妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 中央の宝石は難なく決まったのだが、それ以外についてはなかなか決めきることができなかった。

「金のシフェルをここに配置すれば……」
「でも、それだと水色のローグリットの意味が変わってきてしまうので……」
「なら、ローグリッドの色を変えて……」
「そうすると赤のコーウェルの意味が悪くならないか?」
「黒のローグリッドなら他の宝石とも意味が合うと思うけれど、単体での意味があまり良くないから、ローグリッドを使うなら赤か水色が良いのよね。シフェルの色を変えたらどうかしら?」
「いや、そうするとルキタスを入れられなくなるから……」

 出口の見えない議論に、最初にギブアップしたのはリーンハルトだった。

「もういっそ、王冠なんて作らなくても良くないか?」
「リーン兄さまったら。そんなわけにもいかないでしょう?」

 リーンハルトが盛大なため息とともにソファーに座り、天井を見上げる。少しばかり休憩したほうが良いと判断したクリストフェルが、机の隅に置かれたベルを取ると二度鳴らした。じきにベルの音を聞いたメイドが、紅茶とちょっとしたお菓子を持って現れるだろう。
 アーチボルトも疲労の滲む顔でリーンハルトの隣に座ると、胸元から淡い桃色の宝石がついたペンダントを取り出した。宝石の中央にはロックウェルの家紋が彫られており、リーンハルトが「ピンクのアーキスか」と呟いた。

「宝石言葉は確か、博愛だったか。アーチボルトにぴったりだな」
「でも、ロックウェルの宝石は金のルチカだから、合わせると偉大になっちゃうんだよね。ちょっと僕が持つにしては分不相応かなって」

 照れたように微笑みながらそう言うと、ペンダントを大切そうに胸元にしまった。
 爵位を持つ家にはそれぞれ宝石が決められているのだが、それとは別に個人にも宝石を定める伝統がある。大抵は生まれたときに両親が名前とともに決めており、職を得たときか結婚の際にその宝石で作った宝飾品を渡すことで一人前と認める風習があった。
 シャルロッテにも両親によって定められた宝石があるのだが、それが何なのかはすぐには思い出せない。個人の宝石は廃れかけている昔からの風習と言う域を出ないため、あまり重要ではないのだ。きけば教えてくれるだろうが、知らなくてはならない情報と言うわけではない。

「それにしても、ロックウェル子爵がちゃんと宝石を考えてたのが意外だったな」
「まさか。あの人がそんな不必要なことするわけがないよ」

 吐き捨てるようにそう言うと、アーチボルトは服の上からペンダントを握りしめた。その瞳には怒りと侮蔑が混じったような感情が渦巻いていたが、同時に深い悲しみも含まれていた。

「騎士団に入る際に、ぺルラ達が考えてくれたんだよ。先王の助言もいただいてね」
「なるほど。ってことはもしかして、妹の宝石もないわけか?」
「そうなんだよね。結婚までには決めてあげたいんだけど」
「良い話でも来てるのか?」
「それはまだなんだけど、うちのハイデマリーはシャルロッテちゃんに負けず劣らず美人で優秀だから、いつ何時そういう話が来ても良いようにしておかないとね」

 冗談めかして笑いながらそう言うが、内心では本気で思っているのだろう。アーチボルトにとってハイデマリーは、どこに出しても恥ずかしくない自慢の妹なのだ。

「それで、もし良ければなんだけど……シャルロッテちゃんに宝石を選ぶお手伝いをお願いしたいなって思っているんだ」

 どうかな? とアーチボルトがこちらをうかがうように首を傾げる。
 友人の門出を祝う大切な宝石を選ぶチャンスが与えられるなんて、なかなかないことだ。シャルロッテは柔らかく微笑むと、大きく頷いた。

「もちろん、私で良いのなら喜んで」

 控えめなノックの音が響き、メイドが紅茶とケーキを運んでくる。
 甘い香りが広がる中、ハイデマリーにはどんな宝石が似合うだろうかと考える。次から次へと思いつく宝石はどれも彼女にぴったりで、一つに選ぶのは難しそうだ。
 王冠の宝石を選ぶよりも、よっぽど悩ましい問題だった。
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