詩片の灯影② 〜過去から来た言葉と未来へ届ける言葉

桜のはなびら

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ちがうものだからこそ

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 圭吾には大学時代から付き合いの続いている仲間がいた。本人は腐れ縁などと表現するが、お互いを本気で心配し合える、一般的には親友と呼べる関係性の仲間が。
 大学を卒業後教職に就いた圭吾は、約十年に及んだ教師生活に、自ら終止符を打った。
 本人の自負としても傍目からも、決して熱血教師の類では無かったが、圭吾なりの情熱と矜持を持って教職に邁進し、楽しさややりがいを見出しているようにも見えた圭吾のその選択を、圭吾は吹聴することはなかったが、どこからか聞きつけた仲間たちはそれぞれに圭吾に連絡を入れていた。

 学生時代から続いていた縁のうちのひとつが、紗杜だった。
 その縁が続いていたおかげで、圭吾が教師を辞めることになったとき、紗杜が力になることができた。
 
「それは、たぶん――」
 
「たぶん?」
 
「あ、いえ、何でもないです」

 結は慌てて首を振った。
 
「……君は言葉を大事にするから。飲み込んだ言葉があるとしたら、それも意味があることなんだと思う。でももし、伝えても良いと思える想いなら、言葉という形にしてもらえると、志貴さんの想いを、他の人が認識できるようになる」

 圭吾は柔らかく微笑んでいる。
 
「たぶん、今も……って思いました」
 
「今も?」
 
「今も、ふたりが違うから……違うから、響き合うのかなって」
 
「うん……うん。もっと聴かせてもらっても良いかな?」
 
「ええと、なんか思いついただけなんですけど……過去を抱えている人が、未来を考える人と話すとき、その間にある静けさが、何かを生むのかもしれないんじゃないかなって、なんかふと思って」
 それは、ふたりが違うから、ある意味逆だから、だから間が生まれて、間から何か生まれてくるような気がしたのだと、結は一生懸命に言葉をまとめながら圭吾に伝えようとしていた。
 
 圭吾は、その間にある静けさとは、町中に佇み言葉を探す人を受け入れる『灯影書房』であり、圭吾と紗杜のやり取りを静かに聴いていた結のことだと感じた。
 
「……うん、やっぱり、志貴さんの言葉は……見えないけど存在していたもの、気づかないけど傍にあるもの、そういうものに形を与えてくれる。形が与えられたから、気づかなかった人にも理解ができるようになる」
 
 圭吾は思った。
 そして思い出していた。
 かつての教え子のことを。

 この少女と同じように、言葉に敏感で、言葉を大切にしていた教え子のことを。

 発する言葉にも、沈黙にも、質量が伴っていた教え子のことを。


 圭吾が教職を辞する要因となった、教え子のことを。
 
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