黒柳悦郎は走ったり走らなかったりする

織姫ゆん

文字の大きさ
40 / 171
5章  五日目 部活は大変だ

5-4 いつもとはなんだろうと思ってしまう昼食

しおりを挟む
お昼の時間が訪れた。
いつもならそこは至福のお弁当タイムのはずである。
しかしながら今日は……。

「今度こそ首を横に振らせてみせるからね!」
「たまちゃん、そこは縦。横じゃ断られちゃう」

予告通り、香染のヤツがまたしても麗美のところに昼飯持参でお仕掛けて来ていた。
しかも、今回は自分の味方を引き連れて。

「僕の解説が必要だろ?」

モグモグとキャラメルドーナツを頬張りながら、砂川が登場する。

「その前に俺にもドーナツ一個くれ。いい匂いすぎる」
「よかろう。その代わりからあげと交換だ」
「からあげ? 弁当のか? 入ってるかわからんぞ」
「ふっふっふ。僕の鼻はごまかせない。朝からずっと楽しみにしてたんだ」
「はいはい。ま、別にかまわんよ。で、あの青い髪の子は誰だ?」

モグモグと俺もドーナツを頬張りながら、砂川に説明を促した。
砂川は目でその子を指し示しながら、どこで調べたんだと思うほど詳細なプロフィールを教えてくれた。

「彼女は七瀬真朱。まあ、簡単に言えば香染さんの幼馴染だ。クラスは1組。ある意味、悦郎と咲ちゃんみたいな感じだな」
「ってことは、あれは香染の援軍と言うよりは……」
「お目付け役ってとこだな」
「なるほど」

どうやら香染の件は少し俺の取り越し苦労だったようだ。
安心して席に着き、弁当を広げる。

「げ、マジでからあげ入ってる。砂川の鼻すげえな」
「だろ? それじゃあ約束通り……」

砂川はからあげを一つつまみ、どこから取り出したのかそれをパンで挟むと即席のからあげサンドを作ってむしゃむしゃと食べ始めた。

「ねえ、あれそのままでいいの?」

咲が俺に尋ねてくる。
そして無言で自分の弁当箱から俺の弁当箱へとからあげを補充する。

「ああ。大丈夫なんじゃないか? ホントに危ないなら是枝さんたちも黙ってないだろうし」
「そっか。でも、麗美さん困って……は、いないみたいね」

そう。確かに麗美は戸惑ってはいた。
さっきの休み時間までは。

「ふふふ。面白い話ですね、アイドルさんってそんなことまでするんですか」
「全員がじゃないけどね! っていうか、ホントにアイドルは幅広いのっ! っていうか、どんなことをしてても自分がアイドルだって思ったら、それがアイドルなのよっ!」

なんとなくだが、アイツの語尾には常に『っ』がついているような気がする。
考えると同時に口から言葉が出ているんじゃなかろうか。
俺もあまり人に言えるほうではないが、もう少し落ち着いて話したほうがいいような気がする。

「というわけでっ、レミには私たちのアイドルグループに入って欲しいのよっ!」
「たまちゃん。もう少し考えてから話さないと、何を言いたいのかが相手に伝わらないわよ? そもそも、今の話しからじゃ『というわけで』には全然繋がらないわ」
「ええ!? そうだった!?」
「ふふふ」
「……」

どうやら、俺と同じように考える人が向こうの陣営にもいたようだ。
っていうか、あれは放っておいても大丈夫なような気がしてきた。
少なくとも、あの青い髪の子……七瀬さんはごく普通の常識人のようだ。

「ん? 七瀬?」
「ぐふふ。悦郎、もしかして気づいた?」
「気づいたっていうか思い出したっていうか……七瀬って、生徒会長の七瀬か?」
「正解」

ピンポーンと効果音をつけそうな感じで、緑青が手で丸印を作る。
なるほど。そういえばどこかで見たことあるような気がしていたが、生徒会長だったか。
そりゃあ常識人なはずだ。

「っていうか悦郎。朝から気になってたんだけどさ」
「ん?」

食後のデザートなのか(っていうかそもそもさっきからドーナツ食べてたな)、プリンをモグモグしている砂川が俺に尋ねてくる。

「今日はなんでずっと左側ばっかり見てるんだ? 咲ちゃんとケンカでもしたのか?」
「痛いんだよ首が」
「え?」
「なんか、寝ぼけてベッドから落ちたんだって。けっこうすごい音したんだよ」
「ぐふふ。ベッドから落ちる音を聞ける関係。興味あるよね」
「はあ!? なにそれ!?!?!?」
「ちょ! お前なあ……」

わざわざそっちに話を振らなくていいのに、緑青が俺と咲の話を香染たちに振ってしまう。
そしてその手の話題は苦手そうだなと思っていたのが正解だったようで、香染は顔を真赤に染めてから何故か俺を糾弾し始めた。

「そんなのいけないに決まってるじゃないっ! ダメのダメのダメダメよっ!」
「あのなあ……」

コイツは絶対にいろいろと誤解している。
そしてその誤解を解くのは、めちゃくちゃ面倒くさそうだ。
俺はため息をつきながら、弁当の残りに手を付け始めた。

「無視するなっ! こっちを向けっ!」

強引に俺を自分の方へ向かせようとする香染。
ヤツがいるのは俺の右側で、つまり今日の俺にそっちの方向は鬼門なわけで……。

「ぐえっ! いててててっ!」
「あっ!」
「あーあ」
「大丈夫ですかっ! 悦郎さんっ!」

そんなこんなで、今日の昼飯は大騒ぎになってしまった。
やれやれ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...