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本章
58
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同じチームに姉が所属することを嫌だと思っていたことを伝えたわたしに、姉は問うた。それは自分のことが嫌いだからなのか、と。
問いかける姉の表情は優しくて、寂しそうだった。
そうではないと答えた。
でもその答えだけでは足らない。
姉にそんな顔をさせたわたしは、せめて本音を、心の奥底にあるものを、言葉にして伝えなくてはならない。
「なのに、祷が一緒だと嫌だって思うのは、全部わたしに問題があるから。
わたしがなにをやっても祷には勝てなくて、勝手に悔しがって、それが嫌で比較されないように祷を避けてた」
自業自得によってもたらされた状況と、自分勝手な論理によって導き出された行動。
想われていると認識していながら、その行動は想いに報いてはいない。それどころか、傷つけていてもおかしくはない。
今更だけど、わたしはわたしのことばっかりだったんだ。
「祷は全然悪くないのに、わたしが、勝手に......ごめんなさい」
向き合うと決めたけど、何を言うかをちゃんと考えてはいなかった。
想いを素直に率直に、誤魔化さず濁さず伝えようと思っていたけど、そもそもわたしの中でごちゃごちゃになって渦巻いていた感情や感覚について、明快な言語化をしていなかったから。
結局言葉に詰まってしまう。
祷は悪くないのに、わたしがそうしてしまった要因を、言葉にして伝えなくては、悪くなんてなかった祷としては納得できないだろう。
だけど祷は。
「うん。良くわかったよ。伝えてくれてありがとう。がんこの気持ち、きちんと伝えてくれてとても嬉しい。だから謝らないで」
本当に嬉しそうで。
謝ってばかりのわたしを困ったような笑顔で慰めて。
その瞳が揺れているように見えたものだから、わたしの方が溢れてしまった。
本当に、ダメだ。わたしは。
これでは幼児と変わらない。
ちゃんと会話をしないといけないのに。
「祷は、わたしが、『ソルエス』に入ってるから、入るの?」
嗚咽が言葉の邪魔をするが、言えた。
わたしの保護者として、わたしを守るためとか、わたしが心配だからとか、そう言う理由なら、わたしはもう大丈夫だから、しっかりするから、心配はいらない。心配させないことを約束しようと思った。
「がんちゃんと一緒に楽器やれたら楽しいだろうなって思ったから、がんちゃんがいるから入りたいって質問にはyesだよ。
でも、お母さんの代わりになってがんこの様子を見るためとか、そう言う意図はないよ。今日楽器叩いてみて、楽しくて、やりたいって思ったから、がんちゃんが一緒のチームになるのが嫌じゃなければ、入りたいな」
きっと、祷はすぐに上手になって、わたしよりも重宝される奏者になるだろう。
これが、見ず知らずの経験者がわたしの後から入ってすぐに活躍したとしても、何も気にならなかったはずだ。
姉だから。
その思いが、今までわたしを勝手に苦しめてきた。
姉に敵わなかったとして、それがなんなのだろうか。
どんな分野でも、どうやっても敵わない相手なんていくらでも存在している。
それがたまたま歳の近い身内だから気になっていただけだ。
世の中に数多いる敵わない人たちのことを気にせずにいられたのなら、姉のことだけ気にするなんて本当はおかしい。
そもそも勝ち負けじゃない。
届かない相手なんて世界中にいくらでもいる。
そんな当たり前のことにようやく気づけたわたしは、姉と一緒に同じ分野で活動することを、純粋に楽しそうだと思った。
そうは言っても後から入った祷に抜かれ、差をつけられたりでもしたらきっとすごく悔しいだろう。
それならより一層頑張れば良い。
そんな切磋琢磨も楽しみだと思えた。
「わたしも、お姉ちゃんと一緒にやってみたい」
今の想いを。
今生まれた想いを、素直に言えた。
問いかける姉の表情は優しくて、寂しそうだった。
そうではないと答えた。
でもその答えだけでは足らない。
姉にそんな顔をさせたわたしは、せめて本音を、心の奥底にあるものを、言葉にして伝えなくてはならない。
「なのに、祷が一緒だと嫌だって思うのは、全部わたしに問題があるから。
わたしがなにをやっても祷には勝てなくて、勝手に悔しがって、それが嫌で比較されないように祷を避けてた」
自業自得によってもたらされた状況と、自分勝手な論理によって導き出された行動。
想われていると認識していながら、その行動は想いに報いてはいない。それどころか、傷つけていてもおかしくはない。
今更だけど、わたしはわたしのことばっかりだったんだ。
「祷は全然悪くないのに、わたしが、勝手に......ごめんなさい」
向き合うと決めたけど、何を言うかをちゃんと考えてはいなかった。
想いを素直に率直に、誤魔化さず濁さず伝えようと思っていたけど、そもそもわたしの中でごちゃごちゃになって渦巻いていた感情や感覚について、明快な言語化をしていなかったから。
結局言葉に詰まってしまう。
祷は悪くないのに、わたしがそうしてしまった要因を、言葉にして伝えなくては、悪くなんてなかった祷としては納得できないだろう。
だけど祷は。
「うん。良くわかったよ。伝えてくれてありがとう。がんこの気持ち、きちんと伝えてくれてとても嬉しい。だから謝らないで」
本当に嬉しそうで。
謝ってばかりのわたしを困ったような笑顔で慰めて。
その瞳が揺れているように見えたものだから、わたしの方が溢れてしまった。
本当に、ダメだ。わたしは。
これでは幼児と変わらない。
ちゃんと会話をしないといけないのに。
「祷は、わたしが、『ソルエス』に入ってるから、入るの?」
嗚咽が言葉の邪魔をするが、言えた。
わたしの保護者として、わたしを守るためとか、わたしが心配だからとか、そう言う理由なら、わたしはもう大丈夫だから、しっかりするから、心配はいらない。心配させないことを約束しようと思った。
「がんちゃんと一緒に楽器やれたら楽しいだろうなって思ったから、がんちゃんがいるから入りたいって質問にはyesだよ。
でも、お母さんの代わりになってがんこの様子を見るためとか、そう言う意図はないよ。今日楽器叩いてみて、楽しくて、やりたいって思ったから、がんちゃんが一緒のチームになるのが嫌じゃなければ、入りたいな」
きっと、祷はすぐに上手になって、わたしよりも重宝される奏者になるだろう。
これが、見ず知らずの経験者がわたしの後から入ってすぐに活躍したとしても、何も気にならなかったはずだ。
姉だから。
その思いが、今までわたしを勝手に苦しめてきた。
姉に敵わなかったとして、それがなんなのだろうか。
どんな分野でも、どうやっても敵わない相手なんていくらでも存在している。
それがたまたま歳の近い身内だから気になっていただけだ。
世の中に数多いる敵わない人たちのことを気にせずにいられたのなら、姉のことだけ気にするなんて本当はおかしい。
そもそも勝ち負けじゃない。
届かない相手なんて世界中にいくらでもいる。
そんな当たり前のことにようやく気づけたわたしは、姉と一緒に同じ分野で活動することを、純粋に楽しそうだと思った。
そうは言っても後から入った祷に抜かれ、差をつけられたりでもしたらきっとすごく悔しいだろう。
それならより一層頑張れば良い。
そんな切磋琢磨も楽しみだと思えた。
「わたしも、お姉ちゃんと一緒にやってみたい」
今の想いを。
今生まれた想いを、素直に言えた。
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