妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

文字の大きさ
12 / 82

12

しおりを挟む
 シャルロッテよりも頭一つ分は小さいメイは、無邪気さが見え隠れする表情や、ふとした時に見せる子供っぽい仕草も相まって、一見すると王立学校に通いたての少女のようにも見える。しかし、品よく整った顔立ちや、楚々とした所作からは育ちの良さがうかがえるだけに、どことなくアンバランスで危うい印象を見る者に与えた。

 メイは、豪商の娘だった。彼女の家は爵位こそないものの、代々城下で手広く商売をしていたため裕福だった。しかし、決して幸せな家庭ではなかった。
 メイの母親は彼女を出産する際に死亡しており、父親は娘が成長するにつれてどう接して良いのか分からなくなった。家を空ける日が多くなり、結果としてメイの体調不良に気付くのが遅れてしまった。

 五歳のとき、メイは高熱により生死をさまよい、何とか一命をとりとめたものの声を失ってしまった。失声直後に迎え入れられた後妻との相性も悪く、栄養失調で落命寸前のところをコンラートとリーンハルトに助け出され、コルネリウス家に引き取られた。
 コルネリウス家で、メイは読み書きやメイドの仕事を教え込まれたのだが、どれもものにすることができなかった。幼い時の高熱による後遺症と酷い栄養失調によって脳にダメージを受けてしまったためだと、コルネリウス家の主治医は告げた。

 意思の疎通が難しいメイだったが、彼女には特別な才能があった。
 メイは、人の感情や体調にとても敏感だった。
 たとえ相手が必死に押し隠し、何でもないように振舞っていたとしても、メイの目は誤魔化せなかった。

 シャルロッテは、自身の不調や感情を隠すのが得意な子供だった。どれほど具合が悪くても、悲しくても辛くても、顔に出たことはなかった。
 口調や仕草にも出ないように細心の注意を払っていたのだが、ほんのわずかな違いに気づいてしまう人が二人だけいた。
 一人は、兄のリーンハルトだ。
 コンラートよりも細やかな気配りができ、少しばかり妹に向ける愛情が強い彼は、シャルロッテの視線一つで体調不良や感情の落ち込みに気づくことができた。
 もう一人は、クリストフェルの付き人、パーシヴァルだ。
 彼がなぜ、両親ですらも気づかないシャルロッテの些細な変化を敏感に察知できるのかは分からない。もしかしたら、王子の付き人として気を張る生活を続けた結果得た特殊能力なのかもしれない。
 しかし二人とも、ずっとシャルロッテのそばにいるわけではない。リーンハルトはその時は王立学校に通っていて家にはおらず、パーシヴァルは言わずもがなだ。
 そんな中で突如として現れたメイは、顔を合わせて早々にシャルロッテの体調不良を見抜くと、彼女の手を引っ張ってベッドに寝かせた。
 最初はメイの奇行に戸惑った周囲だったが、たまたまコルネリウス家に居合わせていたパーシヴァルがシャルロッテの発熱に気づいた。

 それ以降、どんなにメイの目を欺こうと装っても、彼女は絶対にシャルロッテの不調を見逃さなかった。体調不良のみならず、シャルロッテの悲しみや痛みも敏感に感じ取り、そっと寄り添ってくれた。
 メイは、シャルロッテが自分を偽ることなく接することができる、特別な人のうちの一人となったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...