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第53話 希望が見えました!!
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王宮では国王主催の新年会が開催され、国王や王妃付きの侍従や侍女たちが所狭しと動き回っていた。
新年会の開場に入れるのは身分を持つ侍従や侍女たちだけで、使用人と呼ばれる者たちも会場の裏で走り回っている。
新年会に出席していない第一王女は仲のいい貴族たちを集めてお茶会を開いているので、こちらの侍従たちも忙しい。
第二王女も、仲のいい友達と新年会を開いている。
第一王子は王宮から姿を消しているので仕事はないと思われたが、王子の生母から声がかかり、新年会に出席している生母の為に走り回っている。
第二王子も王宮にはいない。こちらも生母に呼ばれ仕事は次から次へと生まれてくる。
第三王女のクリスティーヌ王女は新年会に出ていないが、自室にいる為、侍従や侍女たちの仕事はある。
第四王女のルイーズ王女も自室にいるので、こちらも仕事はある。
今、王宮内で特に仕事がなく、暇を持て余しているのは第三王子のエテ王子の侍従や侍女、使用人たちだ。
新年を迎える直前、国王からエテ王子が婚儀の儀式終了後、この王宮を出て小さな村に居住を移すことを告げられた。もちろん今まで仕えていた者は全員、新しい居住に着いていけると思っていたが、国王から告げら手た言葉が期待を裏切った。
「村に移り住んだら、一般市民の生活をするそうだ。よって、エテに付けていた者は婚儀終了後、エテに仕えることは出来ない」
エテ王子は移住するにあたり、誰も付けないと言っている。
実際、第一側近だったダイスは現在、王妃付きとなっている。ダイスは元々、王妃の実家で執事見習いをしていた者で、エテ王子が王宮で暮らすことになった時、教育係として王宮に上がることになった。王子が王宮を出ても、王妃に仕えることに何の不思議もない。
今まで懸命に仕えてきた者たちは、エテ王子が裏切るはずがないと、国王の言葉に疑問を感じた。
まだ王子本人から何も聞いていないのだ。国王は婚儀の儀式(結婚式まで含む)に一年以上の時間があることを話し、その間に次の職場を探すようにと、遠回しにアドバイスしたに違いない。
だが、今から新しい職場を探すにしても、王宮内には働く場所がない。エテ王子には生母がいないので、そちらに移ることもできない。だからといって他の王子や王女に仕えることは避けたい。いままで王位継承をめぐって対立してきた人の所に行くことに気が引ける。
じゃあ、エテ王子の後見人であり、王妃の実家はどうだろうか。ここも働き手は足りている。王妃の実家の後継者問題も遠縁から跡継ぎを養子に貰うことで落ち着き、今まで屋敷で働いていた使用人たちで事足りるのだ。
王子の婚約者コロリスにも数人の侍従と侍女が着いているが、彼女本人が一人で出来る人なので、特に手を貸すこともない。コロリスの実家も人は足りているという。
「どうしようかしら?」
「どうしましょうね」
侍女たちは身分のある貴族の娘たち。実家に戻ることも考えたが、エテ王子に仕える侍女たちは誰一人として実家には戻らないと口を揃える。侍女たちの実家はいずれエテ王子が国王になった時に、口利きをしてもらおうと企んでいる家が多い。エテ王子に気に入られれば自分たちの出世も夢じゃないと、娘を出世の道具にしている者たちばかりだ。
侍従たちの実家も同じような物。いずれ国王の座に就いたエテ王子から、大臣や高い役職に就けるように、いまから息子たちを側に置き、気に入られようとしているのがバレバレだ。
身分のある侍従や侍女たちには帰る家があるが、使用人たちには帰る家がない。侍従や侍女の実家で働いていた使用人が多く、彼らには自分の家という物がないのだ。侍従たちの実家が迎え入れてくれればいいのだが、王子が王室を離れる事を知れば、快くは受け入れてくれないだろう。
「早めに王子様にお話した方がいいのでは?」
「せめて王室にいる間に、次の職場の口利きをしてもらわないと」
エテ王子に仕える者は約30人。早く王子に新しい職場を紹介してもらわないと、人気のある所はすぐに埋まってしまう。そんな焦りもあるが、きっと身分のある物から口利きしていくはずだから…と使用人たちは自分たちで新しい職場を見つけることにした。
自分に仕える者たちの事を何とかしなければならないと、エテ王子は真剣に考えている。
「…ってことで、何かいい案はないだろうか」
ボルツール公国の塩、【雷の結晶】、火の石に使う【燃える作物】の確保とすべてが片付いたところで、エテ王子はヴァーグに自分に仕える使用人たちの話を持ち掛けた。
「う~~……ん……難しい問題ね」
いくらヴァーグでも新しい職場の斡旋は難しい問題だ。
「どれぐらいの方が仕えているんですか?」
「俺の所が侍従が5人、侍女が8人、使用人が俺専用の庭師含めて17~19人。コロリスの所にも侍従は2人、侍女が3人、使用人が7人いる」
「結構いますね」
王子にはそれだけの使用人が身の回りの世話をしているのか…ケインは現実離れした話に驚いている。
「いや、俺はこれでも少ない。国王はこの数倍がいるし、第一王女には同じ衣装担当でも日替わりの者もいる」
「はぁ!?」
「ダイスは上手く王妃に鞍替えできたみたいだから心配はいらないんだけど、他の人は俺がどうにかしないといけないような気がするんだ。今まで俺に仕えてきてくれたのに、王宮を出ることで職を失わせるのは心苦しい」
「エテさんならではの悩みですね」
「王宮での仕事しかしたことないけど、他の貴族の屋敷でもやっていけるとは思う。だけど、侍従や侍女は使用人と違って身分もあるし、家柄の事もあるから、実家がそれなりの所に就職しないと煩いと思うんだ」
「その身分のある方々は、かなり大きなお屋敷のご子息やご令嬢なの?」
「まあ、俺が国王に座に就いたら役職を貰おうと企んでいるから、古くから王室に仕えていた由緒ある家だろうね」
「ますます難しいじゃないの」
「貴族って変な所で見栄を張るんですね」
ケインは何げなく言葉を発した。
ハッと我に返り、ケインは周りにいるエテ王子やリオ、リヴァージュの顔を見た。リオは伯爵の爵位を持っており、リヴァージュは公爵の爵位を持っておる。エテ王子も一応侯爵の爵位を持っている。ここにはいないがコロリスは子爵令嬢、カトリーヌも侯爵令嬢だ。
「あ、いえ、悪気があったわけでは…」
「別に気にしていないよ」
「そうそう。ケインが言う通り、貴族たちは自分の身分や地位に酔いしれている。それを見せつけて身分もない者を陥れることはざらにある」
「地方に出かけると、国民たちが身分のある者を嫌っている事はよく感じる。ただ生まれた場所が違うだけで、皆が同じ人間だという事を、今の貴族に話しても誰も納得しないだろう」
公務で地方に出かけることが多いエテ王子ならではの言葉だ。
ヴァーグは新年が明ける前に保育所で行われたケーキ作りの時、シスター・マルガリーテの言っていた言葉を思い出した。特殊な能力を持つ子がいるだけで、寄付を拒む貴族たちがいるという話を。
「子供が好きで、子供の世話ができる子なら、保育所で雇うんだけどな…」
ヴァーグはまだ本格的に決めていない保育所の常任職員にどうかな…と思った。
今の王宮にはルイーズ王女よりも小さい子供がいないから無理か…と諦めかけたその時、
「乳母の経験者ならいますよ」
と、エテ王子が希望の言葉を発した。
「え?」
「俺の侍女長、俺を育ててくれた乳母なんです。一時期、ルイーズの世話もしていた事あります」
「それって、小さい子供の面倒は見れるってこと?」
「そうなりますね。中には医師の見習いをしていた者もいますし、使用人の中には兄弟が多い人もいますので、子供の世話が得意な人もいるはずです」
「じゃ…じゃあ、中には給仕が得意な人もいる?」
「ええ。食事を給仕してくれる人は必ず一人は付けますから」
「庭師がいるって言っていたけど、それは庭園の管理が得意なの?」
「なんでもしますよ。離宮には俺専用の花壇があるので、その世話をお願いしています。庭師って言っても親子でやっているんですが、息子は俺とそんなに年が変わらなくて、いつか大きな土地に広大な花畑を作りたいって夢を持っている奴なんです」
「ドレスとかの着付けや、髪を綺麗に結える人もいる?」
「クリスやルイーズの手伝いもしているので、出来るんじゃないんですか? コロリスに仕えている人はそう言う人を集めたって、王妃が言ってましたし」
「中には人に何かを教えるのが得意な人も……?」
「それぞれ得意科目はありますけど、母国語、音楽、歴史、マナーを教える教師はいました。今はクリスとルイーズの教師をしていますが、他にも教師は居るので、教師を育てる方に回っています」
ヴァーグは次から次へと出てくる期待通りの言葉に、顔をパァ~と明るくさせた。
「いける! いけますよ、エテさん!!」
「な…なにが?」
「エテさんにお仕えしていた方、全員村で雇います!!」
ヴァーグの爆弾発言に、その場にいた人全員が言葉を失った。
ポカーンと口を開けたまま固まっている男性軍に対して、ヴァーグはやる気満々だった。
ヴァーグが提案したのは、その得意な分野を仕事にすること。
乳母や子供の世話が得意な人は保育所で雇う。常時、職員がいてくれれば保育所を休むことも無くなるし、お手伝いをしてくれる村の女性たちとローテーションを組めば、職員の休みも確保できる。
庭師の親子には『春の草原』復興に力を貸してもらう。定期的に植える花を変えれば観光名所になること間違いなし。
勉強を教える教師には学校で働いてもらうことになる。今の学校は神父が勉強を教えてくれるが、それも限度がある。ヴァーグが前にいた世界では当たり前だった学校のシステムを作れば、子供たちにも偏りなく知識を植え付けることが出来るだろう。いずれ新しい街に学校が出来た時に絶対に役立つ。
医師の心得のある人には村の診療所で働いてもらい、後々は新しい街に出来る病院で働けるようにする。
給仕が出来る人や、着付け、髪を結える技術がある人はデイジーの会社で雇ってもらう。結婚式などで何かと役に立つだろう。結婚式だけではなく、何かの記念でデイジーの会社を使う人にも役に立つはずだ。また、今、建設中の劇場でも、衣装係として雇えるかもしれない。
書類の作成や文章を作るのが得意な人、計算が得意な人はデイジーやマリアの会社で事務員として働くこともできる。国王から貰った土地で、村に近い場所に居住スペースを確保できれば、移住も可能だ。その居住スペースの管理ができる人もいれば尚更いい。
ヴァーグからこのような説明を受けたエテ王子は、彼女に感謝を述べた。
「いいアイデアだ。ぜひお願いしたい」
「だけど……」
「何か不安でも?」
「お給金は下がります。王宮に務める方がどれぐらい貰っているのかはわかりませんが、今と同じお給金は手に入らないと思います」
「そこは親父と話し合ってみる」
「新しい街が出来る頃は王都で職に就けない方たちも迎え入れられると思います」
「ヴァーグ殿に相談してよかった。早速親父と話してみるよ」
自分が王宮を去った時、残された侍従たちの事が心配だったが、かすかな希望の光が灯った。
問題はヴァーグが言う様に給料だろう。あとは侍従や侍女たちの実家だ。王都から遠く離れた小さい村で、自分たちの子供たちが働くことを許してくれるかだ。今まではエテ王子が国王になった時の口利きを計るために息子や娘たちを王子の側に置いていた。息子や娘たちが王宮を出るという事は、自分たちの出世が閉ざされたという事になる。
「親父と相談だな」
「マリアさんみたいに貴族様も村に貢献する会社を経営すればいいのに」
ケインがポツリと呟いた。
その発言に目から鱗だったエテ王子は、「それだ!」と声をあげた。
「え? 俺、何か言いました?」
無自覚なケインはキョトンとした顔を見せた。
「ヴァーグ殿、新しい街づくりや今の村に必要な会社はありますか!?」
「え……えっと……今、一番欲しいのは不動産関係だけど…」
「フドウサン?」
「新しい土地に居住地を作りたくても、その土地を管理できて、土地を売買できる能力がある人がいないと色々な争いが起きると思うんです。土地の境界線が~とか、ここは自分の土地だ~って争い事が起きるはずです。それらを無くすためには、土地を管理し、誰がどの土地を持っているのかを把握できる人が必要です」
「それは特別な資格が必要ですか?」
「この世界にはそのような物は必要ないようなので、できれば貴族だから何でも許される…という考えを持っていない方がいいです。土地その物は国王名義であり、今の持ち主はケインである事。それを分かった上で不動産という事業をやってくれる方を望みます。もちろん、不動産に必要な知識や技術はわたしが教えます」
「わかった。一人、適任者がいる。頼めるか聞いてみるよ。他にはあるか?」
「後は……運送関係……かな? ケインのお祖母様にお聞きしたのですが、ミゼル侯爵家がケインの実家の野菜を仕入れたいと仰ってくれたんですが、王都まで運ぶ人がいないんです。侯爵家から来てもらうのもご迷惑だと思うので、間に立ってくれる人が欲しいです。それにマリアさんの会社で作られているお米の出荷も、運送専用の業者がいるとだいぶ助かります」
マリアの会社は、元々マリアの実家が持つ領地で働いていた人がそのまま従業員になっている。コメを作る事、加工することはできるが、海外へ輸出する時はマリアの実家で手配していた。今は前からの取引先が自ら買いに来てくれているので、その負担も変えたいと思っていた。取引先はわざわざ村まで買いに来る理由は、この村でしか食べられない料理を食べにくる目的もある為、負担には思わないようだが…。
その他、行商に頼むこともあるが、行商は色々な土地を渡りあっている為、毎回決まった人に行き渡るわけではない。確実に利益を上げるには固定客を手に入れることが必要だ。
その為に運送出来るシステムをしっかりと作り上げなくてはならない。
「各国に顔が広い人の方がいいだろう。そうなると……あの人しかいない」
「できれば輸送用の乗り物とかも確保できるといいんですが…」
「それも大丈夫だ。牧場を経営する人がいて、王宮や騎士団に献上する馬を育てている人がいる。馬などの手配は出来るはずだ。荷馬車を作る職人と知り合いだと言っていたので、そこと繋がることもできるだろう」
エテ王子からはすんなりと適任者が挙げられた。彼は自分に仕える侍従や侍女たちだけでなくその実家もよく調べ上げられている。さすが次期国王に一番近い人と言われているだけある。
「話の途中で申し訳ないのだが、我がボルツール公国もその話に乗らせていただけないだろうか」
リヴァージュが話に加わってきた。
「ボルツール公国も?」
「我が国の塩の流通を円滑にして頂きたい。高品質の塩は先ほどヴァーグ殿が提案してくれた方法で大量生産できそうだし、我が国は山に囲まれている為、輸出も一苦労だ。もし、運送関係で上手くいくようなら、我が国の特産物を海外に広める手助けをしてほしい」
「中継基地を作ると円滑になると思いますよ」
「中継基地?」
「例えば、ボルツール公国で採れた塩を、倉庫を作ってそこで保管します。注文が入り次第、国から近い所はその倉庫から出荷し、それよりも遠い所…国外とかですね。その場合はこの王都の近くにもう一つ倉庫を作り、そこへ運び込んでから出荷します。同じ運送会社が行えば縄張り争いも起きないと思います」
「なるほど」
「逆にこの国で作られたお米や保存のきく食品が、ボルツール公国よりも更にその先の国から注文が入った時、一旦ボルツール公国に出荷し、そこから配送してもらう様にすれば、ステラ王国の特産物も広がります」
「だが、注文はどうするんだ。わざわざ使者を立てるのか?」
「それは荷物を運んだ運送業者に次回の注文として頼めば無駄な人件費は使わなくて済みますよ。配送も注文が入る度にやってもいいし、決まった日にちに輸送するのも一つの案です。行商に頼んで品物を運んでもらい、気に入ったら個別で注文するってこともできます。ただ行商を使うと固定の注文が取りにくくなるので、各地方の領主様に頼んで、注文を一括に引き受け、荷物を定期的に届ける場所を作らなくてはいけませんが」
「なるほどな」
「その為にはいくつか下準備が必要です。中継基地となる倉庫を作る事。そこで働く人を確保する事。輸送に大切な荷馬車を確保する事。地方の領主様に了承を得て納品できる場所を確保する事。配送に必要な安全の道を作る事」
「何とかなりそうだ。ケイン、お前から親父に説明してくれないか?」
「お…俺!? 無理無理無理無理!!!」
「大丈夫よ。ちゃんと必要な事は紙に書いてあげるから」
「ヴァーグさんが話してくださいよ!! 俺には無理だって!!」
「わたしは村に帰ってやることがあるもの。まずは火の石に使う作物の栽培の準備でしょ。ゲンさんに頼んで建物を作ることができる職人さんを手配してもらうでしょ。保育所のお掃除に、レストランの新作も考えなくちゃ。それからサルバティ神父とエミーさん達の結婚式の打ち合わせをしたり、デイジーとのお話しなくちゃね。マリアさんにもこの話をしなくちゃいけないし、村長さんにもご報告しなくちゃ。それにアクアの機嫌を直さなくちゃね。これ全部やってくれるのならわたしが行ってもいいよ」
ヴァーグのやらなければならない事を聞いてケインは、首を思い切り横に振った。特に最後のアクアの機嫌取りだけは無理な仕事だ。ヴァーグが返ってこない事に更に腹を立て、何をされるかわからない。それなら王都で説明していた方が身の安全を保てる。
早速、国王に相談することを紙に書き起こした。
エテ王子は自分に仕えていた者の再就職先、侍従や侍女たちの実家の事、使用人たちの衣食住の確保など、自分が王宮を離れた時の対応についてを話す。
ケインはエテ王子が提案した会社設立についての詳しい詳細を話す。
リヴァージュはその提案にボルツール公国も参加できないかと願い出る。
そんな流れで話す内容が決まった頃、王宮に仕事で出かけていたリチャードが、新年会に参加していたミゼル侯爵夫妻と共に屋敷に戻ってきた。
「ケイン殿はまだいるのかね?」
出迎えた執事に訊ねると、まだ中庭で話中だと聞くや否や、中庭に向かって走り出した。
「父上はケインがお気に入りのようだ」
「今日の夕飯もきっと豪華なお食事なんですね」
侯爵夫人までケインの料理を期待しているようだ。
だが、今日はヴァーグもいる。2人が想像するより、もっと驚く夕飯になるに違いない。
中庭では話が終わったのか、エテ王子とリヴァージュが王宮に帰る所だった。
「おや、もう帰るのかね?」
「ええ。お邪魔しました」
「ケイン、明日の朝、迎えに来るからな」
侯爵に小さく頭を下げてエテ王子とリヴァージュは去っていった。
「話は終わったのかね?」
「はい。公爵、申し訳ないのですがケインを一晩泊めていただけませんか? 明日、王宮で国王様とお会いするようなので」
「ああ、いいとも。ヴァーグ殿も泊まっていかれたらどうだ」
「わたしは村に戻り、至急やらなければならない事がありますので、お暇させていただきます」
「そうか…残念だ」
「その代わり、お夕食を作らせていただきますね。お気に召すかわかりませんが」
「おお! そうか!そうか! では早速料理長に話してこよう。どんな料理か楽しみだ!」
侯爵はスキップしながら厨房へと向かった。よほど楽しみなんだろう。王宮の新年会もほぼ食べ物を口にしていないほどだ。
「何を作りましょうか? この間、ハンバーグとオムライスを作っちゃいました」
「そうね……材料次第だけど、きっと喜んでくれると思うわ」
ヴァーグは新年祭で使っていた材料や村から調味料などをアイテムボックスにしまってある。ある程度の料理なら作れるが、何を作ればいいのか困る。おでんやカレーは新年祭で作ってしまった。ハンバーグとオムライスも作ってしまった。
(豆腐があればすき焼きにするんだけどな~)
アイテムボックスの中にはすき焼きのタレも常備している。ただ豆腐と白滝だけはない。
リヴァージュに塩を作る過程で出るにがりという物を採ってもらう様に頼めばよかったと、今さら後悔している。まあ、夏の始まりの頃に一度、ボルツール公国に行く予定なので、その時に塩の副産物として出るにがりを使った豆腐という食べ物を考案すればいいかと、まずは塩を作る事だけに専念してもらうことにした。
厨房に行くと、公爵と料理長が両手を広げて出迎えてくれた。
「お待ちしておりました! 今日も宜しくお願いします」
料理長はヴァーグとケインの背中を押して厨房の中へと招き入れた。
「料理長、今日はわたしも見学させてもらうぞ。王宮の新年会では一切口にしていないからな。待っているのは辛い」
侯爵は鋭い目つきでケインを見つめた。
これは豪華な食事にしないと何を言われるかわからない。
「とりあえず、材料を見せてください」
「どうぞ、どうぞ」
ヴァーグは貯蔵庫となっている食材置き場を物色し、これならいけるかな…と思う食材をいくつか持ってきた。
食材置き場から持ってきたのは、白菜と豚バラ肉。この二つだけでケインは何を作るのか予測できた。だが、他に持ってきたのはタマネギ、ニンジン、ナス、カボチャ、冷凍保存されていたエビだった。
「ケイン、この間作った白菜と豚バラのお鍋は作り方覚えてる?」
「あ、うん」
「じゃあ…」
ヴァーグはアイテムボックスから必要な調味料を取り出し、ケインに渡した。
「他の料理人にも教えてあげてね。わたしは初めて作る料理に取り掛かるから」
「初めての料理?」
「出来てからのお楽しみ♪」
新しい料理なら自分も見たかった…と悔しがるケインだったが、数人の料理人が期待の眼差しで自分を見つめている事に気付き、少し離れた場所でミルフィーユ鍋を作ることにした。
ヴァーグは料理長に小麦粉と卵を用意してもらい、深い鍋に油を大量に注ぐように頼んだ。
用意したナスとカボチャは食べやすい一口サイズに切り分け、厚さは煮込む時とは違い薄く切り揃えた。タマネギとニンジンは細く切り揃え、エビは流水で解凍させ、殻と背ワタを取るように料理人に頼んだ。
ケインがミルフィーユ鍋をコンロにかける頃、ヴァーグは次の作業に取り掛かった。
用意したボウルに卵を割り入れ少量の水を入れる。別のボウルに小麦粉を入れ、卵を少しずつ加え小麦粉を溶いていった。塊がまだあると水を入れ、水っぽくなる直前の液体を作り終えた。
「なんか、たこ焼きを作る時と似てる」
たこ焼きやたい焼きを作る時と同じように小麦粉を水で溶いたことに、ケインは同じような物を作るのかな?と思ったが、ヴァーグは薄く切り分けたカボチャをその液体に入れ、コンロに向かった。
一体何を作るんだろう…。厨房の誰もが不思議そうに眺めていた。
鍋に入れた油が温まり、ボウルの中の液体を一滴油に落とした。熱せられた液体は塊となって浮かんできた。それを見てヴァーグはボウルの中の液体に付けたカボチャを油の中に入れた。
ジューっという音と共に、カボチャは油の中で揚げられている。
「素揚げとは違うのか?」
覗き見していたミゼル侯爵は、よく赴任先の食事に出る野菜の素揚げを想像していた。それならいつも食べていると期待はずれに思ったが、油からあげたカボチャを見て驚いた。
なんとカボチャが薄い黄色い衣のような物を纏っているのだ。
あらかじめ用意してあった紙を敷いたバットに上がったカボチャを乗せ、更にナスやエビも同じように液体に付けて油で揚げ始めた。
一体何という料理なんだろう…不思議そうに覗き込んでいると、ヴァーグは塩をくださいと頼んだ。近くにいた料理人が塩の入った小さな壺を持ってくると、ヴァーグは揚がったばかりのカボチャにパラパラと掛け、小皿に移して侯爵の前に差し出した。
「お熱いので気を付けて食べてくださいね」
そう言いながら小皿を侯爵に渡すと、再び野菜を揚げ続けた。
受け取った小皿を眺めていた侯爵は、行儀は悪いと思いながらも手づかみでカボチャを掴んだ。揚げたてで熱かったが、何やらいい匂いがし、公爵は一口頬張った。
「なんだ、これは!!」
普通の素揚げとは違い、カボチャがほくほくしている。周りの黄色い衣がサクサクとしており、二つの違う食感が癖になる。味はほぼないが、カボチャの甘みと、振りかけた塩がいいアクセントとなっている。
「ヴァーグ殿、これは何という料理だ?」
「天ぷらといいます」
「て…テンプラ……?」
「小麦粉と水と卵で溶いた液体に野菜を入れて、こうして油で揚げる料理なんです。入れる野菜は何でもいいですよ。野菜の他にも鶏肉とか、魚とか、きのことか、相性は何でもあうんです」
「こんなに簡単に作れるのか。是非とも我が隊の食事にも取り入れたい」
「ヴァーグさん、こちらも仕上がりました」
隣のコンロで鍋を作っていたケインが声をかけてきた。
「公爵に味見して貰って」
「は~い」
ケインは小皿にミルフィーユ鍋に一部をよそうと、公爵に差し出した。
「これは?」
「白菜と豚肉の煮込み料理です。味はお肉に塩コショウをかけて、煮物で使う出汁粉を振りかけただけです」
「なんともシンプルな物だな」
何の躊躇いもなく受け取って白菜と豚肉の煮込んだ物を口にした公爵は、初めてミルフィーユ鍋を食べた時のラインハルトやジャンのように言葉を失った。
「いかがですか? お口にあいませんか?」
「……とんでもない。凄く美味しい。本当に白菜と豚肉しか使っていないのかね?」
「ええ。冬の定番料理です」
「これも素晴らしい。ヴァーグ殿は少ない材料で素晴らしい料理を作る天才だ。ケイン殿は彼女から教えてもらったのか?」
「はい。俺の師匠ですから」
「国王陛下がお気に召すはずだ。ヴァーグ殿、王都に進出してくる気はないか? 王都でレストランを開いてほしい」
「ありがとうございます。でもそれはできません」
「何故だ」
「わたしやケインはこれから新しい街を作らなければならないんです。それにレストランには修行中の見習いもいますので、王都にレストランを作るまで手が回りません」
「監修だけしてくれればいい。それでもダメか?」
「ごめんなさい」
ここまで頼み込んでも断るという事は、他に何かあるのだろう。
普通の貴族だったら、ここまで断わる人に対しては怒りを表す。なのにミゼル侯爵は怒ることはない。騎士団の幹部としているという事もあるが、何故かヴァーグを見ていると、もっと大きな事をやってくれそうに見えるのだ。それも明るい未来が待つ輝かしい出来事を…。
「あと少しで出来上がりますので、公爵は食堂でお待ちください」
「……わかった…」
「ケイン、他に何品か作るから手を貸して」
「は~い」
厨房を後にする公爵は、もう一度ヴァーグの姿を見た。
そこら辺にいるただの娘だと思っていたが、ふとした瞬間に神々しいベールを纏っているように見間違う。
この人が手を貸してくれれば、何もかも成功しそうに感じる。ヴァーグに話した王都でのレストラン開業は嘘ではない。国王と話しているときにもこの王都に村と同じレストランがあれば…という話が出ている。
何とかしてこの味を王都に人に味わってもらいたい。特にイベント毎に中央広場に来ることのない身分のある連中に。
侯爵の願いは意外な形で叶えられる事となるだろう。
<つづく>
新年会の開場に入れるのは身分を持つ侍従や侍女たちだけで、使用人と呼ばれる者たちも会場の裏で走り回っている。
新年会に出席していない第一王女は仲のいい貴族たちを集めてお茶会を開いているので、こちらの侍従たちも忙しい。
第二王女も、仲のいい友達と新年会を開いている。
第一王子は王宮から姿を消しているので仕事はないと思われたが、王子の生母から声がかかり、新年会に出席している生母の為に走り回っている。
第二王子も王宮にはいない。こちらも生母に呼ばれ仕事は次から次へと生まれてくる。
第三王女のクリスティーヌ王女は新年会に出ていないが、自室にいる為、侍従や侍女たちの仕事はある。
第四王女のルイーズ王女も自室にいるので、こちらも仕事はある。
今、王宮内で特に仕事がなく、暇を持て余しているのは第三王子のエテ王子の侍従や侍女、使用人たちだ。
新年を迎える直前、国王からエテ王子が婚儀の儀式終了後、この王宮を出て小さな村に居住を移すことを告げられた。もちろん今まで仕えていた者は全員、新しい居住に着いていけると思っていたが、国王から告げら手た言葉が期待を裏切った。
「村に移り住んだら、一般市民の生活をするそうだ。よって、エテに付けていた者は婚儀終了後、エテに仕えることは出来ない」
エテ王子は移住するにあたり、誰も付けないと言っている。
実際、第一側近だったダイスは現在、王妃付きとなっている。ダイスは元々、王妃の実家で執事見習いをしていた者で、エテ王子が王宮で暮らすことになった時、教育係として王宮に上がることになった。王子が王宮を出ても、王妃に仕えることに何の不思議もない。
今まで懸命に仕えてきた者たちは、エテ王子が裏切るはずがないと、国王の言葉に疑問を感じた。
まだ王子本人から何も聞いていないのだ。国王は婚儀の儀式(結婚式まで含む)に一年以上の時間があることを話し、その間に次の職場を探すようにと、遠回しにアドバイスしたに違いない。
だが、今から新しい職場を探すにしても、王宮内には働く場所がない。エテ王子には生母がいないので、そちらに移ることもできない。だからといって他の王子や王女に仕えることは避けたい。いままで王位継承をめぐって対立してきた人の所に行くことに気が引ける。
じゃあ、エテ王子の後見人であり、王妃の実家はどうだろうか。ここも働き手は足りている。王妃の実家の後継者問題も遠縁から跡継ぎを養子に貰うことで落ち着き、今まで屋敷で働いていた使用人たちで事足りるのだ。
王子の婚約者コロリスにも数人の侍従と侍女が着いているが、彼女本人が一人で出来る人なので、特に手を貸すこともない。コロリスの実家も人は足りているという。
「どうしようかしら?」
「どうしましょうね」
侍女たちは身分のある貴族の娘たち。実家に戻ることも考えたが、エテ王子に仕える侍女たちは誰一人として実家には戻らないと口を揃える。侍女たちの実家はいずれエテ王子が国王になった時に、口利きをしてもらおうと企んでいる家が多い。エテ王子に気に入られれば自分たちの出世も夢じゃないと、娘を出世の道具にしている者たちばかりだ。
侍従たちの実家も同じような物。いずれ国王の座に就いたエテ王子から、大臣や高い役職に就けるように、いまから息子たちを側に置き、気に入られようとしているのがバレバレだ。
身分のある侍従や侍女たちには帰る家があるが、使用人たちには帰る家がない。侍従や侍女の実家で働いていた使用人が多く、彼らには自分の家という物がないのだ。侍従たちの実家が迎え入れてくれればいいのだが、王子が王室を離れる事を知れば、快くは受け入れてくれないだろう。
「早めに王子様にお話した方がいいのでは?」
「せめて王室にいる間に、次の職場の口利きをしてもらわないと」
エテ王子に仕える者は約30人。早く王子に新しい職場を紹介してもらわないと、人気のある所はすぐに埋まってしまう。そんな焦りもあるが、きっと身分のある物から口利きしていくはずだから…と使用人たちは自分たちで新しい職場を見つけることにした。
自分に仕える者たちの事を何とかしなければならないと、エテ王子は真剣に考えている。
「…ってことで、何かいい案はないだろうか」
ボルツール公国の塩、【雷の結晶】、火の石に使う【燃える作物】の確保とすべてが片付いたところで、エテ王子はヴァーグに自分に仕える使用人たちの話を持ち掛けた。
「う~~……ん……難しい問題ね」
いくらヴァーグでも新しい職場の斡旋は難しい問題だ。
「どれぐらいの方が仕えているんですか?」
「俺の所が侍従が5人、侍女が8人、使用人が俺専用の庭師含めて17~19人。コロリスの所にも侍従は2人、侍女が3人、使用人が7人いる」
「結構いますね」
王子にはそれだけの使用人が身の回りの世話をしているのか…ケインは現実離れした話に驚いている。
「いや、俺はこれでも少ない。国王はこの数倍がいるし、第一王女には同じ衣装担当でも日替わりの者もいる」
「はぁ!?」
「ダイスは上手く王妃に鞍替えできたみたいだから心配はいらないんだけど、他の人は俺がどうにかしないといけないような気がするんだ。今まで俺に仕えてきてくれたのに、王宮を出ることで職を失わせるのは心苦しい」
「エテさんならではの悩みですね」
「王宮での仕事しかしたことないけど、他の貴族の屋敷でもやっていけるとは思う。だけど、侍従や侍女は使用人と違って身分もあるし、家柄の事もあるから、実家がそれなりの所に就職しないと煩いと思うんだ」
「その身分のある方々は、かなり大きなお屋敷のご子息やご令嬢なの?」
「まあ、俺が国王に座に就いたら役職を貰おうと企んでいるから、古くから王室に仕えていた由緒ある家だろうね」
「ますます難しいじゃないの」
「貴族って変な所で見栄を張るんですね」
ケインは何げなく言葉を発した。
ハッと我に返り、ケインは周りにいるエテ王子やリオ、リヴァージュの顔を見た。リオは伯爵の爵位を持っており、リヴァージュは公爵の爵位を持っておる。エテ王子も一応侯爵の爵位を持っている。ここにはいないがコロリスは子爵令嬢、カトリーヌも侯爵令嬢だ。
「あ、いえ、悪気があったわけでは…」
「別に気にしていないよ」
「そうそう。ケインが言う通り、貴族たちは自分の身分や地位に酔いしれている。それを見せつけて身分もない者を陥れることはざらにある」
「地方に出かけると、国民たちが身分のある者を嫌っている事はよく感じる。ただ生まれた場所が違うだけで、皆が同じ人間だという事を、今の貴族に話しても誰も納得しないだろう」
公務で地方に出かけることが多いエテ王子ならではの言葉だ。
ヴァーグは新年が明ける前に保育所で行われたケーキ作りの時、シスター・マルガリーテの言っていた言葉を思い出した。特殊な能力を持つ子がいるだけで、寄付を拒む貴族たちがいるという話を。
「子供が好きで、子供の世話ができる子なら、保育所で雇うんだけどな…」
ヴァーグはまだ本格的に決めていない保育所の常任職員にどうかな…と思った。
今の王宮にはルイーズ王女よりも小さい子供がいないから無理か…と諦めかけたその時、
「乳母の経験者ならいますよ」
と、エテ王子が希望の言葉を発した。
「え?」
「俺の侍女長、俺を育ててくれた乳母なんです。一時期、ルイーズの世話もしていた事あります」
「それって、小さい子供の面倒は見れるってこと?」
「そうなりますね。中には医師の見習いをしていた者もいますし、使用人の中には兄弟が多い人もいますので、子供の世話が得意な人もいるはずです」
「じゃ…じゃあ、中には給仕が得意な人もいる?」
「ええ。食事を給仕してくれる人は必ず一人は付けますから」
「庭師がいるって言っていたけど、それは庭園の管理が得意なの?」
「なんでもしますよ。離宮には俺専用の花壇があるので、その世話をお願いしています。庭師って言っても親子でやっているんですが、息子は俺とそんなに年が変わらなくて、いつか大きな土地に広大な花畑を作りたいって夢を持っている奴なんです」
「ドレスとかの着付けや、髪を綺麗に結える人もいる?」
「クリスやルイーズの手伝いもしているので、出来るんじゃないんですか? コロリスに仕えている人はそう言う人を集めたって、王妃が言ってましたし」
「中には人に何かを教えるのが得意な人も……?」
「それぞれ得意科目はありますけど、母国語、音楽、歴史、マナーを教える教師はいました。今はクリスとルイーズの教師をしていますが、他にも教師は居るので、教師を育てる方に回っています」
ヴァーグは次から次へと出てくる期待通りの言葉に、顔をパァ~と明るくさせた。
「いける! いけますよ、エテさん!!」
「な…なにが?」
「エテさんにお仕えしていた方、全員村で雇います!!」
ヴァーグの爆弾発言に、その場にいた人全員が言葉を失った。
ポカーンと口を開けたまま固まっている男性軍に対して、ヴァーグはやる気満々だった。
ヴァーグが提案したのは、その得意な分野を仕事にすること。
乳母や子供の世話が得意な人は保育所で雇う。常時、職員がいてくれれば保育所を休むことも無くなるし、お手伝いをしてくれる村の女性たちとローテーションを組めば、職員の休みも確保できる。
庭師の親子には『春の草原』復興に力を貸してもらう。定期的に植える花を変えれば観光名所になること間違いなし。
勉強を教える教師には学校で働いてもらうことになる。今の学校は神父が勉強を教えてくれるが、それも限度がある。ヴァーグが前にいた世界では当たり前だった学校のシステムを作れば、子供たちにも偏りなく知識を植え付けることが出来るだろう。いずれ新しい街に学校が出来た時に絶対に役立つ。
医師の心得のある人には村の診療所で働いてもらい、後々は新しい街に出来る病院で働けるようにする。
給仕が出来る人や、着付け、髪を結える技術がある人はデイジーの会社で雇ってもらう。結婚式などで何かと役に立つだろう。結婚式だけではなく、何かの記念でデイジーの会社を使う人にも役に立つはずだ。また、今、建設中の劇場でも、衣装係として雇えるかもしれない。
書類の作成や文章を作るのが得意な人、計算が得意な人はデイジーやマリアの会社で事務員として働くこともできる。国王から貰った土地で、村に近い場所に居住スペースを確保できれば、移住も可能だ。その居住スペースの管理ができる人もいれば尚更いい。
ヴァーグからこのような説明を受けたエテ王子は、彼女に感謝を述べた。
「いいアイデアだ。ぜひお願いしたい」
「だけど……」
「何か不安でも?」
「お給金は下がります。王宮に務める方がどれぐらい貰っているのかはわかりませんが、今と同じお給金は手に入らないと思います」
「そこは親父と話し合ってみる」
「新しい街が出来る頃は王都で職に就けない方たちも迎え入れられると思います」
「ヴァーグ殿に相談してよかった。早速親父と話してみるよ」
自分が王宮を去った時、残された侍従たちの事が心配だったが、かすかな希望の光が灯った。
問題はヴァーグが言う様に給料だろう。あとは侍従や侍女たちの実家だ。王都から遠く離れた小さい村で、自分たちの子供たちが働くことを許してくれるかだ。今まではエテ王子が国王になった時の口利きを計るために息子や娘たちを王子の側に置いていた。息子や娘たちが王宮を出るという事は、自分たちの出世が閉ざされたという事になる。
「親父と相談だな」
「マリアさんみたいに貴族様も村に貢献する会社を経営すればいいのに」
ケインがポツリと呟いた。
その発言に目から鱗だったエテ王子は、「それだ!」と声をあげた。
「え? 俺、何か言いました?」
無自覚なケインはキョトンとした顔を見せた。
「ヴァーグ殿、新しい街づくりや今の村に必要な会社はありますか!?」
「え……えっと……今、一番欲しいのは不動産関係だけど…」
「フドウサン?」
「新しい土地に居住地を作りたくても、その土地を管理できて、土地を売買できる能力がある人がいないと色々な争いが起きると思うんです。土地の境界線が~とか、ここは自分の土地だ~って争い事が起きるはずです。それらを無くすためには、土地を管理し、誰がどの土地を持っているのかを把握できる人が必要です」
「それは特別な資格が必要ですか?」
「この世界にはそのような物は必要ないようなので、できれば貴族だから何でも許される…という考えを持っていない方がいいです。土地その物は国王名義であり、今の持ち主はケインである事。それを分かった上で不動産という事業をやってくれる方を望みます。もちろん、不動産に必要な知識や技術はわたしが教えます」
「わかった。一人、適任者がいる。頼めるか聞いてみるよ。他にはあるか?」
「後は……運送関係……かな? ケインのお祖母様にお聞きしたのですが、ミゼル侯爵家がケインの実家の野菜を仕入れたいと仰ってくれたんですが、王都まで運ぶ人がいないんです。侯爵家から来てもらうのもご迷惑だと思うので、間に立ってくれる人が欲しいです。それにマリアさんの会社で作られているお米の出荷も、運送専用の業者がいるとだいぶ助かります」
マリアの会社は、元々マリアの実家が持つ領地で働いていた人がそのまま従業員になっている。コメを作る事、加工することはできるが、海外へ輸出する時はマリアの実家で手配していた。今は前からの取引先が自ら買いに来てくれているので、その負担も変えたいと思っていた。取引先はわざわざ村まで買いに来る理由は、この村でしか食べられない料理を食べにくる目的もある為、負担には思わないようだが…。
その他、行商に頼むこともあるが、行商は色々な土地を渡りあっている為、毎回決まった人に行き渡るわけではない。確実に利益を上げるには固定客を手に入れることが必要だ。
その為に運送出来るシステムをしっかりと作り上げなくてはならない。
「各国に顔が広い人の方がいいだろう。そうなると……あの人しかいない」
「できれば輸送用の乗り物とかも確保できるといいんですが…」
「それも大丈夫だ。牧場を経営する人がいて、王宮や騎士団に献上する馬を育てている人がいる。馬などの手配は出来るはずだ。荷馬車を作る職人と知り合いだと言っていたので、そこと繋がることもできるだろう」
エテ王子からはすんなりと適任者が挙げられた。彼は自分に仕える侍従や侍女たちだけでなくその実家もよく調べ上げられている。さすが次期国王に一番近い人と言われているだけある。
「話の途中で申し訳ないのだが、我がボルツール公国もその話に乗らせていただけないだろうか」
リヴァージュが話に加わってきた。
「ボルツール公国も?」
「我が国の塩の流通を円滑にして頂きたい。高品質の塩は先ほどヴァーグ殿が提案してくれた方法で大量生産できそうだし、我が国は山に囲まれている為、輸出も一苦労だ。もし、運送関係で上手くいくようなら、我が国の特産物を海外に広める手助けをしてほしい」
「中継基地を作ると円滑になると思いますよ」
「中継基地?」
「例えば、ボルツール公国で採れた塩を、倉庫を作ってそこで保管します。注文が入り次第、国から近い所はその倉庫から出荷し、それよりも遠い所…国外とかですね。その場合はこの王都の近くにもう一つ倉庫を作り、そこへ運び込んでから出荷します。同じ運送会社が行えば縄張り争いも起きないと思います」
「なるほど」
「逆にこの国で作られたお米や保存のきく食品が、ボルツール公国よりも更にその先の国から注文が入った時、一旦ボルツール公国に出荷し、そこから配送してもらう様にすれば、ステラ王国の特産物も広がります」
「だが、注文はどうするんだ。わざわざ使者を立てるのか?」
「それは荷物を運んだ運送業者に次回の注文として頼めば無駄な人件費は使わなくて済みますよ。配送も注文が入る度にやってもいいし、決まった日にちに輸送するのも一つの案です。行商に頼んで品物を運んでもらい、気に入ったら個別で注文するってこともできます。ただ行商を使うと固定の注文が取りにくくなるので、各地方の領主様に頼んで、注文を一括に引き受け、荷物を定期的に届ける場所を作らなくてはいけませんが」
「なるほどな」
「その為にはいくつか下準備が必要です。中継基地となる倉庫を作る事。そこで働く人を確保する事。輸送に大切な荷馬車を確保する事。地方の領主様に了承を得て納品できる場所を確保する事。配送に必要な安全の道を作る事」
「何とかなりそうだ。ケイン、お前から親父に説明してくれないか?」
「お…俺!? 無理無理無理無理!!!」
「大丈夫よ。ちゃんと必要な事は紙に書いてあげるから」
「ヴァーグさんが話してくださいよ!! 俺には無理だって!!」
「わたしは村に帰ってやることがあるもの。まずは火の石に使う作物の栽培の準備でしょ。ゲンさんに頼んで建物を作ることができる職人さんを手配してもらうでしょ。保育所のお掃除に、レストランの新作も考えなくちゃ。それからサルバティ神父とエミーさん達の結婚式の打ち合わせをしたり、デイジーとのお話しなくちゃね。マリアさんにもこの話をしなくちゃいけないし、村長さんにもご報告しなくちゃ。それにアクアの機嫌を直さなくちゃね。これ全部やってくれるのならわたしが行ってもいいよ」
ヴァーグのやらなければならない事を聞いてケインは、首を思い切り横に振った。特に最後のアクアの機嫌取りだけは無理な仕事だ。ヴァーグが返ってこない事に更に腹を立て、何をされるかわからない。それなら王都で説明していた方が身の安全を保てる。
早速、国王に相談することを紙に書き起こした。
エテ王子は自分に仕えていた者の再就職先、侍従や侍女たちの実家の事、使用人たちの衣食住の確保など、自分が王宮を離れた時の対応についてを話す。
ケインはエテ王子が提案した会社設立についての詳しい詳細を話す。
リヴァージュはその提案にボルツール公国も参加できないかと願い出る。
そんな流れで話す内容が決まった頃、王宮に仕事で出かけていたリチャードが、新年会に参加していたミゼル侯爵夫妻と共に屋敷に戻ってきた。
「ケイン殿はまだいるのかね?」
出迎えた執事に訊ねると、まだ中庭で話中だと聞くや否や、中庭に向かって走り出した。
「父上はケインがお気に入りのようだ」
「今日の夕飯もきっと豪華なお食事なんですね」
侯爵夫人までケインの料理を期待しているようだ。
だが、今日はヴァーグもいる。2人が想像するより、もっと驚く夕飯になるに違いない。
中庭では話が終わったのか、エテ王子とリヴァージュが王宮に帰る所だった。
「おや、もう帰るのかね?」
「ええ。お邪魔しました」
「ケイン、明日の朝、迎えに来るからな」
侯爵に小さく頭を下げてエテ王子とリヴァージュは去っていった。
「話は終わったのかね?」
「はい。公爵、申し訳ないのですがケインを一晩泊めていただけませんか? 明日、王宮で国王様とお会いするようなので」
「ああ、いいとも。ヴァーグ殿も泊まっていかれたらどうだ」
「わたしは村に戻り、至急やらなければならない事がありますので、お暇させていただきます」
「そうか…残念だ」
「その代わり、お夕食を作らせていただきますね。お気に召すかわかりませんが」
「おお! そうか!そうか! では早速料理長に話してこよう。どんな料理か楽しみだ!」
侯爵はスキップしながら厨房へと向かった。よほど楽しみなんだろう。王宮の新年会もほぼ食べ物を口にしていないほどだ。
「何を作りましょうか? この間、ハンバーグとオムライスを作っちゃいました」
「そうね……材料次第だけど、きっと喜んでくれると思うわ」
ヴァーグは新年祭で使っていた材料や村から調味料などをアイテムボックスにしまってある。ある程度の料理なら作れるが、何を作ればいいのか困る。おでんやカレーは新年祭で作ってしまった。ハンバーグとオムライスも作ってしまった。
(豆腐があればすき焼きにするんだけどな~)
アイテムボックスの中にはすき焼きのタレも常備している。ただ豆腐と白滝だけはない。
リヴァージュに塩を作る過程で出るにがりという物を採ってもらう様に頼めばよかったと、今さら後悔している。まあ、夏の始まりの頃に一度、ボルツール公国に行く予定なので、その時に塩の副産物として出るにがりを使った豆腐という食べ物を考案すればいいかと、まずは塩を作る事だけに専念してもらうことにした。
厨房に行くと、公爵と料理長が両手を広げて出迎えてくれた。
「お待ちしておりました! 今日も宜しくお願いします」
料理長はヴァーグとケインの背中を押して厨房の中へと招き入れた。
「料理長、今日はわたしも見学させてもらうぞ。王宮の新年会では一切口にしていないからな。待っているのは辛い」
侯爵は鋭い目つきでケインを見つめた。
これは豪華な食事にしないと何を言われるかわからない。
「とりあえず、材料を見せてください」
「どうぞ、どうぞ」
ヴァーグは貯蔵庫となっている食材置き場を物色し、これならいけるかな…と思う食材をいくつか持ってきた。
食材置き場から持ってきたのは、白菜と豚バラ肉。この二つだけでケインは何を作るのか予測できた。だが、他に持ってきたのはタマネギ、ニンジン、ナス、カボチャ、冷凍保存されていたエビだった。
「ケイン、この間作った白菜と豚バラのお鍋は作り方覚えてる?」
「あ、うん」
「じゃあ…」
ヴァーグはアイテムボックスから必要な調味料を取り出し、ケインに渡した。
「他の料理人にも教えてあげてね。わたしは初めて作る料理に取り掛かるから」
「初めての料理?」
「出来てからのお楽しみ♪」
新しい料理なら自分も見たかった…と悔しがるケインだったが、数人の料理人が期待の眼差しで自分を見つめている事に気付き、少し離れた場所でミルフィーユ鍋を作ることにした。
ヴァーグは料理長に小麦粉と卵を用意してもらい、深い鍋に油を大量に注ぐように頼んだ。
用意したナスとカボチャは食べやすい一口サイズに切り分け、厚さは煮込む時とは違い薄く切り揃えた。タマネギとニンジンは細く切り揃え、エビは流水で解凍させ、殻と背ワタを取るように料理人に頼んだ。
ケインがミルフィーユ鍋をコンロにかける頃、ヴァーグは次の作業に取り掛かった。
用意したボウルに卵を割り入れ少量の水を入れる。別のボウルに小麦粉を入れ、卵を少しずつ加え小麦粉を溶いていった。塊がまだあると水を入れ、水っぽくなる直前の液体を作り終えた。
「なんか、たこ焼きを作る時と似てる」
たこ焼きやたい焼きを作る時と同じように小麦粉を水で溶いたことに、ケインは同じような物を作るのかな?と思ったが、ヴァーグは薄く切り分けたカボチャをその液体に入れ、コンロに向かった。
一体何を作るんだろう…。厨房の誰もが不思議そうに眺めていた。
鍋に入れた油が温まり、ボウルの中の液体を一滴油に落とした。熱せられた液体は塊となって浮かんできた。それを見てヴァーグはボウルの中の液体に付けたカボチャを油の中に入れた。
ジューっという音と共に、カボチャは油の中で揚げられている。
「素揚げとは違うのか?」
覗き見していたミゼル侯爵は、よく赴任先の食事に出る野菜の素揚げを想像していた。それならいつも食べていると期待はずれに思ったが、油からあげたカボチャを見て驚いた。
なんとカボチャが薄い黄色い衣のような物を纏っているのだ。
あらかじめ用意してあった紙を敷いたバットに上がったカボチャを乗せ、更にナスやエビも同じように液体に付けて油で揚げ始めた。
一体何という料理なんだろう…不思議そうに覗き込んでいると、ヴァーグは塩をくださいと頼んだ。近くにいた料理人が塩の入った小さな壺を持ってくると、ヴァーグは揚がったばかりのカボチャにパラパラと掛け、小皿に移して侯爵の前に差し出した。
「お熱いので気を付けて食べてくださいね」
そう言いながら小皿を侯爵に渡すと、再び野菜を揚げ続けた。
受け取った小皿を眺めていた侯爵は、行儀は悪いと思いながらも手づかみでカボチャを掴んだ。揚げたてで熱かったが、何やらいい匂いがし、公爵は一口頬張った。
「なんだ、これは!!」
普通の素揚げとは違い、カボチャがほくほくしている。周りの黄色い衣がサクサクとしており、二つの違う食感が癖になる。味はほぼないが、カボチャの甘みと、振りかけた塩がいいアクセントとなっている。
「ヴァーグ殿、これは何という料理だ?」
「天ぷらといいます」
「て…テンプラ……?」
「小麦粉と水と卵で溶いた液体に野菜を入れて、こうして油で揚げる料理なんです。入れる野菜は何でもいいですよ。野菜の他にも鶏肉とか、魚とか、きのことか、相性は何でもあうんです」
「こんなに簡単に作れるのか。是非とも我が隊の食事にも取り入れたい」
「ヴァーグさん、こちらも仕上がりました」
隣のコンロで鍋を作っていたケインが声をかけてきた。
「公爵に味見して貰って」
「は~い」
ケインは小皿にミルフィーユ鍋に一部をよそうと、公爵に差し出した。
「これは?」
「白菜と豚肉の煮込み料理です。味はお肉に塩コショウをかけて、煮物で使う出汁粉を振りかけただけです」
「なんともシンプルな物だな」
何の躊躇いもなく受け取って白菜と豚肉の煮込んだ物を口にした公爵は、初めてミルフィーユ鍋を食べた時のラインハルトやジャンのように言葉を失った。
「いかがですか? お口にあいませんか?」
「……とんでもない。凄く美味しい。本当に白菜と豚肉しか使っていないのかね?」
「ええ。冬の定番料理です」
「これも素晴らしい。ヴァーグ殿は少ない材料で素晴らしい料理を作る天才だ。ケイン殿は彼女から教えてもらったのか?」
「はい。俺の師匠ですから」
「国王陛下がお気に召すはずだ。ヴァーグ殿、王都に進出してくる気はないか? 王都でレストランを開いてほしい」
「ありがとうございます。でもそれはできません」
「何故だ」
「わたしやケインはこれから新しい街を作らなければならないんです。それにレストランには修行中の見習いもいますので、王都にレストランを作るまで手が回りません」
「監修だけしてくれればいい。それでもダメか?」
「ごめんなさい」
ここまで頼み込んでも断るという事は、他に何かあるのだろう。
普通の貴族だったら、ここまで断わる人に対しては怒りを表す。なのにミゼル侯爵は怒ることはない。騎士団の幹部としているという事もあるが、何故かヴァーグを見ていると、もっと大きな事をやってくれそうに見えるのだ。それも明るい未来が待つ輝かしい出来事を…。
「あと少しで出来上がりますので、公爵は食堂でお待ちください」
「……わかった…」
「ケイン、他に何品か作るから手を貸して」
「は~い」
厨房を後にする公爵は、もう一度ヴァーグの姿を見た。
そこら辺にいるただの娘だと思っていたが、ふとした瞬間に神々しいベールを纏っているように見間違う。
この人が手を貸してくれれば、何もかも成功しそうに感じる。ヴァーグに話した王都でのレストラン開業は嘘ではない。国王と話しているときにもこの王都に村と同じレストランがあれば…という話が出ている。
何とかしてこの味を王都に人に味わってもらいたい。特にイベント毎に中央広場に来ることのない身分のある連中に。
侯爵の願いは意外な形で叶えられる事となるだろう。
<つづく>
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