28 / 82
28
しおりを挟む
シルヴィは、彼女なりの基準で友人だと認定した者は全員愛称で呼んでいた。独特な愛称は、それが誰を指しているのか分からない場合が多いのだが、さすがに今回の二人はすぐに分かった。
「クリストフェルとパーシヴァルが? 何故……? メイはどうしたのよ!」
驚いた表情でハイデマリーが立ち上がる。
「わ、わかんないけど、メイメイはちょっと前に他のメイドさんに呼ばれてどこかに行っちゃって……。ハイディとシャルの話も終わっただろうから戻ろっかってクララが言ったときに玄関からクリスとヴァルが現れて……」
クラリッサはハイデマリーがシャルロッテに話したいことがあると分かっており、あえてシルヴィと共に部屋から出て行ったようだ。控えめであまり積極的に発言をしない彼女だが、こう言ったさりげない気の配り方が上手だった。
「メイさんには、丁度お客さんが来ていたんですよ」
穏やかな口調が廊下から聞こえてくる。ゆったりとした動作で姿を現したパーシヴァルが、優雅に頭を下げる。
「……ヘクターね」
「はい。途中で偶然出会い、コルネリウス邸まで同行しました」
「偶然、ね」
偶然とは名ばかりで、仕組まれたことなのだろう。強固なメイのガードを破るために、ヘクターを使ったのだ。
「ヘクター? 聞いたことのない名前ね」
ハイデマリーが思案顔で上空に視線を向ける。記憶の中からヘクターなる人物を思い出そうとしているようだが、いくら考えても思い浮かばないだろう。彼女がヘクターの名前を聞くのは今日が初めてのはずだ。
「メイの弟よ」
「メイメイ、弟がいたの?」
「えぇ。弟と言っても、血のつながりはないし同い年だけれど」
ヘクターは、後妻の連れ子だった。派手好きでわがままなお嬢様がそのまま成長したかのような後妻の子供とは思えないほど、優しく穏やかで実直な少年だった。
栄養失調で日に日に衰弱していくメイを前に、コンラートとリーンハルトに助けを求めたのは彼だった。本来であれば、幼いヘクターもコルネリウス家に引き取られるはずだったのだが、彼は頑なに両親の元を離れなかった。
幼心に、このまま自分がコルネリウス家に行ってしまえば両親にどのような処罰が下るか分からないと思っていたのかもしれない。
財産を没収され没落した後も、しばらくの間後妻はメイの父親の元にいたらしいが、すぐにその美貌を活かして他に良い人を見つけて出て行ったと聞く。その際、ヘクターは一緒に連れて行かなかったようだ。子供がいては、都合の悪いことがあったのだろう。
母親が王国を後にしたと聞いてすぐに、アルベルトはヘクターをコルネリウス家に呼び寄せようとしたのだが、いずれは商人として身を立てたいとの希望で、商家に住み込んで修業をすることを選んだ。今は独り立ちをして、世界各地を転々としながら行商をしている。
年に数回、リーデルシュタインに戻ってきた時は必ずメイの顔を見にコルネリウス邸を訪れている。本来であれば、それがいつになるのかは直前にならないと分からないはずなのだが、リーデルシュタイン王の権力を使えば、一介の行商の日程を変えることなど造作もないだろう。
「それにしても、お茶会の席に急に現れる、無作法にもほどがあるんじゃなくって?」
「もちろん、お約束を取り付けた後で伺おうとしていたのですが、“なーぜーか”お約束すらさせていただけない状況でして」
何故かの部分を強調して、わざとらしくパーシヴァルが苦悩の表情を浮かべる。
「その対応で、普通は来るなの意味だと分かりそうなものだけれども」
「いえいえ、シャルロッテ様ご本人のお言葉を我々が推察して勝手に決めつけてしまうのもいかがなものかと思いまして」
顔だけはにこやかに微笑んでいるハイデマリーとパーシヴァルだったが、両者の間には青白い火花が散っているように見える。
幼い時からこの二人は馬が合わないらしく、犬猿の仲だった。
「クリストフェルとパーシヴァルが? 何故……? メイはどうしたのよ!」
驚いた表情でハイデマリーが立ち上がる。
「わ、わかんないけど、メイメイはちょっと前に他のメイドさんに呼ばれてどこかに行っちゃって……。ハイディとシャルの話も終わっただろうから戻ろっかってクララが言ったときに玄関からクリスとヴァルが現れて……」
クラリッサはハイデマリーがシャルロッテに話したいことがあると分かっており、あえてシルヴィと共に部屋から出て行ったようだ。控えめであまり積極的に発言をしない彼女だが、こう言ったさりげない気の配り方が上手だった。
「メイさんには、丁度お客さんが来ていたんですよ」
穏やかな口調が廊下から聞こえてくる。ゆったりとした動作で姿を現したパーシヴァルが、優雅に頭を下げる。
「……ヘクターね」
「はい。途中で偶然出会い、コルネリウス邸まで同行しました」
「偶然、ね」
偶然とは名ばかりで、仕組まれたことなのだろう。強固なメイのガードを破るために、ヘクターを使ったのだ。
「ヘクター? 聞いたことのない名前ね」
ハイデマリーが思案顔で上空に視線を向ける。記憶の中からヘクターなる人物を思い出そうとしているようだが、いくら考えても思い浮かばないだろう。彼女がヘクターの名前を聞くのは今日が初めてのはずだ。
「メイの弟よ」
「メイメイ、弟がいたの?」
「えぇ。弟と言っても、血のつながりはないし同い年だけれど」
ヘクターは、後妻の連れ子だった。派手好きでわがままなお嬢様がそのまま成長したかのような後妻の子供とは思えないほど、優しく穏やかで実直な少年だった。
栄養失調で日に日に衰弱していくメイを前に、コンラートとリーンハルトに助けを求めたのは彼だった。本来であれば、幼いヘクターもコルネリウス家に引き取られるはずだったのだが、彼は頑なに両親の元を離れなかった。
幼心に、このまま自分がコルネリウス家に行ってしまえば両親にどのような処罰が下るか分からないと思っていたのかもしれない。
財産を没収され没落した後も、しばらくの間後妻はメイの父親の元にいたらしいが、すぐにその美貌を活かして他に良い人を見つけて出て行ったと聞く。その際、ヘクターは一緒に連れて行かなかったようだ。子供がいては、都合の悪いことがあったのだろう。
母親が王国を後にしたと聞いてすぐに、アルベルトはヘクターをコルネリウス家に呼び寄せようとしたのだが、いずれは商人として身を立てたいとの希望で、商家に住み込んで修業をすることを選んだ。今は独り立ちをして、世界各地を転々としながら行商をしている。
年に数回、リーデルシュタインに戻ってきた時は必ずメイの顔を見にコルネリウス邸を訪れている。本来であれば、それがいつになるのかは直前にならないと分からないはずなのだが、リーデルシュタイン王の権力を使えば、一介の行商の日程を変えることなど造作もないだろう。
「それにしても、お茶会の席に急に現れる、無作法にもほどがあるんじゃなくって?」
「もちろん、お約束を取り付けた後で伺おうとしていたのですが、“なーぜーか”お約束すらさせていただけない状況でして」
何故かの部分を強調して、わざとらしくパーシヴァルが苦悩の表情を浮かべる。
「その対応で、普通は来るなの意味だと分かりそうなものだけれども」
「いえいえ、シャルロッテ様ご本人のお言葉を我々が推察して勝手に決めつけてしまうのもいかがなものかと思いまして」
顔だけはにこやかに微笑んでいるハイデマリーとパーシヴァルだったが、両者の間には青白い火花が散っているように見える。
幼い時からこの二人は馬が合わないらしく、犬猿の仲だった。
0
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる