妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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「シャルロッテ、婚約を解消してほしい」

 婚約者である王にそう告げられたのは、前王の葬儀から間もないある日のことだった。
 しんと静まり返った議場に、数時間前に戴冠式を終え、王子から王になったばかりのクリストフェルの声が響いた。
 議場内がにわかにざわめき出す中、シャルロッテ・コルネリウスは妖精姫と呼ばれるほど美しい顔に少しの動揺も浮かべないまま、黙って王の言葉の続きを待った。

「先王ランヴァルドは、素晴らしい賢王だった。東方の大国オウカとの貿易を確立し、南方の軍国マールグリッドとの同盟にもこぎつけた。この同盟のおかげで、北方のスーシェンテからの脅威に対抗できるようになった。現在我がリーデルシュタイン王国が安定しているのも、先王ランヴァルドのたぐいまれなる知略のおかげだと思っている」
「確かに、王子の……いえ、王の言葉に異論はありません。ランヴァルド王なくして今のリーデルシュタインはありません。しかし、なぜ急にシャルロッテ様との婚約を解消することになるのでしょうか?」

 側近の一人がたまらずと言った様子で声を上げる。
 本来なら今日は、クリストフェルとシャルロッテの結婚式を一か月後に控え、王国中がお祝いのための準備に忙しいはずだった。
 一年前、シャルロッテが王立学校を卒業したのを機に、先王がクリストフェルと彼女の結婚式の日取りを発表したのだ。
 あの時は、国中が気の早いお祭り騒ぎになった。
 見目麗しく勇敢なクリストフェル王子と、飛び抜けて美しく可憐なシャルロッテ嬢は、お似合いのカップルだと国民からも人気だった。二人が並んでいる光景を見ただけで寿命が延びた、病気が治った、大金が入ったなどと言う眉唾物の噂ですら信じられているほどに。
 あの発表の日から半年あまり後、元々あまり丈夫でなかった先王が病に伏せ、闘病の末に帰らぬ人となり、これほど国中が悲しみに包まれるとは、誰もが思っていなかった。
 議場の間から見える窓の外では、半旗が悲しげに揺れている。今は国中が喪に服しており、向こう一カ月はこのままだ。

「本日は、結婚式の延期についての話し合いではなかったのですか? なぜいきなり婚約解消などという話になっているのです?」
「そもそも婚約破棄について、シャルロッテ嬢は知っておられたのですか?」

 視線を向けられたシャルロッテは、微塵も表情を変えないまま首を振った。

「私も初めて聞きました。理由を伺ってもよろしいですか?」

 か細いながらも凛と響く澄んだ声に、ざわめいていた声がさざ波のように静まっていく。
 クリストフェルは厳かに頷くと、口を開いた。
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