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第2話 異世界にドラゴンは付き物です
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ケインが15歳を迎えた夏、女性が経営する店が建て替えられた。
「結構、お金貯まったから、建て替えちゃった」
何の躊躇いもなく店を建て替える女性。
しかも、いつ建て替えたのか、工事をしている様子もなく、ある日突然、三階建ての建物が出現したのである。
「いつ建て替えたの!?」
昨日までは古びた店だったのに、今日来たら新しい三階建ての建物に変わっていることに、ケインは目が飛び出るほど驚いていた。
「昨日、建て替える手続きをして、今日、完成したのよ」
「はぁ!? 一日でこんな大きい建物ができるの!?」
「ちょっとした魔法を使ったのよ。村長さんにも、こういう外見で作りますって報告しているから、景観を気にしている人も反対しなかったわ」
確かに、建て替えられた店の外見は、周りのレンガ造りの建物と同じで、入り口に設けられているテラスは木材を使用し、木の温もりを感じさせてくれる。
内部も外見のレンガの壁とは対照的で、床は木材を使用し、カウンターは黒く塗られているがこれも木材を使っている。テーブルや椅子は金属らしい物が使われているが、それでも冷たい雰囲気はない。昨日までは使い込まれた木のテーブルや椅子だったのに、一晩で揃えるには搬入などで目立つはずなのに、搬入される現場は見たことがない。
なぜ、たった一日でこれだけ変えられることができるのか…。
もしかしたら女性は魔術が使えるんじゃないか…。
もしかしたらこの女性は関わってはいけない人ではないだろうか…。
いろいろな思いが巡るケインは、女性が怖いと思わなかった。
むしろ尊敬という言葉しか出て来ない。
「さてと、ケインは今から暇かしら?」
クルリと振り向く女性の手には、一枚の紙が握られていた。
「暇は暇だけど…」
「じゃあ、付き合ってくれるかしら? 村長さんからこれを頼まれたの」
そう言いながら女性は握っていた紙を広げて、ケインの前に差し出した。
そこには、ある言葉が書き込まれていた。
「”ある湖にドラゴンが出没したとの情報を得た。即刻、調査せよ”!?」
「王都からの依頼なんですって。なんでも、この村の隣にある湖にドラゴンらしき魔物が出て、王都とこの村を結ぶ貿易に影響が出ているみたいなの。今から調査しに行くんだけど、ケインも行く?」
さらりと言う女性。
ドラゴンと言えば、あたり一面に火を吐き、村ひとつがあっという間に焼野原にしてしまう凶暴な魔物と聞く。そんなドラゴンの調査に出かけるのは、命を捨てるようなものだ。
それを、女性はさらりと言っている。どういう神経をしているんだ!?
ケインは平然と依頼を受けてくる女性が信じられなかった。
ケインと女性は日帰りで行ける湖へと向かった。
女性は何度かこの湖に来ていたらしい。
「ちょっと欲しい物があってね、週に一回は来ているわよ」
「なんでそんなに頻繁に来るんですか?」
「ここの湖の水は綺麗だからね。飲料水としてある程度のストックが欲しかったの」
「それぐらい、俺が採ってくるよ。魔物が出たらどうするんだよ」
「日帰りで行ける湖まで3日も掛かるケインには頼めないわよ」
「だから、何度もやれば覚えるって。一人で行くなんて危ないよ」
「大丈夫。ここに出没する魔物はランクが低いから。大体、ゲームを始めたばかりの冒険者がすぐに行ける場所なんて、レベルが低くて当たり前なんだから」
「…何言ってるのか分かんない…」
時々、変な事を言う女性にケインは付いていけなくなる。
女性は何処で知識を得ているのか。
少なくともケインの住む村にはない知識を持っている。王都で得た知識かと思ったが、時々、王都から役人が相談に来ることもあるため、違う地域で得たのだろうか。
その前に、ケインは女性がどこから来たのか聞いたことがない。女性が話そうとしないことも影響しているが、出身地をはじめ、家族の事も、誕生日すら教えてもらっていない。別に聞かなくても、こうして接することができるのだから、女性が話すまで待つことにした。
朝早くに村を出た2人は2時間ほどで湖に着いた。
「とりあえず……湖の水を採取しなくちゃ」
そう呟いた女性は、肩から掛けていた小さなカバンに手を入れた。
すると小さなカバンから透明な筒を30本も取り出した。
「え!? それ、どこに入ってたの!?」
「魔法を使っただけよ。ケインも手伝って。足元に地面から湧き出しているところがあるでしょ? その近くで水を汲んでほしいの」
よく見ると、足元の岸辺のあちこちに地面から水がコンコンと湧き出ていた。
不思議なことに、湧き出ている場所には生き物は一匹もおらず、草も何も生えていなかった。まるで「どうぞ、ここから水を汲んでください」と言わんばかりに、水汲みの障害となるものは何もなかった。
ケインは女性から手渡された透明な筒ー高さ30センチはある四角い透明な筒をいろんな角度から見た。
触ってみると弾力があり、強く押すと潰れてしまいそうだ。女性が汲み終わった筒を見てみると、液体を中に入れてるのに、外に漏れてこないし、染み出ても来ない。上部に行くにつれ中央に窄まっていき、最上部には蓋がついている。その蓋は厚みはあるが中は空洞。筒の窄まったところに回すようにはめると、ピタリと封がされる。試しに液体が入った筒を逆さまにしてみたら、なんと零れない!
「これ、なんですか!?」
興味津々な顔でケインは女性に質問した。
すでに3本目を汲み終わっている女性は蓋を締めながら、
「私のいた場所ではペットボトルって呼んでいるわ」
「ペット…ボトル?」
「液体を入れておく道具よ。このまま凍らせることもできるのよ。頑丈だから落としても割れないし、寒くなると暖かい飲み物を入れて売られることもあるわ」
「樽とか皮の水入れよりも便利そうですね」
「衛生的にも優れているわね。それより、ケイン。水汲みをちゃんとやって。まだまだ汲まないといけないの」
女性が向ける視線の先には、まだ大量の空の筒ーペットボトルが置かれていた。気のせいだろうか、さっきより数が増えている気がする…。
「どれだけ汲むんですか?」
「できるだけ多く」
「だからどれくらい?」
「口より手を動かす!」
「……終わりが見えない……」
正式な数を教えられることなく、ケインは地味な水汲みを手伝い始めた。
「これで終わり…と」
女性は蓋を締めたペットボトルを地面に置いた。
ずらっと並んだ179本のペットボトルは圧巻な光景だ。
「すごい数」
その光景にケインは圧倒していた。
「ストックの最大が999本だからね。しばらく来れないから、最大ストックまで採取したの。さてと、カバンの中に入れなくちゃ」
そういうと、女性は肩から掛けた小さいカバンの中に水が入ったペットボトルを次から次へと放り込んでいった。不思議なことにカバンは膨れ上がることなく、その大きさを変えることもなく、179本全てをカバンの中に納めた。
「元々、空の物が入っていたんだ。もう驚かないよ…」
むしろ、その数よりも、重たいペットボトルを木の実を放り投げるように、軽々とカバンにしまう女性の怪力のほうに驚くばかりだ。
女性が多くの水を汲むのには理由がある。
ここ最近、雨が降らない日々が続き、村の井戸が枯れ始めているのだ。なんとか農業用の水は確保されているが、村の近くを流れる川も枯れ始め、このまま日照りが続くと村の存続が危ぶまれる。
女性は週に一度、この湖まで水を汲みに来ては、村人たちに配っていた。最初は学校や病院などに無償で配っていたが、そのうち水を必要とする人が増え、更に今までタダで手に入っていた水を高額で売り出す悪徳業者まで現れた。
何かいいアイディアはないかと考えたが、自然現象のコントロールは、どんな知識があってもできないことだ。
最後の一本に手をかけたその時、女性は動きを止めた。
「どうかしたの?」
ケインが声をかけると、女性は人差し指を自分の唇に持っていき「静かに」と小声で注意してきた。
声を潜めていると、しばらくして頭上を大きな影が横切った。
上を見上げると、ケインは大きく口を開けたまま立ち尽くした。
なんと上空に3匹の水色のドラゴンが大きな翼を広げて飛んでいたのである。
その水色のドラゴンは、湖の上空を何回かぐるぐると回ると、一匹ずつ湖の水面に着水してきた。
飛んでいたときは気づかなかったが、3匹のうち1匹は体が他と比べて小さい。
「ドラゴンの親子ね」
岸辺に立つ女性は恐れることなく、ドラゴンの親子を見ていた。
それに引き換え、ケインは木の陰に隠れ、全身を震わせていた。
「本当に異世界なのね、ここ」
女性の声が弾んできた。
目をキラキラと輝かせながら、ドラゴンの親子を見ている女性は、この瞬間を待ち望んでいたかのようにワクワクが抑えきれなくなったきた。
「だ…大丈夫なんですか?」
木の陰から見守っているケインは、やはりそこから動こうとしなかった。
女性を守ると言っていたにも関わらず、実際の行動に女性も期待していなかった。
しばらくドラゴンの親子を見ていると、ふいに子供のドラゴンと女性の目が合った。
好奇心旺盛な子供のドラゴンは、岸辺に立つ女性の元に近づいてきた。すると子供のドラゴンは自分から顔を女性に近づけ、彼女の顔に頬ずりしてきた。
初めて見るドラゴンに興奮していた女性は、自らすり寄ってきた子供のドラゴンに飛びついた。
「凄い! 凄い! 本物のドラゴンだ!」
今迄、女性がはしゃぐ姿を見たことがないケインは、ドラゴンと戯れる彼女を見て驚いていた。怖いイメージがあるドラゴンが人間に懐くことも珍しい光景だ。
「ほぉ、我(われ)を怖がらないとは、珍しい人間だ」
子供のドラゴンと戯れていた女性に、-たぶん父親だろうー3匹の中で一番体が大きいドラゴンが彼女に声をかけてきた。
よく見ると父親のドラゴンは体の色が子供のドラゴンと少しだけ違っていた。子供のドラゴンは水色一色だったが、父親のドラゴンは水色の体ではあるが日が当たるとキラキラと輝いた。水を浴びていたから?と思ったが、体には透明な鱗があり、それが日に当たるとキラキラと輝いていたのだ。
「ドラゴンに会いたかったんです! まさか本当にいるなんて! ここに来て7年。やっと願いが叶ったわ!」
大興奮で話す女性の目がますます輝いていった。
「人間自ら会うことを願うとはな。人間は敵ばかりだと思っていた」
「あなたは何を司るドラゴンなんですか? ドラゴンって、火のドラゴン、風のドラゴン、水のドラゴンとか言われることあるんですよね? あなたたちは何のドラゴンなんですか?」
「そこまでの知識があるのか。我は見てのとおり【水のドラゴン】と呼ばれている」
「じゃ…じゃあ、ドラゴンの生き血を飲むと不死身になるって言うのは本当!? ドラゴンの肉って高難度の薬の材料になるって本当!? ドラゴンの涙ってどんな傷も治すって本当!?」
次から次へと出てくる質問に、父親のドラゴンは驚いていた。
まだこのような知識を持つ人間がいるとは…。
父親のドラゴンは、ここまで知識のある人間に会うのはかなり久しい。何百年と生きてきたが、このような知識を持つ人間は数人にしか会ったことがない。ほとんどの人間は危害を加える生き物として、存在そのものを排除しようとしてきた。
だが、この女性は違う。目の前にいる女性は、敵ではない。
「そなたの知識は素晴らしいな。どこで知り得た?」
「私が前にいた場所での知識です。この世界では通用しない知識なんですか?」
「いや、ほぼあっている。だが、すべてのドラゴンが同じではない。生き血は【火のドラゴン】でなければ効果はない。肉というよりも、ドラゴンの舌は万能の薬として使われることがある。これも【火のドラゴン】でなけれが効果はない。【風のドラゴン】の鱗はどんな攻撃も弾くと聞く。我【水のドラゴン】の涙は怪我を治すことはできるが死人を生き返らせることはできない。また、【水のドラゴン】の鱗を樽や井戸に放り込めば無限に水を湧き上がらせることができる」
「無限に!?」
「先ほどから見ていたが、そなたは大量の水を必要としているようだな。出会えた記念だ。我の鱗を一つやろう」
そう言いながら、父親のドラゴンは自分に口で鱗を一枚剥がすと、女性の前に差し出した。
だが女性は手を差し出すことはしなかった。
「どうした? いらないのか?」
「あなたの気持ちは嬉しいけど、これを必要としているのは私ではないわ」
「ほぉ、自分の利益より他人の利益を最優先にするのか?」
「私はここに来ればいくらでも水は汲める。でも村の人たちは決まった量しか持ち帰れない。農業をしている人は一日に何往復しないと畑を潤すことができない。私、あの村の人たちを助けたい」
「自分は苦しくなってもいいのか?」
「あら、村の人たちが助かるのなら、私も助かるわ」
「なぜ?」
「私もあの村の一員だもの。皆が助かるのなら私も助かるってことでしょ? 私が犠牲になることはないわ」
女性はきっぱりと言い切った。
それを聞いた父親のドラゴンは「こんな人間もいるんだな」と小さな声で呟いたと思ったら、突然大きな声で笑い出した。
「な…なんだ?」
木の陰から見ていたケインは、空気が和んでいることに驚いた。
攻撃はしてこないだろうと、意を決して岸辺へと足を向けると、それまで笑い続けていた父親のドラゴンがケインを睨み付けてきた。
「ひぃっ!!」
短い悲鳴をあげ、逃げ出そうとしたケインの前に一匹のドラゴンが降り立ち、行く手を塞いだ。母親のドラゴンがケインの前に降り立ったのだ。
「うわぁ!?」
いくら危害を与えないと言っても、間近で見ると迫力がある。怖い物は怖いのだ。
母親のドラゴンの前で腰が抜けてしゃがみこんでしまったケインは、必死に逃げようとしているが、ただもがくだけで1ミリも動けていなかった。
そんなケインを、母親のドラゴンが口で軽く加え、女性と父親のドラゴンの前まで連れてきてくれた。
子供のドラゴンは女性が気に入ったのか、ずっと頬ずりをしていた。そんな子供を父親のドラゴンが優しいまなざしで見つめていた。
そこに母親のドラゴンがケインを口に喰われてやってきた。
「あ、ケイン。どこに行ってたの?」
「そなたの知り合いか?」
「同じ村の住人です。ケイン、村の現状を話してあげて。話の内容によってはドラゴンが力を貸してくれるそうよ」
母親のドラゴンに地面に降ろしてもらったケインはまだ立ち上がれなかった。
そんなケインを、父親のドラゴンが睨み付けるように見下ろした。子供を見ていた時とは全く違う鋭い眼に、ケインはビクビクしている。
「恐れるではない。我はそなたの話が聞きたい」
「話しって言っても…座ったままだと失礼じゃないのか?」
ケインは自分が立ち上がれない事を詫びた。
父親のドラゴンはまた豪快に笑い出した。
「気にするでない。我はそこまで厳しくない」
かっかっかっ!と笑う父親のドラゴン。
なんとなく気が緩んだケインは、今の村の状態を話し始めた。
ここ何日も続く日照りで、田畑が枯れ始めている事。
満足のいく作物が育たず、家畜に与える餌も不足し始めている。
村の端の方では、井戸水に泥が混じり始め、飲み水を高値で売り出す輩まで現れ始めた。ただでさえ、主な収入である作物が育たないのに、飲み水を高い金を出してまで買うわけにはいかず、だからと言って女性にこの湖まで水汲みに来させるのもどうかと思う。
せめて雨が降れば、近くの川が潤うので、多少は水の確保ができるはず。
「して、そなたの村にはいくつの井戸がある?」
「そんなに大きい村じゃないけど、100近くはあると思う。家の中に井戸を持っている人もいるし、大きい畑だと水撒きの為に沢山の井戸を持つ農家もある」
「そんなにあるのか。我の鱗を井戸に入れれば、我が生きている限り水は絶えることはない。だが、それだけの数があるのなら、我の鱗が足りないだろう」
「だから、雨さえ降ってくれればそれだけでいいんだよ」
「それでは村は潤わない」
「なんで?」
「たとえ雨が降っても、再び日照りが続けばまた同じ状況になる。それだったら、どこかに水を貯える場所を作り、そこから村に供給した方がいいだろう。蓄える場所に我の鱗を使えば、水は枯れることはない」
「貯める場所か……」
ケインも父親のドラゴンも「う~~ん」と唸りだした。
その様子を見ていた女性は
「その施設、なんとかなるかもしれない」
とポツリと呟いた。
「何かいい案でもあるのかね?」
「村の北側に高台があるんだけど、そこに貯水施設を作って、村の井戸すべてに水道管を張り巡らせたら、井戸が枯れることはないと思うの」
「「チョスイシセツ? スイドウカン?」」
初めて聞く言葉に、ケインも父親のドラゴンも同じ方向に首を傾げた。長い間生きているが、父親のドラゴンも初めて聞く言葉のようだ。
「私が前にいた場所では当たり前にある設備なの。でも、村全体に水道管を張り巡らせるとなると、莫大なお金がかかるのよね。お店を建て替えちゃったから、残金も少ないし…」
「どれぐらい欲しい!?」
「ちょっと待ってね」
女性は肩に掛けた小さいカバンから、パソコンを取り出した。
「ほぉ、アイテムボックス持ちか。彼女はこの世界の人間ではないな」
「え!? どういうこと!?」
「そなたは彼女から聞いていないのかね?」
「何を?」
「……そうか、それが彼女のやり方か。そういう人間もおるのだな」
一人で納得する父親のドラゴンに、ケインは何となく悔しい感じがした。
女性と自分は見えない絆で結ばれている気がするが、このドラゴンは女性と秘密を共有しているようで、自分が立ち入れない空間ができたように感じる。
パソコンをいじっていた女性は、何やらお目当ての物が見つかったようだ。
「えっと…貯水施設が200万ぐらい、水道管は耐久がいいのを使いたいから…村全体だと500万でいけるかな?」
「合わせて700万!?」
「でも、貯水施設は一つよりも2つか3つあったほうがいいわね。メンテナンスとか、何かの不具合で使えなくなると大変だものね。ついでに下水処理施設なんかも作った方がいいのかな? ストックを全部売っても100万になればいいけど……」
今度は女性が唸りだしてしまった。
ふと、女性が父親のドラゴンを見上げた。
「な…なんじゃ?」
「ねえ、ドラゴンの鱗っていくらぐらいで売られている物なの?」
「我の鱗は、他のドラゴンと違って生活に直結している。かなりの高値で売買されていると聞く」
「ドラゴンさん、お願いがあるんだけど…」
「なんじゃ?」
女性は一度に大金が入る方法を思いついたのか、父親のドラゴンにある頼みごとをした。
今回、王都からドラゴンの調査依頼を受けた。調査なので、湖にドラゴンが出没しているかの情報だけで依頼は終了し、情報料としていくらかは報酬が出る。出没していれば、きっと国王が兵を寄越して退治するだろう。
そこで、女性はドラゴンを退治したと報告をする。もちろん本当に退治するのではなく、偽の情報を伝える。退治したとなると、必ず国王は証拠を差し出せと言うはずだ。そこで、国王には退治した証拠として、鱗を4枚、瓶に詰めたドラゴンの涙を6個差し出す。もちろん、ただ渡すのではなく、鱗を使うと水が永遠に湧き出すところを、涙を使って怪我を治すところを実際に見てもらう。(本当はその個体であるドラゴンが生きていないと効果はないのだが、そのことはあえて言わない)
その光景を見れば国王は高額で買い取ると言い出す。しかし、金持ちの貴族たちは金儲けできると目論見、値を張り上げてくるだろう。
そこで女性が提案するのは……
「では、ここはオークションで取引しましょう」
王宮の謁見の間で、国王を始めとする王侯貴族にドラゴン退治を報告したケインは、証拠品の買取方法を提案した。
「オークションとはなんだね?」
国王は初めて聞く言葉に、身を乗り出して聞き返した。
「遠い遠い国で行われる、誰もが納得する買取方法です。ここにドラゴンの鱗があります。わたしはこの鱗を1枚10万で買い取っていただきたいと思います」
「10万なんて安すぎる。わたしは倍の20万で買い取ろう」
「いやいやわたしは50万で買い取る」
「ならわたしは100万だ!」
どんどんと跳ね上がっていく値段に、少しニヤニヤしていたケインだったが、ここでニヤついてしまったら、話がまとまらない。
勝手に値段を上げていく声を阻止するように、ケインは大きな咳払いをした。
その咳払いに、全員が黙り込んだ。
「このように、値段を上げる声が飛び交います。その声は値段が高くなれば高くなるほど少なくなっていきます。最後には一人の人が最高高値を宣言します。その最高金額より高く買う声がなくなれば、最後に高値を宣言した方が買い取ります。これを落札と言います。どうでしょうか、国王様。この方法なら誰もが納得いくことでしょう」
「なるほど。そんなやり方があるのか。よかろう、これらの証拠品は明日、オークションとやらをして買い取りできる人物を選ぼう」
国王だけではなく、王侯貴族たちも納得した表情を見せた。
報告ご苦労と労りの言葉を掛けられたケインは、もう一つ、どうしても伝えたい事を国王に告げた。
「国王様、もう一つお願いがあります」
「なんだね?」
「この世界にはまだまだドラゴンは存在します。ですがそれらを退治するのではなく、このように生活に役立つように共存することを願い出てもよろしいでしょうか?」
「共存…だと?」
「はい。確かにドラゴンは人間に刃向かうかもしれません。ですが、大きな力を持つドラゴンを味方につけたとき、近隣諸国が攻めてきたら、最大の軍事力となるはずです。また、その戦力に怖気づいた近隣諸国が攻撃してこなくなると思います」
「確かにその通りだ」
「心を許したドラゴンは、人間に恩返しをします。その恩返しが国を大きく発展させるはずです。どうかドラゴンとの共存をお願いいたします」
頭を下げながら願い出るケイン。
国王は考えもしなかった案に、一つ踏み出してみようと思った。それはオークションを提案したケインに敬意を払っているのだろう。
「わかった。答えはすぐにはできないが、ゆくゆくは考えてみよう。そなたの活躍、心からお礼申す。明日の夕方までにはすべての報酬を渡す。それまで王宮に滞在されるがいい」
国王は側近に迎賓館の部屋を用意するように命じた。
迎賓館に案内される途中、ケインは華やかな一行とすれ違った。
その場にいた使用人や案内をしてくれている兵士が歩みを止め頭を下げているところを見ると、身分の高い人たちだということが分かる。
通り過ぎていったのは、茶色い髪に灰色の瞳を持つ女性と、亜麻色の髪に赤い瞳を持つ男性、黒髪に緑色の瞳を持つ男性、金髪に琥珀色の瞳を持つ男性の4人。ケインとさほど年が変わらない4人ではあったが、集団の先頭を女性が歩き、残りの3人は一歩後ろを歩いていた。女性が大きな権力を持っていることが一目だ分かる。
「あれは第一王女様とその取り巻きですよ」
部屋まで案内してくれた兵士は、あまり興味がないように教えてくれた。
「王位継承権を持っているので、我儘三昧で誰も好んで相手はしていません」
かなりきつい事を言っているが、部屋で待っていた使用人も「うんうん」と大きく頷いていた。
国王の娘は誰からも好かれるものだと思っていたが、ケインは少しキツイ顔をしていたこと思い出し、なんとなく納得してしまった。
使用人の話だと、国王には王位を継ぐことができる子供が7人いる。4人の娘と3人の息子がいるらしいが、女癖が悪い国王は他にも十数人の子供が存在するようだ。因みに7人の子供も母親が違うらしい。
だからなのか、母親たちによる次の国王の座をめぐる戦いが、目に見えなところで行われている。この国の王位継承は国王からの任命制。国王の座は35年という期間が決められている。今の国王は今年で22年目。後13年で次の国王を決めなくてはならないのだが、13年後は一番下の娘が22歳になる。一応憲法で、継承権は国王交代時に20歳以上の王子・王女に与えられるのもので、今の王子・王女は全員が対象となる。
誰が次の国王になるのか……。
(万が一、何らかの事情で国王が突然亡くなった場合は、一番上の子供が王位を継ぐ。このとき、男も女も関係なく継承されるが、同じ時期に生まれた子供たちは早く生まれた子供が継ぐことになる)
翌日、国王主催でオークションが行われた。
出品はケインが持ってきたドラゴン退治の証拠品であるドラゴンの鱗2枚とドラゴンの涙4個。鱗は4枚持っていたが、1枚は国王の目の前で使ってしまい、もう1枚は王立研究院に研究の為、渡してしまった。だが王立研究院からそれなりに報酬(貯水施設の頭金にできるぐらい)は貰っている。ドラゴンの涙も同じで、一つは国王の前で使い、残り一本は王立研究院に渡し(こちらも鱗と同じ値段の報酬を受けた)、残った4個を出品した。
珍しい物の為、また金儲けに目がくらんだ王侯貴族たちが「必ず手に入れる!」と意気込み、ケインの予想ははるかに超えた。
なんと、鱗2枚合計で貯水施設が4つ建てられる値段で落札され、ドラゴンの涙(約50ml)4本も合計でほぼ同じぐらいの値段で落札されたのである。落札者は教えてくれなかったが、たまたま会場警備をしていた兵士の話だと、それぞれ落札した品物は違うが、すべて第一王女の取り巻きたちが買い取ったらしい。
大金と共にケインは村に戻ってきた。(王都の兵士が護衛として付き添ってくれたので迷うことはなかった)
手にした大金は、店で待っていた女性に渡した。想像をはるかに超える大金に、女性はすぐに貯水施設と水道管の手配を始めた。
愛用のパソコンに向かって手のひらに収まる丸い物ーマウスを、指でカチカチと弾きながら、お目当ての設備の発注をしていると、店の裏側から子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
「なんか、裏が賑やかなんだけど?」
店の裏は大きな広場となっており、その広場の奥に川が流れている。川で遊んでいるのかと思ったが、それよりも近くで声が聞こえる。
「アクアたちが子供と遊んでいるのよ」
「ア…アクア?」
「子供のドラゴン。私に懐いちゃったから、村長さんに頼んで飼う許可を貰ったの」
「飼う許可って…そんなに簡単に許したのか? ドラゴン見て驚かなかったのか?」
「最初は驚いていたけど、お母さんドラゴンが田畑に水を撒いたり、お父さんドラゴンが自分の鱗を使って枯れた井戸に水を湧かせたりしたら、あっという間に人気者になっちゃったの。で、アクアは子供たちのお気に入りになっちゃって、今、裏で水遊びしているわよ」
「…なんで子供のドラゴンだけ名前ついてんの?」
突っ込みどころはそこじゃないでしょ?と言いたそうな女性は、ケインの哀れな眼差しで見つめた。
「な…なに?」
「ケインって、気にする焦点が少しずれているわね。私はてっきりドラゴンがどうやって水を撒いたのか、その方法を知りたがると思ったわ」
「いや、そこは何となく予想つくよ。口から水吹いたんだろ? ドラゴンって言ったら、口から火を噴いたり、水を吐き出すじゃん」
「あら、常識だったの?」
「普通じゃないの?」
「どの世界もドラゴンと言う生き物はおなじなのね」とポツリと呟いた女性は、マウスをカチカチと弾き続けた。
そして、
「はい、完了! 明日の朝には全部の施設が完成しているわよ」
と、堂々と宣言した。
「あ…明日!?」
「ええ。お父さんドラゴンの鱗を使った本格的な始動は明日ね。さてと、私もアクアと遊んでくるね!」
パソコンを肩に掛けているカバンの中にしまうと、裏へ繋がる扉から、店の裏へと飛び出して行った。
ケインも自然と女性の後を追った。
店の裏では、村に住む子供たちが、子供のドラゴンーアクアが口から噴き出す水を浴びて大はしゃぎしていた。
「アクア~、子供たちの子守、ありがとうね」
姿を見せた女性が声をかけると、アクアは勢いよく女性に向かって突っ込んできた。
突っ込んで来るアクアはそこら中にハートをまき散らし、犬のように尻尾を振り続けていた。女性が頭を撫でると、潰れるんじゃないのか?と思えるほど力強く抱きしめた。
「ほぉ、息子がこれだけ懐くとは、やはりただの人間ではなかったのだな」
そこに空から父親と母親のドラゴンが舞い降りてきた。母親のドラゴンは大量のリンゴを両手で抱えるように持っていた。どうやらリンゴを栽培しているおせっかいおばさんの所を手伝ってきたようだ。
「息子…って、こいつ、男なのか!?」
「ああ。それがどうした?」
(どうしたもこうしたも、恋のライバルじゃねーかよ!)ケインは女性に抱きつかれているアクアを見て、嫉妬の炎を燃やし始めた。
それに気づいたアクアは、勝ち誇った笑みをケインに見せた。
「あのやろ~~~!!!」
ワザと挑発しているアクアに、ケインの怒りはMAXになった。
女性を巡っての、ケインとアクアの戦いは今後も続いていきそうだ。
「して、ケイン。そなたの願いは叶えた。次は我の願いを聞いてほしい」
「へ?」
「我の先祖は人間に仕えてきた。だが、根拠のない噂で多くの仲間の命を奪われてきた過去があるため、我は人間に仕えることを躊躇っていた。もちろん我の妻も同じだ。静かに、家族3人だけで暮らしていこうと誓った」
「…一応、国王にはドラゴンとの共存をお願いしてきた。でも、すぐには無理らしい」
「だろうな。そう簡単には変えられないだろう」
「でも、俺はドラゴンとの共存を強く望む。たとえ国王が反対しても、俺は賛成されるまで懇願し続けるつもりだ」
「そなたならそう言うと思った。そこでだ、ケイン。我と契約を結ばないか?」
「契約?」
「人間とドラゴンの共存を望むだけでは、何を言っても前へは進まないだろう。だったら、人間とドラゴンが共存できるお手本を作ればいい。人間とドラゴンが何の隔たりなく暮らしている姿を見れば、考えは変わるはずだ」
「それはいい考えだ…」
確かに言葉だけでは伝わらないことがある。実際に見ればこちらの思いも伝わるだろう。
「百閒は一見に如かず…だね」
女性が口を挟んできた。
「ひゃ…ひゃくぶん…?」
「私が前にいた場所の言葉なの。沢山聞いても、一目見ればそのすべてが分かるっていう意味。私はお父さんドラゴンの意見に賛成だよ」
「で…でも、契約ってどうやれば…」
「簡単簡単。契約を結びたい動物…今回はお父さんドラゴンとお母さんドラゴンに向かって、名前を呼んであげればいいの。このアクアみたいにね」
「ね!」と女性がアクアに呼びかけると、アクアはキュウキュウ鳴きながら何度も頷いていた。
名前と言われても……。
今まで自分でペットを飼ったこともなく、他人に名前を付けたことがないケインは頭を悩ませた。
変な名前は付けられない。
でも、カッコいい名前は思いつかない。
なににしよう…しばらく悩んだケインに、ある名前が浮かんだ。
「オルシアとシエル…ってどう?」
「オルシアとシエル?」
「水の神と雨の女神の名前なんだ。神様の名前、勝手に使ったら怒られると思うんだけど、神の名前ならカッコいいかな…って」
父親ドラゴンと母親ドラゴンはお互いに顔を見合わせると、小さく頷き合った。
2匹をドラゴンは、ケインの向かって頭を下げた。
「ケイン、2人の名前を呼んであげて。〇〇と名付けるって言えばいいのよ」
女性は先にアクアと契約を済ませてある為、手順を知っている。女性の指導の元、ケインは2匹のドラゴンと契約を交わした。
「男ドラゴンをオルシア、女ドラゴンをシエルと名付ける」
ケインが2人の名前を呼ぶと、2匹のドラゴンが青い光に包まれた。
「我、オルシアは、何時如何なる時も主ケインに仕えることを誓う」
「私、シエルは、何時如何なる時も主ケインに仕えることを誓います」
そう宣言すると体を包んでいた青い光が集まりだし、2匹の前に青い球体となって浮かび上がった。
「ケイン、右手を前に差し出して」
女性に促され、ケインは右腕を前に差し出した。
すると、青い球体が、ケインの差し出した右腕に向かって移動し、右手首を青く包み込んだ。
一瞬、強い光が放たれ、目を閉じたケインが、恐る恐る目を開くと右手首に水色の編み込まれた紐のようなものが2本巻き付いていた。そしてその編み込まれた紐をよく見てみると「オルシア」「シエル」という名前が黒い紐で織り込まれていた。
「契約に成功すると、ミサンガが手首に巻かれるの」
女性はジブの右手首を見せた。女性の手首にも水色の編み込まれた紐ー彼女ごとくミサンガと言うらしいーが巻かれていた。
「青は水系攻撃をする動物との契約の証なんだって。炎系は赤、風系は緑、地面系は茶色、雷系は黄色なんだって。アクアやオルシア、シエルは水ドラゴンだから水系攻撃をするタイプってことね」
「え? じゃ…じゃあ、これから出会う動物も契約していけば、仲間にできるってこと!?」
「そこは頑張り次第じゃないかしら。因みに、10本貯まると、違った形に変化するみたいよ」
どこから仕入れた情報ですか?と突っ込みたいケインは、女性が話す言葉を聞き取るのがやっとで、理解はできていなかった。
目の前で契約する光景を見ていた子供たちの目はキラキラと輝いていた。
「お兄ちゃん、凄い!!」
「青くぱぁーって光った!!」
「ドラゴンさん、青く光ってかっこよかった!!」
子供たちから「凄い!凄い!」と歓声が上がり、ケインはあっという間に子供たちに取り囲まれた。歓声に湧く子供たちに囲まれ、気分を良くしたのかケインの表情は歪みっぱなしだった。
「ドラゴンは背中に乗ることもできるわよ」
「マジで!?」
移動が楽になる!!と喜ぶケインに、
「これで方向音痴も治るわね」
と女性から追い打ちを掛けた。
本当にこれで方向音痴が治るのだろうか…?
<つづく>
「結構、お金貯まったから、建て替えちゃった」
何の躊躇いもなく店を建て替える女性。
しかも、いつ建て替えたのか、工事をしている様子もなく、ある日突然、三階建ての建物が出現したのである。
「いつ建て替えたの!?」
昨日までは古びた店だったのに、今日来たら新しい三階建ての建物に変わっていることに、ケインは目が飛び出るほど驚いていた。
「昨日、建て替える手続きをして、今日、完成したのよ」
「はぁ!? 一日でこんな大きい建物ができるの!?」
「ちょっとした魔法を使ったのよ。村長さんにも、こういう外見で作りますって報告しているから、景観を気にしている人も反対しなかったわ」
確かに、建て替えられた店の外見は、周りのレンガ造りの建物と同じで、入り口に設けられているテラスは木材を使用し、木の温もりを感じさせてくれる。
内部も外見のレンガの壁とは対照的で、床は木材を使用し、カウンターは黒く塗られているがこれも木材を使っている。テーブルや椅子は金属らしい物が使われているが、それでも冷たい雰囲気はない。昨日までは使い込まれた木のテーブルや椅子だったのに、一晩で揃えるには搬入などで目立つはずなのに、搬入される現場は見たことがない。
なぜ、たった一日でこれだけ変えられることができるのか…。
もしかしたら女性は魔術が使えるんじゃないか…。
もしかしたらこの女性は関わってはいけない人ではないだろうか…。
いろいろな思いが巡るケインは、女性が怖いと思わなかった。
むしろ尊敬という言葉しか出て来ない。
「さてと、ケインは今から暇かしら?」
クルリと振り向く女性の手には、一枚の紙が握られていた。
「暇は暇だけど…」
「じゃあ、付き合ってくれるかしら? 村長さんからこれを頼まれたの」
そう言いながら女性は握っていた紙を広げて、ケインの前に差し出した。
そこには、ある言葉が書き込まれていた。
「”ある湖にドラゴンが出没したとの情報を得た。即刻、調査せよ”!?」
「王都からの依頼なんですって。なんでも、この村の隣にある湖にドラゴンらしき魔物が出て、王都とこの村を結ぶ貿易に影響が出ているみたいなの。今から調査しに行くんだけど、ケインも行く?」
さらりと言う女性。
ドラゴンと言えば、あたり一面に火を吐き、村ひとつがあっという間に焼野原にしてしまう凶暴な魔物と聞く。そんなドラゴンの調査に出かけるのは、命を捨てるようなものだ。
それを、女性はさらりと言っている。どういう神経をしているんだ!?
ケインは平然と依頼を受けてくる女性が信じられなかった。
ケインと女性は日帰りで行ける湖へと向かった。
女性は何度かこの湖に来ていたらしい。
「ちょっと欲しい物があってね、週に一回は来ているわよ」
「なんでそんなに頻繁に来るんですか?」
「ここの湖の水は綺麗だからね。飲料水としてある程度のストックが欲しかったの」
「それぐらい、俺が採ってくるよ。魔物が出たらどうするんだよ」
「日帰りで行ける湖まで3日も掛かるケインには頼めないわよ」
「だから、何度もやれば覚えるって。一人で行くなんて危ないよ」
「大丈夫。ここに出没する魔物はランクが低いから。大体、ゲームを始めたばかりの冒険者がすぐに行ける場所なんて、レベルが低くて当たり前なんだから」
「…何言ってるのか分かんない…」
時々、変な事を言う女性にケインは付いていけなくなる。
女性は何処で知識を得ているのか。
少なくともケインの住む村にはない知識を持っている。王都で得た知識かと思ったが、時々、王都から役人が相談に来ることもあるため、違う地域で得たのだろうか。
その前に、ケインは女性がどこから来たのか聞いたことがない。女性が話そうとしないことも影響しているが、出身地をはじめ、家族の事も、誕生日すら教えてもらっていない。別に聞かなくても、こうして接することができるのだから、女性が話すまで待つことにした。
朝早くに村を出た2人は2時間ほどで湖に着いた。
「とりあえず……湖の水を採取しなくちゃ」
そう呟いた女性は、肩から掛けていた小さなカバンに手を入れた。
すると小さなカバンから透明な筒を30本も取り出した。
「え!? それ、どこに入ってたの!?」
「魔法を使っただけよ。ケインも手伝って。足元に地面から湧き出しているところがあるでしょ? その近くで水を汲んでほしいの」
よく見ると、足元の岸辺のあちこちに地面から水がコンコンと湧き出ていた。
不思議なことに、湧き出ている場所には生き物は一匹もおらず、草も何も生えていなかった。まるで「どうぞ、ここから水を汲んでください」と言わんばかりに、水汲みの障害となるものは何もなかった。
ケインは女性から手渡された透明な筒ー高さ30センチはある四角い透明な筒をいろんな角度から見た。
触ってみると弾力があり、強く押すと潰れてしまいそうだ。女性が汲み終わった筒を見てみると、液体を中に入れてるのに、外に漏れてこないし、染み出ても来ない。上部に行くにつれ中央に窄まっていき、最上部には蓋がついている。その蓋は厚みはあるが中は空洞。筒の窄まったところに回すようにはめると、ピタリと封がされる。試しに液体が入った筒を逆さまにしてみたら、なんと零れない!
「これ、なんですか!?」
興味津々な顔でケインは女性に質問した。
すでに3本目を汲み終わっている女性は蓋を締めながら、
「私のいた場所ではペットボトルって呼んでいるわ」
「ペット…ボトル?」
「液体を入れておく道具よ。このまま凍らせることもできるのよ。頑丈だから落としても割れないし、寒くなると暖かい飲み物を入れて売られることもあるわ」
「樽とか皮の水入れよりも便利そうですね」
「衛生的にも優れているわね。それより、ケイン。水汲みをちゃんとやって。まだまだ汲まないといけないの」
女性が向ける視線の先には、まだ大量の空の筒ーペットボトルが置かれていた。気のせいだろうか、さっきより数が増えている気がする…。
「どれだけ汲むんですか?」
「できるだけ多く」
「だからどれくらい?」
「口より手を動かす!」
「……終わりが見えない……」
正式な数を教えられることなく、ケインは地味な水汲みを手伝い始めた。
「これで終わり…と」
女性は蓋を締めたペットボトルを地面に置いた。
ずらっと並んだ179本のペットボトルは圧巻な光景だ。
「すごい数」
その光景にケインは圧倒していた。
「ストックの最大が999本だからね。しばらく来れないから、最大ストックまで採取したの。さてと、カバンの中に入れなくちゃ」
そういうと、女性は肩から掛けた小さいカバンの中に水が入ったペットボトルを次から次へと放り込んでいった。不思議なことにカバンは膨れ上がることなく、その大きさを変えることもなく、179本全てをカバンの中に納めた。
「元々、空の物が入っていたんだ。もう驚かないよ…」
むしろ、その数よりも、重たいペットボトルを木の実を放り投げるように、軽々とカバンにしまう女性の怪力のほうに驚くばかりだ。
女性が多くの水を汲むのには理由がある。
ここ最近、雨が降らない日々が続き、村の井戸が枯れ始めているのだ。なんとか農業用の水は確保されているが、村の近くを流れる川も枯れ始め、このまま日照りが続くと村の存続が危ぶまれる。
女性は週に一度、この湖まで水を汲みに来ては、村人たちに配っていた。最初は学校や病院などに無償で配っていたが、そのうち水を必要とする人が増え、更に今までタダで手に入っていた水を高額で売り出す悪徳業者まで現れた。
何かいいアイディアはないかと考えたが、自然現象のコントロールは、どんな知識があってもできないことだ。
最後の一本に手をかけたその時、女性は動きを止めた。
「どうかしたの?」
ケインが声をかけると、女性は人差し指を自分の唇に持っていき「静かに」と小声で注意してきた。
声を潜めていると、しばらくして頭上を大きな影が横切った。
上を見上げると、ケインは大きく口を開けたまま立ち尽くした。
なんと上空に3匹の水色のドラゴンが大きな翼を広げて飛んでいたのである。
その水色のドラゴンは、湖の上空を何回かぐるぐると回ると、一匹ずつ湖の水面に着水してきた。
飛んでいたときは気づかなかったが、3匹のうち1匹は体が他と比べて小さい。
「ドラゴンの親子ね」
岸辺に立つ女性は恐れることなく、ドラゴンの親子を見ていた。
それに引き換え、ケインは木の陰に隠れ、全身を震わせていた。
「本当に異世界なのね、ここ」
女性の声が弾んできた。
目をキラキラと輝かせながら、ドラゴンの親子を見ている女性は、この瞬間を待ち望んでいたかのようにワクワクが抑えきれなくなったきた。
「だ…大丈夫なんですか?」
木の陰から見守っているケインは、やはりそこから動こうとしなかった。
女性を守ると言っていたにも関わらず、実際の行動に女性も期待していなかった。
しばらくドラゴンの親子を見ていると、ふいに子供のドラゴンと女性の目が合った。
好奇心旺盛な子供のドラゴンは、岸辺に立つ女性の元に近づいてきた。すると子供のドラゴンは自分から顔を女性に近づけ、彼女の顔に頬ずりしてきた。
初めて見るドラゴンに興奮していた女性は、自らすり寄ってきた子供のドラゴンに飛びついた。
「凄い! 凄い! 本物のドラゴンだ!」
今迄、女性がはしゃぐ姿を見たことがないケインは、ドラゴンと戯れる彼女を見て驚いていた。怖いイメージがあるドラゴンが人間に懐くことも珍しい光景だ。
「ほぉ、我(われ)を怖がらないとは、珍しい人間だ」
子供のドラゴンと戯れていた女性に、-たぶん父親だろうー3匹の中で一番体が大きいドラゴンが彼女に声をかけてきた。
よく見ると父親のドラゴンは体の色が子供のドラゴンと少しだけ違っていた。子供のドラゴンは水色一色だったが、父親のドラゴンは水色の体ではあるが日が当たるとキラキラと輝いた。水を浴びていたから?と思ったが、体には透明な鱗があり、それが日に当たるとキラキラと輝いていたのだ。
「ドラゴンに会いたかったんです! まさか本当にいるなんて! ここに来て7年。やっと願いが叶ったわ!」
大興奮で話す女性の目がますます輝いていった。
「人間自ら会うことを願うとはな。人間は敵ばかりだと思っていた」
「あなたは何を司るドラゴンなんですか? ドラゴンって、火のドラゴン、風のドラゴン、水のドラゴンとか言われることあるんですよね? あなたたちは何のドラゴンなんですか?」
「そこまでの知識があるのか。我は見てのとおり【水のドラゴン】と呼ばれている」
「じゃ…じゃあ、ドラゴンの生き血を飲むと不死身になるって言うのは本当!? ドラゴンの肉って高難度の薬の材料になるって本当!? ドラゴンの涙ってどんな傷も治すって本当!?」
次から次へと出てくる質問に、父親のドラゴンは驚いていた。
まだこのような知識を持つ人間がいるとは…。
父親のドラゴンは、ここまで知識のある人間に会うのはかなり久しい。何百年と生きてきたが、このような知識を持つ人間は数人にしか会ったことがない。ほとんどの人間は危害を加える生き物として、存在そのものを排除しようとしてきた。
だが、この女性は違う。目の前にいる女性は、敵ではない。
「そなたの知識は素晴らしいな。どこで知り得た?」
「私が前にいた場所での知識です。この世界では通用しない知識なんですか?」
「いや、ほぼあっている。だが、すべてのドラゴンが同じではない。生き血は【火のドラゴン】でなければ効果はない。肉というよりも、ドラゴンの舌は万能の薬として使われることがある。これも【火のドラゴン】でなけれが効果はない。【風のドラゴン】の鱗はどんな攻撃も弾くと聞く。我【水のドラゴン】の涙は怪我を治すことはできるが死人を生き返らせることはできない。また、【水のドラゴン】の鱗を樽や井戸に放り込めば無限に水を湧き上がらせることができる」
「無限に!?」
「先ほどから見ていたが、そなたは大量の水を必要としているようだな。出会えた記念だ。我の鱗を一つやろう」
そう言いながら、父親のドラゴンは自分に口で鱗を一枚剥がすと、女性の前に差し出した。
だが女性は手を差し出すことはしなかった。
「どうした? いらないのか?」
「あなたの気持ちは嬉しいけど、これを必要としているのは私ではないわ」
「ほぉ、自分の利益より他人の利益を最優先にするのか?」
「私はここに来ればいくらでも水は汲める。でも村の人たちは決まった量しか持ち帰れない。農業をしている人は一日に何往復しないと畑を潤すことができない。私、あの村の人たちを助けたい」
「自分は苦しくなってもいいのか?」
「あら、村の人たちが助かるのなら、私も助かるわ」
「なぜ?」
「私もあの村の一員だもの。皆が助かるのなら私も助かるってことでしょ? 私が犠牲になることはないわ」
女性はきっぱりと言い切った。
それを聞いた父親のドラゴンは「こんな人間もいるんだな」と小さな声で呟いたと思ったら、突然大きな声で笑い出した。
「な…なんだ?」
木の陰から見ていたケインは、空気が和んでいることに驚いた。
攻撃はしてこないだろうと、意を決して岸辺へと足を向けると、それまで笑い続けていた父親のドラゴンがケインを睨み付けてきた。
「ひぃっ!!」
短い悲鳴をあげ、逃げ出そうとしたケインの前に一匹のドラゴンが降り立ち、行く手を塞いだ。母親のドラゴンがケインの前に降り立ったのだ。
「うわぁ!?」
いくら危害を与えないと言っても、間近で見ると迫力がある。怖い物は怖いのだ。
母親のドラゴンの前で腰が抜けてしゃがみこんでしまったケインは、必死に逃げようとしているが、ただもがくだけで1ミリも動けていなかった。
そんなケインを、母親のドラゴンが口で軽く加え、女性と父親のドラゴンの前まで連れてきてくれた。
子供のドラゴンは女性が気に入ったのか、ずっと頬ずりをしていた。そんな子供を父親のドラゴンが優しいまなざしで見つめていた。
そこに母親のドラゴンがケインを口に喰われてやってきた。
「あ、ケイン。どこに行ってたの?」
「そなたの知り合いか?」
「同じ村の住人です。ケイン、村の現状を話してあげて。話の内容によってはドラゴンが力を貸してくれるそうよ」
母親のドラゴンに地面に降ろしてもらったケインはまだ立ち上がれなかった。
そんなケインを、父親のドラゴンが睨み付けるように見下ろした。子供を見ていた時とは全く違う鋭い眼に、ケインはビクビクしている。
「恐れるではない。我はそなたの話が聞きたい」
「話しって言っても…座ったままだと失礼じゃないのか?」
ケインは自分が立ち上がれない事を詫びた。
父親のドラゴンはまた豪快に笑い出した。
「気にするでない。我はそこまで厳しくない」
かっかっかっ!と笑う父親のドラゴン。
なんとなく気が緩んだケインは、今の村の状態を話し始めた。
ここ何日も続く日照りで、田畑が枯れ始めている事。
満足のいく作物が育たず、家畜に与える餌も不足し始めている。
村の端の方では、井戸水に泥が混じり始め、飲み水を高値で売り出す輩まで現れ始めた。ただでさえ、主な収入である作物が育たないのに、飲み水を高い金を出してまで買うわけにはいかず、だからと言って女性にこの湖まで水汲みに来させるのもどうかと思う。
せめて雨が降れば、近くの川が潤うので、多少は水の確保ができるはず。
「して、そなたの村にはいくつの井戸がある?」
「そんなに大きい村じゃないけど、100近くはあると思う。家の中に井戸を持っている人もいるし、大きい畑だと水撒きの為に沢山の井戸を持つ農家もある」
「そんなにあるのか。我の鱗を井戸に入れれば、我が生きている限り水は絶えることはない。だが、それだけの数があるのなら、我の鱗が足りないだろう」
「だから、雨さえ降ってくれればそれだけでいいんだよ」
「それでは村は潤わない」
「なんで?」
「たとえ雨が降っても、再び日照りが続けばまた同じ状況になる。それだったら、どこかに水を貯える場所を作り、そこから村に供給した方がいいだろう。蓄える場所に我の鱗を使えば、水は枯れることはない」
「貯める場所か……」
ケインも父親のドラゴンも「う~~ん」と唸りだした。
その様子を見ていた女性は
「その施設、なんとかなるかもしれない」
とポツリと呟いた。
「何かいい案でもあるのかね?」
「村の北側に高台があるんだけど、そこに貯水施設を作って、村の井戸すべてに水道管を張り巡らせたら、井戸が枯れることはないと思うの」
「「チョスイシセツ? スイドウカン?」」
初めて聞く言葉に、ケインも父親のドラゴンも同じ方向に首を傾げた。長い間生きているが、父親のドラゴンも初めて聞く言葉のようだ。
「私が前にいた場所では当たり前にある設備なの。でも、村全体に水道管を張り巡らせるとなると、莫大なお金がかかるのよね。お店を建て替えちゃったから、残金も少ないし…」
「どれぐらい欲しい!?」
「ちょっと待ってね」
女性は肩に掛けた小さいカバンから、パソコンを取り出した。
「ほぉ、アイテムボックス持ちか。彼女はこの世界の人間ではないな」
「え!? どういうこと!?」
「そなたは彼女から聞いていないのかね?」
「何を?」
「……そうか、それが彼女のやり方か。そういう人間もおるのだな」
一人で納得する父親のドラゴンに、ケインは何となく悔しい感じがした。
女性と自分は見えない絆で結ばれている気がするが、このドラゴンは女性と秘密を共有しているようで、自分が立ち入れない空間ができたように感じる。
パソコンをいじっていた女性は、何やらお目当ての物が見つかったようだ。
「えっと…貯水施設が200万ぐらい、水道管は耐久がいいのを使いたいから…村全体だと500万でいけるかな?」
「合わせて700万!?」
「でも、貯水施設は一つよりも2つか3つあったほうがいいわね。メンテナンスとか、何かの不具合で使えなくなると大変だものね。ついでに下水処理施設なんかも作った方がいいのかな? ストックを全部売っても100万になればいいけど……」
今度は女性が唸りだしてしまった。
ふと、女性が父親のドラゴンを見上げた。
「な…なんじゃ?」
「ねえ、ドラゴンの鱗っていくらぐらいで売られている物なの?」
「我の鱗は、他のドラゴンと違って生活に直結している。かなりの高値で売買されていると聞く」
「ドラゴンさん、お願いがあるんだけど…」
「なんじゃ?」
女性は一度に大金が入る方法を思いついたのか、父親のドラゴンにある頼みごとをした。
今回、王都からドラゴンの調査依頼を受けた。調査なので、湖にドラゴンが出没しているかの情報だけで依頼は終了し、情報料としていくらかは報酬が出る。出没していれば、きっと国王が兵を寄越して退治するだろう。
そこで、女性はドラゴンを退治したと報告をする。もちろん本当に退治するのではなく、偽の情報を伝える。退治したとなると、必ず国王は証拠を差し出せと言うはずだ。そこで、国王には退治した証拠として、鱗を4枚、瓶に詰めたドラゴンの涙を6個差し出す。もちろん、ただ渡すのではなく、鱗を使うと水が永遠に湧き出すところを、涙を使って怪我を治すところを実際に見てもらう。(本当はその個体であるドラゴンが生きていないと効果はないのだが、そのことはあえて言わない)
その光景を見れば国王は高額で買い取ると言い出す。しかし、金持ちの貴族たちは金儲けできると目論見、値を張り上げてくるだろう。
そこで女性が提案するのは……
「では、ここはオークションで取引しましょう」
王宮の謁見の間で、国王を始めとする王侯貴族にドラゴン退治を報告したケインは、証拠品の買取方法を提案した。
「オークションとはなんだね?」
国王は初めて聞く言葉に、身を乗り出して聞き返した。
「遠い遠い国で行われる、誰もが納得する買取方法です。ここにドラゴンの鱗があります。わたしはこの鱗を1枚10万で買い取っていただきたいと思います」
「10万なんて安すぎる。わたしは倍の20万で買い取ろう」
「いやいやわたしは50万で買い取る」
「ならわたしは100万だ!」
どんどんと跳ね上がっていく値段に、少しニヤニヤしていたケインだったが、ここでニヤついてしまったら、話がまとまらない。
勝手に値段を上げていく声を阻止するように、ケインは大きな咳払いをした。
その咳払いに、全員が黙り込んだ。
「このように、値段を上げる声が飛び交います。その声は値段が高くなれば高くなるほど少なくなっていきます。最後には一人の人が最高高値を宣言します。その最高金額より高く買う声がなくなれば、最後に高値を宣言した方が買い取ります。これを落札と言います。どうでしょうか、国王様。この方法なら誰もが納得いくことでしょう」
「なるほど。そんなやり方があるのか。よかろう、これらの証拠品は明日、オークションとやらをして買い取りできる人物を選ぼう」
国王だけではなく、王侯貴族たちも納得した表情を見せた。
報告ご苦労と労りの言葉を掛けられたケインは、もう一つ、どうしても伝えたい事を国王に告げた。
「国王様、もう一つお願いがあります」
「なんだね?」
「この世界にはまだまだドラゴンは存在します。ですがそれらを退治するのではなく、このように生活に役立つように共存することを願い出てもよろしいでしょうか?」
「共存…だと?」
「はい。確かにドラゴンは人間に刃向かうかもしれません。ですが、大きな力を持つドラゴンを味方につけたとき、近隣諸国が攻めてきたら、最大の軍事力となるはずです。また、その戦力に怖気づいた近隣諸国が攻撃してこなくなると思います」
「確かにその通りだ」
「心を許したドラゴンは、人間に恩返しをします。その恩返しが国を大きく発展させるはずです。どうかドラゴンとの共存をお願いいたします」
頭を下げながら願い出るケイン。
国王は考えもしなかった案に、一つ踏み出してみようと思った。それはオークションを提案したケインに敬意を払っているのだろう。
「わかった。答えはすぐにはできないが、ゆくゆくは考えてみよう。そなたの活躍、心からお礼申す。明日の夕方までにはすべての報酬を渡す。それまで王宮に滞在されるがいい」
国王は側近に迎賓館の部屋を用意するように命じた。
迎賓館に案内される途中、ケインは華やかな一行とすれ違った。
その場にいた使用人や案内をしてくれている兵士が歩みを止め頭を下げているところを見ると、身分の高い人たちだということが分かる。
通り過ぎていったのは、茶色い髪に灰色の瞳を持つ女性と、亜麻色の髪に赤い瞳を持つ男性、黒髪に緑色の瞳を持つ男性、金髪に琥珀色の瞳を持つ男性の4人。ケインとさほど年が変わらない4人ではあったが、集団の先頭を女性が歩き、残りの3人は一歩後ろを歩いていた。女性が大きな権力を持っていることが一目だ分かる。
「あれは第一王女様とその取り巻きですよ」
部屋まで案内してくれた兵士は、あまり興味がないように教えてくれた。
「王位継承権を持っているので、我儘三昧で誰も好んで相手はしていません」
かなりきつい事を言っているが、部屋で待っていた使用人も「うんうん」と大きく頷いていた。
国王の娘は誰からも好かれるものだと思っていたが、ケインは少しキツイ顔をしていたこと思い出し、なんとなく納得してしまった。
使用人の話だと、国王には王位を継ぐことができる子供が7人いる。4人の娘と3人の息子がいるらしいが、女癖が悪い国王は他にも十数人の子供が存在するようだ。因みに7人の子供も母親が違うらしい。
だからなのか、母親たちによる次の国王の座をめぐる戦いが、目に見えなところで行われている。この国の王位継承は国王からの任命制。国王の座は35年という期間が決められている。今の国王は今年で22年目。後13年で次の国王を決めなくてはならないのだが、13年後は一番下の娘が22歳になる。一応憲法で、継承権は国王交代時に20歳以上の王子・王女に与えられるのもので、今の王子・王女は全員が対象となる。
誰が次の国王になるのか……。
(万が一、何らかの事情で国王が突然亡くなった場合は、一番上の子供が王位を継ぐ。このとき、男も女も関係なく継承されるが、同じ時期に生まれた子供たちは早く生まれた子供が継ぐことになる)
翌日、国王主催でオークションが行われた。
出品はケインが持ってきたドラゴン退治の証拠品であるドラゴンの鱗2枚とドラゴンの涙4個。鱗は4枚持っていたが、1枚は国王の目の前で使ってしまい、もう1枚は王立研究院に研究の為、渡してしまった。だが王立研究院からそれなりに報酬(貯水施設の頭金にできるぐらい)は貰っている。ドラゴンの涙も同じで、一つは国王の前で使い、残り一本は王立研究院に渡し(こちらも鱗と同じ値段の報酬を受けた)、残った4個を出品した。
珍しい物の為、また金儲けに目がくらんだ王侯貴族たちが「必ず手に入れる!」と意気込み、ケインの予想ははるかに超えた。
なんと、鱗2枚合計で貯水施設が4つ建てられる値段で落札され、ドラゴンの涙(約50ml)4本も合計でほぼ同じぐらいの値段で落札されたのである。落札者は教えてくれなかったが、たまたま会場警備をしていた兵士の話だと、それぞれ落札した品物は違うが、すべて第一王女の取り巻きたちが買い取ったらしい。
大金と共にケインは村に戻ってきた。(王都の兵士が護衛として付き添ってくれたので迷うことはなかった)
手にした大金は、店で待っていた女性に渡した。想像をはるかに超える大金に、女性はすぐに貯水施設と水道管の手配を始めた。
愛用のパソコンに向かって手のひらに収まる丸い物ーマウスを、指でカチカチと弾きながら、お目当ての設備の発注をしていると、店の裏側から子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
「なんか、裏が賑やかなんだけど?」
店の裏は大きな広場となっており、その広場の奥に川が流れている。川で遊んでいるのかと思ったが、それよりも近くで声が聞こえる。
「アクアたちが子供と遊んでいるのよ」
「ア…アクア?」
「子供のドラゴン。私に懐いちゃったから、村長さんに頼んで飼う許可を貰ったの」
「飼う許可って…そんなに簡単に許したのか? ドラゴン見て驚かなかったのか?」
「最初は驚いていたけど、お母さんドラゴンが田畑に水を撒いたり、お父さんドラゴンが自分の鱗を使って枯れた井戸に水を湧かせたりしたら、あっという間に人気者になっちゃったの。で、アクアは子供たちのお気に入りになっちゃって、今、裏で水遊びしているわよ」
「…なんで子供のドラゴンだけ名前ついてんの?」
突っ込みどころはそこじゃないでしょ?と言いたそうな女性は、ケインの哀れな眼差しで見つめた。
「な…なに?」
「ケインって、気にする焦点が少しずれているわね。私はてっきりドラゴンがどうやって水を撒いたのか、その方法を知りたがると思ったわ」
「いや、そこは何となく予想つくよ。口から水吹いたんだろ? ドラゴンって言ったら、口から火を噴いたり、水を吐き出すじゃん」
「あら、常識だったの?」
「普通じゃないの?」
「どの世界もドラゴンと言う生き物はおなじなのね」とポツリと呟いた女性は、マウスをカチカチと弾き続けた。
そして、
「はい、完了! 明日の朝には全部の施設が完成しているわよ」
と、堂々と宣言した。
「あ…明日!?」
「ええ。お父さんドラゴンの鱗を使った本格的な始動は明日ね。さてと、私もアクアと遊んでくるね!」
パソコンを肩に掛けているカバンの中にしまうと、裏へ繋がる扉から、店の裏へと飛び出して行った。
ケインも自然と女性の後を追った。
店の裏では、村に住む子供たちが、子供のドラゴンーアクアが口から噴き出す水を浴びて大はしゃぎしていた。
「アクア~、子供たちの子守、ありがとうね」
姿を見せた女性が声をかけると、アクアは勢いよく女性に向かって突っ込んできた。
突っ込んで来るアクアはそこら中にハートをまき散らし、犬のように尻尾を振り続けていた。女性が頭を撫でると、潰れるんじゃないのか?と思えるほど力強く抱きしめた。
「ほぉ、息子がこれだけ懐くとは、やはりただの人間ではなかったのだな」
そこに空から父親と母親のドラゴンが舞い降りてきた。母親のドラゴンは大量のリンゴを両手で抱えるように持っていた。どうやらリンゴを栽培しているおせっかいおばさんの所を手伝ってきたようだ。
「息子…って、こいつ、男なのか!?」
「ああ。それがどうした?」
(どうしたもこうしたも、恋のライバルじゃねーかよ!)ケインは女性に抱きつかれているアクアを見て、嫉妬の炎を燃やし始めた。
それに気づいたアクアは、勝ち誇った笑みをケインに見せた。
「あのやろ~~~!!!」
ワザと挑発しているアクアに、ケインの怒りはMAXになった。
女性を巡っての、ケインとアクアの戦いは今後も続いていきそうだ。
「して、ケイン。そなたの願いは叶えた。次は我の願いを聞いてほしい」
「へ?」
「我の先祖は人間に仕えてきた。だが、根拠のない噂で多くの仲間の命を奪われてきた過去があるため、我は人間に仕えることを躊躇っていた。もちろん我の妻も同じだ。静かに、家族3人だけで暮らしていこうと誓った」
「…一応、国王にはドラゴンとの共存をお願いしてきた。でも、すぐには無理らしい」
「だろうな。そう簡単には変えられないだろう」
「でも、俺はドラゴンとの共存を強く望む。たとえ国王が反対しても、俺は賛成されるまで懇願し続けるつもりだ」
「そなたならそう言うと思った。そこでだ、ケイン。我と契約を結ばないか?」
「契約?」
「人間とドラゴンの共存を望むだけでは、何を言っても前へは進まないだろう。だったら、人間とドラゴンが共存できるお手本を作ればいい。人間とドラゴンが何の隔たりなく暮らしている姿を見れば、考えは変わるはずだ」
「それはいい考えだ…」
確かに言葉だけでは伝わらないことがある。実際に見ればこちらの思いも伝わるだろう。
「百閒は一見に如かず…だね」
女性が口を挟んできた。
「ひゃ…ひゃくぶん…?」
「私が前にいた場所の言葉なの。沢山聞いても、一目見ればそのすべてが分かるっていう意味。私はお父さんドラゴンの意見に賛成だよ」
「で…でも、契約ってどうやれば…」
「簡単簡単。契約を結びたい動物…今回はお父さんドラゴンとお母さんドラゴンに向かって、名前を呼んであげればいいの。このアクアみたいにね」
「ね!」と女性がアクアに呼びかけると、アクアはキュウキュウ鳴きながら何度も頷いていた。
名前と言われても……。
今まで自分でペットを飼ったこともなく、他人に名前を付けたことがないケインは頭を悩ませた。
変な名前は付けられない。
でも、カッコいい名前は思いつかない。
なににしよう…しばらく悩んだケインに、ある名前が浮かんだ。
「オルシアとシエル…ってどう?」
「オルシアとシエル?」
「水の神と雨の女神の名前なんだ。神様の名前、勝手に使ったら怒られると思うんだけど、神の名前ならカッコいいかな…って」
父親ドラゴンと母親ドラゴンはお互いに顔を見合わせると、小さく頷き合った。
2匹をドラゴンは、ケインの向かって頭を下げた。
「ケイン、2人の名前を呼んであげて。〇〇と名付けるって言えばいいのよ」
女性は先にアクアと契約を済ませてある為、手順を知っている。女性の指導の元、ケインは2匹のドラゴンと契約を交わした。
「男ドラゴンをオルシア、女ドラゴンをシエルと名付ける」
ケインが2人の名前を呼ぶと、2匹のドラゴンが青い光に包まれた。
「我、オルシアは、何時如何なる時も主ケインに仕えることを誓う」
「私、シエルは、何時如何なる時も主ケインに仕えることを誓います」
そう宣言すると体を包んでいた青い光が集まりだし、2匹の前に青い球体となって浮かび上がった。
「ケイン、右手を前に差し出して」
女性に促され、ケインは右腕を前に差し出した。
すると、青い球体が、ケインの差し出した右腕に向かって移動し、右手首を青く包み込んだ。
一瞬、強い光が放たれ、目を閉じたケインが、恐る恐る目を開くと右手首に水色の編み込まれた紐のようなものが2本巻き付いていた。そしてその編み込まれた紐をよく見てみると「オルシア」「シエル」という名前が黒い紐で織り込まれていた。
「契約に成功すると、ミサンガが手首に巻かれるの」
女性はジブの右手首を見せた。女性の手首にも水色の編み込まれた紐ー彼女ごとくミサンガと言うらしいーが巻かれていた。
「青は水系攻撃をする動物との契約の証なんだって。炎系は赤、風系は緑、地面系は茶色、雷系は黄色なんだって。アクアやオルシア、シエルは水ドラゴンだから水系攻撃をするタイプってことね」
「え? じゃ…じゃあ、これから出会う動物も契約していけば、仲間にできるってこと!?」
「そこは頑張り次第じゃないかしら。因みに、10本貯まると、違った形に変化するみたいよ」
どこから仕入れた情報ですか?と突っ込みたいケインは、女性が話す言葉を聞き取るのがやっとで、理解はできていなかった。
目の前で契約する光景を見ていた子供たちの目はキラキラと輝いていた。
「お兄ちゃん、凄い!!」
「青くぱぁーって光った!!」
「ドラゴンさん、青く光ってかっこよかった!!」
子供たちから「凄い!凄い!」と歓声が上がり、ケインはあっという間に子供たちに取り囲まれた。歓声に湧く子供たちに囲まれ、気分を良くしたのかケインの表情は歪みっぱなしだった。
「ドラゴンは背中に乗ることもできるわよ」
「マジで!?」
移動が楽になる!!と喜ぶケインに、
「これで方向音痴も治るわね」
と女性から追い打ちを掛けた。
本当にこれで方向音痴が治るのだろうか…?
<つづく>
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