妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

文字の大きさ
57 / 82

57

しおりを挟む
「大丈夫ですか、シャルロッテ様」

 肩口をそっと掴まれ、シャルロッテは顔を上げると微笑んだ。

「ありがとうパーシヴァル。でも、いつの間に後ろにいたの?」
「シエラ嬢が華やかな声をあげて、エリザ嬢が艶やかな吐息を漏らしていたあたりですかね」

 シエラの嬌声もエリザの息の荒さも、表現さえ変えてしまえばこんなにも美しいのだ。魔女に頼らずとも、人は言葉によって魔法をかけることができると最初に言ったのは誰だっただろうか。確か詩人だったはずだが、すぐには思い出せなかった。
 王立学校で何度も開いた教科書を記憶の中でパラパラとめくっていると、シエラが先ほどよりも甲高い歓声を上げた。

「パーシヴァル様! どうしてここに?」
「シャルロッテ様の付き添いですよ。実は少し前から、コルネリウス家でお世話になっているんです」

 メイドとしてね。と、シャルロッテは心の中で付け足した。もちろん、口に出すような真似はしない。エッゲシュタイン姉妹に余計な混乱を与えたくなかったからだ。

「シャルロッテ様はクリストフェル王の婚約者ですものね。ランヴァルド様のことは、本当に残念でした。わたくしも姉様も、お二人の結婚式を楽しみにしていたのですが……」

 明るかったシエラの顔が翳る。胸元に飾られた黒い花のブローチを撫で、目を伏せると「リーデルシュタイン王国に祝福を」と囁いて胸元で両手を組んだ。
 静かに祈りをささげる妹の隣で、エリザは険しい表情でパーシヴァルとシャルロッテを交互に見ていた。無邪気なシエラなら、パーシヴァルの言葉である程度の納得は得られたが、聡明な姉はそうはいかなかった。

 いくら婚約者だとしても、王の付き人がシャルロッテに付き添っているのはおかしい。彼がシャルロッテの側に“いなくてはならない”理由があるはずだ。
 考え込むような仕草をしたエリザだったが、すぐに小さく息を吐くと肩の力を抜いた。彼女は、自身が踏み込んで良い領域とそうでない領域をわきまえていた。王家と伯爵家の問題に、子爵家が口をはさむことは出来ない。
 エリザは気を取り直したように顔を上げると、妹と同じように胸元に咲く黒い花のブローチを撫でて祈りの言葉をささげた。
 シエラとエリザに倣い、シャルロッテとパーシヴァルも祈りの言葉をささげる。視界の端では、エッゲシュタイン邸の美しい庭を整えていた使用人たちも、同じように首を垂れて祈りをささげていた。

 祈りを乗せた風が、花々とハーブの香りを含んで駆け抜けていく。シャルロッテは透明な風の行き先を目で追いながら、大きく広がった髪を手で押さえた。

「風も強くなってきましたし、中へどうぞ。ドレスの希望デザインについても、詳しくお伺いしたいですし」

 エリザに導かれるまま、エッゲシュタイン邸の大きな扉をくぐる。
 一歩下がりシャルロッテに先を譲ったパーシヴァルが、姉妹には聞こえないくらいの声で「良い案ですね」と囁いた。

「ヒルデちゃんの案よ」

 シャルロッテも彼と同じく声を潜めると、短くそう返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...