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第65話 これぞ異世界! これぞ求めていた物!!
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目を閉じて椅子に座るルナは、「了解しました」という言葉を発し、静かに目を開けた。
目の前には目をキラキラと輝かせてルナを見つめるヴァーグの姿があった。
「姫様は無事、私室に戻られました。姉も両親と思われる人物と遭遇することはありませんでした」
ふーっと大きな安堵の息を吐いたルナは、にっこりと微笑んだ。
クリスティーヌ王女の双子の侍女リュヌとルナの2人は、【テレパシー】というスキルを持っていた。これは声を出さずに双子だけで会話ができる能力。2人が言葉をあまり発しないのは、実は2人だけで【テレパシー】を使って会話をしていたからだ。
この能力はまだ経験値が少ないらしく(ヴァーグ談)、お互いに【テレパシー】というスキルを持った者同士…しかもお互いに信頼し合う人としか会話ができないそうだが、経験値が上がれば誰にでも頭の中に話しかけることができるそうだ(ヴァーグ談)。
何故この場所にヴァーグがいるのか…。
それはただ単にケインの忘れ物を届けに来ただけだった。
当の本人は料理長に捕まり、厨房にいるようだ。
「凄い! 凄い!! 本当にテレパシーが使える人がいるのね!!」
実はヴァーグが愛用しているパソコンを使って、王宮内にいる人物の動きを見る事が出来た。ヴァーグのパソコンには地図を出す事が出来る。その地図を使って、王宮内の内部を映し出し、ルナが本当にリュヌと会話しているのかを確かめることができるのだ。
ついこの間、女神がパソコンをアップデートしてくれた。そのお蔭で、今までは自分が行ったことのある場所か、カメラが付いた名札なりアクセサリーなどを誰かに付けさせ、その人物が行く場所の地図しか出す事は出来なかったが、今回のアップデートで、人物を選んでその人物がいる場所の地図を出す事が出来るようになったのだ。
ヴァーグが出会ったことがある人物なら誰でも選択できるので、今回はクリスティーヌ王女を選んで、王宮内の地図を呼び出した。
ルナがパソコンに映し出された王宮内の地図を見た時、まさに自分しか見る事が出来ない平面の地図とそっくりだった。地図に映し出される人物も、丸い印と名前が浮かび上がって、口で説明しづらい所も、このパソコンの画面を見れば一目瞭然だ。ただ、ルナだけが見ることができる立体の人物は、まだこのパソコンには備わっていないようだ。
「そのうち、出来るようになるんじゃないかな?」
まるで誰かに「わかっているんでしょうね?」と言っているかのように、ヴァーグは天を睨み付けた。
その視線を感じた女神は、すぐに作業場へと駆け込み、パソコンに齧りついた。
「張り切って作っちゃいますわ━(人*´∀`)━━!!!」
女神がどのようにアップデートしてくれるのか楽しみだ。
パソコンに映し出された地図の中で動く人物(丸印)とリュヌが報告してくる事が一致し、さらにルナがアドバイスする指示が的確で、ルナがちゃんと【感知】のスキルを使い、【テレパシー】を使ってリュヌと会話している事が実証された。
「これぞ異世界! これぞ求めていた物!!」
と、ヴァーグが意味の分からない言葉を叫んでは、歓声を上げている。
そのヴァーグのはしゃぎっぷりを無視して、パソコンを見入っていたのはリチャードとリオの2人。パソコンはヴァーグから何度も見せてもらっていたが、そこに映し出された地図の詳細に驚くばかりだ。
「ヴァーグ殿、これは他の地図も出す事は出来るのでしょうか?」
リチャードははしゃぎまくるヴァーグに訊ねた。
「わたしが出会ったことのある人物だったら出来ますよ。試しに誰か見てみます?」
ヴァーグはマウスを器用に使って、地図の画面の左下にあった『人物』という文字をクリックした。すると今までヴァーグが出会った人物の一覧が浮かび上がり、その中からボルツール公国のリヴァージュを選択した。
画面は一瞬でボルツール公国の地図に変わり、湖の畔に建つ城には青い丸印が一つだけあり、その青い丸の上には『リヴァージュ』という文字が浮かんでいた。他にもいくつかの丸印があったが、そのほとんどが太い黒い丸で、中は白抜きになっており、丸印の上に書かれてある名前の文字も白色に近かった。
「リヴァージュ様はお会いしたことがあるから色付きになっているけど、他の方には一度もお会いしたことがないから、色が薄くなっているの。今はリヴァージュ様と関わりのある人物しか示さないように設定してあるから、すっきりした画面になっているけど……」
そう説明しながら、今度は右下の『全体』という文字をクリックした。
すると、今まで十数個しかなかった丸が、一気に地図全体を覆い尽くすほどの無数の丸印が浮かび上がった。
「なんだこれ!?」
「ボルツール公国の全国民の位置よ。一番集中している所は市場かな? こっちの山の方で一定の速度で動いているのは、馬車に乗って移動しているのかな? この四角い敷地に綺麗に並んでいるのは軍隊の訓練中なのかな?」
ヴァーグは冷静に画面を覗き込んでいた。
リチャードとリオは驚きを通り越し、ポカーンと口を開けたまま固まっている。
ルナは自分しか見る事が出来ない地図でも、ここまで鮮明に見る事が出来ないので、驚くというよりも興味津々という顔をしている。
「どなたか湖の上にいますね」
ルナは大きな湖のほぼ中央に浮かぶ二つの丸に気付いた。白抜きの丸のなのでまだヴァーグは会ったことがないのだろう。
興味半分でマウスを動かすと、その湖にいる2人の名前が浮かんだ。
その名前にヴァーグは苦笑いを浮かべた。
湖の中央で動いていた丸印には『ボルツール公国公主』と『ボルツール公国公主夫人』と書かれてあったのだ。
「あはは……まだ湖の調査をしている…」
リヴァージュからは、両親自ら湖に潜って調査していると聞いていたが、まさかまだ調査しているとは思いもよらなかった。
「ヴァーグ様、この『ぱそこん』という物は素晴らしいですね! わたしが説明しても説明しきれない事まで、一目でわかります!」
ルナは興奮している。どんなに説明しても自分しか見る事が出来ない地図を理解してくれない人が多い中、ヴァーグだけはその地図と同じ物を目に見える形で示してくれる。
「わたしも、このような物があれば…」
「ルナさんの地図は、いつも同じ場所に現れるんですか?」
「同じ場所…というよりかは、頭の中で見たい場所を思い浮かべながら指でこのように四角い図形を宙に描くと、そこに地図が現れます。目の前に地図を出してしまうと自分の視界を塞いでしまいますし、人前で指を動かすことはできませんので、気づかれないように左側の下の方に出すようにしています」
「どうして左側なの?」
「右側にはいつも姉がいますので」
(なるほど)双子ならではの感覚だ。いつも立ち位置が決まっており、逆の立ち位置になると落ち着かないと、マリーとミリーも言っていたことを思い出した。マリーとミリーもいつも同じ立ち位置だ。
「その地図は向こう側が透けて見える?」
「ほとんど透けていますが、見えにくいときは念じれば背景に色をつけることができます」
「地図の大きさは変えられる?」
「動かした指の範囲に現れます」
「その地図は指で触れる?」
「いえ、それは試したことがありません。いつも地図を出しても、念じれば大きくも小さくも出来ましたので」
「地図を出す時、指は両手? 片手?」
「両方できます。その時よって使い分けています」
「なるほど、なるほど」
ヴァーグはメモを取りながらルナの話を聞いていた。
何か心当たりがあるのか、ヴァーグのメモには『すまほ』『たぶれっと』という見慣れない単語が並んでいた。
「ちょっと試してみたいんだけど、目の前に地図を出してもらえるかな? 大きさは好きな大きさでいいよ」
「え……あ、はい……」
ヴァーグに言われた通り、ルナは目線の高さに20mほどの正方形を宙に両手で描いた。
どのように地図が出るのかヴァーグは分からないが、ルナがこちらを向いて小さく頷いたので、彼女の目の前に地図を呼び出したようだ。
「じゃあ、まず、その地図を指で触ってもらえる?」
「はい…」
ルナは恐る恐る右手の人差し指で地図に触れた。
突然ルナの顔が「(*゜0゜)ハッ」と驚いた顔になった。
今回は向こう側が透けて見える地図を出していた。指で触れることはできないだろうと思っていたのに、その地図は固い板のような感触があり、コツコツと何度も指で触れた。
その様子にヴァーグは「やっぱりね」と、予想していた通りの展開にウンウンと頷いた。
「触れられるみたいね」
ヴァーグの問いかけに何度もルナは頷いた。
「次に、地図の隅っこを指で押さえてくれる? そしたら斜め上にそのまま引っ張ってほしいの」
彼女に言われるまま、地図の右上の角を指で押さえ、そのまま右斜め上に指を動かした。
「(゚◇゚;)!!!」
ルナの表情で、どのようなことが起きているのか予想がつく。
地図の大きさは念じないと変えられないと思っていたルナは、指を動かした方向に地図が大きくなったことに驚いていた。
「じゃあ、最後。画面の好きな所に、物をつまむように親指と人差し指を置いてくれる? そしたら、親指と人差し指を広げたり閉じたりしてほしいの」
地図に触れた親指と人差し指を開くと、なんと地図が拡大されたのだ。それどころか、拡大することで、今まで念じなければ切り替わらなかった人物を立体で見ることができる地図に瞬時に変わったのだ。ルナが見ていたのは、王宮内の地図。ただの平面図の王宮内部の地図だったのに、クリスティーヌ王女の部屋の上で親指と人差し指を開いたところ、なんと部屋の内部にいるクリスティーヌ王女とリュヌの姿を立体で見ることが出来るようになったのだ。
試しに広げた指を閉じると、最初にルナが呼び出した王宮の平面図となった。
もしかして…と思い、今度は指を広げたまま画面に触り、その指を閉じてみた。
ルナの予想通り、王宮の平面図だった地図が、なんと王都全体を見ることができる地図に変わったのだ。
「(((( ;゚д゚))))」
表情を持たないと思っていたルナが、面白いほどに表情をコロコロと変え、ヴァーグが指示することで起きる予想もしなかった展開に、今にも泣きだしそうな顔になってしまった。
何か怖い物でも見てしまったのか、目に涙を一杯貯めてヴァーグに助けを求めるルナ。
ヴァーグはクスクスと笑っていた。(わたしも初めてタッチパネルに触れた時、こういう感じだったな~)と、前の世界で普及し始めていた『スマートフォン』という機械に初めて触れた時のことを思い出していた。
「あ…あの……これは一体……」
「そういう事が出来るように、最初から備わっていたのかもしれないわね。もしかしたらその地図自体を動かせるかもしれないわよ。地図の一点に指を当てて、そのまま左右に動かしてみて」
何が起きても驚かない!と思っていたルナだが、地図に人差し指を当て、そのまま左右に動かすと、地図が動かせることを知り、面白くなったルナは楽しそうに色々な場所に地図を動かした。
「地図を二つ出す事も出来るかもね」
ハッとしたルナは、まだ出している地図をそのままにし、新たに左隣に宙に指で四角い図形を描いた。
「━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
彼女の表情から、多分二つ同時に違う場所の地図を出せたのだろう。
きつい目つきの印象で、近寄りがたい雰囲気もあったが、こうして表情がコロコロと変わる所を見ると、今まで感情を押し殺してきたんだなということが推測できる。
特殊な能力を持っているがために、彼女のように本当の自分を失っている人が多いのだろう。シスター・マルガリーテも言っていたが子供たちをどうにか救いたい。特殊な能力を活かせる場所を提供できないだろうか…。ヴァーグは次に行うべきことを頭の中で考え始めた。
地図を見る事が出来ないリチャードとリオは、何もない宙を楽しそうに指を振るルナの行動が怖かった。
その後、ルナは姉のリュヌと一緒に、クリスティーヌ王女がデルサート王国に行っている間、村に滞在することになった。スキルについて学ぶため、その力をコントロールできるようにサルバティ神父と面会することにしたのだ。
エテ王子やクリスティーヌ王女がデルサート王国に行っている間、リチャードたちも特に大きな仕事もなくなるので、リチャード、リオ、カトリーヌの三人も村に行くことにした。
「わたくしもご一緒いたしますわ!」
どこからその話を聞いたのか、コロリスの祖母フロラン伯爵夫人が、リチャードの屋敷に駆け込んできた。
「それでしたら、わたくしもお伺いしたいですわ」
フロラン伯爵夫人の後ろからシスター・マルガリーテが顔を覗かせた。
フロラン伯爵夫人とシスター・マルガリーテは、ミゼル侯爵夫人に呼ばれたアンに着いてきただけ。アンは公爵夫人から王都で行うリチャードとエミーの結婚式の打ち合わせで呼ばれていた。
「じゃあ、先に村に帰って宿を手配しておきますね」
ヴァーグは懐から銀色の笛を取り出すと、空に向かって息を吹き込んだ。その銀色の笛からは音は聞こえない。
しばらくすると、一匹のドラゴンが舞い降りてきた。
「アクア、帰るわよ」
ヴァーグがそのドラゴンに声を掛けると、ドラゴンは嬉しそうに「キュウキュウ」と鳴いた。
「それじゃあ、村でお待ちしていますね」
ドラゴンに飛び乗ったヴァーグは、そのまま空へと飛び上がり、東の方角へと飛び去った。
飛び去るドラゴンを見て、リチャードがポツリと呟いた。
「王都上空をドラゴンが飛んでいる事、国民は気づいているのかな?」
リチャードの呟きに、リオが大きく頷いた。
ヴァーグやケインは王都に来るのに、よくドラゴンに乗ってくる。エテ王子やコロリスも王都から出かける時にグリフォンに乗っているが、王都上空を飛んでいても、誰にも気づかれない。
何故なら、ゲンが姿を消すことができるアクセサリーを作り上げたのだ。
「わしは、あの大戦で武器や防具を作っていたんだぞ! 何でも作れるわい!!」
毎度おなじみに豪快に笑うゲン。確かにゲンが作る武器や防具は優位に戦いが進められる物ばかりだ。今まで出回らなかったのは、それらを作る事が出来る職人がゲンしかいなかったから。ゲンももう戦いも無くなることだからと、後継者たちに教えていなかった。
その前に、ゲンは一体何歳なのだろうか。先の大戦というとケインの曾祖父が活躍していた頃だ。その頃にすでに武器を作る技術が備わっていたということは、ケインの曾祖父と同じ年か、それよりも少し下か…。
「わしは死なないさ!」
そう言い切るゲンの本当の年を知る者は、サルバティ神父しかいない。
村に戻ってきたヴァーグは、宿のレストランで意外な人物の姿を見つけた。
テーブルで、マリーとミリーと一緒にルイーズ王女が、美味しそうにケーキを頬張っていたのだ。
「ルイーズ様、何故ここに?」
ヴァーグが呼びかけるとルイーズは食べていたケーキを喉に詰まらせ、マリーとミリーが必死に背中を叩いた。
なんとか落ち着きを取り戻したルイーズは、オレンジジュースを一気飲みすると一呼吸置き、椅子から立ち上がった。
「ご機嫌よう、ヴァーグお姉様!」
元気いっぱいに挨拶すルイーズは、スカートの端を少し摘み、膝を軽くまげて頭を下げた。王女らしい挨拶の仕方だ。
「こんにちは、ルイーズ様。お一人でいらしたのですか?」
「兄様の側近のダイスと一緒に参りました。明日から兄様たちは外国へ行ってしまうのでしょ? 王宮にいると退屈してしまうので、父様に無理言ってこちらに滞在させていただくことになりました」
「よく国王様が許してくれたわね」
「兄様の婚約式で使用するお花を用意しますって宣言したら、王妃様が快く送り出してくださいました」
「婚約式に使う花? 王都では手に入らない物かしら?」
「いいえ、王都でも十分足りますわ」
言っている事が矛盾しているように思うんだけど…?ヴァーグはニコニコ笑顔のルイーズ王女の考えている事が分からなかった。
その時、
「ルイーズ様、ちゃんとお話しないとヴァーグ様もお困りですよ」
と、ルイーズ王女の付き添いでついてきたダイスが口を挟んだ。
よく見るとエテ王子の侍女長アデリーヌと娘のリーレンの姿もあった。
「わたくしからご説明いたしますわ」
一歩前に進み出たアデリーヌがヴァーグに語り掛けた。
アデリーヌが言うには、婚約式では王族はそれぞれの守護宝石色の花で作られたアクセサリーを作らなければならないそうだ。成人している王族たちはそれぞれ守護宝石が決まっている為、お抱えのアクセサリー職人に頼むことができるが、まだ成人前のルイーズ王女は母親と同じ守護宝石を使うか、自分の髪の色と同じ色の花を使わなくてはならない。
王宮にも花壇はあり、職人たちの手によって綺麗に手入れされているが、今の季節は冬だ。ルイーズ王女の母親に与えられている守護宝石のピンク色の花は咲いておらず、ルイーズ王女の髪の色であるオレンジ色の花も咲いていない。それに生花を使うとなると、婚約式直前に作らなければならなくなるため、早めに手配しないといけないのだ。
「以前、お伺いした時、この村の花屋には色とりどりな花がありましたので、ヴァーグ様のお力をお借りしようと思い参りました」
「そういう事だったんですね。アクセサリーに規定はありますか? 例えば男性はこれじゃないとダメ、女性はこれじゃないとダメとかいう規定」
「いえ、それは特にございません。なにせ王族の婚約式が、今の国王陛下と王妃様以来でして、前回がどのような婚約式だったのか思い出せないのです」
「30年以上も前になりますな。陛下がご成婚された時はまだ王太子と王太子妃でございましたから」
「側室の方は式をあげなかったんですか?」
「正妃ではございませんので、お披露目の披露宴のみでございました」
「なるほどね~」
(ん? てことは第一王女は一体何歳なんだ?)ヴァーグはまだ出会ったことのない第一王女が、未だに縁談の話がない事に、本人は焦っているのか?と疑問に思った。エテ王子が20代前半ということは、30手前かそれ以上か…。
まぁ、あれだけ我儘な王女様だ。他国からの縁談も第一王女を通り越して第二王女に来ているんだろうな~…とヴァーグは勝手に予想していた。
「だったら、ケインお兄ちゃんの妖精さんたちにお願いしてみる?」
「妖精さんたちだったら、なんとかしてくれるかもしれないよ」
ケーキを頬張りながら話を聞いていたマリーとミリーが提案してきた。
「前にクリスお姉ちゃんに作った花冠は妖精さんたちにお願いしたの」
「妖精さんたちが持っている【時を止める魔法】?とか言うのを使ったんだって。それを使えば妖精さんたちがいなくならない限り、お花は長持ちするんだって」
「それにね、新しい妖精さんたちも生まれたの!」
「妖精さんたちが管理しているお花から、新しい妖精さんたちが生まれたって、すごく喜んでいたよ」
初めて聞く情報に、ヴァーグは驚いていた。
春の女王との会合で、花から新しい妖精が生まれるかもしれないという話は聞いていたが、自分の知らないところで物事が動いている事に驚いているようだ。
「一旦、温室に顔を出してみるか。ダイスさん、エテさんたちに婚約式には侍従や侍女たちも参列するんですか?」
「はい。わたくしたちは全員同じ装いでエテ様やコロリス様のお側にお仕えいたします。衣装はエテ様の守護宝石でと同じ色の服になります。コロリス様は王族ではないので守護宝石はご成婚後になりますが、王妃様が特別に薄いピンク色の宝石をご用意されています。コロリス様のお母様がお決めになられたそうです」
「じゃあ、全員同じアクセサリーを着けるの?」
「それはエテ様とコロリス様がお決めになられます。ですがエテ様は余りお金を使いたくないと仰っておりますので、わたくしたちは個人で揃えることになるでしょう」
「何か統一感があると見栄えがいいんだけど……」
ヴァーグは想像ではあるが、婚約式の光景を思い浮かべていた。きっと主役であるエテ王子とコロリスの両脇に侍従長や侍女長が立ち、その後ろに侍従や侍女たちが並ぶのだろうと考えている。服はきっとシンプルなものだろう。主役はエテ王子とコロリスなのだから、主役よりも目立つ服を着るとは思えない。
衣裳の色が決まっているとはいえ、それは伝統に乗っ取ったことだ。エテ王子とコロリスは自分に仕える侍従や侍女たちをととても信頼している。また侍従や侍女たちもエテ王子やコロリスを信頼している。それを見た目でわかるようにするには、同じアクセサリーを着ける事が望ましいのだが、それは可能なのだろうか。
近々、フロラン伯爵夫人が見えられる事だし、その時相談してみようと、とりあえずこのアイディアは保留という形にした。
今、片づけなければならないのはルイーズ王女のアクセサリーだ。
しばらく顔を覗かせていなかった温室の様子を見に出かける事にした。
<つづく>
目の前には目をキラキラと輝かせてルナを見つめるヴァーグの姿があった。
「姫様は無事、私室に戻られました。姉も両親と思われる人物と遭遇することはありませんでした」
ふーっと大きな安堵の息を吐いたルナは、にっこりと微笑んだ。
クリスティーヌ王女の双子の侍女リュヌとルナの2人は、【テレパシー】というスキルを持っていた。これは声を出さずに双子だけで会話ができる能力。2人が言葉をあまり発しないのは、実は2人だけで【テレパシー】を使って会話をしていたからだ。
この能力はまだ経験値が少ないらしく(ヴァーグ談)、お互いに【テレパシー】というスキルを持った者同士…しかもお互いに信頼し合う人としか会話ができないそうだが、経験値が上がれば誰にでも頭の中に話しかけることができるそうだ(ヴァーグ談)。
何故この場所にヴァーグがいるのか…。
それはただ単にケインの忘れ物を届けに来ただけだった。
当の本人は料理長に捕まり、厨房にいるようだ。
「凄い! 凄い!! 本当にテレパシーが使える人がいるのね!!」
実はヴァーグが愛用しているパソコンを使って、王宮内にいる人物の動きを見る事が出来た。ヴァーグのパソコンには地図を出す事が出来る。その地図を使って、王宮内の内部を映し出し、ルナが本当にリュヌと会話しているのかを確かめることができるのだ。
ついこの間、女神がパソコンをアップデートしてくれた。そのお蔭で、今までは自分が行ったことのある場所か、カメラが付いた名札なりアクセサリーなどを誰かに付けさせ、その人物が行く場所の地図しか出す事は出来なかったが、今回のアップデートで、人物を選んでその人物がいる場所の地図を出す事が出来るようになったのだ。
ヴァーグが出会ったことがある人物なら誰でも選択できるので、今回はクリスティーヌ王女を選んで、王宮内の地図を呼び出した。
ルナがパソコンに映し出された王宮内の地図を見た時、まさに自分しか見る事が出来ない平面の地図とそっくりだった。地図に映し出される人物も、丸い印と名前が浮かび上がって、口で説明しづらい所も、このパソコンの画面を見れば一目瞭然だ。ただ、ルナだけが見ることができる立体の人物は、まだこのパソコンには備わっていないようだ。
「そのうち、出来るようになるんじゃないかな?」
まるで誰かに「わかっているんでしょうね?」と言っているかのように、ヴァーグは天を睨み付けた。
その視線を感じた女神は、すぐに作業場へと駆け込み、パソコンに齧りついた。
「張り切って作っちゃいますわ━(人*´∀`)━━!!!」
女神がどのようにアップデートしてくれるのか楽しみだ。
パソコンに映し出された地図の中で動く人物(丸印)とリュヌが報告してくる事が一致し、さらにルナがアドバイスする指示が的確で、ルナがちゃんと【感知】のスキルを使い、【テレパシー】を使ってリュヌと会話している事が実証された。
「これぞ異世界! これぞ求めていた物!!」
と、ヴァーグが意味の分からない言葉を叫んでは、歓声を上げている。
そのヴァーグのはしゃぎっぷりを無視して、パソコンを見入っていたのはリチャードとリオの2人。パソコンはヴァーグから何度も見せてもらっていたが、そこに映し出された地図の詳細に驚くばかりだ。
「ヴァーグ殿、これは他の地図も出す事は出来るのでしょうか?」
リチャードははしゃぎまくるヴァーグに訊ねた。
「わたしが出会ったことのある人物だったら出来ますよ。試しに誰か見てみます?」
ヴァーグはマウスを器用に使って、地図の画面の左下にあった『人物』という文字をクリックした。すると今までヴァーグが出会った人物の一覧が浮かび上がり、その中からボルツール公国のリヴァージュを選択した。
画面は一瞬でボルツール公国の地図に変わり、湖の畔に建つ城には青い丸印が一つだけあり、その青い丸の上には『リヴァージュ』という文字が浮かんでいた。他にもいくつかの丸印があったが、そのほとんどが太い黒い丸で、中は白抜きになっており、丸印の上に書かれてある名前の文字も白色に近かった。
「リヴァージュ様はお会いしたことがあるから色付きになっているけど、他の方には一度もお会いしたことがないから、色が薄くなっているの。今はリヴァージュ様と関わりのある人物しか示さないように設定してあるから、すっきりした画面になっているけど……」
そう説明しながら、今度は右下の『全体』という文字をクリックした。
すると、今まで十数個しかなかった丸が、一気に地図全体を覆い尽くすほどの無数の丸印が浮かび上がった。
「なんだこれ!?」
「ボルツール公国の全国民の位置よ。一番集中している所は市場かな? こっちの山の方で一定の速度で動いているのは、馬車に乗って移動しているのかな? この四角い敷地に綺麗に並んでいるのは軍隊の訓練中なのかな?」
ヴァーグは冷静に画面を覗き込んでいた。
リチャードとリオは驚きを通り越し、ポカーンと口を開けたまま固まっている。
ルナは自分しか見る事が出来ない地図でも、ここまで鮮明に見る事が出来ないので、驚くというよりも興味津々という顔をしている。
「どなたか湖の上にいますね」
ルナは大きな湖のほぼ中央に浮かぶ二つの丸に気付いた。白抜きの丸のなのでまだヴァーグは会ったことがないのだろう。
興味半分でマウスを動かすと、その湖にいる2人の名前が浮かんだ。
その名前にヴァーグは苦笑いを浮かべた。
湖の中央で動いていた丸印には『ボルツール公国公主』と『ボルツール公国公主夫人』と書かれてあったのだ。
「あはは……まだ湖の調査をしている…」
リヴァージュからは、両親自ら湖に潜って調査していると聞いていたが、まさかまだ調査しているとは思いもよらなかった。
「ヴァーグ様、この『ぱそこん』という物は素晴らしいですね! わたしが説明しても説明しきれない事まで、一目でわかります!」
ルナは興奮している。どんなに説明しても自分しか見る事が出来ない地図を理解してくれない人が多い中、ヴァーグだけはその地図と同じ物を目に見える形で示してくれる。
「わたしも、このような物があれば…」
「ルナさんの地図は、いつも同じ場所に現れるんですか?」
「同じ場所…というよりかは、頭の中で見たい場所を思い浮かべながら指でこのように四角い図形を宙に描くと、そこに地図が現れます。目の前に地図を出してしまうと自分の視界を塞いでしまいますし、人前で指を動かすことはできませんので、気づかれないように左側の下の方に出すようにしています」
「どうして左側なの?」
「右側にはいつも姉がいますので」
(なるほど)双子ならではの感覚だ。いつも立ち位置が決まっており、逆の立ち位置になると落ち着かないと、マリーとミリーも言っていたことを思い出した。マリーとミリーもいつも同じ立ち位置だ。
「その地図は向こう側が透けて見える?」
「ほとんど透けていますが、見えにくいときは念じれば背景に色をつけることができます」
「地図の大きさは変えられる?」
「動かした指の範囲に現れます」
「その地図は指で触れる?」
「いえ、それは試したことがありません。いつも地図を出しても、念じれば大きくも小さくも出来ましたので」
「地図を出す時、指は両手? 片手?」
「両方できます。その時よって使い分けています」
「なるほど、なるほど」
ヴァーグはメモを取りながらルナの話を聞いていた。
何か心当たりがあるのか、ヴァーグのメモには『すまほ』『たぶれっと』という見慣れない単語が並んでいた。
「ちょっと試してみたいんだけど、目の前に地図を出してもらえるかな? 大きさは好きな大きさでいいよ」
「え……あ、はい……」
ヴァーグに言われた通り、ルナは目線の高さに20mほどの正方形を宙に両手で描いた。
どのように地図が出るのかヴァーグは分からないが、ルナがこちらを向いて小さく頷いたので、彼女の目の前に地図を呼び出したようだ。
「じゃあ、まず、その地図を指で触ってもらえる?」
「はい…」
ルナは恐る恐る右手の人差し指で地図に触れた。
突然ルナの顔が「(*゜0゜)ハッ」と驚いた顔になった。
今回は向こう側が透けて見える地図を出していた。指で触れることはできないだろうと思っていたのに、その地図は固い板のような感触があり、コツコツと何度も指で触れた。
その様子にヴァーグは「やっぱりね」と、予想していた通りの展開にウンウンと頷いた。
「触れられるみたいね」
ヴァーグの問いかけに何度もルナは頷いた。
「次に、地図の隅っこを指で押さえてくれる? そしたら斜め上にそのまま引っ張ってほしいの」
彼女に言われるまま、地図の右上の角を指で押さえ、そのまま右斜め上に指を動かした。
「(゚◇゚;)!!!」
ルナの表情で、どのようなことが起きているのか予想がつく。
地図の大きさは念じないと変えられないと思っていたルナは、指を動かした方向に地図が大きくなったことに驚いていた。
「じゃあ、最後。画面の好きな所に、物をつまむように親指と人差し指を置いてくれる? そしたら、親指と人差し指を広げたり閉じたりしてほしいの」
地図に触れた親指と人差し指を開くと、なんと地図が拡大されたのだ。それどころか、拡大することで、今まで念じなければ切り替わらなかった人物を立体で見ることができる地図に瞬時に変わったのだ。ルナが見ていたのは、王宮内の地図。ただの平面図の王宮内部の地図だったのに、クリスティーヌ王女の部屋の上で親指と人差し指を開いたところ、なんと部屋の内部にいるクリスティーヌ王女とリュヌの姿を立体で見ることが出来るようになったのだ。
試しに広げた指を閉じると、最初にルナが呼び出した王宮の平面図となった。
もしかして…と思い、今度は指を広げたまま画面に触り、その指を閉じてみた。
ルナの予想通り、王宮の平面図だった地図が、なんと王都全体を見ることができる地図に変わったのだ。
「(((( ;゚д゚))))」
表情を持たないと思っていたルナが、面白いほどに表情をコロコロと変え、ヴァーグが指示することで起きる予想もしなかった展開に、今にも泣きだしそうな顔になってしまった。
何か怖い物でも見てしまったのか、目に涙を一杯貯めてヴァーグに助けを求めるルナ。
ヴァーグはクスクスと笑っていた。(わたしも初めてタッチパネルに触れた時、こういう感じだったな~)と、前の世界で普及し始めていた『スマートフォン』という機械に初めて触れた時のことを思い出していた。
「あ…あの……これは一体……」
「そういう事が出来るように、最初から備わっていたのかもしれないわね。もしかしたらその地図自体を動かせるかもしれないわよ。地図の一点に指を当てて、そのまま左右に動かしてみて」
何が起きても驚かない!と思っていたルナだが、地図に人差し指を当て、そのまま左右に動かすと、地図が動かせることを知り、面白くなったルナは楽しそうに色々な場所に地図を動かした。
「地図を二つ出す事も出来るかもね」
ハッとしたルナは、まだ出している地図をそのままにし、新たに左隣に宙に指で四角い図形を描いた。
「━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
彼女の表情から、多分二つ同時に違う場所の地図を出せたのだろう。
きつい目つきの印象で、近寄りがたい雰囲気もあったが、こうして表情がコロコロと変わる所を見ると、今まで感情を押し殺してきたんだなということが推測できる。
特殊な能力を持っているがために、彼女のように本当の自分を失っている人が多いのだろう。シスター・マルガリーテも言っていたが子供たちをどうにか救いたい。特殊な能力を活かせる場所を提供できないだろうか…。ヴァーグは次に行うべきことを頭の中で考え始めた。
地図を見る事が出来ないリチャードとリオは、何もない宙を楽しそうに指を振るルナの行動が怖かった。
その後、ルナは姉のリュヌと一緒に、クリスティーヌ王女がデルサート王国に行っている間、村に滞在することになった。スキルについて学ぶため、その力をコントロールできるようにサルバティ神父と面会することにしたのだ。
エテ王子やクリスティーヌ王女がデルサート王国に行っている間、リチャードたちも特に大きな仕事もなくなるので、リチャード、リオ、カトリーヌの三人も村に行くことにした。
「わたくしもご一緒いたしますわ!」
どこからその話を聞いたのか、コロリスの祖母フロラン伯爵夫人が、リチャードの屋敷に駆け込んできた。
「それでしたら、わたくしもお伺いしたいですわ」
フロラン伯爵夫人の後ろからシスター・マルガリーテが顔を覗かせた。
フロラン伯爵夫人とシスター・マルガリーテは、ミゼル侯爵夫人に呼ばれたアンに着いてきただけ。アンは公爵夫人から王都で行うリチャードとエミーの結婚式の打ち合わせで呼ばれていた。
「じゃあ、先に村に帰って宿を手配しておきますね」
ヴァーグは懐から銀色の笛を取り出すと、空に向かって息を吹き込んだ。その銀色の笛からは音は聞こえない。
しばらくすると、一匹のドラゴンが舞い降りてきた。
「アクア、帰るわよ」
ヴァーグがそのドラゴンに声を掛けると、ドラゴンは嬉しそうに「キュウキュウ」と鳴いた。
「それじゃあ、村でお待ちしていますね」
ドラゴンに飛び乗ったヴァーグは、そのまま空へと飛び上がり、東の方角へと飛び去った。
飛び去るドラゴンを見て、リチャードがポツリと呟いた。
「王都上空をドラゴンが飛んでいる事、国民は気づいているのかな?」
リチャードの呟きに、リオが大きく頷いた。
ヴァーグやケインは王都に来るのに、よくドラゴンに乗ってくる。エテ王子やコロリスも王都から出かける時にグリフォンに乗っているが、王都上空を飛んでいても、誰にも気づかれない。
何故なら、ゲンが姿を消すことができるアクセサリーを作り上げたのだ。
「わしは、あの大戦で武器や防具を作っていたんだぞ! 何でも作れるわい!!」
毎度おなじみに豪快に笑うゲン。確かにゲンが作る武器や防具は優位に戦いが進められる物ばかりだ。今まで出回らなかったのは、それらを作る事が出来る職人がゲンしかいなかったから。ゲンももう戦いも無くなることだからと、後継者たちに教えていなかった。
その前に、ゲンは一体何歳なのだろうか。先の大戦というとケインの曾祖父が活躍していた頃だ。その頃にすでに武器を作る技術が備わっていたということは、ケインの曾祖父と同じ年か、それよりも少し下か…。
「わしは死なないさ!」
そう言い切るゲンの本当の年を知る者は、サルバティ神父しかいない。
村に戻ってきたヴァーグは、宿のレストランで意外な人物の姿を見つけた。
テーブルで、マリーとミリーと一緒にルイーズ王女が、美味しそうにケーキを頬張っていたのだ。
「ルイーズ様、何故ここに?」
ヴァーグが呼びかけるとルイーズは食べていたケーキを喉に詰まらせ、マリーとミリーが必死に背中を叩いた。
なんとか落ち着きを取り戻したルイーズは、オレンジジュースを一気飲みすると一呼吸置き、椅子から立ち上がった。
「ご機嫌よう、ヴァーグお姉様!」
元気いっぱいに挨拶すルイーズは、スカートの端を少し摘み、膝を軽くまげて頭を下げた。王女らしい挨拶の仕方だ。
「こんにちは、ルイーズ様。お一人でいらしたのですか?」
「兄様の側近のダイスと一緒に参りました。明日から兄様たちは外国へ行ってしまうのでしょ? 王宮にいると退屈してしまうので、父様に無理言ってこちらに滞在させていただくことになりました」
「よく国王様が許してくれたわね」
「兄様の婚約式で使用するお花を用意しますって宣言したら、王妃様が快く送り出してくださいました」
「婚約式に使う花? 王都では手に入らない物かしら?」
「いいえ、王都でも十分足りますわ」
言っている事が矛盾しているように思うんだけど…?ヴァーグはニコニコ笑顔のルイーズ王女の考えている事が分からなかった。
その時、
「ルイーズ様、ちゃんとお話しないとヴァーグ様もお困りですよ」
と、ルイーズ王女の付き添いでついてきたダイスが口を挟んだ。
よく見るとエテ王子の侍女長アデリーヌと娘のリーレンの姿もあった。
「わたくしからご説明いたしますわ」
一歩前に進み出たアデリーヌがヴァーグに語り掛けた。
アデリーヌが言うには、婚約式では王族はそれぞれの守護宝石色の花で作られたアクセサリーを作らなければならないそうだ。成人している王族たちはそれぞれ守護宝石が決まっている為、お抱えのアクセサリー職人に頼むことができるが、まだ成人前のルイーズ王女は母親と同じ守護宝石を使うか、自分の髪の色と同じ色の花を使わなくてはならない。
王宮にも花壇はあり、職人たちの手によって綺麗に手入れされているが、今の季節は冬だ。ルイーズ王女の母親に与えられている守護宝石のピンク色の花は咲いておらず、ルイーズ王女の髪の色であるオレンジ色の花も咲いていない。それに生花を使うとなると、婚約式直前に作らなければならなくなるため、早めに手配しないといけないのだ。
「以前、お伺いした時、この村の花屋には色とりどりな花がありましたので、ヴァーグ様のお力をお借りしようと思い参りました」
「そういう事だったんですね。アクセサリーに規定はありますか? 例えば男性はこれじゃないとダメ、女性はこれじゃないとダメとかいう規定」
「いえ、それは特にございません。なにせ王族の婚約式が、今の国王陛下と王妃様以来でして、前回がどのような婚約式だったのか思い出せないのです」
「30年以上も前になりますな。陛下がご成婚された時はまだ王太子と王太子妃でございましたから」
「側室の方は式をあげなかったんですか?」
「正妃ではございませんので、お披露目の披露宴のみでございました」
「なるほどね~」
(ん? てことは第一王女は一体何歳なんだ?)ヴァーグはまだ出会ったことのない第一王女が、未だに縁談の話がない事に、本人は焦っているのか?と疑問に思った。エテ王子が20代前半ということは、30手前かそれ以上か…。
まぁ、あれだけ我儘な王女様だ。他国からの縁談も第一王女を通り越して第二王女に来ているんだろうな~…とヴァーグは勝手に予想していた。
「だったら、ケインお兄ちゃんの妖精さんたちにお願いしてみる?」
「妖精さんたちだったら、なんとかしてくれるかもしれないよ」
ケーキを頬張りながら話を聞いていたマリーとミリーが提案してきた。
「前にクリスお姉ちゃんに作った花冠は妖精さんたちにお願いしたの」
「妖精さんたちが持っている【時を止める魔法】?とか言うのを使ったんだって。それを使えば妖精さんたちがいなくならない限り、お花は長持ちするんだって」
「それにね、新しい妖精さんたちも生まれたの!」
「妖精さんたちが管理しているお花から、新しい妖精さんたちが生まれたって、すごく喜んでいたよ」
初めて聞く情報に、ヴァーグは驚いていた。
春の女王との会合で、花から新しい妖精が生まれるかもしれないという話は聞いていたが、自分の知らないところで物事が動いている事に驚いているようだ。
「一旦、温室に顔を出してみるか。ダイスさん、エテさんたちに婚約式には侍従や侍女たちも参列するんですか?」
「はい。わたくしたちは全員同じ装いでエテ様やコロリス様のお側にお仕えいたします。衣装はエテ様の守護宝石でと同じ色の服になります。コロリス様は王族ではないので守護宝石はご成婚後になりますが、王妃様が特別に薄いピンク色の宝石をご用意されています。コロリス様のお母様がお決めになられたそうです」
「じゃあ、全員同じアクセサリーを着けるの?」
「それはエテ様とコロリス様がお決めになられます。ですがエテ様は余りお金を使いたくないと仰っておりますので、わたくしたちは個人で揃えることになるでしょう」
「何か統一感があると見栄えがいいんだけど……」
ヴァーグは想像ではあるが、婚約式の光景を思い浮かべていた。きっと主役であるエテ王子とコロリスの両脇に侍従長や侍女長が立ち、その後ろに侍従や侍女たちが並ぶのだろうと考えている。服はきっとシンプルなものだろう。主役はエテ王子とコロリスなのだから、主役よりも目立つ服を着るとは思えない。
衣裳の色が決まっているとはいえ、それは伝統に乗っ取ったことだ。エテ王子とコロリスは自分に仕える侍従や侍女たちをととても信頼している。また侍従や侍女たちもエテ王子やコロリスを信頼している。それを見た目でわかるようにするには、同じアクセサリーを着ける事が望ましいのだが、それは可能なのだろうか。
近々、フロラン伯爵夫人が見えられる事だし、その時相談してみようと、とりあえずこのアイディアは保留という形にした。
今、片づけなければならないのはルイーズ王女のアクセサリーだ。
しばらく顔を覗かせていなかった温室の様子を見に出かける事にした。
<つづく>
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