208 / 215
届け、両親へ
しおりを挟む
私は母を好いても嫌ってもいない。
感謝はしている。
母の在り方を理解し、ただそう在るものとして時に尊重し、時に対応し、時に利用もしてきた。
情に薄いと自分でも思う。
私のそういう気質は、母の要素が私に受け継がれているからなのかもしれない。
がんこが生まれた時、母に言われたのだ。「妹を護ってね」と。
頷く私に父は「頼むな」と微笑み撫でてくれた。
そして私は、そうで在るように生きてきた。
気質にも合っていたのだろう。私にとってそれは苦どころか歓びだった。
だから自分の性格に欠陥があるとしたら、それも含めて誰のせいでもなく私自身が望んで得たものだと思っている。
それでも、そうさせてしまった要因の根っこは、幼児にそうで在れと役割を与えた両親ではあるのだから。
私の情の希薄さ。好悪の感情が母や父に向かないことも、受け容れてよねなんて思っていた。
そんな私だが、もしサンバのイベントに母と父が来てくれるなら。
母が好きだといっていた、母と父の若かりし頃の思い出の曲でもある、Tristezaを聴いてもらいたいと思った。がんちゃんと私が奏でる、母と父の思い出の歌を。
その思いは、今現実のものとして目の前にある。
Tristezaの歌が場内を包む。
悲しい歌詞を歌い上げる軽やかな声が徐々に熱を帯びていく。
打ち鳴らす音にも、想いが込められてゆく。
気持ちを乗せるほど。感情が昂るほど。私にある考えがよぎる。
意識してなかったことなのか、意識しないようにしていたことなのか。今、認めつつある感情と記憶がある。
がんちゃんの善き姉です在ろうとした私。
切欠は母の言葉。追随した父の言葉。
でもやったのは自分の意思。それは、本当に妹がかわいくて仕方なくて、幼心にも芽生えた庇護欲が唆られたから。
でもその奥。心の奥底のさらに奥に。
母に褒められ、父に期待されて、歓ぶ私は居なかっただろうか?
がんちゃんのことに限らず、学校で、勉強で、部活で、受験で、生活態度で、母の望む長女であり父の期待に応える長子であることに、窮屈さなんて感じず誇らしさすら感じる心はなかっただろうか?
それを認めてしまえば、なんのことはない、私もまた当たり前に両親の愛情を欲しがる子どもだったということだ。
それならば、母や父に喜んでもらいたいという素直な思いを以って演奏に臨むべきだろう。
お父さん、お母さん、聴いて! と、素直に音を放つ。
がんちゃんと私が交互にリズムを奏でる。
その音を軸に数多の打楽器が律動で空気を震わせ、リズムに乗せたメロディと歌がスピーカーを通して会場に響き渡る。踊るダンサーは悲しみやつらさなんて無いように笑顔で華やかに舞っている。
そのステージを観る母。
さすがに細かい表情まではわからない。
然程感情が現れているようには見えないか。ましてその内心なんてわかりようもない。
それでも私が娘だからか。
魂の根っこの部分で近しいものがあるからか。
それとも単なる思い込みか。
それもまたわかりようもないが、私には母が満足してくれているように思えた。
隣で身体を揺らし手を叩いている父くらいわかり易ければ良いのに。
感謝はしている。
母の在り方を理解し、ただそう在るものとして時に尊重し、時に対応し、時に利用もしてきた。
情に薄いと自分でも思う。
私のそういう気質は、母の要素が私に受け継がれているからなのかもしれない。
がんこが生まれた時、母に言われたのだ。「妹を護ってね」と。
頷く私に父は「頼むな」と微笑み撫でてくれた。
そして私は、そうで在るように生きてきた。
気質にも合っていたのだろう。私にとってそれは苦どころか歓びだった。
だから自分の性格に欠陥があるとしたら、それも含めて誰のせいでもなく私自身が望んで得たものだと思っている。
それでも、そうさせてしまった要因の根っこは、幼児にそうで在れと役割を与えた両親ではあるのだから。
私の情の希薄さ。好悪の感情が母や父に向かないことも、受け容れてよねなんて思っていた。
そんな私だが、もしサンバのイベントに母と父が来てくれるなら。
母が好きだといっていた、母と父の若かりし頃の思い出の曲でもある、Tristezaを聴いてもらいたいと思った。がんちゃんと私が奏でる、母と父の思い出の歌を。
その思いは、今現実のものとして目の前にある。
Tristezaの歌が場内を包む。
悲しい歌詞を歌い上げる軽やかな声が徐々に熱を帯びていく。
打ち鳴らす音にも、想いが込められてゆく。
気持ちを乗せるほど。感情が昂るほど。私にある考えがよぎる。
意識してなかったことなのか、意識しないようにしていたことなのか。今、認めつつある感情と記憶がある。
がんちゃんの善き姉です在ろうとした私。
切欠は母の言葉。追随した父の言葉。
でもやったのは自分の意思。それは、本当に妹がかわいくて仕方なくて、幼心にも芽生えた庇護欲が唆られたから。
でもその奥。心の奥底のさらに奥に。
母に褒められ、父に期待されて、歓ぶ私は居なかっただろうか?
がんちゃんのことに限らず、学校で、勉強で、部活で、受験で、生活態度で、母の望む長女であり父の期待に応える長子であることに、窮屈さなんて感じず誇らしさすら感じる心はなかっただろうか?
それを認めてしまえば、なんのことはない、私もまた当たり前に両親の愛情を欲しがる子どもだったということだ。
それならば、母や父に喜んでもらいたいという素直な思いを以って演奏に臨むべきだろう。
お父さん、お母さん、聴いて! と、素直に音を放つ。
がんちゃんと私が交互にリズムを奏でる。
その音を軸に数多の打楽器が律動で空気を震わせ、リズムに乗せたメロディと歌がスピーカーを通して会場に響き渡る。踊るダンサーは悲しみやつらさなんて無いように笑顔で華やかに舞っている。
そのステージを観る母。
さすがに細かい表情まではわからない。
然程感情が現れているようには見えないか。ましてその内心なんてわかりようもない。
それでも私が娘だからか。
魂の根っこの部分で近しいものがあるからか。
それとも単なる思い込みか。
それもまたわかりようもないが、私には母が満足してくれているように思えた。
隣で身体を揺らし手を叩いている父くらいわかり易ければ良いのに。
0
あなたにおすすめの小説
スルドの声(交響) primeira desejo
桜のはなびら
キャラ文芸
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。
高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。
ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。
出会ったのは、スルド。
サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。
姉のこと。
両親のこと。
自分の名前。
生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。
※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
キャラ文芸
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
キャラ文芸
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる