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1年目
春の月5日(土の曜日) スライム作 回復薬
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コーネリア様が王都へ向かった翌日、護衛の一人が戻ってきた。
「二日後、王都より研究者と共にお戻りになられます」
そう伝えてきた護衛の人は、再びペガサスに乗り、王都へと戻っていった。
本当にすぐに調べてくれたんだ。
しかも馬車で片道2日も掛かる道のりを、あっという間に往復している。ペガサスっていい乗り物なんだな~。
祖父ちゃんが飼っていたペガサスはどこかに行っちゃったのかな? それとももういない?
「おや? 珍しい生き物が空を飛んでいますね」
検問所で護衛の人を見送っていると、たまたま前を通りかかった馬車の中からオルベリザス伯爵が声を掛けてきた。
「伯爵」
「やあ、ハヤト殿。ごきげんよう」
「こんにちは。今日も視察ですか?」
「ああ。被害に遭った農家が意外と多くてね、その支援に回っているんですよ。ハヤト殿は冒険へお出かけですか?」
「いえ、来客の相手をしていました」
「来客?」
「ステラ王国の王弟様の護衛の方が王都から戻られたんです。ちょっと俺…あ、いえ、僕がお願い事をしていまして」
「ステラ王国? 君はステラ王国と関わりがあるのかね?」
「前に近くの森でシルバーウルフに襲われた冒険者を助けたことがあるんです。その冒険者がステラ王国の王弟様だったんです」
「……ほぉ……」
あ、伯爵の目がキラリと光った。
これは何かの商談をしたいのかな?
「王弟殿はいつ頃、こちらに来られるんですか?」
「二日後に王都から戻ってきます」
伯爵は「どうですか…」と呟くと、そのまま黙り込んでしまった。
あれ? 商談をしたいのではない?
「いい情報をありがとう。では、わたしはこれで失礼するよ」
そういうと伯爵を乗せた馬車は走り去っていった。
伯爵はなんでコーネリア様が戻られる日を聞いたんだろう?
その理由は二日後に分かった。
王都から戻ってきたコーネリア様は、なぜかジョルジュとリーシャスを連れていた。
「こんにちは、ハヤト」
検問所の前の広場で出迎えると、ジョルジュが笑顔で挨拶してきた。
「こ…こんにちは、ジョルジュ。なんで君も一緒に?」
「君のスライムが作った薬を調べたのが俺だからだ」
あ、今日は「俺」なんだ。なんで伯爵のお茶会の時は「僕」って言っていたんだろう?
「それで、リーフが作った薬は…」
「君の予想通りだ。スライムが作った薬は薄めても効能は高いままだった。実際に被害に遭った畑の状態を調べてみないとわからないけど、たぶんすぐに復活できると思う」
「じゃあ、この村の農家さんに試しに使ってもらって効果を調べた方がいいよね? 村長にはもう話してあるし、被害に遭った農家さんとも話をしているから、今から行こう」
俺はジョルジュたちを被害に遭った農家さんの所へ案内する為、歩み始めた。
すると
「コーネリア様」
と、聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると、そこにはオルベリザス伯爵が一人で立っていた。
「君は……フランツか?」
「はい。大変ご無沙汰しております」
「フランツ! 久しぶりだな! 元気にしていたか? その後はどうだ。順調か? 何か困ったことはないか?」
「ご心配するようなことはありません。娘も大きくなりました」
「そうか!そうか! 今度、是非とも国に来てくれ。義兄も今のお前の姿を見れば安心するだろう」
「ありがたきお言葉です」
突然、親しそうに話しだすコーネリア様と伯爵。
2人は知り合い?
「フランツ、お前も一緒にどうだ? 今からハヤト殿が作られた薬を試しに行くところなんだ」
「ハヤト殿の薬…ですか?」
「ああ。彼の作る薬は我がステラ王国の難民全員を救う事が出来るほど素晴らしい物だ。なんでもこの村で悪徳商人の被害に遭って、畑が使えない農家がいるようで、ハヤト殿の作られた薬を届けに行くところなんだよ」
「ハヤト殿、畑の回復薬を提供していただけるのですか? なぜ急に提供していただけるのですか? わたしがお願いした時は断られたのに!」
「そ…それは、ちょっと気になる事があったので…。とにかく農家さんの所に行きましょう」
一から説明すると、長くなっちゃう気がするんだよね。
それにどんなに説明しても実際に見てもらった方が早いと思うし…。
被害に遭った農家さんはギルドの裏にある職人広場の北側に畑を持っている。
この村が出来た頃から農家を続けており、今は若い夫婦が受け継いでいる。元々、大きな街に住んでいた若い夫婦は農業とは全くの無縁で、先代の主だった祖母が亡くなって、遺産相続としてこの畑を譲り受けたらしい。最初は失敗続きだったけど、次第にコツを掴み、アンナのお父さんが直接野菜を買い付けに来たりしていたんだとか。
だけど広大な畑を所有している為、少しでも生産量を上げようとして、あの悪徳商人にいいように丸め込まれ、有害の肥料を買ってしまったんだとか。
「知識もない状態で農業を続けていましたので、ただ目先の利益の事しか考えていませんでした。祖母が大切にしていた畑をこのような状態にしてしまい、祖母に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
俯いた状態で話をする若い夫婦。
その気持ち、わかるよ~。俺もなにも知識がない状態で牧場を経営しているから。
まあ、俺には強い味方がいるから、何もしなくても勝手に経営出来ているんだけどね。
「広大な畑ですね」
「はい。妻の先祖はこの村が出来た頃から住んでおりまして、その時から代々農業をしてきました。今は職人広場となっている場所やふれあい広場になっている所も元々は妻の先祖の持ち物だったんですが、ユーキ様とアスカ様が村を作り変える時に売り払ったと聞いております」
へ!? 祖父ちゃんと祖母ちゃん、元々畑だった所を開拓したの!?
とても今の光景から、元々畑でしたって言われても信じられないんですけど。どれだけの年月をかけて作ったんだよ。
「今の畑はこれだけかね?」
「は…はい。ここから見える所全部です」
若い夫婦が指したのは目の前に広がる土の地面。かなり遠くに草の生えた土地が見えるけど、そこは違うようだ。
悪徳商人から購入した肥料は、秋以降、一度も雑草すら生えなかったらしい。試しに作物の苗を植えると、翌日には枯れてしまうとか。
今、足元の畑には何かの作物の苗が10個ほど植えられているけど、これは俺が頼んで今朝植えてもらったもの。いくら土地が回復しても、その証拠となる物がないと見分けられないから、植えてもらった。もし失敗したら俺が代金を払うことになっている。失敗は許されないぞ!
「これだけ広いと回復薬を撒くのに一日かかりそうだ。雨に含ませて広範囲で撒けたら楽なんだよな」
コーネリア様は空を見上げた。
生憎空は雲一つない青空だ。それにたとえ雲があっても、どうやって回復薬入りの雨を降らせるかだ。そんな事、魔法が使えない限り無理だね。
「雨…雨……! コーネリア様! 雨ですよ! あなた様の水魔法を使う機会です!」
「だが、どうやって回復薬を含ませる?」
「あ…そうですよね」
いい名案!とばかりに明るい笑顔を見せた伯爵は、すぐにシュンと表情を曇らせた。
伯爵って、こんなに表情が変わるんだね。初めて知った。
「でしたらリーシャスがお手伝いいたします」
そこにジョルジュが話に加わった。
気づいたらリーシャスは大きな弓矢を構えていた。だからいつの間に出したの!?
「コーネリア様は魔法で雨を降らせる雲を畑全体に作ってください。その雲に向かって回復薬入りのこの球を投げ込みますので、リーシャスに割らせましょう」
ジョルジュの手のひらの中には、俺の牧場で魔物退治をするときに使っていたガラスの球が握られていた。薄緑色の液体が波打っている。
「割らせるって、どうやって…」
「リーシャスは弓矢の名手です。狙った的は外しません」
「お任せください」
にっこりと微笑むリーシャス。
彼女の腕前は俺もよく知っている。だって、ジョルジュに襲い掛かろうとしたノームを弓矢で射ったぐらいなんだもん。
コーネリア様は空に向かって両手を広げ、何か呪文を唱えた。
すると低い雲がもくもくと湧き、畑全体を覆った。
「リーシャス」
ジョルジュがリーシャスに声を掛けると、空に向かって弓矢を構えた。
そして、ジョルジュは軽く空に向かってガラスの球を放り投げた。
軽く投げただけなので、すぐに地面に落ちそうになったが、絶妙なタイミングでリーシャスが射った弓矢の先が球に突き刺さり、そのまま勢いよく雲の中へと消えていった。
しばらくして雷らしい光りが雲全体に広がり、そしてポツポツと雨が降ってきた。
と思ったら、急にドジャ降りになった!
コーネリア様が繰り出した魔法は、決められた範囲に雨を降らせる魔法。水の攻撃魔法として使うのが主だが、敵の視界を遮る防御魔法にも応用できるんだって。
道具も使わずに魔法が使えるなんて、ステラ王国の住民は凄いんだな~。
大量の雨を降らせた雲が消え、辺りに太陽の光が戻った。
畑の土は水を含んだ事で黒っぽくなっている。
これは成功したのかな?
「あ…あなた! これを見て!!」
若夫婦の奥さんが急に大声をあげた。奥さんは足元に埋まっていた作物の苗の指さしている。
さっきまで萎れていた作物の苗が、刃先をピンと空に向けて伸ばしていた。
「失礼」
オルベリザス伯爵がしゃがみ込み、作物の苗に向かって「【鑑定】」という言葉を口にした。
「こ…これは!! なんて素晴らしいんだ! 作物の苗に与えられているHPが回復している!!」
え? 作物にもHPとかいうのが存在しているの? それって何?
「失礼ながら、先ほどちらの苗を鑑定させていただきました。その時、こちらの苗のHPはほぼ0でした。ところが今、鑑定したところ満タンを通り越して、さらにHPの数値が20%増量しています!」
かなり興奮して喋っているけど、俺には何のことかさっぱりわからない。若い夫婦も頭の上に「?」を飛ばしているし。
「フランツ、もっとわかりやすく説明してくれないか? 皆が困っている」
「あ…これは失礼いたしました。わたしは【鑑定】というスキルを持っているのですが、このスキルで命あるものすべての生命力を見る事が出来ます。人間や魔物、その他の動物はもちろん、植物も命ある生き物ですので、その生命力が数値として見る事が出来るのです」
ああ、アンナのお父さんが作物の品質を★の数で判定できるのと同じか。伯爵は数値で見る事が出来るんだ。
「植物の生命力…わたしはHPと呼んでいるのですが、植物のHPは100が上限です。この数値が少なくなっていくと枯れてしまいます。特に連作のできる作物に関しては数値が0に近づくにつれ、品質が落ち、最後には実を付けることも出来なくなります。連作を続けるには肥料や水を与え、HPを保ち続けなくてはいけません。また、季節が変わると枯れてしまうのは、その作物がその季節でしか成長できないからです」
つまり、連作できる作物は、収穫する度に植物の生命力が少なくなっていくから、収穫を続けるには肥料を上げ、水を撒き、手入れをしないといけないってこと…だよね?
俺、そこまで手を掛けていないけど………ノームやリーフたちが勝手にやっていたってことね。
「しかし、稀にHPの最大値が増幅している時があります。それは本当に稀なので、突然変異で生まれるものだと思っていたのですが、こちらに植えている作物の苗はすべてが20%最大値が増えています。こちらの苗は連作できる作物ですので、いつも通りの手入れをしても、季節が変わるまで収穫が可能です」
「つまり、ハヤト殿の作った薬は、かなり高い効能を持っているという事かね?」
「その通りです。もしかしたら何らかの付加効果もあったのかもしれません。この薬があれば、わたしの領地の畑も助かります!」
「薄めてもそれだけの効能があるとは…。ジョルジュ様、こちらの薬はどれぐらい薄めたのですか?」
「一万分の1です。研究所に調査をした所、冒険者が使う中級の回復薬と同等の金額で販売できるそうです」
「では、これをもっと薄めても効能が高いのであれば、初級の回復薬と同額の金額で販売可能…ということですか?」
「その通りです。ただ、どれだけ薄めると効能が無くなるのか、薄める時に使う水の成分によっても変化するのか、ハヤトが提供してくれる回復薬が一定の効能を持つ物なのか、それとも提供される度に付加効果が変化するのか、それを研究しなければなりません」
「短期間で調べる事は?」
「可能です」
「それは畑の回復薬の他にも、人間への回復薬、解毒剤なども調べることも?」
「物があれば可能です」
何かの話が纏まったのか、ジョルジュ、コーネリア様、オルベリザス伯爵が一斉に俺の方を向いた。
こ…怖いんですけど……。
結局、リーフが作ったすべての薬をジョルジュが調べることになった。
王都に戻る時間が勿体ないと言って、伯爵のお屋敷で調べることになり、その間、リーフ(No12)は伯爵家で預かってもらうことになった。
まあ、屋敷にはリーフが懐いているステラもいるし、他のリーフが薬を作ってくれるから俺は心配ないんだけど……今後の事を考えるとちょっと不安…。
また村中から「さずがユーキ様のお孫様!」って言われる日が来るんだろうな……。
<つづく>
「二日後、王都より研究者と共にお戻りになられます」
そう伝えてきた護衛の人は、再びペガサスに乗り、王都へと戻っていった。
本当にすぐに調べてくれたんだ。
しかも馬車で片道2日も掛かる道のりを、あっという間に往復している。ペガサスっていい乗り物なんだな~。
祖父ちゃんが飼っていたペガサスはどこかに行っちゃったのかな? それとももういない?
「おや? 珍しい生き物が空を飛んでいますね」
検問所で護衛の人を見送っていると、たまたま前を通りかかった馬車の中からオルベリザス伯爵が声を掛けてきた。
「伯爵」
「やあ、ハヤト殿。ごきげんよう」
「こんにちは。今日も視察ですか?」
「ああ。被害に遭った農家が意外と多くてね、その支援に回っているんですよ。ハヤト殿は冒険へお出かけですか?」
「いえ、来客の相手をしていました」
「来客?」
「ステラ王国の王弟様の護衛の方が王都から戻られたんです。ちょっと俺…あ、いえ、僕がお願い事をしていまして」
「ステラ王国? 君はステラ王国と関わりがあるのかね?」
「前に近くの森でシルバーウルフに襲われた冒険者を助けたことがあるんです。その冒険者がステラ王国の王弟様だったんです」
「……ほぉ……」
あ、伯爵の目がキラリと光った。
これは何かの商談をしたいのかな?
「王弟殿はいつ頃、こちらに来られるんですか?」
「二日後に王都から戻ってきます」
伯爵は「どうですか…」と呟くと、そのまま黙り込んでしまった。
あれ? 商談をしたいのではない?
「いい情報をありがとう。では、わたしはこれで失礼するよ」
そういうと伯爵を乗せた馬車は走り去っていった。
伯爵はなんでコーネリア様が戻られる日を聞いたんだろう?
その理由は二日後に分かった。
王都から戻ってきたコーネリア様は、なぜかジョルジュとリーシャスを連れていた。
「こんにちは、ハヤト」
検問所の前の広場で出迎えると、ジョルジュが笑顔で挨拶してきた。
「こ…こんにちは、ジョルジュ。なんで君も一緒に?」
「君のスライムが作った薬を調べたのが俺だからだ」
あ、今日は「俺」なんだ。なんで伯爵のお茶会の時は「僕」って言っていたんだろう?
「それで、リーフが作った薬は…」
「君の予想通りだ。スライムが作った薬は薄めても効能は高いままだった。実際に被害に遭った畑の状態を調べてみないとわからないけど、たぶんすぐに復活できると思う」
「じゃあ、この村の農家さんに試しに使ってもらって効果を調べた方がいいよね? 村長にはもう話してあるし、被害に遭った農家さんとも話をしているから、今から行こう」
俺はジョルジュたちを被害に遭った農家さんの所へ案内する為、歩み始めた。
すると
「コーネリア様」
と、聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると、そこにはオルベリザス伯爵が一人で立っていた。
「君は……フランツか?」
「はい。大変ご無沙汰しております」
「フランツ! 久しぶりだな! 元気にしていたか? その後はどうだ。順調か? 何か困ったことはないか?」
「ご心配するようなことはありません。娘も大きくなりました」
「そうか!そうか! 今度、是非とも国に来てくれ。義兄も今のお前の姿を見れば安心するだろう」
「ありがたきお言葉です」
突然、親しそうに話しだすコーネリア様と伯爵。
2人は知り合い?
「フランツ、お前も一緒にどうだ? 今からハヤト殿が作られた薬を試しに行くところなんだ」
「ハヤト殿の薬…ですか?」
「ああ。彼の作る薬は我がステラ王国の難民全員を救う事が出来るほど素晴らしい物だ。なんでもこの村で悪徳商人の被害に遭って、畑が使えない農家がいるようで、ハヤト殿の作られた薬を届けに行くところなんだよ」
「ハヤト殿、畑の回復薬を提供していただけるのですか? なぜ急に提供していただけるのですか? わたしがお願いした時は断られたのに!」
「そ…それは、ちょっと気になる事があったので…。とにかく農家さんの所に行きましょう」
一から説明すると、長くなっちゃう気がするんだよね。
それにどんなに説明しても実際に見てもらった方が早いと思うし…。
被害に遭った農家さんはギルドの裏にある職人広場の北側に畑を持っている。
この村が出来た頃から農家を続けており、今は若い夫婦が受け継いでいる。元々、大きな街に住んでいた若い夫婦は農業とは全くの無縁で、先代の主だった祖母が亡くなって、遺産相続としてこの畑を譲り受けたらしい。最初は失敗続きだったけど、次第にコツを掴み、アンナのお父さんが直接野菜を買い付けに来たりしていたんだとか。
だけど広大な畑を所有している為、少しでも生産量を上げようとして、あの悪徳商人にいいように丸め込まれ、有害の肥料を買ってしまったんだとか。
「知識もない状態で農業を続けていましたので、ただ目先の利益の事しか考えていませんでした。祖母が大切にしていた畑をこのような状態にしてしまい、祖母に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
俯いた状態で話をする若い夫婦。
その気持ち、わかるよ~。俺もなにも知識がない状態で牧場を経営しているから。
まあ、俺には強い味方がいるから、何もしなくても勝手に経営出来ているんだけどね。
「広大な畑ですね」
「はい。妻の先祖はこの村が出来た頃から住んでおりまして、その時から代々農業をしてきました。今は職人広場となっている場所やふれあい広場になっている所も元々は妻の先祖の持ち物だったんですが、ユーキ様とアスカ様が村を作り変える時に売り払ったと聞いております」
へ!? 祖父ちゃんと祖母ちゃん、元々畑だった所を開拓したの!?
とても今の光景から、元々畑でしたって言われても信じられないんですけど。どれだけの年月をかけて作ったんだよ。
「今の畑はこれだけかね?」
「は…はい。ここから見える所全部です」
若い夫婦が指したのは目の前に広がる土の地面。かなり遠くに草の生えた土地が見えるけど、そこは違うようだ。
悪徳商人から購入した肥料は、秋以降、一度も雑草すら生えなかったらしい。試しに作物の苗を植えると、翌日には枯れてしまうとか。
今、足元の畑には何かの作物の苗が10個ほど植えられているけど、これは俺が頼んで今朝植えてもらったもの。いくら土地が回復しても、その証拠となる物がないと見分けられないから、植えてもらった。もし失敗したら俺が代金を払うことになっている。失敗は許されないぞ!
「これだけ広いと回復薬を撒くのに一日かかりそうだ。雨に含ませて広範囲で撒けたら楽なんだよな」
コーネリア様は空を見上げた。
生憎空は雲一つない青空だ。それにたとえ雲があっても、どうやって回復薬入りの雨を降らせるかだ。そんな事、魔法が使えない限り無理だね。
「雨…雨……! コーネリア様! 雨ですよ! あなた様の水魔法を使う機会です!」
「だが、どうやって回復薬を含ませる?」
「あ…そうですよね」
いい名案!とばかりに明るい笑顔を見せた伯爵は、すぐにシュンと表情を曇らせた。
伯爵って、こんなに表情が変わるんだね。初めて知った。
「でしたらリーシャスがお手伝いいたします」
そこにジョルジュが話に加わった。
気づいたらリーシャスは大きな弓矢を構えていた。だからいつの間に出したの!?
「コーネリア様は魔法で雨を降らせる雲を畑全体に作ってください。その雲に向かって回復薬入りのこの球を投げ込みますので、リーシャスに割らせましょう」
ジョルジュの手のひらの中には、俺の牧場で魔物退治をするときに使っていたガラスの球が握られていた。薄緑色の液体が波打っている。
「割らせるって、どうやって…」
「リーシャスは弓矢の名手です。狙った的は外しません」
「お任せください」
にっこりと微笑むリーシャス。
彼女の腕前は俺もよく知っている。だって、ジョルジュに襲い掛かろうとしたノームを弓矢で射ったぐらいなんだもん。
コーネリア様は空に向かって両手を広げ、何か呪文を唱えた。
すると低い雲がもくもくと湧き、畑全体を覆った。
「リーシャス」
ジョルジュがリーシャスに声を掛けると、空に向かって弓矢を構えた。
そして、ジョルジュは軽く空に向かってガラスの球を放り投げた。
軽く投げただけなので、すぐに地面に落ちそうになったが、絶妙なタイミングでリーシャスが射った弓矢の先が球に突き刺さり、そのまま勢いよく雲の中へと消えていった。
しばらくして雷らしい光りが雲全体に広がり、そしてポツポツと雨が降ってきた。
と思ったら、急にドジャ降りになった!
コーネリア様が繰り出した魔法は、決められた範囲に雨を降らせる魔法。水の攻撃魔法として使うのが主だが、敵の視界を遮る防御魔法にも応用できるんだって。
道具も使わずに魔法が使えるなんて、ステラ王国の住民は凄いんだな~。
大量の雨を降らせた雲が消え、辺りに太陽の光が戻った。
畑の土は水を含んだ事で黒っぽくなっている。
これは成功したのかな?
「あ…あなた! これを見て!!」
若夫婦の奥さんが急に大声をあげた。奥さんは足元に埋まっていた作物の苗の指さしている。
さっきまで萎れていた作物の苗が、刃先をピンと空に向けて伸ばしていた。
「失礼」
オルベリザス伯爵がしゃがみ込み、作物の苗に向かって「【鑑定】」という言葉を口にした。
「こ…これは!! なんて素晴らしいんだ! 作物の苗に与えられているHPが回復している!!」
え? 作物にもHPとかいうのが存在しているの? それって何?
「失礼ながら、先ほどちらの苗を鑑定させていただきました。その時、こちらの苗のHPはほぼ0でした。ところが今、鑑定したところ満タンを通り越して、さらにHPの数値が20%増量しています!」
かなり興奮して喋っているけど、俺には何のことかさっぱりわからない。若い夫婦も頭の上に「?」を飛ばしているし。
「フランツ、もっとわかりやすく説明してくれないか? 皆が困っている」
「あ…これは失礼いたしました。わたしは【鑑定】というスキルを持っているのですが、このスキルで命あるものすべての生命力を見る事が出来ます。人間や魔物、その他の動物はもちろん、植物も命ある生き物ですので、その生命力が数値として見る事が出来るのです」
ああ、アンナのお父さんが作物の品質を★の数で判定できるのと同じか。伯爵は数値で見る事が出来るんだ。
「植物の生命力…わたしはHPと呼んでいるのですが、植物のHPは100が上限です。この数値が少なくなっていくと枯れてしまいます。特に連作のできる作物に関しては数値が0に近づくにつれ、品質が落ち、最後には実を付けることも出来なくなります。連作を続けるには肥料や水を与え、HPを保ち続けなくてはいけません。また、季節が変わると枯れてしまうのは、その作物がその季節でしか成長できないからです」
つまり、連作できる作物は、収穫する度に植物の生命力が少なくなっていくから、収穫を続けるには肥料を上げ、水を撒き、手入れをしないといけないってこと…だよね?
俺、そこまで手を掛けていないけど………ノームやリーフたちが勝手にやっていたってことね。
「しかし、稀にHPの最大値が増幅している時があります。それは本当に稀なので、突然変異で生まれるものだと思っていたのですが、こちらに植えている作物の苗はすべてが20%最大値が増えています。こちらの苗は連作できる作物ですので、いつも通りの手入れをしても、季節が変わるまで収穫が可能です」
「つまり、ハヤト殿の作った薬は、かなり高い効能を持っているという事かね?」
「その通りです。もしかしたら何らかの付加効果もあったのかもしれません。この薬があれば、わたしの領地の畑も助かります!」
「薄めてもそれだけの効能があるとは…。ジョルジュ様、こちらの薬はどれぐらい薄めたのですか?」
「一万分の1です。研究所に調査をした所、冒険者が使う中級の回復薬と同等の金額で販売できるそうです」
「では、これをもっと薄めても効能が高いのであれば、初級の回復薬と同額の金額で販売可能…ということですか?」
「その通りです。ただ、どれだけ薄めると効能が無くなるのか、薄める時に使う水の成分によっても変化するのか、ハヤトが提供してくれる回復薬が一定の効能を持つ物なのか、それとも提供される度に付加効果が変化するのか、それを研究しなければなりません」
「短期間で調べる事は?」
「可能です」
「それは畑の回復薬の他にも、人間への回復薬、解毒剤なども調べることも?」
「物があれば可能です」
何かの話が纏まったのか、ジョルジュ、コーネリア様、オルベリザス伯爵が一斉に俺の方を向いた。
こ…怖いんですけど……。
結局、リーフが作ったすべての薬をジョルジュが調べることになった。
王都に戻る時間が勿体ないと言って、伯爵のお屋敷で調べることになり、その間、リーフ(No12)は伯爵家で預かってもらうことになった。
まあ、屋敷にはリーフが懐いているステラもいるし、他のリーフが薬を作ってくれるから俺は心配ないんだけど……今後の事を考えるとちょっと不安…。
また村中から「さずがユーキ様のお孫様!」って言われる日が来るんだろうな……。
<つづく>
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つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
盾の間違った使い方
KeyBow
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その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
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水一滴すら買えない。
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両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
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