妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

文字の大きさ
25 / 82

25

しおりを挟む
 シルヴィなりの精一杯の慰めに、シャルロッテがお礼を言おうとするが、ハイデマリーが口を開くほうが速かった。

「あんまりうまい例えじゃないわね、それ。だってシャルロッテは今もなお雷龍桃なんですから。今回は、雷龍桃の美味しさを理解できない味覚音痴がいたってだけよ」

 ふんと鼻で笑ってから、ハイデマリーは勝気な瞳でシャルロッテを見据えた。

「どんなに素晴らしく価値のあるモノでも、正しく評価できない人間が見たら、ただのモノになるのよ。わたくしは、素晴らしいモノだけでなく、それを見極められる人間も等しく素晴らしいと常々思っているのよ。……つまり、シャルロッテが素晴らしいと認めているわたくしも、同じくらい素晴らしいってことよ!」

 右手の甲を左頬にあて高笑いをするハイデマリーを、シルヴィが残念な人を見る目で見つめている。

「ソウダネ、ハイディがそう言うんなら、そうなんダロウネ」
「なんでそんな棒読みなのよ」
「ハイディって、普段は賢いのにたまに頭のネジが外れるよね」
「外れてないわよ。なに勝手に外してるのよ。元に戻しなさいよ」

 ギャンギャンと言い争う二人を見て、それまで静かに絵を描いていたクラリッサが小さな笑い声をあげる。シャルロッテが予想していた通り、クラリッサは嫌な顔一つせずに新しいカードの作成を引き受けてくれた。

「全く、クラリッサにまで笑われたじゃないの! それもこれも、クリストフェルが悪いわ! ……まぁ、この間のパーティーでの件もあるし、しばらくは大目に見てあげるけれど」
「なにかあったの?」

 シャルロッテの問いに、ハイデマリーは肩をすくめると「大したことじゃないのだけれどね」と前置きしてから話し始めた。

「お父様の仕事の関係で、ちょっとした集まりがあったの。わたくしはご令嬢がたのお相手をしたんだけれど、昔話に花が咲いてね。ついつい、クリストフェルがうちの庭で迷子になって、番犬に追われて大泣きした話をしたのよ」

 ほんの少しばかり口が滑ってしまったのと、悪びれもせずに言い放つ。

「あっ! それ、あたしも聞いたよ! ハイディが噂の大元だったのかあ。……ズボン噛まれて脱げて、お尻丸出しのまま号泣してたんでしょ?」
「あら? そこまで細かく言ってたかしら?」

 すました顔で驚いたように目を見開いているが、ハイデマリーのことだ、絶対に事細かに話したのだろう。

「王様にもそんな愛らしい時があったんですねって言われたから、クリスがうちに泊まった時におねしょして大泣きした話もしておいたよ」

 補足情報としてねと小声で付け加えているが、そこには少なからずシルヴィなりの悪意があったのだろう。
 幼馴染として、シャルロッテとクリストフェルのことを応援してきた二人としては、この度の突然の婚約破棄の宣言は寝耳に水だった。しかもその理由が、シャルロッテの能力不足だと言うのだから。

「もう、二人とも……クリストフェル君が可哀想だよ」

 クラリッサが柔らかな声音で二人をたしなめる。この場で唯一のクリストフェルの味方かと思いきや、彼女もまた、この度の婚約破棄には多少の苛立ちを感じていたようだった。

「せめて、歩くたびに脛をぶつけますようにとか、動くたびに肘をぶつけますようにって願うくらいにしとかないと」

 ニッコリと穏やかに微笑んでいるクラリッサだったが、見ていると何故か薄ら寒く感じる。普段は能力を封じるネックレス型の鎖以外、魔女らしいところのない彼女だったが、今ばかりは全身から魔力がにじみ出ているように見えた。

「カード描き終わったから、メイちゃんに渡してきても良い?」
「メイをここに呼びましょうか?」
「何かお仕事してるだろうし、中断させちゃうのも悪いから私から行くよ。シルヴィちゃんもついて来てくれない?」

 シルヴィの返答を待たずに、クラリッサが腕を引っ張って部屋の外へと連れて行く。シルヴィも特に嫌がるそぶりもなく、仲良く並んで部屋を後にした。

 軽やかな足音が十分に遠ざかったのを確認してから、ハイデマリーが深くため息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...