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南方国マールグリッドは、大小さまざまな首長国からなる連邦国家だ。現在権力を握っているのは穏健派の首長カシミロ・モリエンテスが率いる国のため、マールグリッド全体が平和的な政策をとっている。リーデルシュタインと同盟を結んだのも、カシミロが強硬派の首長を追いやったために実現できた。
カシミロが権力を握るためにシャルロッテも少々手を貸したのだが、歴史の表舞台には出ることのない話だ。彼が権力者の座に収まり続ける限りは、リーデルシュタインとの同盟も機能するだろう。
しかし依然として、カシミロの周囲には不穏な影が見え隠れしている。マールグリッドが強硬政策をとっていたほうが都合の良い人物や国の存在があるのだ。
首長が代われば政策も変わる国は信用度が高いとは言えないため、オウカもマールグリッドとの貿易には積極的ではない。マールグリッドも不平等な条約を突きつけられている関係上、オウカとの関係は希薄だ。
二国間の貿易品は、数種の穀物と工芸品に限られていた。
「マールグリッドでは、苦みと酸味の強い果物から作るソースをかけて食べる郷土料理があるんだ。何て名前だったのか忘れたけど、数年前に友達になったマールグリッドの料理人の子に教えてもらったんだ。……まあ、結構……なんて言うか、独特な味、なんだけどね」
シルヴィの表情から、彼女の舌には合わなかったことがうかがい知れた。変わった料理でも果敢に挑戦し、比較的なんでも美味しく食べることのできる彼女にしては珍しいことだった。彼女の中に流れる南方の血も、味方はしてくれなかったようだ。
普段は捨てている泥桃を引き取ってくれると言うのなら、オウカも無茶な要求はしないだろう。そこから二国間の緊張が和らぎ、友好関係を築いてくれたらリーデルシュタインとしても有難い。
オウカは絶対王政の国で、王が黒だと言えば白い物でも黒くなる。国内に、王に異を唱えられる者はいない。現王が即位する際、反対を口にする可能性のある者はすべて消えてしまったからだ。
幸いなことに、現オウカ王とリーデルシュタイン王国との仲は非常に良好だ。オウカとマールグリッドとの関係が深まれば、マールグリッドの強硬派が暗躍しても、事前に兆候を知ることが出来る。監視の目は、多いに越したことはないのだ。
シャルロッテがそんなことを考えていると、シルヴィが金色の瞳を輝かせながら両手を広げた。
「マールグリッドは美食の国でもあるから、珍しい食材は喜ばれるんだよ! つまり、マールグリッドは幸せ、オウカは売れない雷龍桃を売れて幸せ、オウカの商人はシャリーに感謝するだろうから、シャリーも幸せ! みーんな幸せになれるね!」
他意のないキラキラとした笑顔に、シャルロッテは我に返った。
つい癖で色々なことを考えてしまっていたが、もう王国の行く末についてあれこれと考えを巡らせないでも良いのだ。伯爵令嬢として、身分相応のことだけを考えれば良い。例えば社交界のことや、そこに着ていくドレスのことなど。
「なんだかそれ、幸せの程度にばらつきがない? オウカが一番得してるじゃない」
ハイデマリーの冷めた言葉に、シルヴィが不満げに唇をすぼめながら反論する。
「幸せに、損も得もないよ! 幸せって言うのは、誰かと比べるものじゃないし、そもそも比べちゃいけないものだと思うよ。だってそうじゃないと、一番幸せな人以外はみんな不幸じゃん」
シルヴィはそう言って立ち上がると、シャルロッテの隣に立ちそっと背中に手を当てた。
「誰かがいらないって言ったものでもさ、誰かにとっては必要なものなんだよ、きっと」
カシミロが権力を握るためにシャルロッテも少々手を貸したのだが、歴史の表舞台には出ることのない話だ。彼が権力者の座に収まり続ける限りは、リーデルシュタインとの同盟も機能するだろう。
しかし依然として、カシミロの周囲には不穏な影が見え隠れしている。マールグリッドが強硬政策をとっていたほうが都合の良い人物や国の存在があるのだ。
首長が代われば政策も変わる国は信用度が高いとは言えないため、オウカもマールグリッドとの貿易には積極的ではない。マールグリッドも不平等な条約を突きつけられている関係上、オウカとの関係は希薄だ。
二国間の貿易品は、数種の穀物と工芸品に限られていた。
「マールグリッドでは、苦みと酸味の強い果物から作るソースをかけて食べる郷土料理があるんだ。何て名前だったのか忘れたけど、数年前に友達になったマールグリッドの料理人の子に教えてもらったんだ。……まあ、結構……なんて言うか、独特な味、なんだけどね」
シルヴィの表情から、彼女の舌には合わなかったことがうかがい知れた。変わった料理でも果敢に挑戦し、比較的なんでも美味しく食べることのできる彼女にしては珍しいことだった。彼女の中に流れる南方の血も、味方はしてくれなかったようだ。
普段は捨てている泥桃を引き取ってくれると言うのなら、オウカも無茶な要求はしないだろう。そこから二国間の緊張が和らぎ、友好関係を築いてくれたらリーデルシュタインとしても有難い。
オウカは絶対王政の国で、王が黒だと言えば白い物でも黒くなる。国内に、王に異を唱えられる者はいない。現王が即位する際、反対を口にする可能性のある者はすべて消えてしまったからだ。
幸いなことに、現オウカ王とリーデルシュタイン王国との仲は非常に良好だ。オウカとマールグリッドとの関係が深まれば、マールグリッドの強硬派が暗躍しても、事前に兆候を知ることが出来る。監視の目は、多いに越したことはないのだ。
シャルロッテがそんなことを考えていると、シルヴィが金色の瞳を輝かせながら両手を広げた。
「マールグリッドは美食の国でもあるから、珍しい食材は喜ばれるんだよ! つまり、マールグリッドは幸せ、オウカは売れない雷龍桃を売れて幸せ、オウカの商人はシャリーに感謝するだろうから、シャリーも幸せ! みーんな幸せになれるね!」
他意のないキラキラとした笑顔に、シャルロッテは我に返った。
つい癖で色々なことを考えてしまっていたが、もう王国の行く末についてあれこれと考えを巡らせないでも良いのだ。伯爵令嬢として、身分相応のことだけを考えれば良い。例えば社交界のことや、そこに着ていくドレスのことなど。
「なんだかそれ、幸せの程度にばらつきがない? オウカが一番得してるじゃない」
ハイデマリーの冷めた言葉に、シルヴィが不満げに唇をすぼめながら反論する。
「幸せに、損も得もないよ! 幸せって言うのは、誰かと比べるものじゃないし、そもそも比べちゃいけないものだと思うよ。だってそうじゃないと、一番幸せな人以外はみんな不幸じゃん」
シルヴィはそう言って立ち上がると、シャルロッテの隣に立ちそっと背中に手を当てた。
「誰かがいらないって言ったものでもさ、誰かにとっては必要なものなんだよ、きっと」
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