妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 シルヴィは、彼女なりの基準で友人だと認定した者は全員愛称で呼んでいた。独特な愛称は、それが誰を指しているのか分からない場合が多いのだが、さすがに今回の二人はすぐに分かった。

「クリストフェルとパーシヴァルが? 何故……? メイはどうしたのよ!」

 驚いた表情でハイデマリーが立ち上がる。

「わ、わかんないけど、メイメイはちょっと前に他のメイドさんに呼ばれてどこかに行っちゃって……。ハイディとシャルの話も終わっただろうから戻ろっかってクララが言ったときに玄関からクリスとヴァルが現れて……」

 クラリッサはハイデマリーがシャルロッテに話したいことがあると分かっており、あえてシルヴィと共に部屋から出て行ったようだ。控えめであまり積極的に発言をしない彼女だが、こう言ったさりげない気の配り方が上手だった。

「メイさんには、丁度お客さんが来ていたんですよ」

 穏やかな口調が廊下から聞こえてくる。ゆったりとした動作で姿を現したパーシヴァルが、優雅に頭を下げる。

「……ヘクターね」
「はい。途中で偶然出会い、コルネリウス邸まで同行しました」
「偶然、ね」

 偶然とは名ばかりで、仕組まれたことなのだろう。強固なメイのガードを破るために、ヘクターを使ったのだ。

「ヘクター? 聞いたことのない名前ね」

 ハイデマリーが思案顔で上空に視線を向ける。記憶の中からヘクターなる人物を思い出そうとしているようだが、いくら考えても思い浮かばないだろう。彼女がヘクターの名前を聞くのは今日が初めてのはずだ。

「メイの弟よ」
「メイメイ、弟がいたの?」
「えぇ。弟と言っても、血のつながりはないし同い年だけれど」

 ヘクターは、後妻の連れ子だった。派手好きでわがままなお嬢様がそのまま成長したかのような後妻の子供とは思えないほど、優しく穏やかで実直な少年だった。
 栄養失調で日に日に衰弱していくメイを前に、コンラートとリーンハルトに助けを求めたのは彼だった。本来であれば、幼いヘクターもコルネリウス家に引き取られるはずだったのだが、彼は頑なに両親の元を離れなかった。
 幼心に、このまま自分がコルネリウス家に行ってしまえば両親にどのような処罰が下るか分からないと思っていたのかもしれない。
 財産を没収され没落した後も、しばらくの間後妻はメイの父親の元にいたらしいが、すぐにその美貌を活かして他に良い人を見つけて出て行ったと聞く。その際、ヘクターは一緒に連れて行かなかったようだ。子供がいては、都合の悪いことがあったのだろう。
 母親が王国を後にしたと聞いてすぐに、アルベルトはヘクターをコルネリウス家に呼び寄せようとしたのだが、いずれは商人として身を立てたいとの希望で、商家に住み込んで修業をすることを選んだ。今は独り立ちをして、世界各地を転々としながら行商をしている。
 年に数回、リーデルシュタインに戻ってきた時は必ずメイの顔を見にコルネリウス邸を訪れている。本来であれば、それがいつになるのかは直前にならないと分からないはずなのだが、リーデルシュタイン王の権力を使えば、一介の行商の日程を変えることなど造作もないだろう。

「それにしても、お茶会の席に急に現れる、無作法にもほどがあるんじゃなくって?」
「もちろん、お約束を取り付けた後で伺おうとしていたのですが、“なーぜーか”お約束すらさせていただけない状況でして」

 何故かの部分を強調して、わざとらしくパーシヴァルが苦悩の表情を浮かべる。

「その対応で、普通は来るなの意味だと分かりそうなものだけれども」
「いえいえ、シャルロッテ様ご本人のお言葉を我々が推察して勝手に決めつけてしまうのもいかがなものかと思いまして」

 顔だけはにこやかに微笑んでいるハイデマリーとパーシヴァルだったが、両者の間には青白い火花が散っているように見える。
 幼い時からこの二人は馬が合わないらしく、犬猿の仲だった。
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