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エッゲシュタイン子爵の長女エリザはシャルロッテの一つ年上で、次女のシエラは一つ下だった。どちらも美しく華のある令嬢で、社交界では一目置かれる存在だった。
ミルクティー色の髪が美しいエリザは、凛と咲く一輪のバラのように美しく、大きな茶褐色の瞳が魅力的なシエラは、野に咲くヒナギクのように愛らしかった。
聡明で思慮深いエリザと、無邪気で無垢なシエラ。相反する特徴を持つ姉妹は、顔立ちも異なっていた。
表立って公表されてはいないが、エリザとシエラの母親が違うということは、貴族の中では周知の事実だった。エッゲシュタイン子爵はとても惚れっぽく、正妻であるエッゲシュタイン子爵夫人リュディヴィーヌ以外にも何人もの愛人がいるような人だった。“エリザ聖戦”により、一夫一婦制が貴族社会にも徹底されている現代において、エッゲシュタイン子爵のような人はかなり異質だった。
エリザの誕生後、育児に追われる妻をほったらかして外で遊び惚けていたエッゲシュタイン子爵は、船乗りの娘との間にシエラをもうけたのだが、それがリュディヴィーヌの逆鱗に触れた。
貴族社会はもとより、王家まで巻き込んでの離婚騒動に発展したらしいのだが、最終的には今後二度と子供を作らないということで収まったらしい。
船乗りの娘が早々にシエラを手放したことと、リュディヴィーヌの生家が貧乏な男爵家で、エッゲシュタイン子爵家の潤沢な資産をみすみす手放したくなかったことが悪い意味で上手く噛み合わさった結果だった。
リュディヴィーヌは当然面白くないだろうが、実子のエリザと継子のシエラを分け隔てなく育てた。シエラは自身の出自を知っていたが、リュディヴィーヌを唯一の母親として慕っていた。姉妹仲はとても良く、等しく育てられた二人は性格も瓜二つだった。
エリザもシエラも、父親同様とても惚れっぽかったのだが、父親とは違い一途だった。驚くほど些細なことで抱いた幼少期の恋を、いまだに大切に持ち続けているのだ。
姉はオウカの貴族に、妹はマールグリッドの騎士に思い人がいると聞くが、双方なかなかに険しい恋路だった。
オウカは多夫多妻制の国で、貴族ともなれば男女ともに何人もの伴侶がいる。エリザが思慕している貴族にもすでに数名の妻がおり、彼女たちにもまた複数の夫がいた。
マールグリッドは一夫多妻制の国で、騎士ともなれば複数の妻を娶るのが普通だ。シエラの思い人に伴侶はまだいないが、約束した相手は何人もいると聞いている。
一夫一婦制を基本としているリーデルシュタインで生まれ育った姉妹には、なかなかに受け入れがたい話だった。この、国による制度の違いが、相手から良い返事をもらっているにもかかわらず話が具体的に進んでいない原因の一つだった。
シャルロッテはエリザともシエラとも数度話をしたことがある程度だったが、強烈すぎるその個性はいまだに覚えていた。どちらも悪い人ではないと分かっているのだが、どうしても会うと疲れてしまうのだ。
あまり気は進まないが、ダリミルのことを知るためにはエリザの力を借りるのが良さそうだ。
シャルロッテは意を決すると、ブリュンヒルデの美しくも不思議な瞳を見つめた。
「ヒルデちゃん、エリザさんと会えるように話をしてくれる? 私のほうはいつでも大丈夫だし、場所もどこでも構わない。エリザさんの都合に合わせるわ」
「わかりました。さっそく声をかけてみますね! このブリュンヒルデちゃんにお任せあれ!」
可愛い義妹に頼られて嬉しいのか、ブリュンヒルデが自信満々な笑顔でドンと胸を強く叩いた。
力加減に失敗してむせ返る姿に一抹の不安を覚えたシャルロッテだったが、ブリュンヒルデはすぐにエリザと会えるように手はずを整えてくれた。
シャルロッテがエッゲシュタイン邸を訪れたのは、それから三日後のことだった。
ミルクティー色の髪が美しいエリザは、凛と咲く一輪のバラのように美しく、大きな茶褐色の瞳が魅力的なシエラは、野に咲くヒナギクのように愛らしかった。
聡明で思慮深いエリザと、無邪気で無垢なシエラ。相反する特徴を持つ姉妹は、顔立ちも異なっていた。
表立って公表されてはいないが、エリザとシエラの母親が違うということは、貴族の中では周知の事実だった。エッゲシュタイン子爵はとても惚れっぽく、正妻であるエッゲシュタイン子爵夫人リュディヴィーヌ以外にも何人もの愛人がいるような人だった。“エリザ聖戦”により、一夫一婦制が貴族社会にも徹底されている現代において、エッゲシュタイン子爵のような人はかなり異質だった。
エリザの誕生後、育児に追われる妻をほったらかして外で遊び惚けていたエッゲシュタイン子爵は、船乗りの娘との間にシエラをもうけたのだが、それがリュディヴィーヌの逆鱗に触れた。
貴族社会はもとより、王家まで巻き込んでの離婚騒動に発展したらしいのだが、最終的には今後二度と子供を作らないということで収まったらしい。
船乗りの娘が早々にシエラを手放したことと、リュディヴィーヌの生家が貧乏な男爵家で、エッゲシュタイン子爵家の潤沢な資産をみすみす手放したくなかったことが悪い意味で上手く噛み合わさった結果だった。
リュディヴィーヌは当然面白くないだろうが、実子のエリザと継子のシエラを分け隔てなく育てた。シエラは自身の出自を知っていたが、リュディヴィーヌを唯一の母親として慕っていた。姉妹仲はとても良く、等しく育てられた二人は性格も瓜二つだった。
エリザもシエラも、父親同様とても惚れっぽかったのだが、父親とは違い一途だった。驚くほど些細なことで抱いた幼少期の恋を、いまだに大切に持ち続けているのだ。
姉はオウカの貴族に、妹はマールグリッドの騎士に思い人がいると聞くが、双方なかなかに険しい恋路だった。
オウカは多夫多妻制の国で、貴族ともなれば男女ともに何人もの伴侶がいる。エリザが思慕している貴族にもすでに数名の妻がおり、彼女たちにもまた複数の夫がいた。
マールグリッドは一夫多妻制の国で、騎士ともなれば複数の妻を娶るのが普通だ。シエラの思い人に伴侶はまだいないが、約束した相手は何人もいると聞いている。
一夫一婦制を基本としているリーデルシュタインで生まれ育った姉妹には、なかなかに受け入れがたい話だった。この、国による制度の違いが、相手から良い返事をもらっているにもかかわらず話が具体的に進んでいない原因の一つだった。
シャルロッテはエリザともシエラとも数度話をしたことがある程度だったが、強烈すぎるその個性はいまだに覚えていた。どちらも悪い人ではないと分かっているのだが、どうしても会うと疲れてしまうのだ。
あまり気は進まないが、ダリミルのことを知るためにはエリザの力を借りるのが良さそうだ。
シャルロッテは意を決すると、ブリュンヒルデの美しくも不思議な瞳を見つめた。
「ヒルデちゃん、エリザさんと会えるように話をしてくれる? 私のほうはいつでも大丈夫だし、場所もどこでも構わない。エリザさんの都合に合わせるわ」
「わかりました。さっそく声をかけてみますね! このブリュンヒルデちゃんにお任せあれ!」
可愛い義妹に頼られて嬉しいのか、ブリュンヒルデが自信満々な笑顔でドンと胸を強く叩いた。
力加減に失敗してむせ返る姿に一抹の不安を覚えたシャルロッテだったが、ブリュンヒルデはすぐにエリザと会えるように手はずを整えてくれた。
シャルロッテがエッゲシュタイン邸を訪れたのは、それから三日後のことだった。
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