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最高潮
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演者みんなが、ステージ全体を使って派手に賑やかに華やかに、思い思いのパフォーマンスを披露している。ひとによってはフロアも使って、好き勝手にやっている。
振り付けの揃った演技も美しく見応えはあるが、ひとりひとりがとにかく楽しそうに、中には必死に、踊っている姿も、観ている者を楽しませられるのかも知れない。
本来はフリーで踊るのは、実力が伴ったダンサーに限定されるべきなのかも知れない。拙いダンサーが、萎縮しながら恐る恐る踊ったり、ミスをしてわたわたと狼狽えたりしている姿を舞台上で晒すなど、観る者への礼を欠いている。
この演目のコンセプトは、「とにかく楽しませること」だ。その目的に特化して舵を切れば、やりようはあった。
高い技術を見せ付けて感嘆させることは目指していないのだ。
演者が不安なら、その不安は観客にどことなく伝わるもの。
その逆もまた然り。
楽しんでいれば、それもまた伝わるのだ。
ならば。
思いっきり、常軌を逸するくらい、楽しんだらどうか?
百二十くらい楽しんで見せれば、観客にも八十くらいは伝わるのではないだろうか。
となると、問われるのは、鋼の胆力と気持ちの切り替えだ。
できているかどうかなど気にしない。
羞恥心などかなぐり捨ててて。
余計なことなんて一切考えない。頭の中は空っぽであればあるほど良い。
心と頭の中の準備ができたなら。
あとは「楽しむ」と決め込んで、心の底から楽しむ!
元々高位のバレリーナで大きな大会でも踊り慣れているほまれちゃんや、経験なんて乏しくても早々にダンスもこなせてしまえているセンスに溢れ、もとより自己をコントロールすることに異様なほど長けているいのりちゃんはさすがだった。
バンドではヴォーカルを堂々と務め上げ、日常でも、ふんわりした見た目とは裏腹にことの他肝が据わっているアリスンと、持ち前のストイックさと真面目さを、「ハジける」という行為に向けさせて、同じく持ち前の集中力を以てオーダーを完遂させようとしているめがみちゃん。ふたりもまた、充分過ぎるほどその場を「楽しんで」いた。
必要なら多少の自己暗示もかけ、舞台上とフロアでは、野生に還ったダンサーが四人、文字通り暴れている。
ユニット名の『confusǎo』の通り、場はまさに『ごちゃまぜ』となっていた。
打楽器はフリースタイルのセッションのようになり。
ひいもルイも結構めちゃくちゃだが、ほづみは徹底して軸を守っていたので、音楽としてちゃんと成立している。
いのりちゃんとほまれちゃんはフロアに突入して観客と一緒になって踊っている。
フロアで自由に踊っていたほまれちゃんが、マレの近くで一緒に踊っていた。
ふたりとも、とても楽しそう。
この場をコントロールするのはわたしだ。
もう少し、もう少しだけ、興奮のるつぼとなっているフロアを維持させたい。
持ち時間は決まっている。
次の演者もいる。
ぎりぎりまで引っ張って、サビに戻る。
このサビが終わりへと向かう合図だ。
歌に、力を込める。
歌詞に、心をのせる。想いを。
練習のときに、いのりちゃんに言われた言葉を思い出す。
『あとは届けたい想いを込めるだけ』
このイベントを通して、わたしはマレに伝えたいことがあった。
気落ちしていたマレを楽しませたい。
輝かんばかりの双子の姉へは、確かに嫉妬もあったけれど、憧れもあった。尊敬もしていた。
あなたの双子の妹も頑張ってるし、楽しんでるよ。
そんな、面と向かっては恥ずかしくて言葉にはできそうもない想いたち。
その全てを、歌に乗せてーー
サビが終わるころには全員当初のポジションに戻った。
サビを繰り返すのもわたしの胸先三寸。
もう一度サビを歌う。
察したみんなはここから振り付けに戻った。演奏も決められた内容になっている。
最後はきちんとまとまって。
ほまれちゃんの振り付けを見せつけるように、一糸乱れぬダンスでキレイに締め、演奏もきちんとした仕上がりで終わらせた。
プログラムとは違う、フリーの場で。
ほまれちゃんと一緒に踊れたマレ。
嬉しかったと思う。
それだけでも、これをやって良かった。盛り上げることができて良かった。
願わくは、不慣れなわたしの歌と演奏から、その努力の痕をマレが見出してくれていたら。
究め求める道を往くあなたの妹もまた、なにかを成し遂げられるのだと。
もう、歯痒い思いなんてさせないから、安心してほしいと。
勝手で都合の良い解釈だけど、歓声を上げて、すっごい拍手しているマレを見たら、きっとその想いは伝わったんじゃないかなぁと思った。
振り付けの揃った演技も美しく見応えはあるが、ひとりひとりがとにかく楽しそうに、中には必死に、踊っている姿も、観ている者を楽しませられるのかも知れない。
本来はフリーで踊るのは、実力が伴ったダンサーに限定されるべきなのかも知れない。拙いダンサーが、萎縮しながら恐る恐る踊ったり、ミスをしてわたわたと狼狽えたりしている姿を舞台上で晒すなど、観る者への礼を欠いている。
この演目のコンセプトは、「とにかく楽しませること」だ。その目的に特化して舵を切れば、やりようはあった。
高い技術を見せ付けて感嘆させることは目指していないのだ。
演者が不安なら、その不安は観客にどことなく伝わるもの。
その逆もまた然り。
楽しんでいれば、それもまた伝わるのだ。
ならば。
思いっきり、常軌を逸するくらい、楽しんだらどうか?
百二十くらい楽しんで見せれば、観客にも八十くらいは伝わるのではないだろうか。
となると、問われるのは、鋼の胆力と気持ちの切り替えだ。
できているかどうかなど気にしない。
羞恥心などかなぐり捨ててて。
余計なことなんて一切考えない。頭の中は空っぽであればあるほど良い。
心と頭の中の準備ができたなら。
あとは「楽しむ」と決め込んで、心の底から楽しむ!
元々高位のバレリーナで大きな大会でも踊り慣れているほまれちゃんや、経験なんて乏しくても早々にダンスもこなせてしまえているセンスに溢れ、もとより自己をコントロールすることに異様なほど長けているいのりちゃんはさすがだった。
バンドではヴォーカルを堂々と務め上げ、日常でも、ふんわりした見た目とは裏腹にことの他肝が据わっているアリスンと、持ち前のストイックさと真面目さを、「ハジける」という行為に向けさせて、同じく持ち前の集中力を以てオーダーを完遂させようとしているめがみちゃん。ふたりもまた、充分過ぎるほどその場を「楽しんで」いた。
必要なら多少の自己暗示もかけ、舞台上とフロアでは、野生に還ったダンサーが四人、文字通り暴れている。
ユニット名の『confusǎo』の通り、場はまさに『ごちゃまぜ』となっていた。
打楽器はフリースタイルのセッションのようになり。
ひいもルイも結構めちゃくちゃだが、ほづみは徹底して軸を守っていたので、音楽としてちゃんと成立している。
いのりちゃんとほまれちゃんはフロアに突入して観客と一緒になって踊っている。
フロアで自由に踊っていたほまれちゃんが、マレの近くで一緒に踊っていた。
ふたりとも、とても楽しそう。
この場をコントロールするのはわたしだ。
もう少し、もう少しだけ、興奮のるつぼとなっているフロアを維持させたい。
持ち時間は決まっている。
次の演者もいる。
ぎりぎりまで引っ張って、サビに戻る。
このサビが終わりへと向かう合図だ。
歌に、力を込める。
歌詞に、心をのせる。想いを。
練習のときに、いのりちゃんに言われた言葉を思い出す。
『あとは届けたい想いを込めるだけ』
このイベントを通して、わたしはマレに伝えたいことがあった。
気落ちしていたマレを楽しませたい。
輝かんばかりの双子の姉へは、確かに嫉妬もあったけれど、憧れもあった。尊敬もしていた。
あなたの双子の妹も頑張ってるし、楽しんでるよ。
そんな、面と向かっては恥ずかしくて言葉にはできそうもない想いたち。
その全てを、歌に乗せてーー
サビが終わるころには全員当初のポジションに戻った。
サビを繰り返すのもわたしの胸先三寸。
もう一度サビを歌う。
察したみんなはここから振り付けに戻った。演奏も決められた内容になっている。
最後はきちんとまとまって。
ほまれちゃんの振り付けを見せつけるように、一糸乱れぬダンスでキレイに締め、演奏もきちんとした仕上がりで終わらせた。
プログラムとは違う、フリーの場で。
ほまれちゃんと一緒に踊れたマレ。
嬉しかったと思う。
それだけでも、これをやって良かった。盛り上げることができて良かった。
願わくは、不慣れなわたしの歌と演奏から、その努力の痕をマレが見出してくれていたら。
究め求める道を往くあなたの妹もまた、なにかを成し遂げられるのだと。
もう、歯痒い思いなんてさせないから、安心してほしいと。
勝手で都合の良い解釈だけど、歓声を上げて、すっごい拍手しているマレを見たら、きっとその想いは伝わったんじゃないかなぁと思った。
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