スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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白い日の幻の際(きわ) 来訪者 ほづみ

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「いのり、来たよ」
 
 ほづみ?
 
「止まっちゃった計画、進めてるからね。今のところ順調だよ。安心してね。やー、でも、さすがいのりだよね。あれ、全部ひとりでやってたんだね。いのりの計画の中で目下進めていた分だけだけど、今はにーなとるいぷる、ジアンも手伝ってくれて、なんとか進めてるよ」
 
 そっか、ありがとう。
 
「……もっとさ、私のことも頼ってくれて良かったのに」
 
 ごめんね。
 
「……いのりはさ、ひとのために頑張りすぎだよ。ずっと、多分小さなころから、いのりはがんちゃんのために生きてなかった?」
 
 それが私の生きがいだったなら、それは「自分のため」だったと思うけど。
 
「私も柊がいるから、気持ちはよくわかる。未だに子どもっぽい柊に呆れることもイラっとすることもあるけど、やっぱりかわいいもん。喧嘩ばかりしてた時期もあるけど、それでも子どもの頃から「大事にしたい」、「護らなきゃ」って思いはあった」
 
 わかるよ、ほづみ。
 
「でもね、年齢が上がっていくと世界が広がるでしょ? 付き合うひとが増え、活動が増え、行ける場所が増え、使えるお金や時間も増えてくる。そうなってくるとさ、自ずと円グラフの内訳は変わってくるんだよ。
だけどいのりは、極端な言い方したら、ずっとがんちゃんが円グラフのほとんどを占めてたんじゃない?」
 
 だって、かわいいんだもん。
 
「持ち前の能力の高さで、強引に円の大きさ自体を大きくして、友だち付き合いやら勉強やら部活やらを周囲の人たちと同様以上に全うしていたのかもしれないけど、がんちゃんに割くエネルギーは減るどころか増えてたんじゃない?」
 
 だって、かわいいんだもん。
 
「無理はさ、たたるんだよ」
 
 だってぇ。
 
「出会った頃のいのりは知性と落ち着きを瞳に讃えたような素敵な女性だったね」
 
 急に褒めないで。照れる。
 
「でも、どこか達観しすぎというか、俯瞰で見ているというか、なんとなく距離……というのもちょっと違くて、居る階層が違うみたいな、そんな印象があったんだ」
 
 寂しそうな声。私も寂しくなる。そうさせたのは私なのだろうけど。
 
「だから、いのりが私との距離を詰めてくれたのは意外だったし、嬉しくもあった。それで、付き合っていけばいくほど、いのりの本当の姿が見えてきて。いのり美人さんなのにさ、考え方大人っぽいのにさ、中身すごい可愛らしいんだよ? 気付いてた?」
 
 私、完璧な姉を目指していたから。完璧な姉に可愛らしさも必要なら、それは持ち得ていても不思議じゃないよね。気付いてたって質問に素直に返すなら、気付いていない、というか意識したことなかったからよくわかんないんだけども。
 
「そんないのりが、がんちゃんのお姉さんとして頑張ってて、言っちゃあれだけど、無理してるように見えるときもあって。でも、がんちゃんと一緒にプレゼンとか取り組むようになってから、目に見えて仲良し姉妹になっていったじゃない? 同時にね、目に見えて、いのり一層可愛らしくなっちゃって。時にはがんちゃんの方がお姉さんに見えることすらあったくらいだよー」
 
 ほづみ、何を笑っているの。もしそんなことがあったのなら由々しきこと。笑い事じゃない。
 
「そんないのりを見るのが、本当に、心の底から、嬉しかったんだ。いのりがすっごく楽しそうで、幸せそうで」
 
 確かに、楽しかったし幸せを感じることは増えたかな。
 
「これから、この姉妹は、きっとお互いの良さで支え合って、笑い合って、並んで歩んでいくんだろうなって。私たち姉妹も見習って一緒に楽しく生きていこうって思えたんだよ」

 
 ほづみ。ごめんね、ほづみ。
 笑顔がよく似合う素敵なひとに、似合わない顔をさせてしまった。
 
 
 ほづみはただ、そこを見ていた。しばらくそうして、「また、来るね」と言葉といくばくかの心を残し、その場を去っていった。
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