詩片の灯影①〜想い結びの糸〜

桜のはなびら

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ぺいぺい!

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「私はどっちにも縁も愛情があるから良いのよ。ざっくばらんに、本音で言い合える仲なの」

 棚の端まで行って、裏側に回るときにカウンター側をちらりと見た結の目に、銀行の受付の女性が身に着けている制服のようなスーツに髪をひっ詰めていた女性の姿が映った。
 真面目そうな見た目に違う砕けた口調で草壁と話す姿は親しげだが、仕事の関係だろうか。
 古書店にとっての取引先は、どんな業種があるのだろう。

 本を選んでいる結だが、既に本のタイトルは結の目に入っていなかった。

 
「はは、仲って、商店街との?」
「そうよ」
 
(草壁さん、笑うんだ)
 
 ふたりのやり取りを聞くともなく聴いていた結。
 穏やかに微笑む草壁を見たことはあったが、短く小さいとはいえ、明快な笑い声を訊いたのは初めてだったかもしれない。結は小さく驚いた。
 
「どっちにも世話になってるし、どっちにも結構真剣に取り組んでるつもりだけど?」

「それは認めるよ。紗杜さとはすごいよ。この店だって……」

「だからもう、同じ市内なんだし、商店街単位っていうよりはね、市全体――は言いすぎだけど、商店街の枠を超えて、市内のいくつかの店舗を中心にして、ひとつの企画にできないかなと。圭ちゃんの店舗は絶対合うと思うんだ――」
 

「あ、ごめん。――いらっしゃい、買うの?」
「は、はい。お願いします」
 いつの間にかカウンターの近くまで来ていたことに気づいた結は、草壁の声と、いつの間にかそんなに近くにまで行っていた自分に少し驚き、おずおずとカウンターに向かう。
 
「ごめん、お仕事の邪魔しちゃってた。詳細は企画書送るから、考えてみてよ」
 
 それじゃね! ここ、良いお店よね?
 草壁と結のそれぞれに一言ずつ添えて、いわゆる事務員のような風体の女性は、この静かな店舗では珍しく、動的なエネルギーを振りまきながら勢いよくお店を出て行った。

 
「お騒がせしました。――今までとはちょっと毛色の違う本だね。八百五十円です」

「ペイペイでお願いします」

「はい、ではこちらのコードに――」
 静謐で趣のある店内の雰囲気をぶち壊す決済音が響いた。
 小銭があるときは現金での支払いを好む結だったが、夏はとにかくドリンクにアイスにと細かい消費の機会が多い。結の小銭は先ほど自動販売機に吸い込まれたばかりだった。
 
 結ははじめて本を買ったときに、お店のイメージに合わない先進的な決済方法を導入していることに驚いていた。
 店内の雰囲気作りは大事だけど、こだわるがあまり利便性を排除しすぎては自己満足にしかならない。
 この店が実際に売れているかどうかはともかくとして、オープンにして販売活動をしているなら、なるべく広まるようにするのが、営むものとしての義務というか、礼儀だと思う。
 そういった草壁の考え方に、結は共感できた。
 
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