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5章 五日目 部活は大変だ
5-3 いつもになったら困る午前
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一時間目と二時間目の間の休み時間。トイレから戻ってきた俺は、珍妙な光景を目にした。
「お願いお願いお願いお願いお願い! あなたの力が必要なのっ!」
「そんなこと言われましても……」
「お願いったらお願いっ! なんでもするからっ!」
土下座せんばかりの勢いで、麗美に何かを頼んでいる茶髪でサイドポニーの女子。
何度か見かけたことがあるような気もするが、名前までは知らない。
こういうときは、情報通の砂川だ。
相変わらず何かを口に入れてモグモグしている砂川に近づき、麗美たちの方を指差して目配せしてみた。
「ああ、あれな。あれは1組の香染たまき。っていうより、アイドル研究部の香染って言ったほうが有名なんじゃないか? 何か思いつくとその自分のアイデアに取り憑かれたようになって毎回暴走するっていう」
かすかに漂うシナモンのフレーバーから、砂川がシナモンを使ったなんか美味そうなものを食べていることを類推する。
まあそれはそれとして。
「ああ……聞いたことあるな。にしてもアイドル研究部? なんでそんなやつが麗美のところに来てるんだ?」
「それはまあ……見ての通りっていうか聞いての通りっていうか」
2つ目のシナモンクルーラーに手を伸ばした砂川に促されるように、俺は麗美たちの方に視線を戻す。
「ねえねえねえねえお願いお願いお願いっ。ちょっとだけでいいのっ。絶対に後悔させないからっ。ねっ!」
まるで強引なナンパ男がラブなホテルの前で女性を誘っているときのようなセリフを吐く香染たまきという女子。
女の子同士だからいいが、男が言ったら確実にセクハラで糾弾されたりするんだろうな。
いや、こういう考え方自体叱られるのか?
まあいい。
それはともかくとして、そろそろ麗美の助けて欲しそうな視線に応えてやるか。
っていうか、こういうときに一番すぐに口出ししそうな咲はどうしたんだ?
「ぐふふ。咲はみどり先生に呼ばれてる」
「なるほど」
俺の思考を読み取ったかのように、緑青が説明してきた。
その手のパターンに慣れっこになっている俺は、もうツッコんだりもしない。
そのままその事実を受け入れ、そしてもう一つのことを確認する。
「で、お前は?」
助けてやらないのか、と言外の意味を込めながら麗美たちの方を見る。
「面白いから見てた」
「なるほどな」
納得の答え。
まあ、緑青ならそうするだろう。
もちろん、本当に困った事態になりそうなら口出しをするだろうが。
そのもう少し手前の防波堤である俺は、普通に自分の席に戻るような自然な素振りをしながら、麗美と香染の間に割り込んでいった。
「はいはいちょっとごめんよ」
「なっ!!! なによアンタ! 私とレミの間を邪魔しようっていうの!?」
なんだこいつは……。
っていうか、ホントに砂川の言った通りだな。
なんだかよくわからない自分ルールがあって、それを妨害しようとした俺を即座に敵認定したんだろうな。
「邪魔っていうかなんていうか……そもそもレミってなんだよ。麗美だろ?」
「レミはレミよ。アイドル活動するなら、呼びやすいそれ用のステージネームが必要でしょ?」
「「は?」」
俺と麗美の声が重なる。
そしてうっすらと聞こえてくる緑青の含み笑いの声。
「アイドル活動って……麗美、そんなのに誘われてたのか?」
「さあ? なんだか早口でまくしたてられて、よくわかりませんでした」
「ああ……」
そういえばそうだった。
麗美のヤツは語学が堪能で日本語も何不自由なく話すけど、ネイティブではなかったんだった。
完全に忘れてたわ。
「なああんた。えーっと……アイドル研究会の香坂さんだっけか?」
「こ・う・ぞ・めですっ! それと、アイドル研究部! がんばって部員を集めて、会じゃなくしたんだかねっ!」
「あ、ああ……そうなのか。そりゃすまない」
「ふんっ!」
どうもこのテンションはやりづらい……。
そう思っているのは俺だけではないようで、周りのクラスメイトたちもできるだけ関わらないように遠巻きに見ている。
そこそこ団結力のあるクラスだと思っていたのだが、今回はそれが逆目に出ているような感じがした。
というか、もしかするとまだ俺が1人でどうにかするだろうと変な意味での信頼をされているのかもしれないが。
「でだ。アイドル研究部の香染さん」
「なによ」
「あんたの言うところのレミ……俺の婚約者の麗美に、一体何の用なんだ?」
いつもはそんな肩書は使わないけれども、なんとなくここはポジションを明確にして強気にでなければいけないような気がした。
というか、そうでもしないとこの子には勝てないような気がしたのだ。
割りとマジで……苦手なタイプかもしれない。
「は!? 婚約者!?!?!? アンタがレミの!?」
麗美に対する情報が不十分だったようで、香染はかなり驚いたような表情を浮かべる。
ってかすごい百面相だな。
思ってることが顔に出すぎだろ。
「ふんっ! そんな嘘で私をごまかそうだなんて百年早いわよっ! アンタがレミのその……いい人だなんてあるはずないじゃないっ!」
どうやら、この手の話題は割りと苦手なようだ。
よくわからん。
まあいい。ともかく、ここはチャンスな気がする。
この辺から切り込んでいって、どうにかこの場を……。
なんて思ってたら時間が切れてしまった。
キンコンカンコンと二時間目の始業のチャイムが鳴る。
「ちょっと! アンタが変な言いがかりをつけてきたせいでレミのオーケーをもらえなかったじゃない! 次はこうはいかないからね! 憶えてなさいっ!」
そう言って香染は教室から出ていった。
なんというか騒がしいやつ。
俺はやれやれと胸を撫で下ろしながら自分の席に着いた。
隣では、何が嬉しいのか麗美がニコニコとしていた。
「お願いお願いお願いお願いお願い! あなたの力が必要なのっ!」
「そんなこと言われましても……」
「お願いったらお願いっ! なんでもするからっ!」
土下座せんばかりの勢いで、麗美に何かを頼んでいる茶髪でサイドポニーの女子。
何度か見かけたことがあるような気もするが、名前までは知らない。
こういうときは、情報通の砂川だ。
相変わらず何かを口に入れてモグモグしている砂川に近づき、麗美たちの方を指差して目配せしてみた。
「ああ、あれな。あれは1組の香染たまき。っていうより、アイドル研究部の香染って言ったほうが有名なんじゃないか? 何か思いつくとその自分のアイデアに取り憑かれたようになって毎回暴走するっていう」
かすかに漂うシナモンのフレーバーから、砂川がシナモンを使ったなんか美味そうなものを食べていることを類推する。
まあそれはそれとして。
「ああ……聞いたことあるな。にしてもアイドル研究部? なんでそんなやつが麗美のところに来てるんだ?」
「それはまあ……見ての通りっていうか聞いての通りっていうか」
2つ目のシナモンクルーラーに手を伸ばした砂川に促されるように、俺は麗美たちの方に視線を戻す。
「ねえねえねえねえお願いお願いお願いっ。ちょっとだけでいいのっ。絶対に後悔させないからっ。ねっ!」
まるで強引なナンパ男がラブなホテルの前で女性を誘っているときのようなセリフを吐く香染たまきという女子。
女の子同士だからいいが、男が言ったら確実にセクハラで糾弾されたりするんだろうな。
いや、こういう考え方自体叱られるのか?
まあいい。
それはともかくとして、そろそろ麗美の助けて欲しそうな視線に応えてやるか。
っていうか、こういうときに一番すぐに口出ししそうな咲はどうしたんだ?
「ぐふふ。咲はみどり先生に呼ばれてる」
「なるほど」
俺の思考を読み取ったかのように、緑青が説明してきた。
その手のパターンに慣れっこになっている俺は、もうツッコんだりもしない。
そのままその事実を受け入れ、そしてもう一つのことを確認する。
「で、お前は?」
助けてやらないのか、と言外の意味を込めながら麗美たちの方を見る。
「面白いから見てた」
「なるほどな」
納得の答え。
まあ、緑青ならそうするだろう。
もちろん、本当に困った事態になりそうなら口出しをするだろうが。
そのもう少し手前の防波堤である俺は、普通に自分の席に戻るような自然な素振りをしながら、麗美と香染の間に割り込んでいった。
「はいはいちょっとごめんよ」
「なっ!!! なによアンタ! 私とレミの間を邪魔しようっていうの!?」
なんだこいつは……。
っていうか、ホントに砂川の言った通りだな。
なんだかよくわからない自分ルールがあって、それを妨害しようとした俺を即座に敵認定したんだろうな。
「邪魔っていうかなんていうか……そもそもレミってなんだよ。麗美だろ?」
「レミはレミよ。アイドル活動するなら、呼びやすいそれ用のステージネームが必要でしょ?」
「「は?」」
俺と麗美の声が重なる。
そしてうっすらと聞こえてくる緑青の含み笑いの声。
「アイドル活動って……麗美、そんなのに誘われてたのか?」
「さあ? なんだか早口でまくしたてられて、よくわかりませんでした」
「ああ……」
そういえばそうだった。
麗美のヤツは語学が堪能で日本語も何不自由なく話すけど、ネイティブではなかったんだった。
完全に忘れてたわ。
「なああんた。えーっと……アイドル研究会の香坂さんだっけか?」
「こ・う・ぞ・めですっ! それと、アイドル研究部! がんばって部員を集めて、会じゃなくしたんだかねっ!」
「あ、ああ……そうなのか。そりゃすまない」
「ふんっ!」
どうもこのテンションはやりづらい……。
そう思っているのは俺だけではないようで、周りのクラスメイトたちもできるだけ関わらないように遠巻きに見ている。
そこそこ団結力のあるクラスだと思っていたのだが、今回はそれが逆目に出ているような感じがした。
というか、もしかするとまだ俺が1人でどうにかするだろうと変な意味での信頼をされているのかもしれないが。
「でだ。アイドル研究部の香染さん」
「なによ」
「あんたの言うところのレミ……俺の婚約者の麗美に、一体何の用なんだ?」
いつもはそんな肩書は使わないけれども、なんとなくここはポジションを明確にして強気にでなければいけないような気がした。
というか、そうでもしないとこの子には勝てないような気がしたのだ。
割りとマジで……苦手なタイプかもしれない。
「は!? 婚約者!?!?!? アンタがレミの!?」
麗美に対する情報が不十分だったようで、香染はかなり驚いたような表情を浮かべる。
ってかすごい百面相だな。
思ってることが顔に出すぎだろ。
「ふんっ! そんな嘘で私をごまかそうだなんて百年早いわよっ! アンタがレミのその……いい人だなんてあるはずないじゃないっ!」
どうやら、この手の話題は割りと苦手なようだ。
よくわからん。
まあいい。ともかく、ここはチャンスな気がする。
この辺から切り込んでいって、どうにかこの場を……。
なんて思ってたら時間が切れてしまった。
キンコンカンコンと二時間目の始業のチャイムが鳴る。
「ちょっと! アンタが変な言いがかりをつけてきたせいでレミのオーケーをもらえなかったじゃない! 次はこうはいかないからね! 憶えてなさいっ!」
そう言って香染は教室から出ていった。
なんというか騒がしいやつ。
俺はやれやれと胸を撫で下ろしながら自分の席に着いた。
隣では、何が嬉しいのか麗美がニコニコとしていた。
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