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「先ほどの続きになるが、先王は素晴らしい人だった。私では足元にも及ばないくらい。正直に言うと、先王の跡を継ぐのは荷が重い。力不足にもほどがある。それでも、私は王の血筋だ。この王国を治める義務がある」
先王ランヴァルドと王妃ヴィオレッタの間には、クリストフェルしか子供がいない。
ランヴァルド以上に体が弱く病弱だったヴィオレッタは、幼い頃から長くは生きられないと言われていた。子供は限りなく難しく、望めたとしても一人が限度だとの医者の見立てもあり、彼女と先王との婚約はかなりもめたと聞いている。
それでもランヴァルドが結婚を押し通したのは、穏やかで優しいヴオレッタの人柄に心底惚れていたからだと言う。彼女以外の人は考えられないと頑なだったランヴァルドの態度と、当時の王ヴィルヘルムの体調のこともあり、渋々周囲が折れる形で結婚が決まったのだ。
「私は、先王のように賢くはない。先王と同じように国を治めるのは難しいと思っている。しかし、国民のためにも安定した国の地位を維持していきたい。そのためには、私を支えてくれる優秀な王妃が必要だと思っている」
クリストフェルの翡翠色の瞳が、対面に座るシャルロッテに真っすぐ向けられる。
ほんの少しだけシャルロッテの頬がピクリと動いた気がしたが、クリストフェルにエスコートされて椅子に座ったときから、彼女の表情に変わりはない。妖精姫の名にふさわしい可憐さと華やかさをまとい、口元に薄っすら笑みを浮かべて王を見つめている。
「シャルロッテ、君は誰の目から見ても美しく、その場にいるだけで一輪の花が咲いたように周囲を明るくしてくれる。控えめで穏やかで、誰に対しても分け隔てなく優しい性格も好ましいと思う。君は文句なく、素晴らしい女性だ」
そこまで一息で言うと、クリストフェルは小さく息を吐いた。
誰かがゴクリとつばを飲み込んだ音が異様に大きく響く。針が落ちた音にすら驚いてしまいそうなほど、議場は静寂に満ちていた。
「しかし、私が今必要としているのは君ではないんだ、シャルロッテ」
シャルロッテが、透き通った空色の瞳を細める。プラチナブロンドの艶やかな髪を背に払い、考え込むように口元に指をあてた後で、にっこりと微笑んだ。
「つまり私は、王を支えるだけの力がないから王妃には相応しくないということですね? 私の能力が劣っているからと」
「違うんだシャルロッテ、君はそのままで十分素晴らしい女性なのだが、賢王亡き今の王国を支えるためには……」
「分かっていますよクリストフェル様……いえ、王様。私に気を使っていただかなくても結構です。どう言葉を繕ったところで、私には王妃は務まらないと判断したのですから。私は一伯爵令嬢として、王のお考えを尊重いたします」
周囲のざわめきが大きくなる。
シャルロッテは椅子を蹴って立ち上がると、恭しく頭を下げた。
「シャルロッテ・コルネリウスは、クリストフェル・リーデルシュタインとの婚約破棄を受け入れます」
思わず見惚れてしまうほどに美しいカーテシーに、周囲の反応がワンテンポ遅れる。
踵を返して去って行こうとするシャルロッテを、最初に我に返った王の付き人パーシヴァルが止める。
「お待ちくださいシャルロッテ様! 王に説明する時間をお与えください! 王は何も知らなかったのです! どうか、どうか一時の猶予を!」
先王ランヴァルドと王妃ヴィオレッタの間には、クリストフェルしか子供がいない。
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それでもランヴァルドが結婚を押し通したのは、穏やかで優しいヴオレッタの人柄に心底惚れていたからだと言う。彼女以外の人は考えられないと頑なだったランヴァルドの態度と、当時の王ヴィルヘルムの体調のこともあり、渋々周囲が折れる形で結婚が決まったのだ。
「私は、先王のように賢くはない。先王と同じように国を治めるのは難しいと思っている。しかし、国民のためにも安定した国の地位を維持していきたい。そのためには、私を支えてくれる優秀な王妃が必要だと思っている」
クリストフェルの翡翠色の瞳が、対面に座るシャルロッテに真っすぐ向けられる。
ほんの少しだけシャルロッテの頬がピクリと動いた気がしたが、クリストフェルにエスコートされて椅子に座ったときから、彼女の表情に変わりはない。妖精姫の名にふさわしい可憐さと華やかさをまとい、口元に薄っすら笑みを浮かべて王を見つめている。
「シャルロッテ、君は誰の目から見ても美しく、その場にいるだけで一輪の花が咲いたように周囲を明るくしてくれる。控えめで穏やかで、誰に対しても分け隔てなく優しい性格も好ましいと思う。君は文句なく、素晴らしい女性だ」
そこまで一息で言うと、クリストフェルは小さく息を吐いた。
誰かがゴクリとつばを飲み込んだ音が異様に大きく響く。針が落ちた音にすら驚いてしまいそうなほど、議場は静寂に満ちていた。
「しかし、私が今必要としているのは君ではないんだ、シャルロッテ」
シャルロッテが、透き通った空色の瞳を細める。プラチナブロンドの艶やかな髪を背に払い、考え込むように口元に指をあてた後で、にっこりと微笑んだ。
「つまり私は、王を支えるだけの力がないから王妃には相応しくないということですね? 私の能力が劣っているからと」
「違うんだシャルロッテ、君はそのままで十分素晴らしい女性なのだが、賢王亡き今の王国を支えるためには……」
「分かっていますよクリストフェル様……いえ、王様。私に気を使っていただかなくても結構です。どう言葉を繕ったところで、私には王妃は務まらないと判断したのですから。私は一伯爵令嬢として、王のお考えを尊重いたします」
周囲のざわめきが大きくなる。
シャルロッテは椅子を蹴って立ち上がると、恭しく頭を下げた。
「シャルロッテ・コルネリウスは、クリストフェル・リーデルシュタインとの婚約破棄を受け入れます」
思わず見惚れてしまうほどに美しいカーテシーに、周囲の反応がワンテンポ遅れる。
踵を返して去って行こうとするシャルロッテを、最初に我に返った王の付き人パーシヴァルが止める。
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