魔帝戦記

愛山雄町

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第一章「帝国掌握編」

第二十四話「ドワーフ」

 帝国暦五五〇一年一月二十日の午後二時頃。
 ラントは飛行部隊と共に帝都フィンクランに帰還した。

「「「ラント陛下、万歳!」」」

「「「帝国軍、万歳!」」」

 宮殿前の広場には多くの市民が待ち受けており、盛大な歓声の中、着陸する。

「大勝利、おめでとうございます」とエンシェントエルフのエスクが代表してラントを出迎える。

「戦士たちがよくやってくれた。今回の勝利は彼らの働きによるものだ」

 彼らの声は拡声の魔法で周囲にも聞こえており、ラントの言葉に周囲から大きな声が上がる。

 そこでラントは市民たちの方に視線を向ける。

「人族の野望は一先ず打ち砕いた! まだ不安はあるが、今は奮闘した戦士たちを労ってやってほしい!」

 その言葉にも市民たちは感動し、更に声が大きくなる。

 ラントは市民たちに手を振りながら、エスクらを率いて宮殿の中に入っていく。

「エスクには心配をかけた」

 ラントがそう声を掛けると、エスクは横に並びながら声を震わせる。

「ご無事でお帰りくださり、これ以上の喜びはございません」

 その目には薄っすらと涙が滲んでいた。
 その様子にラントは気づくも、どう声を掛けていいのか分からず、事務的な話題に切り替える。

「戦勝を祝う式典を行うと伝えたが、準備の方はどうだ?」

 エスクは既に冷静さを取り戻しており、重臣らしい自信に満ちた声で答えた。

「準備の方は順調です。会場は宮殿から少し離れますが、小高い丘になっております、ハイランド公園パークです」

「ハイランド公園? 宮殿前より広いのか?」

 ラントは召喚されてからすぐに戦場に向かったため、帝都の地理に疎い。

「宮殿の北、一・六キロメートルほどの場所にあり、全市民が集まっても問題ないほどの広さがございます。先代までの魔帝陛下もそこで式典などを行われました」

「そうか。面倒を掛けるが、よろしく頼む」

「お任せください」とエスクは笑みを返す。

 その笑みにラントは頷き返すと、「他に何か報告することはないか?」と確認した。

「モールよりお時間ができ次第、お話ししたいことがあると聞いております」

「では、すぐにモールを呼んでくれないか。恐らく出発前に頼んだことに関してのことだと思うからな」

 ラントはエルダードワーフの長モールに頼んだことを思い出し、すぐに呼び出すよう命じた。

 モールはすぐに執務室にやってきた。彼の他に二人のエルダードワーフがおり、木箱を持っている。

「とりあえず注文通りの物を作ってみた。明日には必要な数は揃うはずじゃ」

 そう言って木箱を開ける。
 そこには金色に輝くメダル状の物に鮮やかな布の飾りがついた“勲章”があった。

 メダルの表面には八本の剣が放射状に広がっており、その中心に世界樹をモチーフとした図柄が描かれている。

 その精巧な出来栄えにラントは目を輝かす。

「私のつたない説明でここまでのものを作ってくれたとは……感謝するぞ、モール」

 その言葉にモールは破顔する。

「このくらいの物なら大した手間ではない。それよりもこちらの方も見てくれんか」

 そう言ってもう一つの箱を開ける。
 そこには美しい鞘に入った短剣が置かれていた。
 ラントはその一本を手に取り、鞘から引き抜く。

 青みかかった銀色の刃が鏡のように磨かれており、柄の装飾と相まって武器と言うより日本刀のような芸術性を感じさせた。

「これも見事だ……」

「アダマンタイトで作ってみた。武器としては中途半端だが、こんなものをどう使うんだ?」

 刃渡りは二十五センチほどで武器として使うにはやや小さい。

「この勲章と一緒に渡すんだ」

「褒賞の一つと言うことかの。それなら別で作ってやればよいだろうに」

 モールとしては褒賞とするなら、その者にあった武器を与えた方がいいと思っていた。

「いや、これでいいんだ」

 モールは納得していないものの、ラントが満足そうにしていることから話題を変えた。

「さて本題だ」とモールはいい、ラントは首を傾げる。

「陛下が酒に詳しいという話を聞いたが、それは本当か?」

 想像もしていなかった問いにラントは戸惑う。

「詳しいというほどでもないが……」

「降臨される前に、酒を出す店で働いていたと聞いたのじゃが」

 昨夜の宴会でアルビンたちに話したことが既に伝わっていることに驚く。

「どうして知っているんだ? 昨日、宴会で少し話しただけなんだが?」

「酒に関する限り、儂らの情報網を甘く見てもらっては困る」と言った後、ギロリと睨みながらラントに詰め寄る。

「で、陛下、美味い酒をいろいろ知っているようだが、どうなのだ? 我が国の酒を更に美味くすることができるのか?」

 モールと一緒にいるドワーフも詰め寄ってきており、その迫力にラントは気圧される。

「ま、待て! 私は酒を提供する店にいたが、作る方は全くの素人だ。出す方も本職じゃなかったしな」

「うむ。確かにそんな話だったの」

 その言葉にラントは安堵するが、不必要な言葉を付け加えてしまった。

「それにまだこの国の酒をそれほど知っているわけじゃないから、改善点なんて言いようがないよ」

「ならば、飲まねばならんの。ブレイ、ヴァル。お前たちは陛下に飲んでいただく酒を持ってくるんじゃ! 我が家にある最高の酒を全部持ってこい!」

「「分かったぜ、親方!」」

 そう言うと、ブレイとヴァルと呼ばれたドワーフはあっという間に部屋から出ていった。

「いや、まだやることがあるんだ。これから戦ってくれた戦士たちの評価をしなくちゃならないんだよ」

「明日でもよかろう」

 そこで後ろに控えていたフェンリルの執事、キースがラントを助けようと話に加わる。

「陛下はお疲れですので……」

「ならば、仕事などせずに酒を飲んで早めに寝ればよい。これが一番の疲労回復法じゃ」

「い、いえ。それはエルダードワーフの皆様たちだけで、陛下には……」

「分かっておる。儂らと同じだけを飲ませるようなことはせん。味を見てもらうだけじゃ」

 モールが頑として譲らない姿を見て、ラントは諦めた。

「酒がくるまでには時間がある。それまでに急ぎの仕事だけ片付けよう」

 ラントはキースに元傭兵隊長のダフの扱いや明日以降のスケジュールの調整を頼むと、エンシェントエルフのメイド、エレンに声を掛けた。

「潰れそうになったら解毒の魔法をかけてほしい。第九代魔帝が急性アルコール中毒で死んだら笑い話にもならないからな」

「承りました」とエレンはニコリと微笑むが、その笑みは強張っていた。

「私も付き合ってあげるわ。感謝しなさい」

 エンシェントドラゴンのローズがそう言ってラントの横に座る。

「何じゃ、ローズも酒のことが気になるのか。さすがはシャーロットの娘じゃ」

 シャーロットはローズの母親で、豪放な性格で有名だった。

 その後、数えきれないほどのボトルが持ち込まれる。

「ま、待て! これだけの酒の味を見させようというわけじゃないよな」

「何を言っておる。これっぽっちなわけがなかろう。まだまだ運び込ませるぞ」

 その後、ラントは何度かエレンに解毒の魔法をかけてもらいながら、試飲していった。

 飲み進めるうちに、この国にはさまざまな種類の酒があり、そのことにラントは驚いていた。

(ウイスキーだけでもモルト、グレーン、コーンがあった。ブランデーも白ワインを蒸留したフィーヌタイプと搾りかすから作ったマールタイプの二つがある。ジンもあるし、ウォッカっぽいのもあった。芋焼酎っぽいものもあったし、ラムに近いものも……醸造酒だと日本酒に近いものまであるとは思わなかったな。この国でも米がとれるとは知らなかった……)

 そんなことを考えながら飲むが、モールからは「この酒は陛下の世界の物と比べてどうじゃ?」などといちいち聞いている。

 隣に座ったローズも「これも美味いぞ」と言って勧めてくるため、二人に答えながら飲んでいた。
 結局、試飲会というよりただの飲み会となり、ラントはいつの間にか酔いつぶれて眠っていた。
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