妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 華やかな笑い声が、コルネリウス家の茶室から漏れ聞こえてくる。ここ数日の重苦しい空気を吹き消すような明るい声に、強張っていた使用人たちの表情も和らぐ。

「シャリーがあんまりにも引きつった顔で迎えるから、ビックリしちゃったよ! ハイディとクララと、シャリーが落ち込んでるかもしれないって話はしてたんだよ? でも、シャリーのことだから、何でもないように振舞ってるでしょって言ってたんだよ。それなのに、あんなに暗い顔してるから……」

 シルヴィがそこまで言って、再びお腹を抱えて笑う。バシバシとテーブルを叩き、目尻に涙まで浮かべているさまは、ヴァネッサによく似ていた。

「本当、心臓が止まるかと思ったわ。茶葉を多く買いすぎただけで、あんな顔するもんじゃないわよ」

 ハイデマリーが苛立たし気に赤茶色の髪を背に払いながら、紅茶に口をつける。シャルロッテのお気に入りの茶葉は彼女の舌にも合ったようで、ほんの少しだけ口元が緩むが、すぐに真一文字に引き結ばれてしまう。

「ハイディが一番動揺してたもんね。普段はキリっとしてるのに、あんなにアワアワするなんて」
「と、友達があんな顔してたら、誰だって慌てるでしょ!」

 プライドの高い彼女は笑われていることに我慢ならないのか、ゴクゴクと一気に紅茶を飲み干すと、音を立ててソーサーにカップを置いた。

「お代わり!」
「……紅茶をお酒みたいに飲まないでよハイディ」
「紅茶はわたくしにとってお酒と同じよ!」
「暴論過ぎるでしょそれは」

 シルヴィが肩をすくめ、メイドが必死に笑いをかみ殺しながらハイデマリーのカップに紅茶を注ぐ。

「シャルロッテのところで使う分と、わたくしたちがお土産に持ち帰る分を差し引いても、まだ結構残るわよね。このまま置いていたらせっかくの風味が台無しになってしまうでしょうし……シルヴィ、あなたの友達なら引き取ってくれる人がいるんじゃない?」
「そりゃ、こんなおいしい紅茶なら、プレゼントすれば喜んでくれる人はいっぱいいるけど……」

 良いの? そう問うような瞳に、シャルロッテが微笑む。

「もともと、シルヴィにお願いしようとしてたのよ。申し訳ないけど、美味しく飲んでいただけるかたを探してくれる?」
「もちろん! と、言いたいところなんだけど、普通にあげたんじゃつまらないよね。んー……シャリー、オウカが売るのに苦戦してる商品って何かない?」

 何故そんなことをきくのだろうかと思いながらも、シャルロッテはパっと思いついたものをあげた。

「雷龍桃かしら」
「え、雷龍桃って、あの雷龍桃よね? 数年前にお父様が一つ手に入れてきて、一緒に食べたことがあるわ。今まで食べたどんな果物よりも美味しかったのよね。後から値段を聞いて驚いたけれど」

 その時の味を思い出したのか、ハイデマリーがうっとりと目を細める。
 黄金色の林檎のような形状の雷龍桃はオウカでも人気の高い果物で、なかなか外には出回らない。栽培の手間がかかるためオウカ国内でもかなりの値段で売られているのだが、柔らかく熟した実は崩れやすく輸送が難しいため、国外で入手しようとするとどうしても値が張ってしまうのだ。

「今年、オウカは天候不順だったでしょう? そのせいで甘くならなかったんですって」

 不出来な雷龍桃は苦みと渋みが強く、実は硬く、皮も茶色く腐ったような色になる。実自体は綺麗な蜂蜜色をしているのだが、本来の雷龍桃と比べると見劣りした。
 そのまま食べることは出来ず、加工しても美味しくならない雷龍桃は泥桃と呼ばれ、廃棄されていたのだ。

「例年でも一定数は出るらしいんだけど、今年はほとんどの雷龍桃がダメになってしまったと聞いたわ」

 来年度の元手にするために、わずかでも費用回収できないかと破格の値段で出しているのだが、なかなか買い手が見つからないようだ。シャルロッテもいくつか購入して、コルネリウス家の料理長と共に食べられる形にできないか試行錯誤をしたのだが、上手くいかなかった。火を通すと渋みが強くなり、それを緩和しようと調味料を加えると、逆に苦みが際立つのだ。
 シャルロッテの話を黙って聞いていたシルヴィは、少し考えこむように視線を宙に向けた後で、ポンと手を打つと悪戯っぽく微笑んだ。

「それ、マールグリッドでなら売れるかも」
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