スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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届け、両親へ

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 私は母を好いても嫌ってもいない。
 感謝はしている。

 母の在り方を理解し、ただそう在るものとして時に尊重し、時に対応し、時に利用もしてきた。

 情に薄いと自分でも思う。
 私のそういう気質は、母の要素が私に受け継がれているからなのかもしれない。


 がんこが生まれた時、母に言われたのだ。「妹を護ってね」と。
 頷く私に父は「頼むな」と微笑み撫でてくれた。

 そして私は、そうで在るように生きてきた。
 気質にも合っていたのだろう。私にとってそれは苦どころか歓びだった。
 だから自分の性格に欠陥があるとしたら、それも含めて誰のせいでもなく私自身が望んで得たものだと思っている。
 それでも、そうさせてしまった要因の根っこは、幼児にそうで在れと役割を与えた両親ではあるのだから。
 私の情の希薄さ。好悪の感情が母や父に向かないことも、受け容れてよねなんて思っていた。

 
 そんな私だが、もしサンバのイベントに母と父が来てくれるなら。
 母が好きだといっていた、母と父の若かりし頃の思い出の曲でもある、Tristezaを聴いてもらいたいと思った。がんちゃんと私が奏でる、母と父の思い出の歌を。

 その思いは、今現実のものとして目の前にある。


 Tristezaの歌が場内を包む。
 悲しい歌詞を歌い上げる軽やかな声が徐々に熱を帯びていく。
 打ち鳴らす音にも、想いが込められてゆく。


 気持ちを乗せるほど。感情が昂るほど。私にある考えがよぎる。
 意識してなかったことなのか、意識しないようにしていたことなのか。今、認めつつある感情と記憶がある。

 がんちゃんの善き姉です在ろうとした私。
 切欠は母の言葉。追随した父の言葉。
 でもやったのは自分の意思。それは、本当に妹がかわいくて仕方なくて、幼心にも芽生えた庇護欲が唆られたから。

 でもその奥。心の奥底のさらに奥に。
 母に褒められ、父に期待されて、歓ぶ私は居なかっただろうか?

 がんちゃんのことに限らず、学校で、勉強で、部活で、受験で、生活態度で、母の望む長女であり父の期待に応える長子であることに、窮屈さなんて感じず誇らしさすら感じる心はなかっただろうか?

 それを認めてしまえば、なんのことはない、私もまた当たり前に両親の愛情を欲しがる子どもだったということだ。


 それならば、母や父に喜んでもらいたいという素直な思いを以って演奏に臨むべきだろう。

 お父さん、お母さん、聴いて! と、素直に音を放つ。

 
 
 がんちゃんと私が交互にリズムを奏でる。
 その音を軸に数多の打楽器が律動で空気を震わせ、リズムに乗せたメロディと歌がスピーカーを通して会場に響き渡る。踊るダンサーは悲しみやつらさなんて無いように笑顔で華やかに舞っている。

 
 そのステージを観る母。
 さすがに細かい表情まではわからない。
 然程感情が現れているようには見えないか。ましてその内心なんてわかりようもない。
 

 それでも私が娘だからか。
 魂の根っこの部分で近しいものがあるからか。
 それとも単なる思い込みか。
 
 それもまたわかりようもないが、私には母が満足してくれているように思えた。
 隣で身体を揺らし手を叩いている父くらいわかり易ければ良いのに。
 
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