妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 馬車の揺れに身を任せ、窓から見える王城を見上げる。
 輝く白亜の城は、さほど久しぶりに見たわけでもないのに、見ていると懐かしいような感傷が胸をよぎった。

「それにしてもまた、なんで王冠なんて……」

 目の前に座っていたベルタが、ため息交じりにそう言うと肩をすくめた。
 馬車が、城の周りをグルリと囲む湖の上を通過する。
 木でできた跳ね橋は、今日も降りている。シャルロッテが幼いころから、この橋は上がり城下町と城とを隔てたことはない。それでも有事の際にいつでも城を守れるように、橋を管理する騎士団が鋭い眼光で行き交う馬車を監視していた。

「私は、王冠は一つっきりしかないと思ってましたよ」
「ベルタが言っているのは、祭事用の王冠かしら?」
「祭事用なのかは分かりませんが、先王がよくかぶってらした、あの豪華な宝石がたくさんついたやつです」
「それが祭事用のものよ。リーデルシュタイン初代王から大切に受け継がれている唯一無二のものね。何度か冠自体を直したことはあるみたいだけれど、宝石は昔のまま。配置も色も、全て決まっているのよ」
「へぇ、そんな凄い王冠があるのに、他に作る必要があるんですかね?」

 ベルタの疑問に、シャルロッテは小さく微笑んだ。彼女も幼いとき、王冠が二つあることに同じ疑問を抱いたのだ。

「必要はあるのよ。一度先王に祭事用の王冠を特別に持たせていただいたことがあるんだけれどね、ものすごく重かったのよ。長くかぶっていては、ケガをしてしまうかもしれないと思うくらいに」

 幼い子供の手には辛いほどにズッシリとした重たさを思い出し、両手を見下ろす。あれが頭の上にあると考えるだけで、首が痛くなってくる。

「だから、普段使いが出来るような比較的軽い王冠が必要なのよ」
「その王冠も、代々受け継ぐのではダメだったんですかね?」
「新たな王には新たな冠をっていうのが伝統だから、ダメなんでしょうね。先王が崩御した後、新王は暫くの間は先王の王冠を借用し、時が来れば新たな王冠を作るって言うのが決まりだから」

 新しく王冠を作る際も細かい決まりごとがあった。
 必ず一つ、先王の王冠から宝石を選ばなくてはいけない。そのほかの宝石は、三代前に遡って使われていた宝石を選ぶことは出来ない。中心の宝石の色は、五代前に遡って同じ色を選んではいけない。
 意味が分からない決まり事も多いが、全ては伝統の二文字で片付けられてしまう。長く続くリーデルシュタイン王国の歴史を変えることは、容易ではない。それこそ、エリザ聖戦のような大事が起きでもしない限りは。

「クリストフェル王に新しい王冠が必要だって言うのはよく分かりました。リーデルシュタイン王家の伝統に、私が口をはさむようなんて恐れ多いですし」

 馬車は速度を緩めることなく跳ね橋を渡り切り、巨大な門の前までついた。見るからに重そうな門は、シャルロッテたちの乗った馬車がつくなり音もなく開き、歓迎の意を示してくれた。

「でも、一つわからないのは……なんでその新しい王冠の作成についてお嬢様が呼ばれるのかってことです」

 お嬢様には関係のないことですよね?
 そう言いたげな視線から逃れるように、シャルロッテは身をよじった。
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