選ばれた勇者は保育士になりました

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第18話  王子と歌姫の恋物語

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 決戦後、コロリスは一度、旅一座に戻り、団長に辞めることを告げた。
 団長は思い留まるように説得したが、コロリスの意思は変わらなかった。

 自分に与えられたテントに戻ったコロリスは、身の回りの整頓を始めた。と、言っても、自分の物は一つもない。屋敷を出る時、少しの所持金だけで他には何も持ってこなかったのだ。今、手元にある自分の物と言えば、エテ王子から貰ったペンダントのみ。
 テントの外からグリフォンのヴァンの鳴き声が聞こえた。
「コロリス、ちょっといいかい?」
 テントに入ってきたのは副団長だった。副団長は猛獣使いをしており、ヴァンが暴れた時鞭を使って操ろうとした女性だ。
「副団長」
「話したい事がある。ヴァンも連れてきていいから、散歩に付き合ってくれないか?」
「は…はい…」
 副団長はテントから出てきたコロリスを連れて、近くの公園へと向かった。

 すでに日は落ち、人気のなくなった公園は噴水から噴き出す水の音と、辺りを吹き渡る風にそよぐ木々の木の葉が触れあう音だけが響いていた。
「辞めるんだってね」
「あ…はい…。すみません、急に…」
「別にいいさ。行きたいところが出来たらそこに行くのが私たちの生き方。コロリスも行きたいところが出来たんだろ?」
「行きたいところっていうか…帰るべきところ……と言った方がいいでしょうか」
「王都の国立歌劇団団長の所……だね?」
「え!?」
「コロリス・クオランティ子爵令嬢。あんたの本当の名前だね?」
「どうしてそれを…」
 一度も本名を名乗ったことがないのに、なせ副団長は知っているのか。コロリスは警戒しだした。
 そんな様子に副団長は、フッと小さく笑った。
「私もね、国立歌劇団に在籍していたのさ。まだコロリスが生まれる前だけどね」
「え!?」
「ピアノ弾きだったあんたの父親と、一緒にステージに立っていたのさ。私もね、あんたの父親に恋心を抱いていた。でも打ち明けられなかった。あんたの父親は、すでに両想いの人がいたからね」
「……わたしの母…ですか?」
「本当にとんでもない大恋愛だよ。ただのピアノ弾きと貴族の令嬢の恋物語。一座で上演したら人気が出るぐらい素晴らしい物語だったよ」
 噴水の淵に座った副団長は、星空を見上げた。
 どこか遠くを見ているような目に、コロリスは釘付けになった。
「あんたの母親、本当だったら国王の側室になるはずだったんだよ。王妃が子を産めない体になって、王妃が認めた側室を決める時、あんたの母親は頑なに断り続けた。想い人がいる。その人以外とは結婚しない。その人と結婚できないのなら命を絶つ。そこまで思っていたんだな、あんたの父親の事を」
「…初めて知りました…」
「もうだいぶ前の話だ。あんたの両親の結婚は王妃が承認になってくれた。実は王妃の侍女がある陰謀に嵌められて、国王の子を身ごもってしまったことがある。一部の噂では王妃を陥れるための事だったらしいが、悲しい事に侍女の本当の婚約者は死に、侍女の両親や親族も亡くなった。哀れに思った王妃が、王妃の実家と養子縁組を組んだが、侍女も男の子を出産してしばらくして亡くなってしまった。生まれた子供は王妃の甥として第三王子という地位に就くことができたそうだ。王妃にとって王室と関わって命を落とす事がないように、あんたの両親の結婚を認めたのかもしれない」
「……どうして詳しいんですか?」
「どうしてだと思う?」
「……」
「まだ誰にも言っていないけど、私の名前はアナスタシア・クオランティ。あんたの母親の姉だよ。異母だけどね」
「伯母…さま?」
「母親が違うよ。あんたの母親はれっきとした貴族同士の子供。私は父が若い頃に遊んでいた時に生まれた子供。父は認知しなかった。母は私が生まれてすぐにいなくなった。孤児院で育った私だけど、歌の実力を認められてね、特別に国立歌劇団に入団した。孤児院育ちだから扱いは酷かったけど、いつも庇ってくれたのがあんたの父親だった。彼も両親がいなくてね、ピアノの才能を認められて歌劇団に入団した。生涯天涯孤独同士。惹かれるものがあったんだね。本当に好きだったんだよ、彼の事」
「……でも父は、私の母を選んだ…」
「そういうことになるね。あんたの両親が結婚すると、歌劇団の団長に彼が任命された。もう私はここに居られないと思い、歌劇団を辞め、旅一座に加わった。そして長い年月が過ぎ、あんたがこの一座にやってきた。初めて見た時、驚いたよ。あんたの母親にそっくりなんだもん。間違えていたらどうしようとも思ったけど、あんたの両親に一度だけ会いに行ったことがある。あんたを預かっている事を伝えにね」
「本当ですか!?」
「ああ。そしたらあんたの両親、私の事を覚えていたよ。それに屋敷にいた古株のメイドが、私を知っててさ、そこであんたの母親と異母姉妹だということもわかった。あんたの両親、恨んでなかったよ。代わりに今までごめんなさいって謝って、大量の金をくれた。私は別に欲しくなかったけど、娘が迷惑をかけているからって金を包んでくれた」
「……両親は帰って来いって言っていましたか?」
「いいや、何も言っていない。無理に結婚の話を進めてしまい申し訳ないと言っていた。本人が帰りたいと言うまで置いてほしいと頼まれたよ」
「どうして…」
「王室のいざござに娘を巻き込んだことを後悔しているらしい。自分たちは大恋愛の末に結ばれたのに、娘には勝手に相手を決めてしまった。娘の気持ちは自分たちがよく理解しているはずなのに、何もわかっていなかったって」
「……」
「今の王室もさ、王妃に子供がいないから後継者争いが激しくなってて、中には王室を離れたい人もいるんだって。あんたは王室を離れたかった王子の結婚相手に選ばれたようだな。あんたの家に婿として入れば王室から離れられるとでも考えた王子の餌食になってしまったようだ」
「……会ったこともない王子と結婚なんて……」
「王族は恋愛なんてしないよ。国の為に結婚する」
「……」
「コロリス、屋敷に帰ってどうするんだい? 王子との結婚を承諾するのかい?」
「わたし……わたしは……」
 俯いたコロリスの目からは大量の涙がこぼれていた。
 何かわけありで屋敷に帰るんだな…そう悟った副団長は、自分が座っている噴水の淵を軽く叩いて、ここに座って話しなさいと声を掛けた。

 コロリスはあの村で出会った青年の話をした。
 お互いに好かれ、両想いになり、会える日は限られているが、それでも顔を見るだけで幸せだった。
 だが、昨日、村が襲われ、王都からの援軍に自分を知る人物がおり、きっと自分の身分も知られてしまったのではないかと怖くなった。
 今、その想い人は怪我をしており、看病することを決めたが、彼の怪我が完治したら別れることを決意した。その為、一旦屋敷に戻り、両親を説得して修道院でも入ろうかと考えていた。
「なんで別れるんだよ。そのまま両親に紹介すればいいじゃないか」
「無理です。あの人も王都の人間です。本当の身分を知ってしまったら、きっと愛想尽きます」
「関係ないと思うんだけどな~」
「もう決めたんです。私は彼と別れます」
 一度決めたら何があっても曲げないところは、彼女の母親そっくりだ。
 副団長は、異母妹の性格をよく知っている。自分と同じ性格だから。
「ま、あんたが決めたことだ。自由に生きなさい」
「副団長」
「困ったことがあったら、いつでも帰ってきなさい。ここはあんたの第二の家なんだから」
 副団長はコロリスを抱きしめた。
 いままで辛い事もあったけど、いつも副団長が庇ってくれた。副団長には感謝しきれない思いが沢山ある。伯母だと知ってから、より愛おしさが増した。



 村に戻ってきたコロリスは、エテ王子の看病を続けた。
 彼女の看病の甲斐もあって予定より早くベッドを離れる事が出来、あの大戦から10日で王都に戻れることになった。
「あばら骨にひびが入ってて、左足首を捻挫していて、右肩の腱を痛めていたとは思えない怪我人の回復ですこと」
 レストランで普通に食事を取っているエテ王子の姿を見て、ヴァーグは驚異の回復力に関心していた。
「きっとコロリスさんの看病の賜物ですよ」
 食事を運んできたエミーが2人をからかう様に言葉を発した。
 エテ王子は「そんなことはない」と否定しているが、顔がニヤけていた。満更でもないようだ。
 だが、コロリスはあまり嬉しくないようだ。
「コロリスさん、どうかしましたか? 元気ないようですけど」
「あ、いえ、なんでもありません」
「お疲れですか? エテさんの看病の他にも保育所を手伝っていると聞きました。少し休まれてはどうですか?」
 エミーはここ数日、元気がないコロリスが気になっていた。無理に明るく接しようとしているのがバレバレで、時折見せる落ち込んだ顔やため息にエミーは心配していた。
「今日は保育所を手伝ってくれる人が多いから、コロリスさんはお休みしていいよ。なんだったらエテさんとデートしてきたらどう?」
「ありがとうございます」
「エテさんも、明日には王都に戻っちゃうからね」
「…え? 明日?」
「マイケルの事情聴取があるんですって。今はリチャードさんが仕切っているけど、ある罪に関してはエテさんでなければ裁けないから、早めに帰って来いって連絡があったの」
「親父がやればいいのに」
「情報を持っているのがエテさんだけだから、仕方ないのよ」
 国王の隠し子だと言う嘘をついていたマイケルの罪は王族の人間にしか裁けない。国王が裁こうにも証拠が不十分で、正確な処罰が下せない為、エテ王子がヴァーグが保管している音声データを持って王都で裁くことになっている。その他の罪(結婚詐欺、横領、王立研究院から魔法玉を盗んだ事)などは、リチャードを中心に処罰が決定している。
「今日はお弁当を作ってあげるから、2人で出かけるといいわ。エミーさん、手伝ってくれる?」
「ええ、喜んで」
 ヴァーグはエミーと厨房へと入っていった。

 朝食後、エテ王子とコロリスはヴァンに乗って『春の草原』までやってきた。
 ここは村の周辺で唯一モンスターが出ない場所で、学校に通うマリーやミリーも遠足で来たことがある。色とりどりの花が咲き乱れ、蝶などの虫や鳥たちが飛び交っていた。

 ここ数日、エテ王子の側にいるが、コロリスは自分の本当の身分を知られていないのかドキドキしていた。だが、エテ王子の口からはその事は一つも出てこない。あの戦いでリオに出会い、リオがエテ王子と知り合いだと言うこともわかった。話していてもおかしくないのに、まだ彼からは何も聞いてこない。
 リオ様は話していない?
 あの混乱した状況で話す時間はなかったのだろうか?
「…リス? コロリス?」
 エテ王子が名前を呼んでいる事に気付いた。
「え? あ…あの……」
「もしかして疲れてる?」
「いえ、そんなことは……」
「最近元気ないけど、どうかしたのか? 俺、迷惑かけてる?」
「そんなことはありません! 私は元気ですよ」
 無理に笑顔を見せるコロリスに、エテ王子は悲しそうな顔を見せた。
 その顔にコロリスは、無理に強がることを辞めた。自分が見りに笑えば笑うほどエテ王子を悲しませていることに気付いた。
「何があったかはわからないけど、悩みごとなら聞くよ。俺でよければ」
「あ…あの……その……」
 どう話を切り出したらいいのか、コロリスは混乱していた。
 ここで本当の事を話してしまおうか。話さずに別れた方がいいのだろうか。
 エテ王子と別れることは決めている。その切り出し方が見つからなかった。
「俺、王都に戻ったら今の職をすべて辞めてくる」
「…え?」
「元々、俺がいられる場所じゃないし、他にも適任者がいるから、すべて引き渡そうと思う」
「……辞められて……どうするのですか?」
「この村に引っ越してこようかな。この村にいると何もかも新鮮で、王都での縛られた生活を忘れさせてくれる。ヴァーグさんに頼めば住む場所も見つかりそうだし、保育所で働ければ職にも困らない。何もかも捨てて、この村でのんびりと暮らせたらなと思ってる」
「そう…ですか…」
 コロリスは素直に喜べなかった。エテ王子は自分の道を作り歩み出そうとしている。コロリスにはその勇気がまだなかった。
 なかなか話に乗ってこないコロリスに、エテ王子はこれから言おうとしている事に一瞬ためらった。
 だが、この機会を逃したらもう二度とチャンスはない。
 エテ王子は片膝をつき、コロリスを見上げた。
「コロリス、俺と一緒にこの村で暮らしてくれませんか?」
 青い瞳で見つめてくるエテ王子から、コロリスは目が離せなかった。
 言葉の意味は分かってる。ずっとずっと欲しかった言葉。
 コロリスの赤い瞳からは絶えまなく涙がこぼれていた。
 嬉しいはずなのに、受けてもいい事なのに、頭の中には「ダメ」という声が響いている。
「コロリス」
 愛しい人の声に、コロリスは視線を逸らした。
「……ごめんなさい」
「コロリス…」
「私、あなたの事が好きです。でも、そのお言葉は受けられません」
「……」
「エテさん、私、自分のいるべき場所に戻ります。もう二度とお会いすることもないでしょう」
「なぜ!?」
 反論しようとしたエテ王子にコロリスは歩み寄った。
 そして、彼に唇に自分の唇を軽く重ねた。
「あなたを愛して幸せでした」
 涙が残る顔で笑顔を見せたコロリスは、ヴァンの背中に飛び乗った。
「コロリス!」
「エテさん、大好きです! 愛しています!」
 そう告白の言葉を残しながら、ヴァンはコロリスを乗せて空へ飛び去ってしまった。
 突然の別れに、エテ王子はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。


 コロリスが突然いなくなったことは、ヴァーグたちに伝えなかった。急用ができ帰ったとだけ伝えた。
 エテ王子は王都に戻るため、ヴァーグからアクアを借りた。迎えが来ることを話したが、ヴァーグが気分転換に空の旅を楽しんだら?とアクアに乗って帰る事を提案してきた。どうやらヴァーグはすべてを知っているようだ。
 アクアの背中に乗り、エテ王子はこれからの事を考えた。だが、考える未来にコロリスの姿がない事に気付くと、意味のない未来を考えることが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「なあ、アクア、お前は主の事が好きなんだよな? もし、主から別れを告げられたらどうする?」
 通じるわけないよな…と思いながらも、エテ王子はアクアに訊ねた。
 案の定、アクアは「きゅぅ?」と不思議そうに首を傾げた。
「お前、主を大切にしろよ」
 今度は言葉が分かったのか、「キュウキュウ」嬉しそうに鳴き声を発した。

 王都に戻ったエテ王子は、溜まっていた仕事に没頭することでコロリスの事を忘れようと努力した。それでも彼女の事を忘れられない日々が続き、王子という立場を利用して彼女を探し始めた。
 たが名前と容姿だけで他に情報がなく、捜査は難航していた。


 同じ頃、コロリスは両親と再会していた。
「ご迷惑をおかけしました、お父様、お母様」
 深く頭を下げるコロリスを、両親は優しく抱きしめた。
「私たちこそごめんなさいね。あなたの気持ちも考えずに」
「もう王室からの縁談は断った。本当にすまなかった」
 謝る両親にコロリスは軽く頭を振った。
 あの村で起きたことはすべて夢。自分は将来の道を決めることができない貴族の娘だということを理解したコロリスは、両親の言う通りに過ごすことを決意した。


 その後、エテ王子もコロリスも何も変わらないありきたりな毎日を過ごした。
 周りから見れば仕事に励むエテ王子と、屋敷で大人しく過ごすコロリスだったが、やはり2人の心にはお互いの事があり、時折見せる悲しい顔やため息は、逆に周りの人たちを心配させていることに、本人たちは気づいていない。

「最近、娘が元気ないのです」
 もうすぐ行われる芸術祭の打ち合わせの席で、コロリスの母クオランティ子爵夫人がため息を吐いた。
 今回の打ち合わせの席に出席しているのは王妃、クオランティ子爵夫人、リチャードとカトリーヌの母であるミゼル侯爵夫人の三人のみ。国王は「退屈な席は嫌いだ!」と叫びながらどこかへと逃げていった。
「見た目は元気なんですが、ふとした時にため息を吐いたり、部屋で泣いていたり…」
「家を出ている間に何かあったんでしょうか?」
 ミゼル侯爵夫人は彼女の娘が戻ってきたことをカトリーヌから聞いている。だがカトリーヌは他にやらなければならない事があり、詳しくは話していない。
「このままでは病気になってしまいます。なにか気が晴れるようなことを考えたいのですが、本人が乗り気でないので、なにをしたらいいのか…」
「気が落ち込んでいるときは無理に刺激を与えない方がよろしいですよ。もうすぐ芸術祭もありますし、時間をかけたほうが本人も傷つきませんよ」
 王妃が過去の経験から提案してきた。王妃自身の子を授かれないとわかった時、どん底まで落ち込んでいた。その時、国王は無理に機嫌取りをするわけではなく、時間をかけて立ち直らせてくれた。きっとクオランティ子爵夫人の娘も、時間が解決してくれるだろうと、そう思った。
「クオランティ子爵夫人、三日後に開催するわたくしのお茶会に娘さんをご招待しますわ」
 ミゼル侯爵夫人が提案してきた。
「ですが、娘はそのような席は…」
「お茶会と申しても、出席者はわたくしと王妃様、わたくしの娘だけですけどね。わたくしの娘が王妃様にお伝えしたい事があるようで、改まった席よりも楽しい席がいいと言うリクエストで、王妃様の音楽堂をお借りすることになりましたの」
「ぜひ、いらしてください」
 気晴らしになると思いますよ。という王妃の言葉に、娘に聞いてみますとクオランティ子爵夫人はその場を切り抜けた。

 娘のコロリスにお茶会の事を話すと、少しだけならと出席することを決めた。
 気晴らしに出席することになったお茶会で、思いもよらない騒動に巻き込まれることは、この時誰もわからなかった。



 三日後、コロリスは薄ピンクのドレスに身を包み、白薔薇の髪飾りで髪を結い上げて王宮へと向かった。
 出迎えたのは意外な人物だった。
「カトリーヌさん…?」
 王宮の入り口で待っていたのは、水色のドレスに身を包んだカトリーヌだった。
「お久しぶりですわ、コロリスさん」
「え? なんでここに…」
「わたくしの母が主催するお茶会ですもの。さ、参りましょ」
 カトリーヌはにっこりと微笑みながら、コロリスを中庭の音楽堂へと案内した。
 音楽堂に向かうまでに大広間を通ることになり、いまは王宮に出入りしている貴族たちがそこかしこにグループを作り、話に花を咲かせていた。
「またコロリスさんとお会いできて嬉しいですわ。いつお戻りになられたんですか?」
「一か月ほど前です。カトリーヌさんは、わたしのことをご存じだったんですか?」
「リオ様からお聞きしましたの。リオ様、王立研究院から盗まれた魔法玉を追って、その村に辿り着いたんですって。あの村に不思議な力を持つ女性がいて、もしかしたらここで情報が得られるかもしれないって、村の鍛冶場に潜入してたそうなんです。市場でお会いした時、リオ様からコロリスさんが行方不明だとお聞きしましたのよ」
「そうだったんですか…」
「リオ様ったら、行商から仕入れた情報だとか言ってましたけど、本当は本人が持ち込んだ情報だったんですね。コロリスさんはリオ様とお知り合いなんですね」
「わたしの祖母が王立研究院に多額の寄付をしていまして、小さい頃から一緒に遊んだ仲なんです。リオ様が騎士団に所属していたのは初めて聞きました。昔は研究一筋だったのに」
「軍の育成学校に入って、自分がやりたい事を見つけたと仰っていましたわ。これからも騎士団と研究院を両立していくそうです」
「そういえば、リオ様の怪我はもう大丈夫なんですか?」
「ええ。もう職場に復帰していますわ」
「よかった…」
 ホッと胸を撫で下ろすコロリスは、あの戦いの後、情報が一つも入らなかったリオの近状を知る事が出来て安心した。
 逆にカトリーヌには気になる事があった。それはエテ王子とコロリスの仲の事である。王宮に戻ってきたエテ王子は相変わらず忙しそうに公務に務めている。あの村に行く素振りはない。そして母の話だどコロリスは屋敷に戻ってきてからふさぎ込んでいるという。
 2人は会っているの?
 2人の仲が気になって仕方がなかった。

 その時、大広間にいた人全員が壁側に寄り、中央に道を作り出した。
 前方を見ると第一王女のマリーベル王女がいつもの取り巻きを連れて現れた。
「王女様のご登場か」
「また今日も派手な衣装だこと」
 広間にいた人たちは、ヒソヒソとマリーベル王女のことを口にしだした。その言葉はどうもいい言葉ではないようだ。
 王女はヒソヒソと話す人たちを気にせず、大広間を通り過ぎようとしたが、カトリーヌの姿を見つけると、周りにも聞こえるような、大声をワザと出した。
「まぁ! ミゼル侯爵令嬢ではございませんか。先日はたいそうご活躍されたとお聞きしましたわ。お父様からご褒美は賜りました?」
 口調からしてからかっているように聞こえるマリーベル王女の発言に、何が面白いのか取り巻き達はクスクスと笑い続けていた。
「たしか、騎士団の隊長をしていらっしゃるのですよね? そんな男勝りな事ばかりしていますと、殿方からも愛想尽かれましてよ?」
 第一王女だと言うだけで、自分以外を見下しているマリーベル王女は、加減というものを知らない。国王や王妃にも見下すこともあり、貴族たちは彼女がこの国の頂点に立ったら、国は潰れると噂している。自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こすその性格は、彼女がやることを訂正する人間が近づかなくなるほどだ。
 何も言い返さないカトリーヌに、マリーベル王女は睨み付けた。
 カトリーヌの祖母と王女の祖父は兄妹の関係だ。同じ王族の血を受け継ぐ者同士、反発しあう何かがあるのだろう。2人は会えばこういう光景を作り出すほど仲が悪い。
「王女様、先を急ぎましょ」
 取り巻きの一人である令嬢が、マリーベル王女を促した。
 カトリーヌが言い返さないことにイラついたマリーベル王女は、取り巻き達がカトリーヌとの間に入ってきたことで、その場から立ち去ろうとした。

 ところが、カトリーヌの隣にいたコロリスの姿を見るなり、驚いた表情で彼女に詰め寄った。
「あなた、どういうつもりなの?」
 王女の声が怒っていた。
 思いもよらなかった王女の怒りに、コロリスは思わずカトリーヌの後ろに隠れた。
「王女、わたくしの友達に何か御用でしょうか?」
 王女のただならぬ雰囲気に、カトリーヌはコロリスをかばう様に王女の前に立ちふさがった。
「どうして王族しか持てないアクセサリーをこの娘が持っているのよ! 誰から貰ったの? それとも盗んだの?」
「何の事でしょうか?」
「カトリーヌ、あなたは黙っていなさい。わたくしはこの娘に用があるのです」
 マリーベル王女はカトリーヌの後ろに隠れたコロリスの腕を掴み、自分の前に引きずり出した。
 そして、コロリスが首にかけていたコイン型のペンダントを強引に毟り取った。
「これには王家の紋章が刻まれているのよ! 王族しか持てないの! なんであなたが持っているのよ!」
 マリーベルの手に握られたコイン型のペンダントには、確かに王家の紋章の彫刻が彫られている。この国では王家の紋章が刻まれたアクセサリーを持てるのは王家の人間か、王家の人間に認められた人のみ。たとえ王族と仲のいい貴族でも持つことを禁じられている。もちろん複製すれば処罰を受ける。
「そ…それは、ある方から頂いたものです」
「なんでこんな小娘に渡す人がいるのよ。誰に貰ったの?」
「それは……」
「言えないの? どこで手に入れたの!?」
 迫力のある顔で迫るマリーベル王女からコロリスは目を反らした。
 これをくれたのはエテ王子だ。だが、エテ王子は自分の本当の身分を明かさずにコロリスと出会っている。王都に住む普通の貴族の青年だと思い込んでいるコロリスにとって、エテ王子が何者なのかそれすらわからなかった。
「王族の物を盗むなんて、犯罪者が王宮にいるなんて信じられないわ! 衛兵! すぐにこの女をつまみ出しなさい!」
 マリーベル王女が大声を出すと、どこからともなく兵士たちが駆けつけた。
 コロリスは兵士に囲まれ身動きが出来なくなってしまった。カトリーヌも兵士に抑えつけられ、手も足も出せない。
「ご存知かしら? 王族に許可なく王家の紋章入りの物を所持するとどうなるか。ましてや勝手に作っているんですもの。極刑は免れなくってよ?」
 灰色の目で見下ろすマリーベル王女から、コロリスは視線が外せなくなっていた。その灰色の瞳はギラギラと輝き、捕まえた獲物を逃がさない動物のよう…。
 遠巻きで見ている人たちは誰も助けようとしなかった。マリーベル王女に逆らうとどうなるのか、誰もが知っているからだ。取り巻き達もニヤニヤした顔で見物しているだけだった。

 そこへ、
「姉上! 何をしているんですか!!」
と、一人の男の声が大広間に響き渡った。
 その男の声に、コロリスを取り囲んでいた兵士たちが一斉に離れ、マリーベル王女の後ろに整列した。
「邪魔しないでただけますか? わたくしは、王族に許可なく王家の紋章が刻まれたアクセサリーを身に着けたこの娘を成敗しようとしているだけですのよ!」
「国王の許可なく裁くことは認められていません。姉上、父上との約束を忘れたのですか? 自分勝手に人を裁かない事。そう約束したではありませんか」
「そ…それは…」
「第一、王家の紋章が刻まれたアクセサリーとはどんな物なんですか」
「これよ。これをこの小娘が身に着けていたのよ」
 マリーベル王女は、男の前に握りしめていたコイン型のペンダントを突き出した。
 たしかにペンダントには王家の紋章である水平線から顔を覗かせる太陽、空に輝く二つの三日月、その下に星が一つ刻まれれていた。そして星の中央には小さな水色の宝石が嵌め込まれていた。
 このペンダントに見覚えがある男は、咄嗟にさっきまで兵士に囲まれていた娘を見た。

 薄ピンクのドレスを身に纏い、赤い髪を白薔薇の髪飾りで結い上げたその娘は、男もよく知る人物だった。
「コロリス…」
 男はその娘の名前を呼んだ。
 名前を呼ばれたコロリスは、声のした方を見上げた。
 そこに立っていたのは、青い髪に青い瞳を持つ忘れもしない青年だった。
「…エテさん…」
 コロリスはその人物の名前を呼んだ。

「これはきっと盗んだ物ですわ。窃盗は処罰して当然です」
 勝ち誇ったように自信満々に言うマリーベル王女。
 だが、駆けつけたエテ王子は急に笑い出した。
「な…なにが可笑しいのです!」
「失礼。姉上はなにか誤解しているようです」
「誤解ですって!?」
「そのペンダントはわたしの物です。わたしが軍の育成学校を首席で卒業したご褒美に、父上から頂いたものです。父上に確認を取ってみましょうか?」
「で…でも、この娘が…」
「それはわたしが彼女に差し上げたのです」
「あげた!?」
「ええ。わたしが差し上げたので、彼女が持っていてもなんの不思議もない」
「…あなた……弟とどんな関係ですの?」
 エテ王子はカトリーヌに抱きしめられているコロリスの腕を掴み、自分の隣に抱き寄せた。
「わたしの婚約者です」
 エテ王子の発言に、大広間にいた人全員が大きく目を見開き、口を大きく開き驚いた。
 コロリスは思わずエテ王子を見上げた。
「そういうわけですから、返していただけませんか、姉上」
 エテ王子はマリーベル王女の前に右手を差し出した。
 マリーベル王女はペンダントをエテ王子に向かって投げつけた。そして、取り巻き達をその場に置いて広間を走り去った。
「あ、王女様!」
「マリーベル王女!」
 取り巻き達は急いで王女の後を追ったが、自室に逃げ込んだ王女に追いつく者は一人もいなかった。

 大広間は蜂の巣を突いたように騒がしくなった。
 その騒ぎは音楽堂で待っていた王妃たちの耳にまで入る事になり,真相を聞き出そうとエテ王子たちの行方を追った。

 大広間の騒ぎから抜け出したエテ王子とコロリスは、エテ王子の私室へとやってきた。
 私室では王子の第一側近であるダイスが、お茶の準備をして出迎えた。
「ダイス、彼女の親クオランティ子爵に連絡を頼む」
「かしこまりました」
 一礼をしてダイスは部屋を出ていった。
 部屋のドアが閉まると、エテ王子はコロリスにソファに座るように促した。
「散らかっててごめん。仕事が溜まってて」
 エテ王子は机に上や床に散らばっている書類や本を片付け始めた。机の周りだけが沢山の書類や書物が積まれており、そんなに散らかっている印象はないが、見た目だけでも綺麗に見せようと積み直したり、机の上の書類をまとめたりしていた。
 その光景を見て、コロリスはクスクスと笑い出した。
 やっぱり笑われたか…そんな予感もしたエテ王子がコロリスを見ると、彼女は顔を両手で覆って肩を震わせていた。
「コロリス?」
 エテ王子が近づくと、顔を覆った両手の端から涙がこぼれていた。
 どう声をかけていいのか困り果てたエテ王子は、コロリスの頭を軽く叩いた。
 その行動だけでコロリスは嬉しかった。

「姉が申し訳なかった。俺に免じて許してほしい」
 目の前で頭を深く下げるエテ王子に、コロリスは「大丈夫です」と何度も気にしないで欲しいとエテ王子に頭を上げるように言った。
「エテさんは、この国の王子さまだったんですね」
「それも申し訳ない。あの村では王子ということを隠したかったから、話せずにいた」
「私も身分を隠していましたから、人の事は言えません」
「咄嗟の事とはいえ、俺の婚約者にしてしまったことも詫びたい。もう王宮中には知れ渡ってしまったが、今からでも訂正はできる」
「いいんです、このままで。どうせ私、春には修道院に入ることを決めましたから」
「修道院に? なぜ?」
「叶わない恋に別れを告げるため……でしょうか? 私の恋は叶わないと確信しました。もういいんです」
 すっきりとした表情に、コロリスには悔いはなかった。
 この先、誰かを好きになってもずっと叶わない。だったら住む世界を変えよう。そう決心していた。
 また離れてしまうことに、エテ王子はやるせない気持ちだった。
 やっと巡り合えた運命の人を手放すわけにはいかない。なんとしてでも捕まえておかなくては。
「カトリーヌさんからお聞きしたのですが、リオ様は職場に復帰されたのですか?」
「あ…ああ、彼には解明してほしい事があったから、無理しない程度に研究に取り掛かってくれって頼んだ。復帰したのはついこの間だ」
「警察騎士団に所属していたなんて、初めて知りました。研究一筋だと思っていました」
 話を逸らそうとコロリスはリオの話を始めた。
 エテ王子にとってみれば、そんなことはどうでもいい。他に話したい事が沢山ある。確認しなくてはいけないことがある。
 エテ王子はコロリスの隣に座り、彼女の話を変えようと試みた。
「コロリス、屋敷を出て行方不明になった事なんだが…」
「……」
「屋敷を出た理由、聞いてもいい?」
「……エテ様には関係ない事です」
「そうかな? 王妃も心配していた。理由を聞かせてくれないか?」
「……」
 膝の上で拳を握りしめたコロリスは唇をギュッと噛みしめた。
 エテ王子は固く握りしめた彼女の拳をそっと握りしめた。
「俺では役不足?」
「……政治の……王室の道具にされそうだったので逃げました」
「王室の道具?」
「母はわたしを王子の誰かに嫁がせるつもりでした。自分たちは大恋愛をして結ばれたのに、私には王室との婚姻関係を勝手に約束してきたのです。だから屋敷を出ました」
「それって、正式に決まった事? 親たちが冗談で話しただけじゃないのかい?」
「いえ、旅一座の副団長も仰っていました。今の王室から抜け出したい王子がいる。その王子が王室から抜け出すために私との婚姻関係が決められたと」
「……なんか、変な話になっているな」
「私は、10年前にお会いした育成学校の制服を着た男性ともう一度お会いするまで、誰の元にも嫁ぎたくありません! 私はあの人ともう一度お会いしたいのです!」
「10年前?」
「王妃様のお誕生日をお祝いする舞踏会に出席した時、中庭でお会いした方がいるんです。私にとって初恋でした。どこのどなたかは分からないのですが、あの方にもう一度お会いしたいのです」
 コロリスがいう10年前に出会ったという男は、たぶんエテ王子王子の事だと思われる。
 村でピアノを見てキラキラした顔で眺め、「歌うことが大好きです!」と力強く返事をしたコロリスは、10年前に出会ったあの少女と同じ人ではないかとエテ王子は気になっていた。10年前といえば、まだ軍の育成学校に
通っており、あの頃の正装は育成学校の制服を着用していた。
 エテ王子はフッと小さく笑った。
「やっぱり笑い話ですよね」
「いやいや、そうじゃないよ。だぶんなんだけど、それ、俺だよ」
「…え?  えええぇぇぇえええぇ!?」
「10年前っていうと、まだ育成学校に通っていたし、宴が苦手で部屋に帰ろうと中庭を横切ったんだ。その時、音楽堂の前で一人の少女と出会った。俺もその女の子が初恋だったのかな?」
「…うそ…ですよね?」
「うそじゃないよ。だけど、初恋の相手に会いたいってのは直接的な原因じゃないよね? やっぱり王室との婚姻関係が原因?」
「だって、お会いもしたことがない人と結婚なんて怖いじゃないですか! それに、王室を出たい為に私と結婚するなんて…」
「王室を出たい王子って、誰か聞いてる?」
「いいえ。大事にしたくないからって、母も教えてくれませんでした」
「そっか…」
(そりゃ大事だよな。王位継承権を持っている王子が、王室から出たいって言っているんだから)エテ王子はまだ正式に国王や王妃に話していないが、両親も薄々気付いているだろう。あの村でゲンが話していたように、王妃が道を用意してくれているようだ。
「じゃあさ、その王室を離れたい王子が俺だったら、コロリスはどうする?」
「…え?」
「あの村で話したよね。王都に戻ったら今の職を辞めて、あの村でのんびりと暮らしたいって。あれ、嘘じゃないよ」
「じゃ…じゃあ、王室を離れたがっている王子って…」
 エテ王子はにっこりと微笑みながら「俺の事だよ」と答えた。
 衝撃的な発言に、コロリスはソファから立ち上がるほど驚いた。
「ほ…本当に!?」
「こんなことで嘘ついてどうするんだよ」
「だ…だって…そんな……こんなことって…」
 かなり動揺しているコロリスはウロウロとその場を行ったり来たり歩き始めた。
 その様子が可愛くて仕方がないエテ王子は、彼女の名前を呼ぶとソファに座ったまま両手を広げた。
「おいで」
 そう呼びかけると、コロリスは何のためらいもなくエテ王子の胸に飛び込んだ。
「やっと捕まえた。もう逃がさないから」
 力強く抱きしめたエテ王子は、彼女の耳元で囁いた。
 コロリスもやっと巡り合えた初恋の相手を離さないように、彼の背中に回した腕に力を込めた。

 まだ2人には乗り越えなくてはならない山が沢山ある。
 いままで体験してきたことを考えると、2人ならどんな山でも越えていけるだろう。
 女神さまもきっと祝福してくれるはずだ。


                 <つづく>

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