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3章 三日目 特になにもない日
3-9 いつもどおりのはずな夜
しおりを挟む「で、今日もまさか麗美さん、いたりしないでしょうね」
いつもどおりの就寝前の通話で、予想通りの突っ込みを咲がしてきた。
「いないって。なんなら、今からうちに来て確認するか?」
「そっ……それは……」
「ん? どうした。別に俺は構わないぞ」
なぜか急に咲が言葉に詰まった。
理由がわからないまま軽く追求すると、猛烈な反応を返してくる。
「い、いいってば! 信用するからっ!」
「そうか。まあ、咲がそれでいいならいいぞ」
「んもう……」
そして話がドリアンたい焼きに飛んだ。
「そういえばさ、食後に食べたやつ」
「ドリアンたい焼きか?」
「そう、それ。あれ、温めたらどうなるのかな」
「あったかいドリアンたい焼きか……普通のたい焼きなら温めた方がよさそうだけど、アレは……」
「たぶん、なしだよね」
「まあ、だから冷やしたい焼きとかいうジャンルになってたんだろうけど」
「でも、万が一ってこともあるんじゃない?」
「それは……確かに」
あのドリアンたい焼きに関してだけは、どんなことがあってもおかしくないような気がする。
もしかするとめちゃくちゃ美味くなるかもしれないし、もしかするとめちゃくちゃ不味くなるかもしれない。
というかそもそも、アレが本当にドリアン風味なのかどうかすら、俺には判断できなかった。
「あ、思い出した」
「ん?」
「レポートどうなった? 古文の」
咲のヤツが、俺の忘れていたかったことを思い出させてくれた。
「んなもんどうにもならないよ」
「え?」
「普通に再提出」
「あ、一応出しはしたんだ」
「表紙だけだけどな」
「あららー」
まるで他人事のように咲が言う。
まあ実際に他人事なんだけれども。
「昨日あのときもうちょっとちゃんと教えられてればねー」
「まあな。いろいろあったからな」
「ふふっ。って言っても、あのタイミングで教えたとしてもほとんどできなかったと思うけど」
「うーむ……否定しきれん」
「ふふふっ」
実を言えばこれから夜更かしして、古文のレポートを片付けなければいけない。
写してどうにかなるタイプなら、緑青あたりに見せてもらうんだが……。
「さてと、それじゃあ作業の邪魔しちゃ悪いから私は先に寝るね。レポートがんばってね」
「おう」
細かい説明はせずとも、咲は俺のこのあとの行動を把握していた。
「おやすみ、また明日ね」
「ああ」
スマホの向こうから聞こえてくる、咲の遠ざかる足音。
ベッドの軋む音がして、布団の中に咲が潜り込んだのがわかる。
しばらくすると、スマホの向こうからは何も聞こえなくなる。
音量を上げて耳をすませば、寝息くらいは聞こえるかもしれない。
が、別にそんなことはしない。
それよりも俺は、この目の前のレポートと格闘をせねばならぬのだ。
「ぐぬぬぬぬ……大昔の藤原さんとか知らねえよっ。1組の藤原じゃねえのかよっ」
そして時間は、容赦なく過ぎていった。
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