詩片の灯影①〜想い結びの糸〜

桜のはなびら

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二リットルのアイスクリーム

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「今日も読んでいく? それとも、書く?」

 電子決済の手続きを終えた草壁は、結が購入した本を紙袋に入れながら尋ねた。
 
「いえ、今日は帰ります」
 少し雑談したいと思った結だが、「圭ちゃんって呼ばれてるんですね」なんて軽口のような質問が喉の奥に詰まってしまって、変わりに帰るという言葉が口をついて出てきてしまった。

 渡してもらった商品の入った紙袋を受け取り、コットン生地のトートバッグの中に丁寧に入れ、バッグのボタンを閉じて肩にかけた。

 扉についた鈴の音を聴きながら、結は頭の中では先ほどまでの自分の心の動きについてを考えていた。
 
 考えていたこととは異なる言葉を口にしてしまった。
 その理由は何だろう。

 せっかくだから自分の内面について考えてみようと思ったが、頭の中にはいろいろな言葉が去来し溢れていた。
 

 削がれ研がれた強い言葉。

 言葉にしないと伝わらない想い。

 言葉では伝わらない想い。

 沈黙もまた言葉。

 沈黙は拒絶。

 想いや思考を言葉にして書くという行為。

 異国には異国の文化があり、概念があり、特有の言葉がある。

『サウターデ』という言葉。

 日本人には理解できない概念?

 でも自分の中にも『サウターデ』がある気がするという気持ち。

 それを理解してみたいという気持ち。

 草壁と女性との会話。
 会話の中で『灯影書房を会場にした朗読企画』という言葉が聞こえた気がした。

 この町に世話になっているという女性。
 この町に貢献したいという女性。

 この町に批判的な結。
 この町に面白さを見出しつつあった結。

 この町に昔からあった『灯影書房』

 この町に来ることになった草壁。

『灯影書房』を選んだ草壁。
 そこにあの女性がかかわっていた?

 草壁の過去。

 美沙と結の過去。

 草壁が救った生徒。

 美沙の決断ともたらされた結果。

 草壁の後悔。

 美沙の後悔。

 結の後悔。

 
 結の中で、相反する言葉や関係性のなさそうな言葉、または出来事が渦巻いている。

 それは何か一つの形になりそうな予感はありながら、余りにもバラバラで、浮かんでは消えてゆく靄のような思考の断片たちを、結は持て余してしまっていて、逆に今日は何も考えない方が良さそうだとの結論を出していた。

 今の結は、とりあえず帰ってソファに身体を預け、コストコで買ったアイスクリームATHENAを食べる。
 コストコ価格なのにプレミアムアイスと同等の品質で大容量のATHENAは、結にとっての心の栄養剤だった。
 結は良いことがあったときも嫌なことがあったときも宿題や勉強を頑張ろうと思ったときも、二リットルのアイスを少しずつ食べて結の中のプラスに向かう、またはプラスを増幅させる力を充填させていた。
 
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