16 / 20
責任の取り方
しおりを挟む
責任者三人による協議は、圭吾の思惑を超えて進んでいく。
事情聴取で呼び出されていたはずなのに、必要な情報は得たと判断されているのか、敬語が話す機会はほとんどなくなっていた。
「まあ、どこにどう覚悟を決めるかだけの話です。腹をくくってしまえばどうということもないでしょう」
「……私が責任を取るという道はありますか?」
圭吾が口を挟んだ。
圭吾は正直言えば、意外に感じていた。
こういう状況や場に対するイメージとは異なり、想定以上に自分の言い分が聞き入れられている。信用されている。生徒を守りたいが故ではあったが、子どもである生徒が話したくないと言っていた内容に対し、大人である自分もが生徒と同じ立場を取り、詳細をかたはなかったにも関わらず、だ。
話を聞いている限り、極めて合理的に判断されているようである。
己の人間性を加味しての信用でもあるとの言葉も、合理的な評価によるものではあるのだろうが、それでも圭吾は嬉しさを感じたし、義理を果たすべきだとも考えていた。
安易に過ぎるが、それで相手型の溜飲が下がるなら、教職を辞するのも選択になり得るはずだ。
合理的な彼らなら、それもひとつと捉えてくれると思ったのだが。
「辞職でもされるつもりですか? 結論はNOです。ヒアリングした限り、厚東さんが明かさなかった要素は草壁先生も口をつぐんでおられますから一部ブラックボックスはありますが、大枠で事案として協議が必要なものは無かったものと評価しています。先ほどの教頭先生の話にもつながりますが、ここで安易な弱腰は後にとってもよろしくない。また、私の立場で言わせてもらえば……少々ドライですがね。生徒や保護者はお客様ですよ。大事にすべきです。学校や教職者の立場として、業務として、利益を求める組織として、どの角度で見てもお客様は優先すべきですし、配慮もすべきでしょう。しかしそれは、従業員足る教師を蔑ろにしてまですべきことではない。これが営利企業ならわかりやすいですね。お客様第一ではあっても、従業員がいなくては業自体が成立しないのです。最後の最後で守るべきは、お客様よりも従業員という判断をする経営者だって少なくないはずです。私もどちらかと言えば、そちら寄りの考え方です」
「私も校長のお考えに賛成です。人情論じゃない分、感情に左右されていない組織としての正しい判断だと思います。だからこそ草壁先生。ある意味安易な手を許してくれない厳しい判断とも言えます」
「心得ました……」
いちいち尤もだと圭吾は思った。
「どちらにせよ、まずは話し合いの場を設けることでしょうね。当事者の言い分と要求をすべて洗い出し、着地点を探る。協調できるならば良いですが、難しかったとしても、飲むべきは飲み、突っぱねるべきは突っぱねる。その結論さえ出してしまえば、あとは毅然と徹底すれば良い」
なるほど、教頭の言うとおり、ある意味厳しい。
この条件、状況で、辞職以外の選択肢で解決を見出さなくてはならないのだ。
事情聴取で呼び出されていたはずなのに、必要な情報は得たと判断されているのか、敬語が話す機会はほとんどなくなっていた。
「まあ、どこにどう覚悟を決めるかだけの話です。腹をくくってしまえばどうということもないでしょう」
「……私が責任を取るという道はありますか?」
圭吾が口を挟んだ。
圭吾は正直言えば、意外に感じていた。
こういう状況や場に対するイメージとは異なり、想定以上に自分の言い分が聞き入れられている。信用されている。生徒を守りたいが故ではあったが、子どもである生徒が話したくないと言っていた内容に対し、大人である自分もが生徒と同じ立場を取り、詳細をかたはなかったにも関わらず、だ。
話を聞いている限り、極めて合理的に判断されているようである。
己の人間性を加味しての信用でもあるとの言葉も、合理的な評価によるものではあるのだろうが、それでも圭吾は嬉しさを感じたし、義理を果たすべきだとも考えていた。
安易に過ぎるが、それで相手型の溜飲が下がるなら、教職を辞するのも選択になり得るはずだ。
合理的な彼らなら、それもひとつと捉えてくれると思ったのだが。
「辞職でもされるつもりですか? 結論はNOです。ヒアリングした限り、厚東さんが明かさなかった要素は草壁先生も口をつぐんでおられますから一部ブラックボックスはありますが、大枠で事案として協議が必要なものは無かったものと評価しています。先ほどの教頭先生の話にもつながりますが、ここで安易な弱腰は後にとってもよろしくない。また、私の立場で言わせてもらえば……少々ドライですがね。生徒や保護者はお客様ですよ。大事にすべきです。学校や教職者の立場として、業務として、利益を求める組織として、どの角度で見てもお客様は優先すべきですし、配慮もすべきでしょう。しかしそれは、従業員足る教師を蔑ろにしてまですべきことではない。これが営利企業ならわかりやすいですね。お客様第一ではあっても、従業員がいなくては業自体が成立しないのです。最後の最後で守るべきは、お客様よりも従業員という判断をする経営者だって少なくないはずです。私もどちらかと言えば、そちら寄りの考え方です」
「私も校長のお考えに賛成です。人情論じゃない分、感情に左右されていない組織としての正しい判断だと思います。だからこそ草壁先生。ある意味安易な手を許してくれない厳しい判断とも言えます」
「心得ました……」
いちいち尤もだと圭吾は思った。
「どちらにせよ、まずは話し合いの場を設けることでしょうね。当事者の言い分と要求をすべて洗い出し、着地点を探る。協調できるならば良いですが、難しかったとしても、飲むべきは飲み、突っぱねるべきは突っぱねる。その結論さえ出してしまえば、あとは毅然と徹底すれば良い」
なるほど、教頭の言うとおり、ある意味厳しい。
この条件、状況で、辞職以外の選択肢で解決を見出さなくてはならないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
スルドの声(共鳴2) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。
夢も、目標も、目的も、志も。
柳沢望はそれで良いと思っていた。
人生は楽しむもの。
それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。
でも、熱中するものに出会ってしまった。
サンバで使う打楽器。
スルド。
重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。
望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。
それは、望みが持った初めての夢。
まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
キャラ文芸
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる