選ばれた勇者は保育士になりました

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第64話  月の名を持つ者

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 気を失ったクリスティーヌ王女を部屋まで運んだのはケインだった。
 さすがに寝室に入ることを躊躇ったケインは彼女付きの侍女に託し、自分は前室で待つことにした。

 クリスティーヌ王女の部屋は白を基調とした家具で揃えられており、白いソファには青い刺繍糸で描かれた花柄のクッションが置かれている。ソファも白く、クッションの生地も白いので青がとても映えて見える。
 ふと窓際に置かれたチェストを見ると、その上に見慣れたものが置かれていた。
 昨年、クリスティーヌ王女の誕生日に贈ったスノードームだ。
「大切にしてくれているんだ…」
 豪華な物ではないので気に入るかどうかわからなかったが、この部屋に置かれた家具を見る限り、逆に豪華にしなくてよかったという安心感が生まれる。



 寝室では王妃がクリスティーヌ王女に付き添った。
 ベッドに降ろされて数分後、クリスティーヌ王女は目を開けた。
「気づきましたか?」
「王妃様…? わたし…!!」
 勢いよく起き上がろうとしたクリスティーヌ王女を、王妃が止めた。
「無理しなくていいのですよ。外傷はありませんが、心は傷ついているでしょうから」
「でも……」
「エテやコロリスさんなら大丈夫です」
「……お義姉様に謝らなくては……」
「それは機会を見て…ね?」
「伯爵夫人やアン様にも謝らなくてはいけません!」
「それも大丈夫。あなたが謝ることは何一つありません」
「どうしてですか!? だって、わたしの親戚が伯爵夫人とアン様のご友人の命を奪ったのでしょ!? 頭を下げて謝らなくてはいけません!!」
「本当に大丈夫です。あなたはフロラン伯爵夫人にも、アン様にも謝る必要はないのです」
「王妃様! 何故そのようなことをおっしゃるのですか!? わたくしにも伯爵夫人のご友人の命を奪った当時の官僚たちの血が流れているんですよ!」
 激しく王妃に言い迫るクリスティーヌ王女。
 そんな彼女を、王妃は優しく手を取り、クリスティーヌ王女の視線と同じ高さまで自分の顔を近づけた。
「あなたには、当時の大臣たちの血は一切流れていません」
 優しく、でも凛としたしっかりとした王妃の声に、クリスティーヌ王女は大きく目を見開いた。
「……どういうことですの?」
「あなたのお母様ージュリエッタ様は養女です。父方の親戚と何の繋がりもありません」
「…養女…?」
「あなたのお母様はとても変わられた方ですわ。王都から遠く離れた小さな村に生まれ、自分は『戦いの女神』の生まれ変わり。勇者は亜麻色の娘と結婚しなければ国は滅ぶと申していたそうです。当時はまだ勇者の人気もありましたし、勇者と関わりのある人間はたとえ身分がなくても王室から手厚い援助を受けていました。それに目を付けたジュリエッタ様の養父母…つまり、あなたのお祖父様たちがジュリエッタ様を引き取ったのです」
「じゃ…じゃあ……」
「あなたが謝ることは何もないのです。その事もきっと伯爵夫人の口から、エテやコロリスさんに伝えている事でしょう」
「……」
「それよりも、お礼を言わなくてはいけない方がいますわ」
 王妃はフフフっと嬉しそうに笑うと、クリスティーヌ王女の耳元である人物の名前を告げた。
 すると、クリスティーヌ王女は顔を真っ赤にしながら急いでベッドから飛び出した。


 ケインは侍女が入れてくれたお茶に手を付けることもなく、侍女に「どうぞ」と勧められたソファに座ることなく、ただた入り口の扉の前に佇み、クリスティーヌ王女付きの双子の侍女に鋭い目つきで見つめられているだけだった。
「……なんで……睨まれるの?」
 鋭い目つきの双子は、元々そういう目をしている。
 双子の侍女はとある男爵家の令嬢だった。双子は不幸を招くと言われていたが、男爵家では優しい両親と心優しい使用人たちの愛情をたっぷり受けて幸せに暮らしていた。
 ところが双子が5歳になった時、2人に特殊な能力が見つかり、気味悪がった男爵が孤児院に捨てた。
 親に捨てられた双子は感情という物を忘れてしまい、無表情…というよりも、鋭い目つきで他人を見るようになってしまい、周りとも距離を置くようになった。
 その後、双子は視察に訪れたエテ王子にクリスティーヌ王女の侍女にどうかと話を持ち掛けた。クリスティーヌ王女の母親ジュリエッタが口の堅い侍女を探しており、エテ王子が推薦した。ジュリエッタも双子の採用を認めた。もちろん、エテ王子もジュリエッタも双子に特殊な能力を持っている事は知らない。

 双子の侍女が何かに気付いたらしく、スッと寝室の扉の前に移動した。そして、一瞬だけ目を合わせると、向かって左側にいた侍女がドアノブに手を掛け、間を開けることなくドアを開けた。
 するとドアの向こうには王妃とクリスティーヌ王女が立っていた。いや、正確には扉の前に立っていたのではなく、侍女が開けた扉に向かって、一度も歩みを止めることなくこちらに向かって歩いてきた。
 クリスティーヌ王女は慣れているのか、特に驚いた様子はないが、王妃はとても驚いた顔をしている。
「呼んでいないのに、どうしてわたくしたちが来ることが分かったのでしょう?」
 王妃が驚くにも無理はない。
 クリスティーヌ王女が身支度を整え、ドアに向かって歩き出したと思ったら、歩みを止めることなくドアが開いたのだ。自分の侍女たちは王妃がドアを少し開けると、急いで駆けつけドアを開けてくれる。それなのに彼女の侍女は、まるで動きがすべてわかるかのように、タイミングよくドアを開けたのだ。
 王妃は双子の顔を見ようとしたが、2人は深く頭を下げている為、顔を見る事が出来なかった。公の場に出る事はない双子の侍女に、王妃は興味津々というような顔を見せている。

「ケインさん」
 クリスティーヌ王女はすぐにケインに駆け寄った。
「あ…あの、もう大丈夫なんですか?」
「はい。大変ご迷惑をおかけしました。このお詫びは必ず致します」
「詫びなんていいですよ」
「でも……あの……ケインさんがここまで運んでくださったのですよね? その……わたし、重くなかったですか?」
「いえ、軽かったですよ。村で重い鍋を振ったり、畑でクワを振り回しているので、体力には自信があるんです。それに、いつも子供たちにのしかかられるので、それに比べたら軽い方ですよ」
「まぁ、ケインさんはお子様に好かれるんですね」
「保育園で臨時の手伝いをしていましたから」
 ほんわかとした雰囲気を漂わせながら談笑するケインとクリスティーヌ王女。
 王妃はその二人を微笑ましく見つめていた。
(やっぱりお似合いのカップルですわ!)
 心の中では大きくガッツポーズをしていたことも付け加えておこう。

 その時、双子の侍女の一人がまた何かに気付いた。
「姫様、ジュリエッタ様がこちらに向かっています」
「お母様が!?」
「最後の曲がり角を曲がりました。このままではこの殿方が怪しまれてしまいます」
「どうしましょう…」
「と…とりあえず、ケインさんには衣裳部屋に隠れてもらってはいかがかしら? クリスはわたくしとお茶を楽しんでいたということにしましょ」
「はい、王妃様」
 クリスティーヌ王女はケインの手を握ると、隣接する衣裳部屋へと引っ張った。
 突然手を握られたことにケインは驚いたが、彼女の必死な表情に母親に対する何かを感じ取ったのか、今は彼女の為に衣裳部屋へと隠れることにした。
 ケインと双子の侍女の姉リュヌが衣裳部屋に隠れると同時に、双子の侍女の妹ルナが廊下へと続く扉を開けた。
 自らドアを開けようとしていたクリスティーヌ王女の母親ジュリエッタは、突然開いた扉に、ノブに伸ばした手をひっこめることなく驚いた表情をしていた。
「どうしてわたくしが来ることがわかったの?」
 開いた扉の向こうでは、クリスティーヌ王女の侍女が深く頭を下げていた。偶然開けたのなら、一瞬顔を見て驚くだろう。だが、この侍女はジュリエッタの顔を一回も見ていない。事前に来ることを察していたように思える。
「お母様」
 頭を下げている侍女を見つめていたジュリエッタは、クリスティーヌ王女の声でハッと我に返った。
「クリスティーヌ、倒れたと聞きました。大丈夫なのですか?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「何が原因なんですか? もしかして病気?」
「いえ、違います。本当にもう大丈夫です」
 さすがに母親の親戚の過去の行いを聞いて倒れたとは、口が裂けても言えない。ましてやその席に母が認めていない殿方がいたなどとは…。
 なんとかして本当の事を聞き出そうとするジュリエッタ。それでもクリスティーヌ王女は「大丈夫です」「なんいもありません」という言葉しか発しなかった。
 なにか隠している? そう思ったとき、
「クリスは明後日からの旅行に緊張しているのですわ」
と、王妃が口を挟んだ。
「王妃様、何故ここに…」
「あら、わたくしも出席していたお茶会でクリスは倒れたのですわ。わたくしが付き添いましたの。何か疑問に思う事でも?」
「…いえ……クリスティーヌがご迷惑をおかけしました。付き添っていただき、ありがとうございます」
 ボソボソとした声でお礼を言うジュリエッタ。彼女は王妃の目を見ようとしなかった。
 妃候補試験の時から、ジュリエッタは王妃の事を苦手としている。本来だったら自分が座るはずだった正妃の椅子に座っている王妃が憎らしく思っているのだが、妃候補試験の時に王妃には大きな恩がある。王宮追放にも相当する事件を起こしたが、王妃の一声でそれは内密に処理され、外部にも漏れることはなかった。今の側室という地位にいるのは王妃の恩があるから…その思いが王妃に逆らう事が出来ないのだ。
 ニコニコと笑顔を見せる王妃と、何か言いたそうに表情を硬くするジュリエッタ。クリスティーヌ王女には2人の間に見えない火花が飛んでいるように見えた。


 衣裳部屋に隠れていたケインは、ドアの隙間からジュリエッタを見ていた。
「あれが…クリスの母親…」
 クリスの母親とあって、外見は彼女そっくりだ。あと十数年経てば、クリスティーヌ王女もあのように大人びた女性になるのだろうと想像がつく。
 だが、ケインはジュリエッタを一目見て、ある人物と雰囲気が似ている事に気付いた。
 髪の色は違えど、どこか神秘的で、不思議な感じがする雰囲気は、いつも一緒にいるヴァーグに似ていた。
 今迄に色々な人に出会ってきたが、ヴァーグみたいに神秘的で、どことなく不思議な雰囲気のある人物には一度も出会ったことがなかった。彼女だけ特別なんだろうと思っていたが、今、目の前にいるジュリエッタも同じような雰囲気を感じ、視線を外すことができなかった。
 あまりにも扉に近すぎたため、リュヌが咄嗟にケインの腕を掴んだ。
 驚いたケインがリュヌを見ると、彼女は人差し指を自分の唇に当て「静かにしてください」と声を潜めた。


「あ…あの、お母様、わたし、旅の準備をしたいのですが……」
 オロオロとしていたクリスティーヌ王女が遠慮気味に声を掛けた。
「…あ、そうね。初めての外国だからってハメを外さないようにね」
「はい、お母様」
「それから、これを持って行きなさい」
 ジュリエッタは自分の髪につけていた髪飾りを外すと、クリスティーヌ王女の手に握らせた。それはいつもジュリエッタが束ねた髪に付けていた柄の長いアクセサリーで、柄の先には猫の目のような模様が浮かび上がる黄土色に近い丸い宝石が一つ、細い鎖のような物で繋がっていた。
「お母様、これは…」
「その宝石は災いから身を守るとされている物です。あなたに降りかかる災いから守ってくれるはずです。旅のお守りにしなさい」
「でも、それでしたらお母様が…」
「わたくしは大丈夫です。この王宮にいれば災いなどにはあいませんから。いいですね、必ず身に着けていなさい」
「…はい……」
 ほぼ強制的に渡されたアクセサリー。クリスティーヌ王女は初めて母から貰う物に嬉しさもあったが、どことなく気持ちがこもっていないように感じた。
「では、王妃様、わたくしはこれで」
 王妃に向かって、一瞬睨むような目つきで視線を送ったジュリエッタは、そのまま部屋を出ていった。

 完全に扉が閉まったことを確認して、ルナは衣裳部屋の扉を開けた。
「ケインさん、急にごめんなさい」
 衣裳部屋から出てきたケインに、クリスティーヌ王女が真っ先に駆け寄った。
「いや、俺は別にいいんだけど……なんで母親が来ることがわかったんだ?」
「あ……それは……」
 クリスティーヌ王女は気まずそうに双子の侍女の顔を見た。
 双子の侍女は表情を変えることなく、2人並んで立っていた。
「わたくしも不思議に思う事がありますわ。先ほど、クリスが寝室から出ようとした時、タイミングよく扉を開けたでしょ? どうしてわたくしたちが扉に向かっているのが分かったのかしら?」
「あ…あの、王妃様、それは……」
 クリスティーヌ王女は何かを知っている様子だ。困った表情で侍女とケインの顔を交互に見ている。
「もしかして……特殊能力持ち?」
 そうケインが口にした途端、目にも見えない速さで双子の侍女がケインに駆け寄り、姉のリュヌはケインの背後から羽交い絞めにし、妹のルナはどこの隠し持っていたのか短剣を彼の首元に突き付けた。
「リュヌ! ルナ!」
 クリスティーヌ王女の悲鳴に近い叫び声にも耳を貸さず、双子の侍女はケインから離れようとはしなかった。
「何故、特殊な能力の事を知っている」
 地を這うような低い声を出すリュヌは、羽交い絞めにしている腕に力を入れ、ケインを強く締めあげた。
「お前も排除者の一味か?」
「わたし達の能力を知って姫様に近づいたのか!?」
 いつもは無表情で大人しい双子が、憎き敵を見つけたような怖い顔をし、ケインに迫る様子を、王妃もクリスティーヌ王女も止める事が出来なかった。近づけば自分の返り討ちに合いそうな気がした。
「あの~……何か勘違いしていると思うんですけど、俺はただの料理人ですよ。排除者の一味とか、君たちの特殊能力が何なのかも知らないんですけど」
「嘘を言うな! わたしたちのこの能力は一部の人間しか知らない。特殊な能力を持つ者は、排除の対象となる。お前が国王と親密になったのも、わたしたちのことを密告する為だろ!」
 ルナの持つ短剣がケインの首に食い込んだ。
「俺は特殊能力を持つ人を排除なんかしませんよ」
「証拠がない!」
「だって、俺自身も特殊能力持ちなんですよ。排除している人間側だったら、俺自身も排除しないといけませんよ」
「…お前も……特殊能力持ち?」
「まあ、俺の場合は目に見えない能力なので、気付かずに使ってましたけどね。俺自身もこの特殊な能力に気付いたのはつい最近です」
 双子の侍女は同時にクリスティーヌ王女を見た。
 いつも鋭い目つきの双子は、より鋭い目つきになっており、クリスティーヌ王女はビクッと震えあがった。
「その方の仰ることは本当よ。つい先ほどのお茶会で特殊な能力の事についてお話してくださったの。特殊な能力は【スキル】という物で、人間は必ず一つは持っている物。それが表に出るのか、表に出ないのか、個人差があるそうよ」
 王妃の言葉に、リュヌとルナはお互いに顔を見合わせた。
 2人は【スキル】という言葉に聞き覚えがあったのだ。孤児院にいた頃、1人の神父とシスターの会話を盗み聞きしたことがある。その2人の会話の中に特殊な能力の事を【スキル】と呼んでいた。自分たちがいた孤児院では【スキル】を磨く訓練もしてくれた。この特殊な能力は使い方次第で人の役に立つと教えられ、決して悪事に使わないようにと強く言われ育った。
 エテ王子が孤児院を視察した時、双子の人に対する『先を見越した働きぶり』が目に留まり、クリスティーヌ王女の侍女に任命してもらったが、実は双子が持つ特殊能力が『先を見越した動き』に繋がっていたのだ。

 リュヌとルナはケインを開放し、彼に対して深く頭を下げた。
「姫様のお客様に大変失礼をいたしました」
「心からお詫びいたします」
 ケインに危害を加えることなく開放してくれたことに、クリスティーヌ王女はホッと胸を撫で下ろした。
「ケインさん、大変申し訳ございませんでした。このお詫びは必ず致します。どうか2人にお許しを」
「お詫びはいいよ。この侍女たちも俺の事を警戒していたんだしさ、こうなってもおかしくないよ」
「でも…」
「一国の王女と親しくしている男なんて、侍女からしたら危険人物だもんな。ヴァーグさんがいてくれたらこんなことにはならなかったと思うけど」
「でも、今日は二回もご迷惑をおかけしてしまいました。ケインさんがいいと仰っても、わたしの心が許しません」
「そうは言われても……」
 申し訳なさそうに深く頭を下げる双子の侍女と同じように、クリスティーヌ王女も頭を下げた。
 一国の王女が身分の持たない一般の国民に頭を下げるなど、こんな光景を見たら母親は大激怒するだろう。身分のある者が頭を下げるのは、自分より身分が上の者だけ。それが常識だからだ。
 だが、王妃はなにも注意しなかった。王妃は例え国王と言えども、自分が行ったことが他人に迷惑を掛けたのなら、素直に頭を下げて謝る事と王太子妃時代に先代の王妃から教育されている。国王も同じように先代王妃である実母から教育を受けており、謝ることに身分や地位は関係ないという考えを持っている。
 だからこそ、今、クリスティーヌ王女がケインに向かって頭を下げていることを注意しないのだ。
 ずっと頭を下げているクリスティーヌ王女に、今度はケインが申し訳なくなり、小さな溜息を吐いた。
「じゃあ……これを受け取ってくれますか?」
 ケインはクリスティーヌ王女の前に、一つのペンダントを差し出した。
 そのペンダントは、丸い平べったいガラスの中に、透明な液体が入っており、黄緑色と黄色い小さなガラスの粒が液体の中を漂っていた。
「あの…これは……」
「ある人に頼んで作ってもらったんです。俺が住む村に、宝石に付加効果…って言っても分からないですよね。宝石に体力回復とか、ダメージ軽減とか、そういう力を付けることができる人が移住してきたんです。今回、外国に行く話を受けて、何かあった時の為に身を守るアクセサリーを作れないか相談して、これを作ってもらいました。外国にいる間だけでもいいので、付けてもらえると嬉しいのですが……」
「わたしにくださるのですか?」
「はい。クリスの為に作ってもらいました。付加されているのは、あらゆる攻撃から身を守る効果と、体力と精神力の回復をしてくれる効果です」
「アクセサリーにそんなことができるのですか?」
「移住してきた人が、宝石に効果を付加することができる【スキル】を持っていますので。それに、俺の村に出入りする職人は、物を作ることで、その作った物にこういう効果をそのまま付けることができる人がいるんです。ヴァーグさんが言うには【スキル】が働いているってことなんですけどね」
 今まで【スキル】という特殊な能力が虐げられる原因だと思い込んでいた双子の侍女は、ケインの発言に目を丸くして驚いていた。【スキル】は人間という存在価値を無くすものだと、そう思っていたのに、こうやって人を守るために使うことが出来るとは思ってもいなかった。
「……わたしたちも人の役に立つのかな……」
 妹のルナがポツリと呟いた。
 その声をケインは聞き逃さなかった。
「因みになんですけど、お2人はどんな【スキル】を持っているんですか?」
「…え?」
「あ、いえ、突然すみません。ちょっと気になったので…」
「……わたしたちの話を聞いてくださるのですか?」
「俺も今、【スキル】について色々勉強しているんです。よかったら聞かせてくれませんか?」
 双子の侍女はお互いに顔を見合わせた。
 自分たちの話を聞いてくれると言ったのはケインが初めてだ。最も、双子は自分から話をしようとしない。なぜルナがあんな言葉を呟いたのかも、自分でもよく分かっていない状態だ。


 王妃は双子の侍女と対等に話したと、ソファに座るように促した。
「いえ、わたし達はこのままで」
 仕えている主ーしかも王族と同じテーブルに着くことは、侍女や侍従たちからしたら禁止行為だ。エテ王子は月に一度、侍従や侍女、使用人たちを労うお茶会を開いているが、王子たちだけの間の秘密事として外部に漏らしていない。それだけに、エテ王子が行っている事を知らない双子の侍女は王妃の誘いも断るのは当たり前だ。

 双子は自分に備わっている特殊な能力の事について話した。
 姉のリュヌは人や動物の気配を察知する能力と、自分と自分に触れた人間の気配を消す能力を持っている。気配を消す能力は使ったことはないが、小さい頃に孤児院でかくれんぼをした時に、無意識に能力を使っていたらしく、いつも最後まで見つからず、時には日が落ちて大人たちが大騒ぎで探し回ったことがあるらしい。
「あ! だからさっき、俺の腕を掴んだんですか?」
 ケインは衣裳部屋に隠れているとき、リュヌに腕を掴まれていた。もし、気配を消す能力を使っていたのなら、あんなに扉の近くにいたのに、誰にも気づかれなかった事に納得できる。
「姿そのものを消す事は出来ませんが、気配を消すことはできます。先ほどは咄嗟のこととはいえ、殿方の腕を掴んでしまい、申し訳ございませんでした」
 リュヌは、また深く頭を下げた。
「全然気にしていませんから。頭をあげてください」
「優しいお心遣い、感謝いたします」
「それで、妹さんのほうはどんな能力を持っているんですか?」
「わたしは人の動きを感知する能力を持っています」
 妹のルナは、目の前に地図を出す事が出来、その地図に誰がどこにいるのかを示す事が出来るそうだ。その地図は自分しか見る事が出来ず、自分が動けばその地図も一緒についてくるという。地図の範囲も一部屋から王宮全体、王都全体、国全体まで見る事が出来、頭の中で念じれば一度行った場所ならどこの地図も出せるそうだ。
「信じていただけないと思いますが、わたしのこの辺りに透明な地図を出す事が出来、人物の名前と丸い印が浮かび上がるのです。地図の範囲を縮めれば、人物を立体で見る事も出来ます。立体で見える時は、その人がどのような服装をしているのかもはっきりわかります」
 ルナは自分の左側の腰辺りを、指で四角い図形を作りながら説明した。
 彼女の言葉からは、おおよその想像でしか理解できないが、たぶんこの場にヴァーグがいたら喜んでこの話に飛びついただろう。彼女は愛用のパソコンで同じようなことをしている。きっと話が合うに違いない。
「では、わたくしとクリスが寝室から出る時や、ジュリエッタがこの部屋に入ろうとした時も、その地図を出して、わたくしたちを見ていた…ということですか?」
「はい。王妃様、申し訳ございません。勝手に王妃様を見てしまいました。ですが、わたしはあくまでも姫様を見ていたのです」
「謝ることはないわ。とても不思議に思っていましたの。わたくしたちがドアノブに手を掛ける前に扉が開いたでしょ? それもクリスは歩みを止める事をしなかったわ。一体どういう仕組みなのか気になっていましたが、そういう能力を持っているのでしたら納得ですわ」
「最高の護衛ですね、この2人は」
「ええ。クリスを守るのには最適ですわ。でも、あまり公に出ませんね。こんな素晴らしい能力をお持ちなら、公に出てクリスを守ってくださればいいのに」
「それは……」
 たしかに双子の侍女はクリスティーヌ王女に仕えてはいるが、公の場に同行することはない。どちらかというとクリスティーヌ王女の私室のある棟から一歩も出ることはない。
「あなた方のご両親に会うかもしれないから……かしら?」
 王妃がズバリというと、双子は同時の顔を上げ、王妃を見た。
「あなた方のご両親がどなたかはわかりませんが、王宮に出入りできる資格があるのでしょう。そしてもし、王宮内で顔を合わせると、特殊な力を持っている事が公にバレ、自分たちはここに居られなくなる……っといったところでしょうか?」
「……その通りでございます」
「わたしたちは姫様に仕える事が生きがいです。今、ここで両親と顔を合わせ、また居場所を失うことはどうにか避けたいのです」
「わたくしとしてはクリスの側にいてほしいのだけど……ここは陛下と要相談かしら?」
 国王から直接、クリスティーヌ王女の侍女について待遇してもらえれば、周りは何も言ってこなくなるが、そうなると王位継承権を持つ王女の侍女として働く事を知った2人の両親がどう出てくるのか、大体予想がつく。すぐに屋敷に連れ戻し、再び男爵令嬢として教育をし、クリスティーヌ王女の正式な侍女として採用してもらえるように手続きをするだろう。侍女に選ばれた貴族の令嬢は、国から給料が支給されるだけでなく、実家にもいくらかの報酬が渡される。2人の両親がこれを逃すはずがない。
「試しに公の場に出てみたらどうですか?」
 ケインが何の対策も考えずに発言した。
 行き当たりばったりな行動に、王妃はもちろん、クリスティーヌ王女や双子の侍女も驚いている。
「お2人の話だと、小さい頃に孤児院に捨てられたんですよね? だったらご両親は成長した姿は分からないと思いますよ。それに、妹さんの人を感知する能力を使えば、ご両親と顔を合わせる事を避けられるんじゃないんですか?」
 もっともな事を言うケインに、王妃たちは目から鱗が落ちた。
 確かにその通りだ。5歳の時に別れてから、一度も両親とは会っていない。それに双子自身が両親の顔すら覚えていない。出会ったとしても親だと気づくはずがない。
「試しに、明日のお父様との謁見に2人を連れ出してみましょうか?」
 クリスティーヌ王女はケインの話に賛同したようだ。
「でも、双子は不幸を招くと言われています。同じ顔の2人が同時に同じ場所にいては、ご両親も気づくのではないかしら?」
「それもそうですね」
 いい提案だと思ったが、この王都でも双子という兄弟姉妹はいない。同じ顔が二つあるとなると、それこそ噂好きの貴婦人たちに話を広められ、彼女たちの両親が名乗り出るかもしれない。
 (こんな事ならヴァーグさんからインカムを借りてこればよかった!!)
 離れた場所でも会話ができる不思議な機械を使えば、例えば姉がクリスティーヌ王女に付き添い、妹が部屋で待機しながら指示することができる。
 デルサート王国に行くにあたり、ヴァーグに貸し出しを願い出たが、国を跨いだ遠距離でも使えるかどうかわからないと言われ、泣く泣く諦めていたのだ。
「あの……それでしたら、わたし達のもう一つの能力が使えるのではないかと…」
「「「もう一つの能力???」」」
 リュヌは、自分たちに備わっているもう一つの能力について語りだした。
 その話に王妃は信じようとしなかったが、実際に実演してみせたところ、信じざるを得なかった。

 これならいける!
 王妃はデルサート王国へ出発することを報告する謁見の席に、姉のリュヌを同行させるように命じた。
 そして妹のルナは、ケインと共にリチャードの屋敷で土地を開拓するための事業に加わることになった。



              <つづく>

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