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今日もハイデマリーは、綺麗な髪をハーフアップにしている。まだ喪が明けていないためバレッタはシンプルな単色で、服も落ち着いた色合いのものだが、一目で上質だと分かるドレスは彼女の美しさを十二分に引き立てていた。
「シャル、大丈夫?」
ハイデマリーは、真剣な話があるときだけシャルロッテを愛称で呼んだ。いつもの勝ち気な口調が和らぎ、ふわりと心地よい声色は耳障りが良かった。
「だいじょう……」
「ま、どうせあなたは大丈夫って言うでしょうから、愚問だったわね」
シャルロッテの返事をさえぎって、ハイデマリーが苦笑しながら言葉を続ける。
「婚約破棄の件は、今はまだ大きな話題にはなっていないけれど、噂程度には広まっているわ。ある程度の貴族なら、真実だと知っているくらいにはね」
「人の口に戸は立てられないから、仕方ないわね」
「シャルを引き留めたい勢力が多数のようだけど、ここにはまだ来てないのかしら?」
「来てるみたいだけど、メイが追い返してるのよ」
「あぁ、なるほど……」
そこで言葉を切ると、ハイデマリーはクスクスと楽し気な笑い声をあげた。
「メイがダメって言っているのなら、ダメよね。シャルのことに関しては、あの子の意見は絶対だから」
ハイデマリーの指が、テーブルに広げられたお菓子へと伸びる。定番の焼き菓子から、見たこともないお菓子まで、ブリュンヒルデが張り切って作り上げたものが所狭しと並んでいた。
中央に置かれた籐の籠にはパンがぎっしりと詰められ、甘い香りを漂わせている。こちらはヴァネッサが焼いてきたもので、彼女もまたブリュンヒルデと同様に張り切りすぎたらしく、かなりの量が届けられていた。
「新しいお相手の話は出ていないの?」
シャルロッテの問いに、さんざん悩んで焼き菓子を一つ取ったハイデマリーが、口元に持っていきかけていた手を下ろす。
「私が知る限りでは、誰かの名前が挙がっていると言うようなことはないわ。……むしろ私は、どんな名前が挙がるのか興味があるわね」
ハイデマリーの目に、意地の悪い笑みが浮かぶ。魅力的なアンバーの瞳が、妖しく光り輝いたように見えた。
「シャルよりも優秀だなんて言い出す下品な家のはしたない令嬢がいるのなら、ぜひお会いしたいものね」
「マリー」
やや棘のある声で、ハイデマリーをたしなめる。ハイデマリーは「冗談よ」と、軽く肩をすくめると焼き菓子を一口齧った。
「やっぱり、ブリュンヒルデのお菓子は絶品ね。もちろん、ヴァネッサのパンも美味しいけれど」
「どっちもたくさんあるから、持って帰って」
「喜んで」
噛みしめるように焼き菓子を咀嚼する。その口の動きは普段よりも緩慢で、考え込むように伏せられた目は、テーブルの一点を見つめている。視線の先を辿っても、何もない。
何か言いづらいことを言わなければいけないとき、ハイデマリーはこうやって視線を逸らす癖があった。
「ところで……コンラートとリーンハルトは今回の件について、どう言っているのかしら?」
「シャル、大丈夫?」
ハイデマリーは、真剣な話があるときだけシャルロッテを愛称で呼んだ。いつもの勝ち気な口調が和らぎ、ふわりと心地よい声色は耳障りが良かった。
「だいじょう……」
「ま、どうせあなたは大丈夫って言うでしょうから、愚問だったわね」
シャルロッテの返事をさえぎって、ハイデマリーが苦笑しながら言葉を続ける。
「婚約破棄の件は、今はまだ大きな話題にはなっていないけれど、噂程度には広まっているわ。ある程度の貴族なら、真実だと知っているくらいにはね」
「人の口に戸は立てられないから、仕方ないわね」
「シャルを引き留めたい勢力が多数のようだけど、ここにはまだ来てないのかしら?」
「来てるみたいだけど、メイが追い返してるのよ」
「あぁ、なるほど……」
そこで言葉を切ると、ハイデマリーはクスクスと楽し気な笑い声をあげた。
「メイがダメって言っているのなら、ダメよね。シャルのことに関しては、あの子の意見は絶対だから」
ハイデマリーの指が、テーブルに広げられたお菓子へと伸びる。定番の焼き菓子から、見たこともないお菓子まで、ブリュンヒルデが張り切って作り上げたものが所狭しと並んでいた。
中央に置かれた籐の籠にはパンがぎっしりと詰められ、甘い香りを漂わせている。こちらはヴァネッサが焼いてきたもので、彼女もまたブリュンヒルデと同様に張り切りすぎたらしく、かなりの量が届けられていた。
「新しいお相手の話は出ていないの?」
シャルロッテの問いに、さんざん悩んで焼き菓子を一つ取ったハイデマリーが、口元に持っていきかけていた手を下ろす。
「私が知る限りでは、誰かの名前が挙がっていると言うようなことはないわ。……むしろ私は、どんな名前が挙がるのか興味があるわね」
ハイデマリーの目に、意地の悪い笑みが浮かぶ。魅力的なアンバーの瞳が、妖しく光り輝いたように見えた。
「シャルよりも優秀だなんて言い出す下品な家のはしたない令嬢がいるのなら、ぜひお会いしたいものね」
「マリー」
やや棘のある声で、ハイデマリーをたしなめる。ハイデマリーは「冗談よ」と、軽く肩をすくめると焼き菓子を一口齧った。
「やっぱり、ブリュンヒルデのお菓子は絶品ね。もちろん、ヴァネッサのパンも美味しいけれど」
「どっちもたくさんあるから、持って帰って」
「喜んで」
噛みしめるように焼き菓子を咀嚼する。その口の動きは普段よりも緩慢で、考え込むように伏せられた目は、テーブルの一点を見つめている。視線の先を辿っても、何もない。
何か言いづらいことを言わなければいけないとき、ハイデマリーはこうやって視線を逸らす癖があった。
「ところで……コンラートとリーンハルトは今回の件について、どう言っているのかしら?」
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