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やり切った

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 初めての観客に向けての演奏。
 盛り上がってくれた観客のおかげもあって、演者側の方も充分な満足感を得られていた。

 上気した表情のダンサー姉妹は、身体を冷やさぬようすぐに着替えていた。着替え終えても演技中の熱と高揚感をすこし引き連れてきているように感じた。ややテンションが平時よりも高い。
 それは、打楽器奏者姉妹の私たちも同様だった。
 さすがに舞台慣れしているキョウさんは何事もなかったように楽器を車にしまっていたが。


「祷! すごかったね! 楽しかったー。ごめん、ちょっとテンポ走っちゃった」

 がんちゃん。
 ちょっとテンション高い。
 すごく嬉しそう。

「あまり気にならなかったよ。私はズレてなかった?」

「うん、全然! セグンダが安定してるから叩きやすかった! 本当はプリメイラが軸にならなきゃダメなのにね」

「がんちゃんのプリメイラ、しっかりとベースになってたよ! 私の音がブレなかったのはベースの音のおかげだよ」

「そう? 良かったー」


 帰り支度を進めながら、お互いにその日の感想、と言うよりは、高揚感を吐き出す。
 その場に着替えを終えたダンサー姉妹と、魂を戻したがんちゃんの同級生たち三人も加わる。


「いのり、がんちゃん! おつかれー」
「楽しかったねー」


 三人はキョウさんを手伝いラゲッジスペースを整理し、空いた箇所に姉妹は衣装ケースを入れながら、口々に今日のパフォーマンスのことを話していた。

 余韻冷めやらぬ若者たちに、キョウさんは会場に来ていたピンクとホワイトで彩られたアイスクリームのキッチンカーでアイスクリームをご馳走してくれた。しかもダブルの大盤振る舞いだ。
 フレーバーも選べたので、黒蜜きなことティラミスにした。

 主催者のスーパーの店長さんからは、ブラジル食材をたくさんいただいた。
キョウさんの車に積まれた大きなクーラーボックスいっぱいの食材。姫田家はアサイーとザクロのスムージー、ポンジーニョというフランスパン、リングイッサ。冷蔵の必要のないフライドエッグフレーバーのポテトチップスとブラジルコーヒーの粉もいただいた。

 家庭でもブラジルが楽しめる。嬉しい。



 準備を終えた。挨拶とお礼も済ませた。
 遠足は家に着くまで、だ。最後まで気は抜けない。
 帰路も往路と同じ編成だ。


 解散する駅まで、私はほづみを載せて車を運転する。帰りもサンバの楽曲を流し、歌いながら。

 出演前にサンバを聴き、サンバイベントに出演し、帰りにもサンバを聴く。そして、考えることもサンバに関する割合が増えた。
 こんなにもサンバ漬けになるとはサンバを始めるまで思っても居なかった。


 それだけサンバには力がある。やはり広く伝えたいなと思った。
 
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