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本章

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 ふたりの男子はへらへらと、わたしの名前をいじってきた。陰でごにょごにょ言うのではなく、直接言ってきたし、バカにしたような雰囲気よりも冗談ぽさの方が強く、そこまで嫌な感じは出ていなかった。
 でもそれは、わたしが麻痺しているだけなのかもしれない。少なくとも、柊の目には嫌なものとして映ったようだった。

「名前馬鹿にするとか最低。小四かよ、くだらない。
お前らがどんだけ立派な名前か知らんし興味もないけど、想いを込めてその名前をつけてくれた親に、同じく想いを込めてつけられた他所の子の名前を馬鹿にしましたって報告できんの?」
 
 柊の言葉に、男子たちは沈黙した。
 完全に喧嘩腰だが正論ではある。
 ばつの悪そうな顔をしていた彼らは、さすがに捨て台詞を吐くのも格好悪いと思ったのか、小声で柊に謝り去ろうとすると、柊から「謝んのはうちにじゃないでしょ!」と一喝されていた。
 ふたりは改めて、わたしに早口で謝って、その場から逃げたそうにしていた。
 ふたりともこれから同じクラスで過ごす同級生だ。あまり溝ができたままというのも居心地が悪い。それにわたし自身実際は然程気にしていたわけではない。
 わたしはふたりに、気にしていないことを伝え、謝辞を受け入れ、中学でもがんこやがんちゃんって呼ばれていたし、いじられるのは嫌だけど、親しみを込めて愛称で呼ばれるのは嬉しいことだから、良かったら気軽に呼んでねと伝えた。
 
 それにしても、親の想いのこもった名前を否定する、か。
 わたしが自らやってしまっていることだ。わたしも少しばつの悪い思いをしながらも、わたしのために怒ってくれた柊にお礼を言った。
 きっと、良い家族に囲まれてまっすぐ育ってきたのだろうなと思った。
 
 そうしたら柊は、なにやらやたら感動していて、わたしの器の大きさに感心したとか、すぐ喧嘩腰になっちゃうのが悪い癖だから、見習いたいとか、わたしもがんちゃんって呼んで良い?
 とか言われた。
 わたしはわたしで、正しいと思うことを堂々と、あんなにはっきりと口にできる柊が、少し眩しいとさえ思えるくらい輝いて見えていた。
 柊は先ほどの例を喧嘩腰だったと言っているし、事実その通りであるが、男子たちに物申す時の立ち姿や表情が凛々しくて、ドラマや漫画の主人公みたいでとても格好良かった。
 そんな彼女に感心されて、なんだか妙にドキドキしたのだった。祷との比較に晒され続けていたこれまででは感じたことのない感覚だった。
 柊とは、それ以降仲良くなった。
 
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