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第38話 春の女王と冬の女王
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妖精の里に戻ったタイムと白い髪の妖精は、すぐに春の女王に所へと向かった。
広場を進んでいると、数名の警備妖精たちはタイムに駆け寄った。
「隊長!」
「大変です! 隊長!!」
「女王様を止めてください!」
「このままでは過ちを犯してしまいます!」
慌てて駆け寄る警備妖精たちは、あっという間にタイムを取り囲んだ。
何が起きたのか状況がつかめないタイムは、落ち着いて代表者一人が話すように促した。
警備妖精の話だと、女王の薔薇に触れた人間を牢に閉じ込めたが、その対応は隊長であるタイムに任せようとした。だが、その話を聞きつけた春の女王が、この処罰を自ら裁くと名乗り出た。
「今、女王は何処に?」
「王宮の隣にある牢屋にいます。捕らえられた人間がおかしなことを話しているとかで、話を聞きに行っています」
「おかしなこと?」
「『この土地は人間が譲り受けた。我々人間の物なんだから勝手に植物を採っても違法ではない』と言っているそうです」
「それはどういうことだ?」
「我々にはわかりません」
「とにかく女王様を止めてください!」
警備妖精たちはタイムの腕を引っ張り、王宮の方角へとせかした。
タイムの側で黙って聞いていた白い髪の妖精は、インカムを通して何かの指示があったのか、小さく頷くとタイムたちの後を追った。
里の外で待機しているヴァーグやケインたちは、白い髪の妖精が身に着けているブローチに付けられたカメラを通して、パソコンに送られてくる画像を見ていた。
「副村長は何を勘違いしているんだ? この周辺の土地を国王から譲り受けたのは俺なのに」
「でも、ご主人様は放置されていた国有地を貰ったんでしょ? この『妖精の里』も貰ったの?」
「違うよ。国指定の自然保護区域は国で管理しなければならない場所だから、王室からの許可がなければ足を踏み入れてはいけないって、陛下から念を押されてる」
「じゃあ、今のこの状況は大丈夫なの?」
「…え…?」
「だって、国王様の許可は取っていないよ?」
「…あ……」
急いでいたとはいえ、ここはすでに自然保護区域だ。無許可で足を踏みいれている事になる。
ケインは困った顔でヴァーグを見た。
「それはエテさんが何とかしてくれるわ。その為に王宮に戻ったんだから」
唯一の王族関係者であるエテ王子が何とかしてくれるだろうと、ヴァーグは王都に戻ったエテ王子に期待していた。
だが、ヴァーグは送られてくる画像と音声から、ある事を思い出していた。
「『俺の物は俺の物。お前の物も俺の物』って言っていたアニメのキャラクターを思い出しちゃった…」
かつていた前の世界で国民的アニメの代表キャラクターと重ねて見てしまう副村長の言動。
その世界にも同じような性格の人はいるんだな…と感心してしまう。
「でも、あのキャラクターは友達想いのいい人なんだよね」
そこが副村長と違う所なんだよね…と、画面を見ながら独り言を続けるヴァーグ。
何を言っているのか分からないケインとスミレは不気味に笑う彼女を怯えながら眺めていた。
その時、パソコンの画面に数滴の滴が落ちた。
「雨?」
空を見上げても空は青く澄み渡っており、雨雲は一つもなかった。木の葉から落ちた滴かと思ったが、ヴァーグたちがいる周辺は低い木が密集しており、高い木からは離れている。
スミレは何かに気付いたのか空を見上げた。
「強い精霊の気配を感じる」
「強い精霊?」
「よくわからないけど、感じたこともない強い力」
胸騒ぎがするスミレは空の一点を見続けた。
「冬の女王様だ」
「冬の女王様がいらっしゃる」
一緒にくっついてきた草原の妖精たちがざわつき始めた。
「冬の女王様はよく里にいらっしゃるの?」
「ううん、来ないよ。四季の女王様は決まった場所でしか会わないよ。お互いの里に行くのは珍しいんだ」
ユキヤナギの妖精はこの森の中だけでなく四季の女王のことも詳しい様だ。
「詳しいのね」
「第一の世界から生きているからね。この森に棲む妖精たちはほとんど第一の世界から生きているよ。タイム隊長たちハーブの妖精は第二の世界からだけど」
「「第一の世界? 第二の世界?」」
初めて聞く言葉に、ヴァーグもケインも同じ方向に首を傾げた。
「この世界は今第四の世界なんだ。女神さまが交代するたびに新しい世界が誕生しているの。僕たち植物の妖精はこの世界を作られた創世の女神さまによって誕生したんだよ」
「創世の女神さまはこの世界に光と大地と水の精霊を生み出し、風や雨などの自然現象の精霊、わたし達植物の妖精を生み出して人間は一人もいなかったんですって」
「人間が誕生したのは第二の世界から。創世の女神さまの力が衰え始めた頃に、新しい女神さまが誕生して知識の女神さまとして活躍されたんだ」
「第二の世界では人間も精霊・妖精も共存していて、今では姿を見なくなったドラゴンとかペガサス、人魚とかも沢山いたんですよ」
「でも、第三の世界を支配していた女神さまが戦いを好む女神さまで、戦いの女神さまって言われていた。人間たちはお互いに戦い、国境を作り、それぞれ支配する土地を持つようになり、ドラゴンたちも姿を消していった。人間の世界の戦いが僕たちの妖精の住む場所にも飛び火して、大きな被害を受けたんだ。そんな時、第四の女神さまが現れ、今の世界を作った。人間は妖精や精霊の存在を忘れ、人間同士で大きな戦いを繰り返し、僕たちは深い森の中や高い山の追いやられるようになったんだ」
ユキヤナギとピンク色の服を着たレンゲの妖精が交互に説明してきた。
2人の妖精の口から飛び出す世界の始まりの話によると、ヴァーグがこの世界に来るときに出会った女神は四代目の女神さまとなる。女神は【あなたが作る世界】に行ってみませんか?と提案して、この世界に飛ばされた。
(女神さま……【女神が作る世界】の間違いだと思うんですけど……)
確かに街興しに関してはヴァーグが主導者だ。だけど、それを用意するのは女神だ。パソコンを通して女神が色々な道具や材料を用意してくれている。それを使って街づくりや珍しい食べ物、農業の発展を続けてきた。どう考えても【女神が作り上げた世界】をエンディングのないゲーム感覚でやっているように思える。
だが、これはヴァーグが未だに使用していないスキル【物書き】が関係していた。
このスキルを使えば、自分の思い通りの世界を作り上げることができる。それが女神の言っていた【自分が作る世界】なのだ。
ヴァーグはこのスキルを未だに使っていない。だから女神の言葉に疑問を抱いているのだ。
「でも、第二の世界も第三の世界もおかしなことばかり起きたよね」
「うん。女神さまの奇跡として語り継がれているけど、確かにおかしかったよね」
ユキヤナギとレンゲの妖精の言葉に、周りにいた妖精たちも口々に「そういえば…」「確かにおかしいよね?」と言葉を発した。
「おかしいって、どういうこと?」
「突然人間が誕生したんだ。人間だけじゃないよ。第二の世界から生きているタイム隊長たちのバーブや、今、人間たちが食べている作物なんかも突然誕生した」
「第三の世界では、火を噴く道具や物を切る道具も突然誕生したの。それにドラゴンやペガサス、人魚も何の前触れもなく誕生したのよ。わたしたちは精霊や妖精が誕生する瞬間を知っているんだけど、第二の世界からの爆発的な生命の誕生は女王様たちも驚いていたの」
「それにね、人間が住む家も一晩で作られたんだよ。それも何十件も」
「一晩で?」
「うん。家が建ったその日のお昼過ぎには、突然何百人という人間が誕生して、その翌日には野原だった大地が畑に変わっていたの。その翌日には大量の作物が収穫されていたんだ。創世の女神さまはその光景を見て落胆されて、徐々に力が失われていった。人間が誕生して、月が10回登った夜、創世の女神さまはお隠れになられた。二代目の女神さまになったのが、豊富な知識と見たこともない魔術を持って、人間や動物たちを次々に生み出された知識の女神さまなんだ」
「なんか、ヴァーグさんに似ていますね、その知識の女神って」
ケインの何気ない一言に、ヴァーグはハッとした。
「…スキル……」
「え?」
「その女神、スキル【物書き】を持っていたのかもしれない」
「【物書き】?」
「わたしもそのスキルを持っているんだけど、一度も使ったことがないの。女神さまは使うのは自由だって言っていたけど、そのスキルを使えば何百人という人間を一瞬に作ることができるわ。それに第三の世界の女神も同じ【物書き】のスキルを持っていれば武器を作り出すこともできる。じゃあ、今の女神さまは…?」
「今の女神さまは表に出ることはないよ。この世界はこの世界に生きるすべての生き物の物だから自由に使いなさいって、一切関与しなくなったの。でも時々、女神さまの使いとして知識や技術を持った人がやってきて、街や文明を発展させているみたいだけどね」
「……」
ヴァーグは今になって気付いた。女神が言っていた【あなたが作る世界】はスキル【物書き】を使って自分の思い描く世界を作り上げることだと。
だが、彼女はこのスキルは使いたくなかった。前の世界で体験した辛い事がトラウマとなっており、すでに作り上げられた国の歴史や生きる人間たちの未来を潰したくなかったからだ。
「ヴァーグさん……」
何か言いたそうな表情を見せるケイン。
「もう少ししたら本当の事話すね。今は『妖精の里』の問題を解決しなくちゃ」
上手くはぐらかせたヴァーグは、パソコンをいじり、画面にいくつかの映像を写した。
もうすぐ王都から戻ってくるエテ王子や態勢を整えたリチャードたちが、迎えに行ったオルシアと共にここへやってくる。次なる作戦を考えなくていけない。
それに冬の女王が来ている事も気になる。
妖精の里の王宮近くにある牢屋の前に来ていた春の女王は、こちらに向かってきている強い精霊の力に気付いた。
空を見上げた春の女王は上空より降りてきた冷たい空気にいい顔を見せなかった。
「何故、ここに来られた」
上空より降りてきた冷たい空気の層に包まれたその人物に向かって、強い口調で投げかけた。
「春の女王にお伺いしたい事がありまして。ご連絡もなく申し訳ございません」
冷たい空気の層に包まれたその人物ー冬の女王は冷たい青い目を春の女王に向けた。
2人の間に、何とも言えない空気が流れた。
「今、取り込んでいますの。後にしていただけません事?」
「急を要します。ただ一つの質問に答えていただくだけで結構です」
「質問?」
「この近くに『春の草原』に隣接する村があると思います。そちらにわたくしと同じ容姿を持つ人間がいらっしゃると伺いました。ご存じでしょうか?」
「わたくしが人間の事など知るわけがないでしょ!? ここは人間が足を踏み入れてはならない場所です。足を踏み入れた人間はこのように捕らわれる身になりますの!」
春の女王は牢に入れられている2人の人間を指した。
牢の中にいる人間ー副村長とその息子は、突然現れた青みがかった銀髪の女性を食い入るように見つめた。
「何故、人間と共存されないのですか? わたくしの里は人間と共存しております。話し合えば分かり合えます」
「共存? そのようなことは無意味ですわ。現にこの人間はおかしなことばかり言います。この土地は人間が貰った。自分たちの土地に生息する草花を摘んで何が悪いというんですのよ! こんな戯言をいう人間と共存などできますか! わたくしたちの里の者は瀕死なんですのよ!」
「何か事情があるのではないですか? その者たちに話をお聞きになればよろしいのに」
「戯言を申す者とは話はできません!」
「では、わたくしがお話します。事情を聞かば真相もわかるはずです」
「どうぞご勝手に!」
怒りが収まらない春の女王は、冬の女王と立ち位置を変えた。
牢に近づき、中にいる人間に近寄ると、牢の中にいる副村長の息子が目を見開いて冬の女王を見入った。
そして、
「…ケイン…?」
とある男の名前を呼んだ。
「ケイン?」
聞き逃さなかった冬の女王がその名前を言い返した。
「お…俺の村にいるんだよ! あんたと同じ青みがかった銀髪に青い瞳を持つ男が!」
「わたくしと同じ容姿の男?」
冬の女王は、ボルツール公国での事を思い出した。自分を見たリヴァージュが、同じ容姿をしている男と出会ったと話していた。
では、その男というのが『ケイン』という名の男。
「その者は村にいるのですね」
「ああ。あのケインがこの周辺の土地を国王から貰ったんだ。ケインが貰った土地なんだから、同じ村に住む俺たちがこの土地に足を踏み入れても何の罪もない」
「ステラ王国の国王が土地を人間に渡したなど信じられませんわ。この『妖精の里』は永久的に国の自然保護区域とし、人間たちの立ち入りを禁止する条約を結んでいますもの。わたくしたちの許可なく条約を破るなんて考えられませんわ」
春の女王がお怒りなのはよくわかる。先の大戦後、当時の国王は『妖精の里』を含むこの森一帯を国の自然保護区域とし、王室の許可なく足を踏み入れることは禁じた。だが、その時の国王は今の国王の曾祖父にあたる。当時の国王の最後の行政として行われたので、国王が変わればその条例も国民の記憶からは忘れ去られるだろう。
「春の女王様、何か訳がありそうですわ。ここはそのケインという者をここに呼ぶのはいかがでしょうか?」
「それはできません。この者たちは自分が逃げるために嘘を申しています。村に冬の女王と同じ容姿を持つ者がいると申せば、その者を連れてくると嘘を付き、逃げる魂胆ですわ。この者たちは足を踏みいれてはならない土地で、この里の妖精たちの命の源を根こそぎ奪っていったんですの。重い罰を与えなければいけませんわ」
春の女王は冬の女王を牢の前から退かせると、警備妖精たちに向かって軽く手をはらう合図を送った。
その合図で警備妖精たちは牢に向かって、手に持っていた槍を一斉に向けた。
その時、
「春の女王様! わたくしはその者を見たことがございます!!」
と、タイムが春の女王の前に膝を付いた。
「タイム! あなたまで!」
「本当にございます! 青みがかった銀髪に青い瞳を持つその者はネジュ様にそっくりでした」
「ネジュに…だと?」
タイムの口から『ネジュ』という言葉が出た途端、春の女王の顔色が変わった。
周りに集まっていた妖精たちからも驚きの声が上がった。
「ですが、ネジュ様はだいぶ前にお亡くなりになられています。そのネジュ様に似ているなんて……もしかして、あの時の子供では…」
「そんなはずないですわ! ネジュは確かに契約を結んだ人間と夫婦になり子をもうけました。ですが、子供が生まれてすぐにネジュは亡くなり、夫となった人間もすぐに命を落としています。わたくしたちが看取ったではありませんか! その後子供は遠くに引き取られましたわ。それからは一度も見ていませんもの!」
「子孫と考えられませんか?」
「認めたくありません!!」
「では、こちらにお呼びして真相をお聞きされてはいかかでしょうか? この里の危機を知り、何か手助けできないかと里の外で様子を伺っています」
「人間を里に入れるなど!!」
「春の女王様! 緊急を要します。タイムと申しましたね。わたくしが許可いたします。その者をこちらへ呼んでください」
「冬の女王! ここはわたくしの里ですわ! 勝手な行動は慎んでください!」
「申し上げたはずです! 緊急を要します!」
頑なに断り続ける春の女王に、冬の女王は強い口調で怒鳴りつけた。
冬の女王は四季の女王の中では一番新しい女王。その女王から強く言われた春の女王は「勝手にしなさい」と吐き捨てるように呟いた。
タイムは白い髪の妖精に、里の外にいるヴァーグたちと連絡を取るように頼んだ。
白い髪の妖精のマイクを通してすべて聞いていたヴァーグは、ケインの他に合流したエテ王子とリチャードを連れていくことを望んだ。白い髪の妖精には王室関係者も同行すると女王に伝えてほしいとお願いした。
「あの…王室関係者の方も見えられているそうなので、その方たちもお連れしてよろしいかと…」
「ええ、お願いします」
「はい」
白い髪の妖精はマイクを通して許可を得たことを伝えた。すぐにインカムのイヤホンで返事が来た。
「あの、わたし、迎えに行ってきます」
「ああ、頼む」
2人の女王に一礼した白い髪の妖精は、里の入り口へと向かった。
飛び去った妖精が不思議な道具を使っている事に、2人の女王は注目していた。
遥か昔、あれと同じ道具を使った人間を知っている。先の大戦で大活躍した一人の男が身に着けていたことを思い出したのだ。
しばらくして白い髪の妖精に連れられて4人の人間がやってきた。
「ネジュ様だ…」
「ネジュ様がお戻りになられた」
青みがかった銀髪の人間を目にした妖精たちからざわつきが起こった。
妖精たちは口々に「ネジュ様」と人の名前を発している。
もちろん、その人間を見た春の女王も冬の女王も
「ネジュ…」
「ネジュ様…」
と同じようにその名前を発した。
「こちらが先ほど話した人間です」
タイムが紹介すると、ケインは小さく頭を下げた。
「たしかにネジュに似ていますわ」
「こんなことって…」
実在した青みがかった銀髪に青い瞳を持つ人間に、春の女王も冬の女王も言葉をなくした。
呆然とケインを見続ける2人の女王の前に、騎士団の制服を着たリチャードが片膝を付いた。
「突然の訪問、大変申し訳ございません。わたくしはステラ王国王宮警備騎士団に務めていますリチャードと申します。国王陛下よりこちらを預かってまいりました」
そう言いながらリチャードは春の女王の前に、1つの巻物を差し出した。
タイムが間に入り、一度受け取って中身を確認した後、春の女王に渡された。
巻物には国王の署名と王家の紋章、そして無断で足を踏み入れた事へのお詫びとその許可、そして罪を犯した人間の引き渡しが書かれてあった。
「これは確かにステラ王国の王室の紋章です。間違いありません」
本物と認められ、リチャードはホッと安堵の息を吐いた。
「タイム」
「はっ!」
「牢の人間をこの者たちに引き渡しなさい。王室で裁いてくださるようです」
「かしこまりました」
「では、わたくしは王都まで連行します。ケイン、ドラゴンを貸してくれないか?」
「あ…はい…」
ケインは空に向かって指笛を吹いた。すると上空に黒い影が現れたと思ったら、2人の女王の前に大きなドラゴンが舞い降りてきた。
そのドラゴンにはリオが乗っていた。牢から出された副村長親子を乗せ、リチャードはリオと共にドラゴンに乗って飛び去っていった。
「ドラゴンはまだ生きているのですね」
空を舞うドラゴンを見て、春の女王の目から涙があふれてきた。
「あのドラゴンは俺…あ、いえ、僕が契約しているドラゴンです」
「あなたが?」
「今ではいい相棒です」
「人間とドラゴンの共存。すべての人間が悪い訳ではないのですね」
今迄の怒りが急に冷めた春の女王は、優しい眼でケインを見つめた。
急に見つめられたケインは不自然に目を逸らしてしまった。
「本当にネジュ様に似てますわ」
「ケイン…様でよろしいですか? いくつか質問したいのですがよろしいでしょうか?」
「は…はい」
返事をしたケインの脇腹をヴァーグが突いてきた。
ヴァーグの顔を見ると、何やら口をパクパクとさせ、広場の方を目で訴えていた。
「あ…えっと……その質問の前に一つやりたい事があるんですがいいですか?」
「「やりたい事??」」
2人の女王は同時に首を傾げた。
<つづく>
広場を進んでいると、数名の警備妖精たちはタイムに駆け寄った。
「隊長!」
「大変です! 隊長!!」
「女王様を止めてください!」
「このままでは過ちを犯してしまいます!」
慌てて駆け寄る警備妖精たちは、あっという間にタイムを取り囲んだ。
何が起きたのか状況がつかめないタイムは、落ち着いて代表者一人が話すように促した。
警備妖精の話だと、女王の薔薇に触れた人間を牢に閉じ込めたが、その対応は隊長であるタイムに任せようとした。だが、その話を聞きつけた春の女王が、この処罰を自ら裁くと名乗り出た。
「今、女王は何処に?」
「王宮の隣にある牢屋にいます。捕らえられた人間がおかしなことを話しているとかで、話を聞きに行っています」
「おかしなこと?」
「『この土地は人間が譲り受けた。我々人間の物なんだから勝手に植物を採っても違法ではない』と言っているそうです」
「それはどういうことだ?」
「我々にはわかりません」
「とにかく女王様を止めてください!」
警備妖精たちはタイムの腕を引っ張り、王宮の方角へとせかした。
タイムの側で黙って聞いていた白い髪の妖精は、インカムを通して何かの指示があったのか、小さく頷くとタイムたちの後を追った。
里の外で待機しているヴァーグやケインたちは、白い髪の妖精が身に着けているブローチに付けられたカメラを通して、パソコンに送られてくる画像を見ていた。
「副村長は何を勘違いしているんだ? この周辺の土地を国王から譲り受けたのは俺なのに」
「でも、ご主人様は放置されていた国有地を貰ったんでしょ? この『妖精の里』も貰ったの?」
「違うよ。国指定の自然保護区域は国で管理しなければならない場所だから、王室からの許可がなければ足を踏み入れてはいけないって、陛下から念を押されてる」
「じゃあ、今のこの状況は大丈夫なの?」
「…え…?」
「だって、国王様の許可は取っていないよ?」
「…あ……」
急いでいたとはいえ、ここはすでに自然保護区域だ。無許可で足を踏みいれている事になる。
ケインは困った顔でヴァーグを見た。
「それはエテさんが何とかしてくれるわ。その為に王宮に戻ったんだから」
唯一の王族関係者であるエテ王子が何とかしてくれるだろうと、ヴァーグは王都に戻ったエテ王子に期待していた。
だが、ヴァーグは送られてくる画像と音声から、ある事を思い出していた。
「『俺の物は俺の物。お前の物も俺の物』って言っていたアニメのキャラクターを思い出しちゃった…」
かつていた前の世界で国民的アニメの代表キャラクターと重ねて見てしまう副村長の言動。
その世界にも同じような性格の人はいるんだな…と感心してしまう。
「でも、あのキャラクターは友達想いのいい人なんだよね」
そこが副村長と違う所なんだよね…と、画面を見ながら独り言を続けるヴァーグ。
何を言っているのか分からないケインとスミレは不気味に笑う彼女を怯えながら眺めていた。
その時、パソコンの画面に数滴の滴が落ちた。
「雨?」
空を見上げても空は青く澄み渡っており、雨雲は一つもなかった。木の葉から落ちた滴かと思ったが、ヴァーグたちがいる周辺は低い木が密集しており、高い木からは離れている。
スミレは何かに気付いたのか空を見上げた。
「強い精霊の気配を感じる」
「強い精霊?」
「よくわからないけど、感じたこともない強い力」
胸騒ぎがするスミレは空の一点を見続けた。
「冬の女王様だ」
「冬の女王様がいらっしゃる」
一緒にくっついてきた草原の妖精たちがざわつき始めた。
「冬の女王様はよく里にいらっしゃるの?」
「ううん、来ないよ。四季の女王様は決まった場所でしか会わないよ。お互いの里に行くのは珍しいんだ」
ユキヤナギの妖精はこの森の中だけでなく四季の女王のことも詳しい様だ。
「詳しいのね」
「第一の世界から生きているからね。この森に棲む妖精たちはほとんど第一の世界から生きているよ。タイム隊長たちハーブの妖精は第二の世界からだけど」
「「第一の世界? 第二の世界?」」
初めて聞く言葉に、ヴァーグもケインも同じ方向に首を傾げた。
「この世界は今第四の世界なんだ。女神さまが交代するたびに新しい世界が誕生しているの。僕たち植物の妖精はこの世界を作られた創世の女神さまによって誕生したんだよ」
「創世の女神さまはこの世界に光と大地と水の精霊を生み出し、風や雨などの自然現象の精霊、わたし達植物の妖精を生み出して人間は一人もいなかったんですって」
「人間が誕生したのは第二の世界から。創世の女神さまの力が衰え始めた頃に、新しい女神さまが誕生して知識の女神さまとして活躍されたんだ」
「第二の世界では人間も精霊・妖精も共存していて、今では姿を見なくなったドラゴンとかペガサス、人魚とかも沢山いたんですよ」
「でも、第三の世界を支配していた女神さまが戦いを好む女神さまで、戦いの女神さまって言われていた。人間たちはお互いに戦い、国境を作り、それぞれ支配する土地を持つようになり、ドラゴンたちも姿を消していった。人間の世界の戦いが僕たちの妖精の住む場所にも飛び火して、大きな被害を受けたんだ。そんな時、第四の女神さまが現れ、今の世界を作った。人間は妖精や精霊の存在を忘れ、人間同士で大きな戦いを繰り返し、僕たちは深い森の中や高い山の追いやられるようになったんだ」
ユキヤナギとピンク色の服を着たレンゲの妖精が交互に説明してきた。
2人の妖精の口から飛び出す世界の始まりの話によると、ヴァーグがこの世界に来るときに出会った女神は四代目の女神さまとなる。女神は【あなたが作る世界】に行ってみませんか?と提案して、この世界に飛ばされた。
(女神さま……【女神が作る世界】の間違いだと思うんですけど……)
確かに街興しに関してはヴァーグが主導者だ。だけど、それを用意するのは女神だ。パソコンを通して女神が色々な道具や材料を用意してくれている。それを使って街づくりや珍しい食べ物、農業の発展を続けてきた。どう考えても【女神が作り上げた世界】をエンディングのないゲーム感覚でやっているように思える。
だが、これはヴァーグが未だに使用していないスキル【物書き】が関係していた。
このスキルを使えば、自分の思い通りの世界を作り上げることができる。それが女神の言っていた【自分が作る世界】なのだ。
ヴァーグはこのスキルを未だに使っていない。だから女神の言葉に疑問を抱いているのだ。
「でも、第二の世界も第三の世界もおかしなことばかり起きたよね」
「うん。女神さまの奇跡として語り継がれているけど、確かにおかしかったよね」
ユキヤナギとレンゲの妖精の言葉に、周りにいた妖精たちも口々に「そういえば…」「確かにおかしいよね?」と言葉を発した。
「おかしいって、どういうこと?」
「突然人間が誕生したんだ。人間だけじゃないよ。第二の世界から生きているタイム隊長たちのバーブや、今、人間たちが食べている作物なんかも突然誕生した」
「第三の世界では、火を噴く道具や物を切る道具も突然誕生したの。それにドラゴンやペガサス、人魚も何の前触れもなく誕生したのよ。わたしたちは精霊や妖精が誕生する瞬間を知っているんだけど、第二の世界からの爆発的な生命の誕生は女王様たちも驚いていたの」
「それにね、人間が住む家も一晩で作られたんだよ。それも何十件も」
「一晩で?」
「うん。家が建ったその日のお昼過ぎには、突然何百人という人間が誕生して、その翌日には野原だった大地が畑に変わっていたの。その翌日には大量の作物が収穫されていたんだ。創世の女神さまはその光景を見て落胆されて、徐々に力が失われていった。人間が誕生して、月が10回登った夜、創世の女神さまはお隠れになられた。二代目の女神さまになったのが、豊富な知識と見たこともない魔術を持って、人間や動物たちを次々に生み出された知識の女神さまなんだ」
「なんか、ヴァーグさんに似ていますね、その知識の女神って」
ケインの何気ない一言に、ヴァーグはハッとした。
「…スキル……」
「え?」
「その女神、スキル【物書き】を持っていたのかもしれない」
「【物書き】?」
「わたしもそのスキルを持っているんだけど、一度も使ったことがないの。女神さまは使うのは自由だって言っていたけど、そのスキルを使えば何百人という人間を一瞬に作ることができるわ。それに第三の世界の女神も同じ【物書き】のスキルを持っていれば武器を作り出すこともできる。じゃあ、今の女神さまは…?」
「今の女神さまは表に出ることはないよ。この世界はこの世界に生きるすべての生き物の物だから自由に使いなさいって、一切関与しなくなったの。でも時々、女神さまの使いとして知識や技術を持った人がやってきて、街や文明を発展させているみたいだけどね」
「……」
ヴァーグは今になって気付いた。女神が言っていた【あなたが作る世界】はスキル【物書き】を使って自分の思い描く世界を作り上げることだと。
だが、彼女はこのスキルは使いたくなかった。前の世界で体験した辛い事がトラウマとなっており、すでに作り上げられた国の歴史や生きる人間たちの未来を潰したくなかったからだ。
「ヴァーグさん……」
何か言いたそうな表情を見せるケイン。
「もう少ししたら本当の事話すね。今は『妖精の里』の問題を解決しなくちゃ」
上手くはぐらかせたヴァーグは、パソコンをいじり、画面にいくつかの映像を写した。
もうすぐ王都から戻ってくるエテ王子や態勢を整えたリチャードたちが、迎えに行ったオルシアと共にここへやってくる。次なる作戦を考えなくていけない。
それに冬の女王が来ている事も気になる。
妖精の里の王宮近くにある牢屋の前に来ていた春の女王は、こちらに向かってきている強い精霊の力に気付いた。
空を見上げた春の女王は上空より降りてきた冷たい空気にいい顔を見せなかった。
「何故、ここに来られた」
上空より降りてきた冷たい空気の層に包まれたその人物に向かって、強い口調で投げかけた。
「春の女王にお伺いしたい事がありまして。ご連絡もなく申し訳ございません」
冷たい空気の層に包まれたその人物ー冬の女王は冷たい青い目を春の女王に向けた。
2人の間に、何とも言えない空気が流れた。
「今、取り込んでいますの。後にしていただけません事?」
「急を要します。ただ一つの質問に答えていただくだけで結構です」
「質問?」
「この近くに『春の草原』に隣接する村があると思います。そちらにわたくしと同じ容姿を持つ人間がいらっしゃると伺いました。ご存じでしょうか?」
「わたくしが人間の事など知るわけがないでしょ!? ここは人間が足を踏み入れてはならない場所です。足を踏み入れた人間はこのように捕らわれる身になりますの!」
春の女王は牢に入れられている2人の人間を指した。
牢の中にいる人間ー副村長とその息子は、突然現れた青みがかった銀髪の女性を食い入るように見つめた。
「何故、人間と共存されないのですか? わたくしの里は人間と共存しております。話し合えば分かり合えます」
「共存? そのようなことは無意味ですわ。現にこの人間はおかしなことばかり言います。この土地は人間が貰った。自分たちの土地に生息する草花を摘んで何が悪いというんですのよ! こんな戯言をいう人間と共存などできますか! わたくしたちの里の者は瀕死なんですのよ!」
「何か事情があるのではないですか? その者たちに話をお聞きになればよろしいのに」
「戯言を申す者とは話はできません!」
「では、わたくしがお話します。事情を聞かば真相もわかるはずです」
「どうぞご勝手に!」
怒りが収まらない春の女王は、冬の女王と立ち位置を変えた。
牢に近づき、中にいる人間に近寄ると、牢の中にいる副村長の息子が目を見開いて冬の女王を見入った。
そして、
「…ケイン…?」
とある男の名前を呼んだ。
「ケイン?」
聞き逃さなかった冬の女王がその名前を言い返した。
「お…俺の村にいるんだよ! あんたと同じ青みがかった銀髪に青い瞳を持つ男が!」
「わたくしと同じ容姿の男?」
冬の女王は、ボルツール公国での事を思い出した。自分を見たリヴァージュが、同じ容姿をしている男と出会ったと話していた。
では、その男というのが『ケイン』という名の男。
「その者は村にいるのですね」
「ああ。あのケインがこの周辺の土地を国王から貰ったんだ。ケインが貰った土地なんだから、同じ村に住む俺たちがこの土地に足を踏み入れても何の罪もない」
「ステラ王国の国王が土地を人間に渡したなど信じられませんわ。この『妖精の里』は永久的に国の自然保護区域とし、人間たちの立ち入りを禁止する条約を結んでいますもの。わたくしたちの許可なく条約を破るなんて考えられませんわ」
春の女王がお怒りなのはよくわかる。先の大戦後、当時の国王は『妖精の里』を含むこの森一帯を国の自然保護区域とし、王室の許可なく足を踏み入れることは禁じた。だが、その時の国王は今の国王の曾祖父にあたる。当時の国王の最後の行政として行われたので、国王が変わればその条例も国民の記憶からは忘れ去られるだろう。
「春の女王様、何か訳がありそうですわ。ここはそのケインという者をここに呼ぶのはいかがでしょうか?」
「それはできません。この者たちは自分が逃げるために嘘を申しています。村に冬の女王と同じ容姿を持つ者がいると申せば、その者を連れてくると嘘を付き、逃げる魂胆ですわ。この者たちは足を踏みいれてはならない土地で、この里の妖精たちの命の源を根こそぎ奪っていったんですの。重い罰を与えなければいけませんわ」
春の女王は冬の女王を牢の前から退かせると、警備妖精たちに向かって軽く手をはらう合図を送った。
その合図で警備妖精たちは牢に向かって、手に持っていた槍を一斉に向けた。
その時、
「春の女王様! わたくしはその者を見たことがございます!!」
と、タイムが春の女王の前に膝を付いた。
「タイム! あなたまで!」
「本当にございます! 青みがかった銀髪に青い瞳を持つその者はネジュ様にそっくりでした」
「ネジュに…だと?」
タイムの口から『ネジュ』という言葉が出た途端、春の女王の顔色が変わった。
周りに集まっていた妖精たちからも驚きの声が上がった。
「ですが、ネジュ様はだいぶ前にお亡くなりになられています。そのネジュ様に似ているなんて……もしかして、あの時の子供では…」
「そんなはずないですわ! ネジュは確かに契約を結んだ人間と夫婦になり子をもうけました。ですが、子供が生まれてすぐにネジュは亡くなり、夫となった人間もすぐに命を落としています。わたくしたちが看取ったではありませんか! その後子供は遠くに引き取られましたわ。それからは一度も見ていませんもの!」
「子孫と考えられませんか?」
「認めたくありません!!」
「では、こちらにお呼びして真相をお聞きされてはいかかでしょうか? この里の危機を知り、何か手助けできないかと里の外で様子を伺っています」
「人間を里に入れるなど!!」
「春の女王様! 緊急を要します。タイムと申しましたね。わたくしが許可いたします。その者をこちらへ呼んでください」
「冬の女王! ここはわたくしの里ですわ! 勝手な行動は慎んでください!」
「申し上げたはずです! 緊急を要します!」
頑なに断り続ける春の女王に、冬の女王は強い口調で怒鳴りつけた。
冬の女王は四季の女王の中では一番新しい女王。その女王から強く言われた春の女王は「勝手にしなさい」と吐き捨てるように呟いた。
タイムは白い髪の妖精に、里の外にいるヴァーグたちと連絡を取るように頼んだ。
白い髪の妖精のマイクを通してすべて聞いていたヴァーグは、ケインの他に合流したエテ王子とリチャードを連れていくことを望んだ。白い髪の妖精には王室関係者も同行すると女王に伝えてほしいとお願いした。
「あの…王室関係者の方も見えられているそうなので、その方たちもお連れしてよろしいかと…」
「ええ、お願いします」
「はい」
白い髪の妖精はマイクを通して許可を得たことを伝えた。すぐにインカムのイヤホンで返事が来た。
「あの、わたし、迎えに行ってきます」
「ああ、頼む」
2人の女王に一礼した白い髪の妖精は、里の入り口へと向かった。
飛び去った妖精が不思議な道具を使っている事に、2人の女王は注目していた。
遥か昔、あれと同じ道具を使った人間を知っている。先の大戦で大活躍した一人の男が身に着けていたことを思い出したのだ。
しばらくして白い髪の妖精に連れられて4人の人間がやってきた。
「ネジュ様だ…」
「ネジュ様がお戻りになられた」
青みがかった銀髪の人間を目にした妖精たちからざわつきが起こった。
妖精たちは口々に「ネジュ様」と人の名前を発している。
もちろん、その人間を見た春の女王も冬の女王も
「ネジュ…」
「ネジュ様…」
と同じようにその名前を発した。
「こちらが先ほど話した人間です」
タイムが紹介すると、ケインは小さく頭を下げた。
「たしかにネジュに似ていますわ」
「こんなことって…」
実在した青みがかった銀髪に青い瞳を持つ人間に、春の女王も冬の女王も言葉をなくした。
呆然とケインを見続ける2人の女王の前に、騎士団の制服を着たリチャードが片膝を付いた。
「突然の訪問、大変申し訳ございません。わたくしはステラ王国王宮警備騎士団に務めていますリチャードと申します。国王陛下よりこちらを預かってまいりました」
そう言いながらリチャードは春の女王の前に、1つの巻物を差し出した。
タイムが間に入り、一度受け取って中身を確認した後、春の女王に渡された。
巻物には国王の署名と王家の紋章、そして無断で足を踏み入れた事へのお詫びとその許可、そして罪を犯した人間の引き渡しが書かれてあった。
「これは確かにステラ王国の王室の紋章です。間違いありません」
本物と認められ、リチャードはホッと安堵の息を吐いた。
「タイム」
「はっ!」
「牢の人間をこの者たちに引き渡しなさい。王室で裁いてくださるようです」
「かしこまりました」
「では、わたくしは王都まで連行します。ケイン、ドラゴンを貸してくれないか?」
「あ…はい…」
ケインは空に向かって指笛を吹いた。すると上空に黒い影が現れたと思ったら、2人の女王の前に大きなドラゴンが舞い降りてきた。
そのドラゴンにはリオが乗っていた。牢から出された副村長親子を乗せ、リチャードはリオと共にドラゴンに乗って飛び去っていった。
「ドラゴンはまだ生きているのですね」
空を舞うドラゴンを見て、春の女王の目から涙があふれてきた。
「あのドラゴンは俺…あ、いえ、僕が契約しているドラゴンです」
「あなたが?」
「今ではいい相棒です」
「人間とドラゴンの共存。すべての人間が悪い訳ではないのですね」
今迄の怒りが急に冷めた春の女王は、優しい眼でケインを見つめた。
急に見つめられたケインは不自然に目を逸らしてしまった。
「本当にネジュ様に似てますわ」
「ケイン…様でよろしいですか? いくつか質問したいのですがよろしいでしょうか?」
「は…はい」
返事をしたケインの脇腹をヴァーグが突いてきた。
ヴァーグの顔を見ると、何やら口をパクパクとさせ、広場の方を目で訴えていた。
「あ…えっと……その質問の前に一つやりたい事があるんですがいいですか?」
「「やりたい事??」」
2人の女王は同時に首を傾げた。
<つづく>
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