妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 ハイデマリーは、慎重に言葉を選んでいるようだった。頼りなげに視線が揺れるが、決してシャルロッテと目を合わせようとはしない。
 単純に双子たちがどんな反応をしたのか知りたいだけなら、こんな顔はしないだろう。
 一瞬考えこむように目を伏せたシャルロッテだったが、すぐにハイデマリーの不安の元を悟るとふっと口元を緩めた。

「ラート兄さまは間違ったことをしないよう、マンフレットに監視を頼んだから大丈夫よ。リーン兄さまは、ヒルデちゃんがついているから心配はないわ」

 安心した? そんな気持ちを込めてハイデマリーを見つめれば、嬉しそうな表情で顔を上げた彼女が、すぐに眉根を寄せて表情を取り繕ったのが分かった。

「まあ、シャルロッテなら当然対策しているとは思ったけれどね」
「だから、アーチボルトさんと敵対するようなことはないわ」
「べ、別に、兄のことは関係ないでしょう!」

 顔を真っ赤にしてそっぽを向くハイデマリーの横顔が、心なしか幼く見える。
 彼女の二つ上の兄、アーチボルトは王都騎士団に属していた。ハイデマリーとは違い、気弱で物腰の柔らかい青年だが、妹に似て真面目で頑固な一面もあった。万が一コンラート率いる北方騎士団とリーンハルト率いる南方騎士団が王都へと進軍した場合、アーチボルトは王都騎士団として戦い続けるだろう。あまり荒事が得意ではない彼が、数でも質でも劣る王都騎士団で戦い、最後まで無事でいられるとは思えない。
 普段はアーチボルトを気弱で頼りないと評し、コンラートやリーンハルトのような頼りがいのある兄が良かったと嘯くハイデマリーだったが、誰よりもアーチボルトのことを大切に思っていた。

「大体ねえ、うちはどこぞの伯爵家とは違って、兄妹関係は適度な距離にあるの! わたくしも兄も良い歳なんだから、互いのことには干渉しないようにしているのよ! 例え何があったとしても、兄は自分で何とかするでしょうし、わたくしだって自分で何とかするわ。つまり、わたくしが兄を心配しているなんて、シャルロッテの妄想でしかないのよ!」
「そうね、マリーがそう言うのなら、そうなんでしょうね」
「シルヴィのマネしないのっ!」

 ぷんぷんと怒りながら、いかにシャルロッテの認識が間違っているのかを熱弁するハイデマリーだったが、怒られている本人は右から左に聞き流していた。
 ハイデマリーとシャルロッテの付き合いは長い。ハイデマリーがシャルロッテの嘘を見抜くことが出来るように、シャルロッテもまた、ハイデマリーの虚勢を見破ることが出来た。
 口では何と言っていようとも、ハイデマリーとアーチボルトとの間には確かな兄妹愛があった。

「まったく、久しぶりにこんなに長く話したから疲れたわ」
「この間のパーティーで、クリストフェル様の恥ずかしい昔話を語ったばかりでしょう?」
「否定はしないけど、こんなに長く喋り続けてはないわよ。他のご令嬢がいるのに、一人で話し続けるなんて、はしたないじゃない」
「私の前では話し続けるのに?」
「シャルロッテとシルヴィは別よ。あなたたちの前では、遠慮はしないことにしてるのよ。もちろん、クラリッサの前でもね」

 ハイデマリーは真面目で心優しい少女だが、その姿に気づく者はごく少数だ。勝ち気で高飛車とも取れる態度に、距離を置いてしまう者のほうが多い。
 守銭奴で悪名高いロックウェル家に生まれ、気弱な兄を持つ彼女は、無理な虚勢を張ってでも強くならざるを得なかった。あの子爵の元に生まれながら、兄妹共に真っすぐに育ったのは、放任主義でほとんど育児に関わらなかった両親にかわり、優しくも厳しい乳母が愛情をこめて育て上げたからだろう。
 その乳母も数年前に他界している。現在ハイデマリーが安心して心を許すことが出来るのは、ごく少数の友人と遠方に住む母方の叔母だけだった。

「いまさら遠慮されても、困ってしまうけれどね。口数の少ないマリーなんて、マリーじゃないわ」

 シャルロッテの軽口にハイデマリーが反論しようとしたとき、廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。何事かと見つめる先で扉が勢い良く開き、シルヴィが焦った様子で駆け込んでくる。

「た、大変だよ大変だよ!」
「どうしたの?」
「今……クリスとヴァルが来てるの……!」
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