」
「そのようですね」
「はっ。認めるんですか。公にされたくなかったら……」
「なかったら? どうされるのですか?」
「まずは500万円。それと安住さんを貸出て欲しいですね」
「安住をですか?」
「ええ。上司命令となれば安住さんも断れますまい。いや、ご主人にも言い訳が出来るんじゃないんですかね?」
「北島っ。お前ってやつは……」
「黙れ安住!」
ぐっと歯を食いしばる。倉沢?何を考えてるんだ?
「なるほど、北島さんの言い分はわかりました。商品に偽りあり。その内容を隠してやるから見返りを寄こせと言う事ですね」
「いかにも。さあどうなさいますか?」
「どうもしませんよ」
「……どうもしないとは?私の事を疑ってるのですね?これは正式に鑑定をうけたものです」
「へえ。でも、コレうちの商品じゃね~んだわ」
倉沢の口調が変わる。顎をあげ北島をねめつける表情にぞくっとした。綺麗な横顔に氷のような瞳。まるで女王様みたいだ。
「な!何を馬鹿な!ここに貴社の社名が載ってるではないか」
倉沢は商品を手に取ると社名を爪でゴシゴシと擦る。するとその下から別の名称が浮かび上がってきた。
「ど、どういうことだ?」
「ダミーでしょうね。うちの商品は海外でも人気が出てきてまして、こういうコピー商品や名をかたる商品が最近多いのですよ」
「……そ、そんな」
「おいおい、化けの皮が剥がれたんじゃねえのか?あんた弁護士資格はく奪されるよ?ちょうどこの部屋には防犯のためカメラが設置されてるしね。先ほどのは全部録音済だよ」
「な、なにをっ」
「俺さ、知り合いが刑事でね」
倉沢のその一言で北島の顔が蒼白になる。
「失敬な!貴社は客に対する態度がおかしい。私は帰らせてもらうぞ」
北島が慌てて席をたち、ドアから飛び出していった。
「はいご苦労様。皆ありがとうね」
倉沢がにっこりと女子社員たちにほほ笑んだ。今の顔佐々木さんと似てる。それに録画って?この部屋カメラがあったのか?
「倉沢は知ってたのか?」
あいつが脅しに来ることを。それも詐欺まがいな手口で。
「なんとなくな。でも今日来るとは思っていなかったさ」
「なんで教えてくれなかったんだ?」
「安住はすぐ顔に出るからな。それになんとなくだ。確信ではなかった」
「じゃあ、佐々木さんらは?」
「連絡をくれたのは彼女だ。安住に来客がきた。北島ではないかってさ。俺はすぐに帰ると告げると時間稼ぎいたしますと言ってくれた。ふはは。頼もしいぜ。俺の部署の女性社員はデキル人材だらけだ。ありがたい」
そういえば早瀬が僕たちの親衛隊がいるって言ってたな。僕らをみるのが日々の癒しになるとかなんとか。
「北島を探ってたら詐欺まがいなことをしてるって噂が耳に入ってさ。近いうちにここに来るだろうって思ってたんだ」
「今回の事で気づいたんだけど俺ってさ。どうやら嫉妬深いみたい」
「……へ?」
オンオフの切替えが徹底してる倉沢は会社ではいつもどうりだ。それが余計につらい。でも倉沢に会えなくなる方がツライ……胃が痛い。
「安住さん。一階の受付にお客様がいらっしゃってるそうです」
「なんだろ?今日は来客予定はないはずなんだがな」
「では商談になるようでしたらこちらの応接室をお使いくださいね」
佐々木さんがにっこりと笑った。
「いやあ、安住さん。またお会いしましたね」
待っていたのは北島だった。やはり来たか。それも会社に堂々と。あぁ胃がキリキリする。
「僕がゲイであることはすでにカミングアウト済ですが」
「そのことについてはお調べしました」
調べただと?僕の周りを調査したっていうのか?
「今日は貴社がグリーンウォッシュ企業という証拠資料を持参した次第です」
証拠資料だと?どうする?倉沢は今早瀬と出かけているはず。
「今日は上司さん達は外回りらしいですね。私は穏便に事を済ませたいのですが……話だけでも聞いていただけますかね?」
くそ、倉沢たちがいないことを確認した上でやってきたという訳か。
「では応接室へどうぞ」
フロア階の応接室へ入ると北島が腕を掴んできた。
「結婚されたようですね?それも男性と」
「それがどうしたんですか?」
「どうせ身体目当てで若い男を選んだのでしょう?」
「はあ?何を言ってるんですか!」
「知ってますか? 世間って純愛には優しいのですが乱交や不倫には冷たいのですよ」
トントンとドアを叩く音と共に佐々木さんがお茶をもって入ってくるのが見えた。
「ふふ。こんな風にね……」
僕に小声で聞こえるように言うと北島が僕を抱き込んだのだが……。
ばっしゃ~んっ。いきなりの水音に驚く。
「何をするんだ!このスーツがいくらすると思ってんだ!」
どうやらお茶を北島の上着にかけてしまったようだ。僕にはトレイごと投げつけたように見えたが黙っておこう。
「まあまあどうもすみません」
ぞろぞろと女性社員が入ってくる。手にはタオルとおしぼりとドライヤー。あまりにもタイミングがよすぎるのでは?
「ささ。シミになってはいけません。ご安心くださいませ。私、クリーニング店の娘でしてシミ抜きは得意ですのよ」
女子社員の一人がすぐさま北島の上着を脱がせるとシミ抜きをやりだした。
「お、おい。なんなんだいったい」
「お客様、このスーツは某ブランドの春夏の新作スーツですね。とてもよくお似合いになってました」
「まあな。弁護士として恥ずかしくないような身だしなみを心がけているのだ」
「まあっ。弁護士さんでしたか」
僕はポカンとしたまま突っ立っていた。なんだこの状況?
「私は大事な話があってやってきたのだが、安住さんがどうしても二人きりになりたいと応接室まで連れて来られたのだよ」
「まあ、安住さんがどうしてもと応接室へ連れ込んだと言われるのですか?」
佐々木さんが怪訝な表情で問い詰める。
「違います!誤解です」
僕はすぐに訂正した。何を言い出すんだこの野郎!胃が更に痛み出す。
「わかっております。わが社の安住は誰にも優しく接しますので言われた相手が勘違いされたりするのです。こちらにお通しするようにお願いしたのは会社側なんですよ。おほほ。」
佐々木さんが怖い。目が笑っていない。彼女は二重で美人の部類に入るのだがこういうところは倉沢に似てる気がする。それに北島への扱いが客としての扱いではない。これってどういう事なんだろうか?
「うむむ。女性の君らには難しい話はわからないだろうからすぐに出て行ってくれないか」
「さようでございますか?しかし今のお言葉は聞き捨てなりませんわね。弁護士ともあろうお方が女性蔑視とはいかがなものでしょう」
「べ、別にそういうわけではない。言葉のあやだ」
「言葉のあや?つまりは本音におもっているところをつい言ってしまったのでは?……とまだまだ言いたいことはございますが、そろそろ時間になりましたので私たちは退散いたします」
「時間?」
女性社員がドアを開けるとそこには倉沢が立っていた。
「倉沢……」
「え? 何故だ。外回りのはずじゃ」
「ほぉ? 北島さん。何故それをご存じなのでしょうか?」
「受付で聞いたのだ。急いでいたのでこちらもアポイントが取れなかったのでね」
「そうでしたか。ではもうお会いできたのですから私も直接話を聞かせていただきましょう」
「そ、そうだな」
「北島さんはわが社のグリーンウォッシュの疑いの証拠を持参されたそうです」
「ははは。面白い事を言われる。是非みせてもらいたいですね」
倉沢の目が鋭く光る。口元は笑っているのに目が笑ってない。これはかなり怒っているぞ。
「笑っていられるのも今のうちですよ」
北島はカバンから数十枚の資料と商品を取り出す。
「ここに載っているようにこの商品は天然素材、またリサイクルで作られますが、つくる過程段階でかな~りのCO2を排出します。環境に大きな負担がかかる商品なのです。こんなのがエコなはずがないでしょう?」
「そのようですね」
「はっ。認めるんですか。公にされたくなかったら……」
「なかったら? どうされるのですか?」
「まずは500万円。それと安住さんを貸出て欲しいですね」
「安住をですか?」
「ええ。上司命令となれば安住さんも断れますまい。いや、ご主人にも言い訳が出来るんじゃないんですかね?」
「北島っ。お前ってやつは……」
「黙れ安住!」
ぐっと歯を食いしばる。倉沢?何を考えてるんだ?
「なるほど、北島さんの言い分はわかりました。商品に偽りあり。その内容を隠してやるから見返りを寄こせと言う事ですね」
「いかにも。さあどうなさいますか?」
「どうもしませんよ」
「……どうもしないとは?私の事を疑ってるのですね?これは正式に鑑定をうけたものです」
「へえ。でも、コレうちの商品じゃね~んだわ」
倉沢の口調が変わる。顎をあげ北島をねめつける表情にぞくっとした。綺麗な横顔に氷のような瞳。まるで女王様みたいだ。
「な!何を馬鹿な!ここに貴社の社名が載ってるではないか」
倉沢は商品を手に取ると社名を爪でゴシゴシと擦る。するとその下から別の名称が浮かび上がってきた。
「ど、どういうことだ?」
「ダミーでしょうね。うちの商品は海外でも人気が出てきてまして、こういうコピー商品や名をかたる商品が最近多いのですよ」
「……そ、そんな」
「おいおい、化けの皮が剥がれたんじゃねえのか?あんた弁護士資格はく奪されるよ?ちょうどこの部屋には防犯のためカメラが設置されてるしね。先ほどのは全部録音済だよ」
「な、なにをっ」
「俺さ、知り合いが刑事でね」
倉沢のその一言で北島の顔が蒼白になる。
「失敬な!貴社は客に対する態度がおかしい。私は帰らせてもらうぞ」
北島が慌てて席をたち、ドアから飛び出していった。
「はいご苦労様。皆ありがとうね」
倉沢がにっこりと女子社員たちにほほ笑んだ。今の顔佐々木さんと似てる。それに録画って?この部屋カメラがあったのか?
「倉沢は知ってたのか?」
あいつが脅しに来ることを。それも詐欺まがいな手口で。
「なんとなくな。でも今日来るとは思っていなかったさ」
「なんで教えてくれなかったんだ?」
「安住はすぐ顔に出るからな。それになんとなくだ。確信ではなかった」
「じゃあ、佐々木さんらは?」
「連絡をくれたのは彼女だ。安住に来客がきた。北島ではないかってさ。俺はすぐに帰ると告げると時間稼ぎいたしますと言ってくれた。ふはは。頼もしいぜ。俺の部署の女性社員はデキル人材だらけだ。ありがたい」
そういえば早瀬が僕たちの親衛隊がいるって言ってたな。僕らをみるのが日々の癒しになるとかなんとか。
「北島を探ってたら詐欺まがいなことをしてるって噂が耳に入ってさ。近いうちにここに来るだろうって思ってたんだ」
「今回の事で気づいたんだけど俺ってさ。どうやら嫉妬深いみたい」
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