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古書店
しおりを挟むその日、結は店の奥にある小さな読書スペースに座り、静かに詩集を読み続けた。
店主は黙ってコーヒーを淹れ、結の前にそっと置いた。
「ありがとうございます」と結が言うと、店主は「どういたしまして」とだけ返した。
それから、結は週に数度、灯影書房に通うようになった。
店主との会話は少しずつ増えていった。
「このお店、読み方はトウエイショボウで良いんですか?」
「ああ。そうだよ」
「素敵な名前ですね」
「ありがとう。言葉や知は、誰かの道を照らす灯になるからね。それに、この店も」
誰かにとっての灯りになれたらと、先代がつけた名前なのだと店主は告げた。
「こちらは本の買取もしてくれるんですか?」
買い取り制度の勝手がわからない結は、自分の部屋から読み終わっている本をいくつか持参していて、買い取ってもらえるなら試しに手続きしてみようと考えていた。
本を好む結は、図書館や学校の図書室を存分に利用しているが、本屋や大手チェーン店の古本屋で本を購入することも多い。
自ずと手元に本が増えてしまうが、本を捨てるという行為はどうしても抵抗のある結の部屋は、あと数年もしないうちに本のための空間となってしまうことだろう。
自室は引っ越しによって少し広くなったとはいえ、いつかは整理しなくてはいけない。その時は捨てるくらいなら買い取ってもらいたいなと結は考えていた。
歩けない距離ではない隣の駅の近くにあるショッピングセンターまで行けば、古本やゲーム、CDのほか、今では雑貨に家具に衣料品にと、何でも買い取ってくれる古本屋の大型チェーン店が一フロアをほぼ独占する形で入っているので、いつか本の置き場が無くなったらそこに持ち込もうと漠然と思っていたが、家の近くにある店舗で買取ができるなら、ちょくちょく持ってきたいなという思惑があった。
古書店と古本屋を敢えて使い分けるとすれば、古書は絶版になっていてもう購入することのできない本で、古本は古物取り扱いではない通常の書店で新品の状態でも購入することのできる本が、中古の状態になっているものを指す。
とは言え、古書店を名乗っていても古本を扱う店舗はあるし、古本屋と呼ばれている店舗でも、業態の分類としては古書店と記載されるので、明確な線引きがされているわけではない。
灯影書房は古書を中心に扱う店舗だが、古本を買い取ることもある。
書棚にもバックヤードにも限りがあるため、ある程度は店主判断で選別されることになる。
が、それ以前に。
「物によっては買い取るよ。ただ、ね」
持ってきた本と一緒に学生証を身分証明相として出していた結に、
「志貴さん……で良いのかな? 志貴さんはまだ一年生のようだね。十八歳未満の未成年者は本一冊売る場合でも、保護者の同伴と、保護者の身分証明相が必要になるんだ」
店主は身分証をあまりまじまじと見ないようにしながらも、名前と学年を確認して伝えた。
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