妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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「パーシヴァルたちが焦っていたのを見るに、王は今回の婚約破棄をお一人で考えて決断したのでしょう。……それほどまで強く、婚約を破棄したかったのよ……」

 所詮は親の決めた婚約者だったと言うことなのだろう。
 五歳の時から十三年間婚約者として過ごしてきても、クリストフェルがシャルロッテを愛することはなかった。その事実を突きつけられた今、やはり婚約破棄は撤回しますと言われても了承することは出来なかった。
 キュっと唇を噛み、シャルロッテは泣くまいと眉間に力を籠めると首を振った。

「ラート兄さまはヴァネッサさんを愛しているし、リーン兄さまだって、ヒルデちゃんを愛している。お父様もお母様を愛しているし、ランヴァルド王はヴィオレッタ王妃を心の底から愛していた。……私だって、愛してくれる人を見つけたい」
「シャルロッテちゃん……」

 ヴァネッサがたまらずと言った様子で、シャルロッテを抱き寄せる。豊満な胸がシャルロッテの顔を包み込み、ほんの少しパンの香りがする。
 パン屋を辞めた今でも、ヴァネッサは暇を見つけては自宅でパンを焼いていた。彼女の作るパンはふわふわでほのかに甘く、シャルロッテの大好物だった。

「絶対、絶対シャルロッテちゃんだけを愛してくれる人はいます! 私が絶対に見つけてみせます! だからシャルロッテちゃん、あんなポンコツ王子なんかのことで泣かないでくだざいぃぃぃぃっ」

 顔をくしゃくしゃにしながら、ブリュンヒルデがヴァネッサごとシャルロッテを抱きしめる。シャルロッテは彼女の目尻にたまった涙を人差し指の背で掬い取ると、ふわりと微笑んだ。

「泣いてるのはヒルデちゃんじゃない」
「だって……だって……シャルロッテちゃんが泣かないから……」

 ブリュンヒルデの形の良い鼻から水がしたたり落ち、リーンハルトは素早く胸元のハンカチを引き抜くと鼻を押さえた。感情の起伏が激しい彼女は、感極まると涙と共に鼻水を流す。彼女と夫婦になって一年、そろそろ扱いが手慣れてきた。

「……そうか、ロッテは王のことが……」

 コンラートが静かに呟く。
 ブリュンヒルデが鼻をかんだ直後で場が静まっていた時だったため、その声は声量以上によく響いた。

「あなた、考えていることを不用意に口に出したらいけないと、いつも言ってるでしょ?」

 普段とは違う、諫めるようなヴァネッサの強い口調に、コンラートはすぐに自身の無神経な発言を顧みるとシャルロッテに頭を下げた。

「良いのよ、ラート兄さま。十三年も婚約者だったんだから、情が移るのは当然でしょう? ……でも、クリストフェル王はそうではなかった。悲しいすれ違いが起きてしまったというだけだわ」

 気丈に微笑みながら、シャルロッテはそう言った後で「ただ」と続けた。

「ただ、お父様とお母様は失望なさるでしょうね」
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