千紫万紅のパシスタ 累なる色編

十五歳 ふたりのルイ

パレード！

　観客の中にパンクロックのライブ客のように、ノリノリでエビみたいにジャンプしている人がいた。

　そうだろうな。
　るいぷる、ああいうの大好物だろうな。

　ハイテンション観客をめざとく見つけたるいぷるはその観客の前でノペを踏んでいる。

「Oi‼︎  Oi‼︎　Oi‼︎」

　るいぷるの掛け声はもはやジャンルが違うとも思うが、感情にきっとジャンルなどない。たぶん。

「るいぴ！」

　進観客の前で踊っていて進行していないるいぷるにわたしたちのグループが追いついた。
　なんの運命の悪戯か、るいぷるは、ニアミスしたわたしの腕を掴んで引き寄せた。
　びっくりしたが、わたしとてサンバ歴十年を超える猛者である。すぐにアジャストしるいぷるに合わせてノペを踏む。

「sup⁉︎　men⁉︎　ウチら最強サンバcrewルイ∩るいぷる・パーペチュアルin da house‼︎」

　なに？　ラップ？　パーペ……なんて？
　ダブルイシスターズじゃなかったっけ？
　それも嫌だけど。

　なんかわからないけど、パンクノリの観客だけでなく、その周辺の観客も異様に盛り上がっている。

「Do it‼︎　Do it‼︎  Do it‼︎」

　また観客が沸いた。
　一緒にコールしている。良くわからないノリだけど、わたしもノセる側でなくてはならない。

「どぅーいっ！　どぅーいっ！」

　必死について行く。

「Go‼︎　Go nuts‼︎　Go‼︎」

　なんで次々変えてくの！
　いよいよ掛け合いのようになってきている。
　でも、くっ！　た、たのしいっ……！

「ずぃーあっ！　ずぃーあっ！　レイザービーム‼︎」

　るいぷるは観客のコールに合わせて変な合いの手を入れ始めた。
　盛り上がりは最高潮だけど、パレードの進行が遅いとはいえこれ以上止まっているのは限界だ。と思っていると、

「madなmy menに感謝！　いえーっ！」
　と、その場を切った。

　満ち引きの見極め絶妙だな！

　わたしは紅潮したまま、るいぷると一緒に早い移動のステップで距離を取り戻す。だけではなく、今度は追い抜いて前を行くカザウに追いつきそうになった。

　カザウはバンデイラを観客に披露する荘厳で儀式的な側面がある。
　あ、と思ったが杞憂だった。るいぷるはカザウが作り上げた雰囲気を壊さないように、カザウとは少し距離をとって優雅に舞っている。
　るいぷるはドレスなので優雅なダンスも様になっていた。
　無論わたしも負けてはいられない。
　派手な羽根が印象的なパシスタは、激しく陽気なダンスをイメージされるが、指の先まで意識を集中させ、しなやかで優美な魅せ方もできるのだ。

　王子様とお姫様のようなミカとジアンがバンデイラをふたりで挟むように観客に向けて広げ、ゆっくりと一礼をし、回転をしながら移動をして行く。

「Ji‼︎  A‼︎  N‼︎  Ji‼︎  A‼︎  N‼︎」

　また異様なテンションの観客？

　遠ざかっていくカザウに喝采を送っている観客に目をやると、スラっとした麗人のような雰囲気の女性が、アイドルの応援に使うような団扇にピカソのゲルニカを掛け算したようなデザインの団扇をくるくる回転させていた。
　麗人の両サイドには屈強なお祭り男が侍っている。

　ジアンのファン？　ていうか親衛隊？

「あ、礼央れおさーん！　やーはーっ‼︎」

「おー！　類ー‼︎  もっとだ！　もっと来い！」

「いぃぃいいやっはぁあっ‼︎」

「良いぞ！　類‼︎  良いぞぉっ！」

　レスリングの親子か！
　この麗人、ジアンとるいぷるの知り合いってことは職場の人なのかな？
　るいぷるがいて、この麗人がいて、アイジもいて、ジアンもいる職場か.……広告代理店だっけ？
　クリエイティブな仕事とは聞いてたいけど、なんだか凄そうだな。

 
　ゴール付近に亜里沙と愛菜の姿が見えた。
　るいぷるに乗せられてハイペースで踊り過ぎてしまい、ゴールまで持たないかもと思っていたが、やっぱり友達が観に来てくれていると思うともうひと頑張りという気になる。
　友達が応援してくれる声が、尽きた体力以外のところから、活力が湧き出させてくれた。
　近くでるいぷるはへろへろになっている。
　体力お化けだと思っていたが、流石にあれだけ大声張り上げて、激しい動きを繰り広げていたのだから、もうとっくにエネルギーは枯渇しているのだろう。
　体力は多いに越したことはないが、自分の体力に合わせたペース配分もダンサーに問われる技量だ。
　まだまだだなぁと思うが、今日が本格デビューだったと思い出し少し戦慄した。

　次はステージだ！