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第37話 世界の始まり
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王都へ戻ったエテ王子とコロリスの2人は、王宮の国王の私室のバルコニーへヴァンを下した。
「父上!!」
窓から勢いよく飛び込んできたエテ王子に驚いた国王は、飲み込もうとしていたケーキを喉に詰まらせ、王妃に背中をさすって貰っていた。
「どこから入ってくるのですか?」
王妃は突然姿を見せたエテ王子にマナーと言うものを叩き込もうと考えた。
エテ王子はまだ咽る国王の前までカツカツと歩み寄ると、すぐに本題に入った。
「国有地に足を踏み入れた人がいる。直ちに逮捕状を頼む」
「何を突然…」
「村に隣接する枯れた『春の草原』を調査していたところ、国有地とされている場所に人間が足を踏み入れた。これが直接的な原因とは思えないが、国が立ち入りを禁止している場所に足を踏み入れたとなるとそれなりの処罰が与えられるはずだ」
「『春の草原』近くの国有地というと、精霊が住む場所と言われている所か? あの近くはケインにあげたはずじゃが?」
「そのさらに奥だよ。今、ケインたちが現地に調査してくれている。今すぐ不法侵入した人間たちの処罰と、ケインたちに立ち入り許可書を出してほしい」
「わ…わかった」
落ち着きを取り戻した国王は机に向かうと、引き出しから何枚かの紋章入りの紙を取り出し、エテ王子の指示で書き込みを始めた。
「お前の名前を連盟にした方がいいか?」
「なんでだよ」
「お前はあの村ではただの貴族の息子なんだろ? そんな貴族の息子が国王の名が記された書類を提出しても信じないんじゃないのか?」
「それはそうだけど…」
「これも王子でいられる間の特権だ。ついでにその不法侵入者を王宮に連れてきなさい。わし自らが処罰を与えてやろう」
「だったら俺の名前はいらないだろ。後出しの方がダメージは大きいんじゃないのか?」
「なにかいい案でもあるようじゃな?」
「まあな」
エテ王子は国王にこういう筋書きはどうだろうか?と、ここに来るまでの間に考えたアイデアを話し始めた。
国王も国王でほぅほぅと相槌をしながらその話を聞き入った。
机を挟んで話し合う国王とエテ王子の2人に入り込めなかった王妃は、コロリスとお茶を楽しむことにした。
が、ヴァンがスピードを出して飛んできたため、コロリスの髪がかなり乱れており、必死になって一人で髪を整えようとしていた。その光景を見て王妃は笑うかと思いきや、
「わたくしが直して差し上げますわ!」
と目を輝かせた。
王妃は隣の間に控えている使用人たちを呼び寄せ、「昔を思い出しますわ~~♪」と嬉しそうにコロリスの髪をとかし始めた。
王妃は王室に嫁いできた最初の頃は自分で髪を整えていたが、王妃たるもの自ら身支度をするものではありませんと当時の侍女長に怒られてからは、自分の髪はもちろん他人の髪を結い上げることは一度もしていなかった。
今は口うるさい侍女たちもおらず、長年の夢だった『娘』の髪を嬉しそうに結い上げていた。
国王とエテ王子の話し合いは意外に早く終わった。
「そういえば、コロリス。父上に聞きたい事があったんだよな?」
書類を書き終え、振り向いたエテ王子が見たのは、楽しそうにコロリスの髪を梳かす王妃の姿だった。
「王妃よ、楽しそうだな」
「ええ! 長年の夢だったんです! 娘の髪を整えるのが!」
嬉しそうに声を弾ませる王妃に対して、コロリスは引きつった笑顔を見せている。迷惑だとは思わないが、王妃のテンションが不気味に感じるようだ。
「して、わしに聞きたい事とは?」
「あ、はい。どれぐらい前になるか分からないのですが、王宮の騎士団にスカウトされるほどの弓の名手がいらしたことはご存知でしょうか?」
「弓の名手? ……ゲンの知り合いかな?」
「ゲン?」
「今、お前たちが滞在している村に、ゲンという鍛冶職人がおるじゃろ。そのゲンの知り合いに弓の名手がいたと聞いている。何度もスカウトしたが頑なに断られた。理由を聞いたら、両親がいないからということだった」
「両親?」
「母親は自分が生まれてすぐに亡くなり、父親もその後すぐに戦で亡くなっている。親を亡くしてある教会に務める神父に預けられ、新しい両親が見つかり村に戻った。その後の事は分からない」
「陛下はお会いしたことあるんですか?」
「残念だが会ったことはない。だが肖像画は残っているはずだ。たしか王立研究院の分院に保管されていると思う」
「なんでスカウトを断った人物の肖像画が研究院に? しかも歴史・考古学の分院なんかに」
「外見が珍しかったからな。その人が生きていた時は面白い事に、あの村の住人たちが次々に手柄を挙げていた。ゲンは王宮御用達の武器職人、当時の王妃に気に入られた若手デザイナー、たしか当時の国立図書館の司書の一人にあの村の人がなっていた記憶がある。珍しい本を寄贈してくれてその管理を兼ねて迎えたと聞いている」
「珍しい本?」
「先の戦で戦死した勇者の事が書かれた書物だ。誰かの日記もあった。当時の史実を明確に書かれていた為、その司書が退職する時、研究院に移して管理を任せた。その時、その勇者に関わる物はすべて研究院に移したんじゃよ。一冊だけ、絵本だけは大切な物だから持ち帰ったようだ」
国王が話すことに、エテ王子はある事を思い出した。それはリオの母親が書いた恋愛小説。リオの話によるとリオの母親がある日記を基に書いたと言っていた。その基になった日記が国王の言う寄贈された書物の1つであれば、研究院に務めるリオの母親が目にするのも頷ける。
「そういえば、クオランティ子爵夫人の実家は研究院に多額の寄付をしていましたわ。なんでも数十年前に活躍した勇者の支援をしていたそうで、その関係でその方に関わる物があって、管理しきれないから研究院にすべてを託したって。管理という目的で多額の寄付をしているそうですよ」
王妃はどんな髪型にしようかしら~?と宮廷理髪師が書き記した髪型のカタログらしきものを開きながらコロリスの髪をいじっていた。どうやら現在打ち合わせ中の結婚式に向けた髪型を研究しているようだ。
さらりと言う王妃の言葉に国王もエテ王子も釘付けになった。クオランティ子爵夫人の実家が多額の寄付を研究院にしている事は知っていたが、その理由までは知られていなかった。もちろん寄付している事だけは知っているコロリスも、母親の実家が数十年前に実在した勇者を支援していたことは初耳だ。
ポカーンと呆然としている3人を見て、王妃はクスクスと笑った。
「これはダイスが調べてくださいましたのよ」
「なんでダイスが?」
自分の側近のはずのダイスが、王妃の為に情報収集していることにエテ王子は納得できなかった。最近、自分の前に姿を見せないと思っていたが、まさか王妃の密偵をしていたとは…。
「クリスのお相手として相応しいか色々と調べていましたの。この間の芸術祭でお似合いでしたし、万が一、クリスが彼を気に入ったらそのままお婿候補にあげようと思いましてね」
ニコニコと話す王妃は特に何の意味もなく話し続けた。
だが、エテ王子は誰のことについて調べて、どういう経緯でそういう情報を仕入れたのか不思議でたまらない。
「伯母上、誰について調べていたんですか?」
「あら!! 伯母と呼んでくださるのね! 嬉しいわ~~!」
たぶんエテ王子は無意識に伯母と呼んだのだろう。王妃は伯母と呼ばれたことに嬉しくなり、小躍りを始めた。顔はニヤついている。
「王妃よ、クリスの婿候補とは誰の事じゃ?」
いつの間にそんな相手を見つけたのか不思議でならない国王は、クリスティーヌ王女の生母よりも早く情報を掴んでいる事に少し焦りを感じた。王妃とクリスティーヌ王女の生母は仲が悪い。クリスティーヌ王女の婿問題で大きな事件に発展しないか不安でならない。
「ケインさんの事ですわ。年も離れていませんし、クリスも好意を抱いているようですし、ちょっとだけ素性を調べてみましたの。そしたら王室とも大きな関わりがあるようで、しかも曾お祖父さまが王宮の騎士団にスカウトされていた方で、そのお父様が先に戦で功績をあげた方。さらにご存命のお祖母さまが国立図書館で司書をされていた方だなんて、クリスに相応しい方ではありませんか」
キャッキャとはしゃぐ王妃は、口と当時に手も器用に動かし、コロリスの髪型を完成させていた。両サイドで高くツインテールにし、まとめ上げた髪をお団子にし毛先を下に流す形は、どう見ても某アニメのキャラクターの髪型。なぜ王妃がこの髪型を知っているのか不思議でたまらない。
「王妃よ、ケインの事をどこまで調べている」
「まだ少しだけですわ。ダイスが張り切って続きを調べてくださっています」
「で…では、王妃様。ケインさんのお祖母様の名前もご存じなのですね!?」
「ええ。アンと仰るそうよ」
「では、曾お祖父さまのお名前は!?」
「アルバートと仰るそうよ。そのお父様はフィリップ。フィリップさんの奥様はネジュと仰るのよ」
王妃の口から発せられる人名に、コロリスは「やっぱり…」と納得した。つい先ほど、エミーと共にアン本人の口から告げられたケインの曾祖父の名前とその父親の名前。間違いなくケインは数十年前に功績を得た勇者の末裔だ。
「コロリス、何か知っているのか?」
「アンお祖母様…ケインのお祖母様が何かを知っているのだと思います」
「それで父上にケインの曾祖父のことについて聞きたいって言っていたのか。他に何か言っていなかったか?」
「ケインさんを見ていると亡くなった祖母と父を見ているようだと申していました。親族のみに話したいようでしたが、ケインさんの曾祖父が王宮の騎士団からスカウトされた事があるので、エテ様にもお話を聞いた方がいいのでは?とエミーさんが提案されたのです」
「ここ最近、不穏な出来事がケインの周りで起きています。ケインに直接関わることではないのですが、その周りが巻き込まれることが多くなっています。父上、ここは一度我々も話を聞いてはどうでしょうか?」
エテ王子の提案に国王は賛成だった。ケインの曾祖父が幼少の頃は近隣諸国との戦いをしており、同時に【国内を騒然とさせる出来事】も起きている。その騒然とさせた出来事に似た騒動がここ最近起きている事に、何らかの関係があるのではないかと、国王自身も気づいていた。
だが、直接王宮に呼ぶ事は出来ないだろう。相手は一般市民。爵位も階級もない人を国王自ら呼ぶ事は、また大臣たちに何か言われるはずだ。
「何かいい案はないじゃろうか…」
国王は「う~ん…」と唸り始めた。
その時、
「ケインさんとエミーさんは従姉弟同士だったかしら?」
と、まだコロリスの髪をいじっている王妃が口を挟んできた。先ほどの髪型は解き、今は自分と同じ髪型を製作していた。
「え…ええ。ケインの父親とエミー嬢の父親が兄弟です」
「と、いう事は、お祖母様は同じ人ってことですよね?」
「そうなります」
「でしたらミゼル侯爵夫人にご協力してもらいましょう」
「「「…え……?」」」
何を突然言い出すんだ?とエテ王子もコロリスも国王も、一斉に王妃の顔を見た。
「エミーさんはミゼル侯爵家に嫁ぐのでしょ? でしたら結婚式の打ち合わせと称して、エミーさんのお母様とお祖母様を王都にお呼びすればいいのですよ。その席にわたくしたちが参列すれば、陛下自らがお呼びすることはございませんわ」
「ま…まぁ、その方が呼ぶには呼びやすいな」
「しかし、王妃様」
「お・ば・さ・ま!!!」
ビシッと櫛でエテ王子を指す王妃に声が少しだけ怖かった。
(どっかの誰かさんに似ているんですけど…)ごく身近に同じように親族関係の呼び方を強制する人を持つエテ王子は、王妃とその人こそ同じ血で繋がっているんじゃないかと疑問を感じる。
エテ王子が思い出したのはボルツール公爵の顔だった。
「…伯母上…」
「はい♪ なんでしょう?」
「……もういいです。今、時間がない事を思い出しました」
本当はもっともっと言ってやりたい事があったが、今の自分たちには時間がない事を思い出した。すぐにでも『妖精の里』へ向かわなくてはいけなかった。
「父上、ケインの祖母に関してはこの騒動が終わり次第、改めて考えましょう」
「そうだな。今の王妃には何を言っても無駄だ」
まだコロリスの髪をいじっている王妃は、衣装係の使用人を呼び寄せ、新作のドレスまで用意させ始めた。
コロリスは目で必死にエテ王子に助けを求めているが、呆れた顔を見せるエテ王子には彼女の表情まで読み取る気力がないようだ。
「冬の女王に似ている…だと?」
隣国のボルツール公国でも、ケインの話があがった。
話を持ち出したのは、冬の女王と面会したリヴァージュ。家族だけのお茶会の席で、話を出したのだ。
「芸術祭の日、ケイン殿を見て誰かに似ているなって感じたのですが、冬の女王に似ている事に気付きました」
「見た目のせいだろ。青みがかった銀髪に青い瞳は、冬の女王と同じ容姿だからな」
父親のボルツール公爵はさほど気にしていないように見える。
「ですが、精霊と同じ容姿を持つ人間など、今まで見たことがありません。精霊と人間の両方の血を受け継いでいるとは考えられませんか?」
「おいおい、精霊と人間が結ばれることなどあるものか」
「あら、この世界の始まりをご存知でしたら、人間と精霊の間に子供が生まれることは承知のはずですわ」
公爵の隣で黙って話を聞いていたボルツール公爵夫人が、さらりと話に加わってきた。
「母上、何かご存じなのですか?」
「リヴァージュはこの世界の始まりをご存知かしら?」
「え…ええ。闇の中に降り立った女神が、光の精霊、水の精霊、大地の精霊を呼び寄せ、世界を作ったという神話ですよね?」
「それは第一の世界の始まり。わたくしが言いたいのは今の世界…つまり神話上では第四の世界とされている、今現在の世界の始まりのことですわ」
「「神話上での第四の世界??」」
初めて聞く言葉に、ボルツール公爵とリヴァージュは同じ方向に首を傾げた。
「わたくしも小さい頃に話を聞いただけですので、自信はないのですが、この世界には確定された歴史と、昔から口伝えで残された定かではない歴史があるそうなんです。確実に起きた出来事は歴史に分類され、『あっただろう』『こうだったのではないか』『証拠がない』出来事に関しては神話とされているそうですわ。神話上の出来事で証拠が見つかりつつあり、歴史に確定される研究を続けることを考古学と呼んでいるそうです」
「妃よ、難しい事を知っているな」
「わたくし、この国を継がなかったら、隣国の王立研究院に就職したいほど歴史好きなんですの。なんでも、この世界には今まで四つの世界が存在し、女神の交代と共に新しい世界が誕生するんですって。今の世界は四代目の女神の世界。第一の世界は光・水・大地の精霊と共に世界を作り、そこに植物などの精霊や風や雨などの自然現象の精霊たちを呼び寄せ、精霊たちだけの世界をお作りになられた。第二の世界は女神の力が衰え始めた頃、異世界より一人の人間がやってきて、その人間が持っていた豊富な知識で街や国が作られた。精霊たちは人間を女神と称え、第二の世界は長く続いた。ところが第三の世界の時……」
「母上、もう結構です。すべてを聞くのに丸一日かかりそうです」
リヴァージュに止められた侯爵夫人は「ここからが面白いのに…」と残念そうな顔を見せ、大人しくお茶を飲み始めた。侯爵夫人にとってはもっともっと話したかったのだろう。
「文学少女だと聞いていたが、これは筋金入りだな」
「肝心な所を聞く前に、僕たちがくたびれますよ」
「まあ、新年になればまたあの国に行く予定だし、その時に詳しく聞いてみるか」
「誰にですか?」
「向こうの国の王立研究院の責任者たちだ。ケイン殿のことは興味がある。それに国王陛下が召し上がっていたあの食べ物も気になる。見たこともない異国の食べ物のようだ」
「では、エテに手紙を出しておきましょう。新年祭に伺うことを伝えておけば、王立研究院の責任者に会える確率も高くなりますから」
リヴァージュは席を立った。
「わたくしのお話を聞いてくださる方はいらっしゃらないのかしら?」とブツブツ言い続ける母親にはあえて触れなかった。
海を渡ったところにある国でも、何かが動き始めていた。
王族が暮らす城に近い貴族の館では、館の主主催のお茶会が開かれていた。
話の中心にいたのは黒い髪に黒い瞳を持つノアル・ファルコン伯爵。先日、芸術祭が行われた国より持ち帰った珍しいお菓子のお披露目会をしていた。
だが、芸術祭では日持ちしない食べ物が売られていたにも拘らず、今、テーブルに並べられているのは今朝作られた物ばかり。さすがにたい焼きやたこ焼きはなかったが、まだレシピが浸透していない生クリームを使ったケーキが何種類も並べられていた。他にもドーナツやタルト、クッキーなど小麦粉を使ったお菓子も数多く並べられている。
「とても華やかな食べ物ですわ」
「夏に流行った『ぜりー』とかいう食べ物も美味しかったが、これも素晴らしい味だ」
「海を越えた国ではこのような食べ物が流行っているのか」
参列した人たちは驚きながらも、美味しそうに口にしていた。
「わたしも珍しい食べ物で、持ち帰ろうとも考えたのですが、日持ちしないと聞きましてね、一時は諦めたのですが、テオが作れるかもしれないと屋敷に戻ってから作り始めたんです」
「まあ、テオ様が?」
「王宮の晩餐会で出されたデザートから再現を試みて、そこから自分なりのアイデアでここまで作ってくれました」
「テオ様は料理の才能がありますわ」
「ぜひ、この国にも流行らせたいですな」
解放された庭で参列者たちからのお菓子とテオの料理の腕前を絶賛する声が響き渡った。
その主役となるべくテオは庭にはいなかった。
体調がすぐれないからという理由で自室に籠っている。
開け放たれた窓から聞こえる庭の声を耳にしながら、テオは机に向かっていた。
部屋中にカチカチという聞いたことのないような音が鳴り響き、机に向かっていたテオの目の前にはこの世界では存在しない『ノートパソコン』があった。カチカチという音はキーボードを打つ音だった。
「テオ様、まだご気分はすぐれませんか?」
扉をノックしながら侍女長が声をかけてきた。
その声にパソコンを勢いよく閉じた。
「も…もう大丈夫です。今、行きます」
「ご無理なさらないでくださいね」
「わかってます」
その後、侍女長の声が聞こえなくなると、テオは閉じたパソコンを引き出しにしまい、鍵を掛けた。
「……」
しばらくその引き出しを見つめていたテオ。
庭から「テオ? まだ気分がすぐれないのかい?」というファルコン伯爵の声で我に返り、鍵を首にかけていたチェーンに括り付け、急いで部屋を出た。
なぜこの世界の人間が『パソコン』を持っているのだろうか?
そしてなぜ、一度口にしただけで異世界から持ち込んだヴァーグが作るお菓子を再現することが出来たのか…。
謎の少女の正体は……。
<つづく>
「父上!!」
窓から勢いよく飛び込んできたエテ王子に驚いた国王は、飲み込もうとしていたケーキを喉に詰まらせ、王妃に背中をさすって貰っていた。
「どこから入ってくるのですか?」
王妃は突然姿を見せたエテ王子にマナーと言うものを叩き込もうと考えた。
エテ王子はまだ咽る国王の前までカツカツと歩み寄ると、すぐに本題に入った。
「国有地に足を踏み入れた人がいる。直ちに逮捕状を頼む」
「何を突然…」
「村に隣接する枯れた『春の草原』を調査していたところ、国有地とされている場所に人間が足を踏み入れた。これが直接的な原因とは思えないが、国が立ち入りを禁止している場所に足を踏み入れたとなるとそれなりの処罰が与えられるはずだ」
「『春の草原』近くの国有地というと、精霊が住む場所と言われている所か? あの近くはケインにあげたはずじゃが?」
「そのさらに奥だよ。今、ケインたちが現地に調査してくれている。今すぐ不法侵入した人間たちの処罰と、ケインたちに立ち入り許可書を出してほしい」
「わ…わかった」
落ち着きを取り戻した国王は机に向かうと、引き出しから何枚かの紋章入りの紙を取り出し、エテ王子の指示で書き込みを始めた。
「お前の名前を連盟にした方がいいか?」
「なんでだよ」
「お前はあの村ではただの貴族の息子なんだろ? そんな貴族の息子が国王の名が記された書類を提出しても信じないんじゃないのか?」
「それはそうだけど…」
「これも王子でいられる間の特権だ。ついでにその不法侵入者を王宮に連れてきなさい。わし自らが処罰を与えてやろう」
「だったら俺の名前はいらないだろ。後出しの方がダメージは大きいんじゃないのか?」
「なにかいい案でもあるようじゃな?」
「まあな」
エテ王子は国王にこういう筋書きはどうだろうか?と、ここに来るまでの間に考えたアイデアを話し始めた。
国王も国王でほぅほぅと相槌をしながらその話を聞き入った。
机を挟んで話し合う国王とエテ王子の2人に入り込めなかった王妃は、コロリスとお茶を楽しむことにした。
が、ヴァンがスピードを出して飛んできたため、コロリスの髪がかなり乱れており、必死になって一人で髪を整えようとしていた。その光景を見て王妃は笑うかと思いきや、
「わたくしが直して差し上げますわ!」
と目を輝かせた。
王妃は隣の間に控えている使用人たちを呼び寄せ、「昔を思い出しますわ~~♪」と嬉しそうにコロリスの髪をとかし始めた。
王妃は王室に嫁いできた最初の頃は自分で髪を整えていたが、王妃たるもの自ら身支度をするものではありませんと当時の侍女長に怒られてからは、自分の髪はもちろん他人の髪を結い上げることは一度もしていなかった。
今は口うるさい侍女たちもおらず、長年の夢だった『娘』の髪を嬉しそうに結い上げていた。
国王とエテ王子の話し合いは意外に早く終わった。
「そういえば、コロリス。父上に聞きたい事があったんだよな?」
書類を書き終え、振り向いたエテ王子が見たのは、楽しそうにコロリスの髪を梳かす王妃の姿だった。
「王妃よ、楽しそうだな」
「ええ! 長年の夢だったんです! 娘の髪を整えるのが!」
嬉しそうに声を弾ませる王妃に対して、コロリスは引きつった笑顔を見せている。迷惑だとは思わないが、王妃のテンションが不気味に感じるようだ。
「して、わしに聞きたい事とは?」
「あ、はい。どれぐらい前になるか分からないのですが、王宮の騎士団にスカウトされるほどの弓の名手がいらしたことはご存知でしょうか?」
「弓の名手? ……ゲンの知り合いかな?」
「ゲン?」
「今、お前たちが滞在している村に、ゲンという鍛冶職人がおるじゃろ。そのゲンの知り合いに弓の名手がいたと聞いている。何度もスカウトしたが頑なに断られた。理由を聞いたら、両親がいないからということだった」
「両親?」
「母親は自分が生まれてすぐに亡くなり、父親もその後すぐに戦で亡くなっている。親を亡くしてある教会に務める神父に預けられ、新しい両親が見つかり村に戻った。その後の事は分からない」
「陛下はお会いしたことあるんですか?」
「残念だが会ったことはない。だが肖像画は残っているはずだ。たしか王立研究院の分院に保管されていると思う」
「なんでスカウトを断った人物の肖像画が研究院に? しかも歴史・考古学の分院なんかに」
「外見が珍しかったからな。その人が生きていた時は面白い事に、あの村の住人たちが次々に手柄を挙げていた。ゲンは王宮御用達の武器職人、当時の王妃に気に入られた若手デザイナー、たしか当時の国立図書館の司書の一人にあの村の人がなっていた記憶がある。珍しい本を寄贈してくれてその管理を兼ねて迎えたと聞いている」
「珍しい本?」
「先の戦で戦死した勇者の事が書かれた書物だ。誰かの日記もあった。当時の史実を明確に書かれていた為、その司書が退職する時、研究院に移して管理を任せた。その時、その勇者に関わる物はすべて研究院に移したんじゃよ。一冊だけ、絵本だけは大切な物だから持ち帰ったようだ」
国王が話すことに、エテ王子はある事を思い出した。それはリオの母親が書いた恋愛小説。リオの話によるとリオの母親がある日記を基に書いたと言っていた。その基になった日記が国王の言う寄贈された書物の1つであれば、研究院に務めるリオの母親が目にするのも頷ける。
「そういえば、クオランティ子爵夫人の実家は研究院に多額の寄付をしていましたわ。なんでも数十年前に活躍した勇者の支援をしていたそうで、その関係でその方に関わる物があって、管理しきれないから研究院にすべてを託したって。管理という目的で多額の寄付をしているそうですよ」
王妃はどんな髪型にしようかしら~?と宮廷理髪師が書き記した髪型のカタログらしきものを開きながらコロリスの髪をいじっていた。どうやら現在打ち合わせ中の結婚式に向けた髪型を研究しているようだ。
さらりと言う王妃の言葉に国王もエテ王子も釘付けになった。クオランティ子爵夫人の実家が多額の寄付を研究院にしている事は知っていたが、その理由までは知られていなかった。もちろん寄付している事だけは知っているコロリスも、母親の実家が数十年前に実在した勇者を支援していたことは初耳だ。
ポカーンと呆然としている3人を見て、王妃はクスクスと笑った。
「これはダイスが調べてくださいましたのよ」
「なんでダイスが?」
自分の側近のはずのダイスが、王妃の為に情報収集していることにエテ王子は納得できなかった。最近、自分の前に姿を見せないと思っていたが、まさか王妃の密偵をしていたとは…。
「クリスのお相手として相応しいか色々と調べていましたの。この間の芸術祭でお似合いでしたし、万が一、クリスが彼を気に入ったらそのままお婿候補にあげようと思いましてね」
ニコニコと話す王妃は特に何の意味もなく話し続けた。
だが、エテ王子は誰のことについて調べて、どういう経緯でそういう情報を仕入れたのか不思議でたまらない。
「伯母上、誰について調べていたんですか?」
「あら!! 伯母と呼んでくださるのね! 嬉しいわ~~!」
たぶんエテ王子は無意識に伯母と呼んだのだろう。王妃は伯母と呼ばれたことに嬉しくなり、小躍りを始めた。顔はニヤついている。
「王妃よ、クリスの婿候補とは誰の事じゃ?」
いつの間にそんな相手を見つけたのか不思議でならない国王は、クリスティーヌ王女の生母よりも早く情報を掴んでいる事に少し焦りを感じた。王妃とクリスティーヌ王女の生母は仲が悪い。クリスティーヌ王女の婿問題で大きな事件に発展しないか不安でならない。
「ケインさんの事ですわ。年も離れていませんし、クリスも好意を抱いているようですし、ちょっとだけ素性を調べてみましたの。そしたら王室とも大きな関わりがあるようで、しかも曾お祖父さまが王宮の騎士団にスカウトされていた方で、そのお父様が先に戦で功績をあげた方。さらにご存命のお祖母さまが国立図書館で司書をされていた方だなんて、クリスに相応しい方ではありませんか」
キャッキャとはしゃぐ王妃は、口と当時に手も器用に動かし、コロリスの髪型を完成させていた。両サイドで高くツインテールにし、まとめ上げた髪をお団子にし毛先を下に流す形は、どう見ても某アニメのキャラクターの髪型。なぜ王妃がこの髪型を知っているのか不思議でたまらない。
「王妃よ、ケインの事をどこまで調べている」
「まだ少しだけですわ。ダイスが張り切って続きを調べてくださっています」
「で…では、王妃様。ケインさんのお祖母様の名前もご存じなのですね!?」
「ええ。アンと仰るそうよ」
「では、曾お祖父さまのお名前は!?」
「アルバートと仰るそうよ。そのお父様はフィリップ。フィリップさんの奥様はネジュと仰るのよ」
王妃の口から発せられる人名に、コロリスは「やっぱり…」と納得した。つい先ほど、エミーと共にアン本人の口から告げられたケインの曾祖父の名前とその父親の名前。間違いなくケインは数十年前に功績を得た勇者の末裔だ。
「コロリス、何か知っているのか?」
「アンお祖母様…ケインのお祖母様が何かを知っているのだと思います」
「それで父上にケインの曾祖父のことについて聞きたいって言っていたのか。他に何か言っていなかったか?」
「ケインさんを見ていると亡くなった祖母と父を見ているようだと申していました。親族のみに話したいようでしたが、ケインさんの曾祖父が王宮の騎士団からスカウトされた事があるので、エテ様にもお話を聞いた方がいいのでは?とエミーさんが提案されたのです」
「ここ最近、不穏な出来事がケインの周りで起きています。ケインに直接関わることではないのですが、その周りが巻き込まれることが多くなっています。父上、ここは一度我々も話を聞いてはどうでしょうか?」
エテ王子の提案に国王は賛成だった。ケインの曾祖父が幼少の頃は近隣諸国との戦いをしており、同時に【国内を騒然とさせる出来事】も起きている。その騒然とさせた出来事に似た騒動がここ最近起きている事に、何らかの関係があるのではないかと、国王自身も気づいていた。
だが、直接王宮に呼ぶ事は出来ないだろう。相手は一般市民。爵位も階級もない人を国王自ら呼ぶ事は、また大臣たちに何か言われるはずだ。
「何かいい案はないじゃろうか…」
国王は「う~ん…」と唸り始めた。
その時、
「ケインさんとエミーさんは従姉弟同士だったかしら?」
と、まだコロリスの髪をいじっている王妃が口を挟んできた。先ほどの髪型は解き、今は自分と同じ髪型を製作していた。
「え…ええ。ケインの父親とエミー嬢の父親が兄弟です」
「と、いう事は、お祖母様は同じ人ってことですよね?」
「そうなります」
「でしたらミゼル侯爵夫人にご協力してもらいましょう」
「「「…え……?」」」
何を突然言い出すんだ?とエテ王子もコロリスも国王も、一斉に王妃の顔を見た。
「エミーさんはミゼル侯爵家に嫁ぐのでしょ? でしたら結婚式の打ち合わせと称して、エミーさんのお母様とお祖母様を王都にお呼びすればいいのですよ。その席にわたくしたちが参列すれば、陛下自らがお呼びすることはございませんわ」
「ま…まぁ、その方が呼ぶには呼びやすいな」
「しかし、王妃様」
「お・ば・さ・ま!!!」
ビシッと櫛でエテ王子を指す王妃に声が少しだけ怖かった。
(どっかの誰かさんに似ているんですけど…)ごく身近に同じように親族関係の呼び方を強制する人を持つエテ王子は、王妃とその人こそ同じ血で繋がっているんじゃないかと疑問を感じる。
エテ王子が思い出したのはボルツール公爵の顔だった。
「…伯母上…」
「はい♪ なんでしょう?」
「……もういいです。今、時間がない事を思い出しました」
本当はもっともっと言ってやりたい事があったが、今の自分たちには時間がない事を思い出した。すぐにでも『妖精の里』へ向かわなくてはいけなかった。
「父上、ケインの祖母に関してはこの騒動が終わり次第、改めて考えましょう」
「そうだな。今の王妃には何を言っても無駄だ」
まだコロリスの髪をいじっている王妃は、衣装係の使用人を呼び寄せ、新作のドレスまで用意させ始めた。
コロリスは目で必死にエテ王子に助けを求めているが、呆れた顔を見せるエテ王子には彼女の表情まで読み取る気力がないようだ。
「冬の女王に似ている…だと?」
隣国のボルツール公国でも、ケインの話があがった。
話を持ち出したのは、冬の女王と面会したリヴァージュ。家族だけのお茶会の席で、話を出したのだ。
「芸術祭の日、ケイン殿を見て誰かに似ているなって感じたのですが、冬の女王に似ている事に気付きました」
「見た目のせいだろ。青みがかった銀髪に青い瞳は、冬の女王と同じ容姿だからな」
父親のボルツール公爵はさほど気にしていないように見える。
「ですが、精霊と同じ容姿を持つ人間など、今まで見たことがありません。精霊と人間の両方の血を受け継いでいるとは考えられませんか?」
「おいおい、精霊と人間が結ばれることなどあるものか」
「あら、この世界の始まりをご存知でしたら、人間と精霊の間に子供が生まれることは承知のはずですわ」
公爵の隣で黙って話を聞いていたボルツール公爵夫人が、さらりと話に加わってきた。
「母上、何かご存じなのですか?」
「リヴァージュはこの世界の始まりをご存知かしら?」
「え…ええ。闇の中に降り立った女神が、光の精霊、水の精霊、大地の精霊を呼び寄せ、世界を作ったという神話ですよね?」
「それは第一の世界の始まり。わたくしが言いたいのは今の世界…つまり神話上では第四の世界とされている、今現在の世界の始まりのことですわ」
「「神話上での第四の世界??」」
初めて聞く言葉に、ボルツール公爵とリヴァージュは同じ方向に首を傾げた。
「わたくしも小さい頃に話を聞いただけですので、自信はないのですが、この世界には確定された歴史と、昔から口伝えで残された定かではない歴史があるそうなんです。確実に起きた出来事は歴史に分類され、『あっただろう』『こうだったのではないか』『証拠がない』出来事に関しては神話とされているそうですわ。神話上の出来事で証拠が見つかりつつあり、歴史に確定される研究を続けることを考古学と呼んでいるそうです」
「妃よ、難しい事を知っているな」
「わたくし、この国を継がなかったら、隣国の王立研究院に就職したいほど歴史好きなんですの。なんでも、この世界には今まで四つの世界が存在し、女神の交代と共に新しい世界が誕生するんですって。今の世界は四代目の女神の世界。第一の世界は光・水・大地の精霊と共に世界を作り、そこに植物などの精霊や風や雨などの自然現象の精霊たちを呼び寄せ、精霊たちだけの世界をお作りになられた。第二の世界は女神の力が衰え始めた頃、異世界より一人の人間がやってきて、その人間が持っていた豊富な知識で街や国が作られた。精霊たちは人間を女神と称え、第二の世界は長く続いた。ところが第三の世界の時……」
「母上、もう結構です。すべてを聞くのに丸一日かかりそうです」
リヴァージュに止められた侯爵夫人は「ここからが面白いのに…」と残念そうな顔を見せ、大人しくお茶を飲み始めた。侯爵夫人にとってはもっともっと話したかったのだろう。
「文学少女だと聞いていたが、これは筋金入りだな」
「肝心な所を聞く前に、僕たちがくたびれますよ」
「まあ、新年になればまたあの国に行く予定だし、その時に詳しく聞いてみるか」
「誰にですか?」
「向こうの国の王立研究院の責任者たちだ。ケイン殿のことは興味がある。それに国王陛下が召し上がっていたあの食べ物も気になる。見たこともない異国の食べ物のようだ」
「では、エテに手紙を出しておきましょう。新年祭に伺うことを伝えておけば、王立研究院の責任者に会える確率も高くなりますから」
リヴァージュは席を立った。
「わたくしのお話を聞いてくださる方はいらっしゃらないのかしら?」とブツブツ言い続ける母親にはあえて触れなかった。
海を渡ったところにある国でも、何かが動き始めていた。
王族が暮らす城に近い貴族の館では、館の主主催のお茶会が開かれていた。
話の中心にいたのは黒い髪に黒い瞳を持つノアル・ファルコン伯爵。先日、芸術祭が行われた国より持ち帰った珍しいお菓子のお披露目会をしていた。
だが、芸術祭では日持ちしない食べ物が売られていたにも拘らず、今、テーブルに並べられているのは今朝作られた物ばかり。さすがにたい焼きやたこ焼きはなかったが、まだレシピが浸透していない生クリームを使ったケーキが何種類も並べられていた。他にもドーナツやタルト、クッキーなど小麦粉を使ったお菓子も数多く並べられている。
「とても華やかな食べ物ですわ」
「夏に流行った『ぜりー』とかいう食べ物も美味しかったが、これも素晴らしい味だ」
「海を越えた国ではこのような食べ物が流行っているのか」
参列した人たちは驚きながらも、美味しそうに口にしていた。
「わたしも珍しい食べ物で、持ち帰ろうとも考えたのですが、日持ちしないと聞きましてね、一時は諦めたのですが、テオが作れるかもしれないと屋敷に戻ってから作り始めたんです」
「まあ、テオ様が?」
「王宮の晩餐会で出されたデザートから再現を試みて、そこから自分なりのアイデアでここまで作ってくれました」
「テオ様は料理の才能がありますわ」
「ぜひ、この国にも流行らせたいですな」
解放された庭で参列者たちからのお菓子とテオの料理の腕前を絶賛する声が響き渡った。
その主役となるべくテオは庭にはいなかった。
体調がすぐれないからという理由で自室に籠っている。
開け放たれた窓から聞こえる庭の声を耳にしながら、テオは机に向かっていた。
部屋中にカチカチという聞いたことのないような音が鳴り響き、机に向かっていたテオの目の前にはこの世界では存在しない『ノートパソコン』があった。カチカチという音はキーボードを打つ音だった。
「テオ様、まだご気分はすぐれませんか?」
扉をノックしながら侍女長が声をかけてきた。
その声にパソコンを勢いよく閉じた。
「も…もう大丈夫です。今、行きます」
「ご無理なさらないでくださいね」
「わかってます」
その後、侍女長の声が聞こえなくなると、テオは閉じたパソコンを引き出しにしまい、鍵を掛けた。
「……」
しばらくその引き出しを見つめていたテオ。
庭から「テオ? まだ気分がすぐれないのかい?」というファルコン伯爵の声で我に返り、鍵を首にかけていたチェーンに括り付け、急いで部屋を出た。
なぜこの世界の人間が『パソコン』を持っているのだろうか?
そしてなぜ、一度口にしただけで異世界から持ち込んだヴァーグが作るお菓子を再現することが出来たのか…。
謎の少女の正体は……。
<つづく>
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