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十五歳 ふたりのルイ

サンバショー!

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 ステージはダンサー数名で組まれたユニットやソロダンサーが曲ごとに入れ替わってパフォーマンスを披露する。

 アンコールは客席まで降りて行って盛り上げるが、基本は観客との距離があり、触れられるくらいの距離で興奮を共有するパレードとは異なり、ダンスの完成度で魅せるのがステージの真骨頂だ。

「ヒューッ‼︎」とか言うのが苦手なわたしはショー形式の方が得意だった。
 亜里沙と愛菜はこの夜の部も観に来てくれると言っていた。
 実里も仕事の都合で昼の部は来られなかったけど、夜の部は観に来てくれると連絡が入っていた。
 この一年の成果を観てもらいたいと思った。ダンスの完成度は無論、実里にも、亜里沙や愛菜にも、散々心配をかけたわたしの迷走の果てに辿り着いた、六人の連携を。

 
 わたしたちのステージは、バンドのボサノバでしっとり踊るヒトミのソロの後だった。
 わたしたちの演目はヒトミのソロから途切れずに続く。落ち着いた雰囲気で大人っぽい演出のヒトミのソロと緩急をつけた構成となっていて、明るくテンポの早い楽曲の『Amor no coração』では、わゆ、みー、ゆうの元気の良いソロの後、みこと、ひい、わたしのソロになる。
 年長組も比較的可愛いテイストで踊る振り付けにしていた。
 曲が変わり、『VOU FESTEJAR』では、わたしは残ったまま、履けていた五人が再登場して、ユニットダンスとなる。
 曲調は更に早くリズミカルながら、ボーカルは伸びやかで艶がある。
 元気で楽しくと言うよりは、激しくて格好の良い雰囲気となる。
 これも緩急のひとつで、子どもでありながら格好よい本格ダンスというギャップを狙っていた。

 わたしたちのソロは出の位置が同じなので、一緒の舞台袖で自分達の順番に備えている。尚、履けは右袖と左袖交互に履けていき、二曲目の合流は両サイドからふたりずつ出てくる格好になる。

 照明が少し落とされた。舞台にはスツールに腰掛け、ヴィオランを構えているマッサンにスポットライトが当たっている。
 マッサンがゆっくりと弦を弾き始めた。音源の曲がスピーカーから流れる。

 ヒトミのソロが始まる。わたしたちと同じ舞台袖にいたヒトミが、よし! と気合を入れて舞台へと出て行った。
 わたしたちは思い思いにヒトミに応援の声をかけた。

 舞台上ではもうひとつのスポットライトがヒトミを追いかけた。

 これが終われば次はわたしたちだ。

「よし! わたしたちも気合い入れよう!」
 みんながわたしを見てくれている。
 
 わゆは余裕の笑顔だ。さすが天才。
 掴みは任せたよ。見た目はまだまだ幼いのに、圧倒的な表現力のせいか、時に妖艶ささえ感じる演技は、観客を魅了するはずだ。

 みーは緊張感のある顔をしている。それは油断がないことの表れでもある。
 きっといつも通り、ブレのない精度の高いしなやかで美しい舞を見せてくれるだろう。

 ゆうはワクワクした様子だ。出番が楽しみで仕方ない感じ。
 細い身体に収まらないエネルギーを爆発させたようなダイナミックなダンスでみんなの度肝を抜いてやれ!

 みことは相変わらずクールだ。緊張もなくいつもの自由なパフォーマンスを見せてくれるはずだ。
 でも、その勝ち気な眼差しに宿った熱は、クールな表情では隠し切れない情熱が現れている。きっと観客を熱くさせるだろう。

 ひいは口元が笑みの形になっていた。不敵とさえ言える。
 自信がみなぎっているようだった。見た目も、技術も、経験も、積み上げてきた実績と、積み重ねてきた努力に裏打ちされている。
 いつかは強力なライバルになるであろう強い瞳をしたパシスタは、同じ舞台に在ればとても心強い仲間だ。

 
 自然と円陣の形になる。
 わたしが右手を出すと、みんなが右手を重ねてきた。

 練習、すごくたくさんしてきたと思う。
 なんとなくそれぞれの間に漂っていたわだかまりが溶けたあとは、集まれることがとても楽しく、練習にも夢中になれた。あの充実は、必ず実を結ぶ!

「練習は裏切らない! 出し切ろう!」

『おー!』

 やっぱり硬いなぁと、自分の掛け声に心の中で少し苦笑しながらも一年前、実里の衣装を初めて見につけたあのイベントの時、できなかった掛け声で、一年前には得られなかった一体感が得られたことが嬉しかった。
 もう何にも負けないと思った。

 ヒトミが戻ってきた。
 舞台の照明が明るくなる。『Amor no coração』の明るい曲調が会場を色づけてゆく。

 わゆが、みーが、ゆうが、みことが、ひいが、わたしが、それぞれ強い個性の色を放つ花として、ステージを彩った。

『VOU FESTEJAR』では、ほんのひと時前まで、個々で鮮やかに咲き誇っていた花たちが、今度は全員でひとつの大輪の華をステージに咲かせていた。
 一糸乱れぬ洗練された動きで、それぞれの個性は活かしながらも、全体でひとつの作品を組み上げ、作り上げて行った。

 
 歓声と、それよりも大きな万雷の拍手は、パレードとはまた違った達成感をわたしたちに与えてくれた。
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