祖父ちゃん!なんちゅー牧場を残したんだ!相続する俺の身にもなれ!!

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秋の月7日(金の曜日) 伯爵とお茶会

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 ラッツィオさんはすぐに母屋の修理を始めた。
 新しく入ったという弟子2人を連れて牧場を訪れた時、丁度畑の水撒きをしており、リーフたちが列を連ねて水汲みに向かっている所を見られてしまった。
 ラッツィオさんは
「これがアスカ殿が契約していたというスライムか! まことに可愛いのう!」
と、豪快に笑い飛ばしていたが、弟子だと言う2人は、列を連ねて行進する緑色のスライムにポカーンと口を開けていた。
 驚くよな。だって魔物が牧場にいるんだもん。
 悲鳴を上げて逃げるかな~?と思っていたが、反応は俺の予想をはるかに超えていた。
「これが伝説の魔物使いしか繰り出す事が出来ない技!!」
「魔物を従えさせる噂は本当だったんですね!」
「オレ、この村に来てよかった……」
「故郷に帰ったら自慢できる…」
 2人は感極まって泣き出している。

 え!? そんなに感動する事!?
 だって、ただのスライムが列を連ねて歩いているだけだよ!?
 どこに感動する要素があるの!?

「ユーキ殿とアスカ殿の噂は、この国中に知れ渡っているからな。アスカ殿もスライムをそのように整列させて行進させていた。これはアスカ殿が得意としていたスキルの一つ【スライムの行進】なのだが、これを使える者は誰一人としていない。ほぼ伝説と化している技を見れば、誰だって感動するわい」
 かっかっかっ!と豪快に笑うラッツィオさん。
 その傍らで涙を流す弟子の2人。

 いやいやいや、俺、技なんて使ってませんよ?
 この子たちが勝手にやっているだけで、【スライムの行進】なんて技、知りませんから!
 それにスキルって何?
 スキルって、自分の能力だよね?
 俺、そんなスキル持ってるの!?

「無意識ですか?」
「さすが伝説に真央の使いのお孫様!!」
 いや、だから、そんな事言っても、俺は何も知りませんから。
 とにかく母屋を直してください。俺が寝れる場所を早く作ってください。



 ラッツィオさんたちが母屋の修理をしている間、畑や牧草地ではスライムたちが思い思いに過ごしていた。
 日向ぼっこしている者、薬草を見つけては体内に取り込んで薬を作っている者、複数でじゃれ合っている者、いろんなスライムが牧場のあちこちにいて、それをチラチラ見ている弟子の2人が、何度も手を止めて見ている。
 そしてそれを目撃したラッツィオさんが雷を落とす。

 あ~今の雷、何回目だろう……。
 こんなんで母屋の修理、冬までに終われるかな?


 リーフが牧草地の雑草と薬草をすべて摘み取ってくれたおかげで、新しい牧草の種を蒔けるようになった。
 ノームが地面を耕して、俺が種を蒔き、リーフたちが水を撒く…という役割を分担したので、作業もすんなりを進んだ。


 そんなある日、牧場に珍しい客人がやってきた。
「まぁ! 牧場として再建しているわ!」
 どこかで聞いた甲高い声だな~…と思って、声のした方を向くと、そこにはピンクのドレスを身に纏ったステラがいた。その隣にはオルベリザス伯爵も立っていた。相変わらず『貴族です!』っていう豪華な服に身を包んでいる。
「ごきげんよう、ハヤト殿」
 被っていたシルクハットを外し、オルベリザス伯爵が挨拶をしてきた。
「こんにちは…」
「順調ですかな?」
「ええ、まあ……」
 なんか、今でもこの土地を手に入れようとしていそうで、なんとなく関わりたくないんだよね…。
 ここに来たってことは、用事があるからだと思うけど、面倒な事にならないといいんだけど。
「ハヤト殿、一つ聞きたい事があるのだが、よろしいかね?」
「は…はい…」
「君の足元にいるのは魔物ではないのかね?」
「え?」
 オルベリザス伯爵に言われて、俺の足元にノームがいることに気付いた。さっきまで牧草地を走り回っていたのに、いつの間にやってきたんだ? もしかして、俺を心配してきてくれたのか?
「ああ、この子は俺が契約を結んでいる土属性のスライムです。畑を耕す手伝いをしてくれるんです」
「契約? 君がかね?」
「はい。ラッツィオさんたちが言うには、元々祖母ちゃんが契約していたスライムじゃないかっていうんです」
「ほぉ」
 オルベリザス伯爵は、少し驚いたような顔を見せたが、すぐに「【鑑定】」という言葉を口にした。
 ジロジロと見られているノームは俺の足にしがみついて怯えているようだが、それでも伯爵から視線を逸らさなかった。ノームなりに俺を守ってくれているのかな?なんて思っちゃう。
「なるほど。そのスライムはノームという名前なのかね? 土属性にしては水属性の耐性が優れている。それに土を隆起させ敵を攻撃するスキルを持っているようだ。また、隆起させた土を岩に変えることもできるようだね。レベルは……これはこれは素晴らしい」
 伯爵は人を鑑定する能力を持っているとは予測していたけど、人間だけではなく魔物も鑑定できるのか。
 俺もその能力、欲しいな。
「ハヤト殿、このスライムはとても素晴らしい。こんな素晴らしいスライムは初めて見たよ」
「あ…ありがとうございます。伯爵は生き物を鑑定できるんですか?」
「ああ、そうだ。そういえば、ちゃんと自己紹介をしていなかったね。わたしはフランソワ・オルベリザス。この村の隣の領地を治めている。ご挨拶が遅くなり申し訳ない」
 小さく頭を下げる伯爵。
 貴族なんて傲慢な人だと思っていたけど、結構礼儀正しい人だ。身分のない俺にまで頭を下げる事が出来るってことは、変なプライドはないのかもしれない。
「ステラ、お前も挨拶をしなさい」
「……ステラ・オルベリザスですわ」
 オルベリザス伯爵に睨まれて、ステラは自己紹介してきた。この子は貴族としてのプライドが高いんだろうな…。
「ハヤト殿、本日は是非ともお話をしたい。少し時間を頂けますかな?」
「は…はぁ…」
 まだ母屋は修理中だ。どこか座れる場所を見つけた方がいいのかな?
 いっそうの事、アンナの店を借りようかな?
 なんて思っていたら、突然身なりのいい男が数人、どこからともなく現れ、牧場の南側に流れる川の岸辺に、パラソル付きのテーブルを置き、椅子を並べ、そして飲み物と食べ物まで用意し始めた。
「あの者たちはわたしの屋敷で働く者だ。少しの間、場所をお借りしますよ」
 オルベリザス伯爵は準備が整ったテーブルへ向かい、並べられた椅子を引いて、俺を促した。
 伯爵自ら椅子を引くなんて行動、王都では絶対にありえない行動だぞ!?


 テーブルを囲むように伯爵、俺、ステラの順に座ると、付き人はそれぞれの前にお茶の入った茶器と、宝石のような小さなケーキを並べ始めた。
 伯爵の付き人たちが用意したお茶は、とても美味しかった。なんでも外国から仕入れた茶葉らしく、この国では手に入らない代物とか。こういう所に金を掛けるのはやっぱり貴族だな。
 お茶を一口飲んだ伯爵は、優雅に茶器を置くと、本題に入った。
「どうしても君と話がしたくてね、急な申し出を申し訳ない」
「いえ、今日は特にやることはなかったので…」
「それにしても素晴らしい牧場だ。君の祖父君は、この土地を大事にされていたようだね」
「そうみたいですね」
「君は祖父君の事について興味はないのかね?」
「興味…っていうよりも、俺、祖父ちゃんのこと何も知らないんです。この村に来たことはあるんですが、小さい頃に数日間だけですし、両親は祖父ちゃんと祖母ちゃんのことを話そうとしないし、俺もずっと寄宿学校や城下町のレストランに住み込みで働いていたので、祖父ちゃんがどれだけ偉大なのかは、この牧場を継いで初めて知りました」
「君のご両親は確か…ライジグーナ伯爵だったね」
「いつの間にか伯爵になってました。この牧場の相続人に勝手に俺を指名させたり、なんか相続者には国から補助金が出るらしいんですが、俺は何も貰っていないので、親が勝手に受給しているんでしょうね。この牧場に来ても、親から一度も連絡はありませんしね」
「…そうですか……。今度、王都へ出かける用事がありますので、ご両親にお会いしたら、今の状況をお話しておきましょう」
「それは結構です! 両親は俺の事なんか気にかけていませんから。今は妹を王子も許へ嫁がせようと必死になっているはずです」
「寂しくないのかね?」
「まったくないです。小さい頃から虐げられてきましたから。もうあの両親とは関わりたくないとも思ってます」
「なるほど」
 伯爵はもう一口お茶を飲むと、小さな溜息を吐いた。
 そして、側に仕えていたお供の人に、なにやら話しかけていた。

 ま、俺の個人情報には閲覧規制かけているから、両親がどうあがいても今の俺を知る事はないだろうけどね。
 ただ、自分たちが金欲しさに、勝手に俺を使うのだけは辞めてほしいんだよな。この牧場の経営が順調に行くと、絶対に両親が押しかけてくるんだろうな…。

 伯爵と話していたお供の人がその場を去っていくと同時に、隣から「きゃぁ!」という悲鳴が上がった。
 隣に座っていたステラが、何かに驚いたのか椅子から立ち上がっていた。
「どうした、ステラ」
 伯爵が声を掛けると、ステラは涙を溜めた目で、地面を指さしていた。
 そこにはリーフたちが縦に積み重なっており、テーブルの上に置かれた食べ物に手を伸ばしていた。
「リーフ! お行儀悪いぞ!」
 俺が注意すると、リーフたちは何も取らずに一目散に逃げていった。
 スライムって、人間の食べ物も食べるのか?
 そういえば、契約してから一度も食事という物をあげていたなかったけど、スライムもご飯食べるの?
「ハヤト殿は、契約を結んだスライムに食事を与えているのかね?」
「いえ、一度も…。あげた方がいいんですか?」
「わたしは魔物について詳しくはないのだが、とある冒険者の手記に『自分が作った料理を契約した魔物に与えると、親密度が上がり、その魔物と言葉を交わすことができる』と記されている。かなり昔の手記なので、本当かどうかは分からない」
「それって、自分が作った物しかあげてはダメなんですか? 例えばお店で売っている物とかは…」
「特に関係ないと思うよ。ただ、自分が作った物を与えた方が、親密度の上がりが大きいようだね。色々と試してみるといい。何事も経験だよ、ハヤト殿」
 経験と言われても……もし最悪な方向に行ったらどうすればいいんだよ。
「そうだね……試しにこのクッキーをスライムにあげてみてはどうかね?」
「え? でも…」
「物は試しだ」
「は…はぁ…」
 俺は伯爵が差し出したクッキーという食べ物を手に取った。このクッキー、王都でも売られていたのだが、金額がとても高く、俺は一度も口にしたことがない。
 俺ですら食べたことのない食べ物を魔物に与えてもいいのか?
 何かあったら伯爵のせいにしてやる!
 俺は牧草地で昼寝をしているノームを呼んだ。
 ノームは嬉しそうに転がってきたかと思うと、数メートル手前で大きく跳びはね、勢いよく俺の膝の上に落ちてきた。
 今、膝がジンジンしている……痛いよ、ノーム…。
「ノーム、これを食べてみるか?」
 俺が手にしたクッキーを見るなり、ノームは体を左右に揺らし、口を大きく開けた。

 やべ……体を揺らしながら口を開けるノームが可愛くてたまんらない…。
 ただのスライムなのに、何でこんなに可愛いんだよ!

 手にしていたクッキーをノームの口の中に放り込むと、体を大きく上下に揺らしながら咀嚼(そしゃく)した。
 ノームの体が濃い茶色だから体内は見えないかな?って思ったけど、よ~~~く見てみると、ノームの体の中でクッキーが砕け、解けていくのが見えた。
「美味しいか?」
 俺の問いかけに、ノームは大きく体を横に揺らした。
 これは気に入ったってこと?
 あ、また口を開けている。ってことは、おかわりか。
「後は自分で食べろ」
 皿にいくつかクッキーを乗せ、俺は地面に置いた。
 ノームは膝から飛び降りると、地面に置いた皿にむしゃぶりついた。
「心配はないようだね。もしかしたら、そのスライムは君が食べさせたから、喜んで食べたのかもしれないね」
「俺が?」
「そのスライムは君の事を心から慕っているってことだ。これは、この牧場の未来が楽しくなってきたよ」
 伯爵の声が微かに弾んでいるように聞こえた。
 この土地を買い上げるつもりはないようだ。


 この日、伯爵からは家具をいくつか貰った。ごく普通の木目調の家具は、ラッツィオさんが修理している母屋に置いても違和感のない作りになっている。
 母屋の修理もリビングとキッチンが出来た。まだ寝室や納屋、それにノームたちの住める場所は出来上がってはいないが、生活に支障はない。もう少ししたら家畜小屋、さらに川に備え付けられていた水車小屋も直してくれるそうだ。
「わしも、前の牧場に戻るのを楽しみにしている。頑張れよ!」
 豪快に笑い飛ばすラッツィオさんは、俺の背中をバシバシと叩いてきた。
 いろんな人に期待されているな…。こりゃ、途中で逃げ出すことは無理だな。
 行けるところまで行くか!


       <つづく>


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