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ある日の放課後の校長室で。
「私と後藤先生とで厚東さんと話しました。彼女の言い分を言葉のままお伝えすると、草壁先生との間に特別なものがあることを認めると。そのうえで、それが何なのかは言いたくない。言ったら汚されてしまう。と言ったものになります」
「……具体的なことは頑なに話してくれないようですね。さて、困りました。この素材をそのまま置いておいても、決していい方向に進むとは思えません。草壁先生、彼女の言葉への補足や、先生ご自身のご意見をうかがえますか?」
「……このようなことになり申し訳ありませんでした。不徳の致すところです。また、校長、教頭、学年主任の後藤先生やスクールカウンセラーの秋山さんなど、多数の皆様のお手を煩わせてしまっていて申し訳ありません。彼女の言葉については、彼女が言えない、言いたくないとすることについては私から言えることはありません。噂については……疚しいことは無いと胸を張って言うことはできます。噂の鎮静化は、私が私の言葉で誠心誠意お伝えするしかないと思っています。厚東さんは矢面に立たせるべきではないと考えています」
「それはわかるのですが……」
「うーん、草壁先生の気持ちはわかります。しかし現実的には難しいかなぁ」
「草壁先生の人となりを知っていて、厚東さんと直接会話をした私たちは、信じられますがね」
「厚東さん……潔癖で繊細な印象の子でしたね。大人びた精神性にも見受けられるが、随分と幼い面もありそうでした。いわゆる世間一般がイメージするような不適切な関係などではないことは、おそらくその通りなのでしょう。しかし、特別な関係性であることを彼女は認め、先生も否定なさらない。なにを以て「特別」なのかが定義されていないからややこしくなるのですが……問題は、特別であることそのものを、イメージ先行で世間から不適切であるとされかねないことです」
「ですね。私も以前草壁先生にもお伝えしましたが、生徒それぞれの事情の中で、どうしたって一律で対応できないことは出てきてしまいます。それを平等の名のもとに一律にすべきではないとも考えています。それでも、差を感じ『損している』と捉えた側が『差別だ』『ズルい』『なんであの生徒だけ』と訴えられてしまうと弱い。なぜならば、これは許容と寛容を前提にしているからで、権利や主義主張を正論でぶつけられてしまっては、善意や優しさに委ねられた前提は、正しさの前に脆く崩れ落ちてしまうでしょう」
「それを、誠意だけで押し通そうとするのは、やはり難しい、と?」
「もうひとつあります。この件は草壁先生と厚東のふたりが当事者で、ふたりが同じ方向を向いている……つまり、当事者同士の意見がぶつかったり食い違ったりしにくい点が強みになり得る要素でではあるものの、厚東は未成年の学生です。つまり、厚東の保護者も当事者のひとりとなるのです。その保護者が……ちょっと、ですね……」
「私と後藤先生とで厚東さんと話しました。彼女の言い分を言葉のままお伝えすると、草壁先生との間に特別なものがあることを認めると。そのうえで、それが何なのかは言いたくない。言ったら汚されてしまう。と言ったものになります」
「……具体的なことは頑なに話してくれないようですね。さて、困りました。この素材をそのまま置いておいても、決していい方向に進むとは思えません。草壁先生、彼女の言葉への補足や、先生ご自身のご意見をうかがえますか?」
「……このようなことになり申し訳ありませんでした。不徳の致すところです。また、校長、教頭、学年主任の後藤先生やスクールカウンセラーの秋山さんなど、多数の皆様のお手を煩わせてしまっていて申し訳ありません。彼女の言葉については、彼女が言えない、言いたくないとすることについては私から言えることはありません。噂については……疚しいことは無いと胸を張って言うことはできます。噂の鎮静化は、私が私の言葉で誠心誠意お伝えするしかないと思っています。厚東さんは矢面に立たせるべきではないと考えています」
「それはわかるのですが……」
「うーん、草壁先生の気持ちはわかります。しかし現実的には難しいかなぁ」
「草壁先生の人となりを知っていて、厚東さんと直接会話をした私たちは、信じられますがね」
「厚東さん……潔癖で繊細な印象の子でしたね。大人びた精神性にも見受けられるが、随分と幼い面もありそうでした。いわゆる世間一般がイメージするような不適切な関係などではないことは、おそらくその通りなのでしょう。しかし、特別な関係性であることを彼女は認め、先生も否定なさらない。なにを以て「特別」なのかが定義されていないからややこしくなるのですが……問題は、特別であることそのものを、イメージ先行で世間から不適切であるとされかねないことです」
「ですね。私も以前草壁先生にもお伝えしましたが、生徒それぞれの事情の中で、どうしたって一律で対応できないことは出てきてしまいます。それを平等の名のもとに一律にすべきではないとも考えています。それでも、差を感じ『損している』と捉えた側が『差別だ』『ズルい』『なんであの生徒だけ』と訴えられてしまうと弱い。なぜならば、これは許容と寛容を前提にしているからで、権利や主義主張を正論でぶつけられてしまっては、善意や優しさに委ねられた前提は、正しさの前に脆く崩れ落ちてしまうでしょう」
「それを、誠意だけで押し通そうとするのは、やはり難しい、と?」
「もうひとつあります。この件は草壁先生と厚東のふたりが当事者で、ふたりが同じ方向を向いている……つまり、当事者同士の意見がぶつかったり食い違ったりしにくい点が強みになり得る要素でではあるものの、厚東は未成年の学生です。つまり、厚東の保護者も当事者のひとりとなるのです。その保護者が……ちょっと、ですね……」
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